第三話「ノーキンバルクの幼少期は脳筋だった」
生後三日目。
俺は早くも異世界の洗礼を受けた。
BIGヒロが巨大な杯を差し出してきたのだ。
白い液体が入っている。
(お、ミルクか。よかった。さすがにミルクくらいは——)
「飲め、リツ。これがお前の第一歩だ」
一口飲んだ。
(……甘くない)
もう一口飲んだ。
(……なんかタンパク質の味がする)
ラベルを見た。
【ノーキンバルク産・特製ホエイプロテイン ストロベリー風味(風味だけ)】
タンパク質 :100g中98g
炭水化物 :0g
脂質 :0g
ストロベリー :気持ち程度
対象年齢 :0歳〜
(0歳からって書いてあるけど、それでいいのか人類)
「どうだ、リツ! 飲めたか!」
BIGヒロが目を輝かせている。
隣では尚飛がすでに三杯目を飲み干していた。
バブバブ言いながら、満足げに腹を叩いている。
(……この子、本当に同い年か?)
生後一週間目。
尚飛がダンベルを握った。
正確には「握ろうとして落とした」のだが、それでも握ろうとしたことが問題だ。
新生児がダンベルを認識している時点で、この国はおかしい。
(俺はまだ首も座ってないのに)
BIGヒロが感動で泣いていた。
「尚飛……! お前はもう漢だ!!!」
(これから先どうなるんだろう…)
生後一ヶ月目。
俺に最初の「試練」が課された。
BIGヒロが俺の前に小さな鉄球を置いた。
直径三センチ。見た目はかわいい。
「リツよ。これを握れ」
(……握れって、俺まだ赤ちゃんなんだけど)
試しに握ってみた。
握れた。
「おおおおおおおおおお!!!!」
BIGヒロが国中に響く雄叫びを上げた。
城中の兵士たちが集まってきた。
全員が感動で泣いていた。
(握っただけなんだけど…)
【成長記録・生後一ヶ月】
体重 :平均的
身長 :平均的
握力 :平均以上(BIGヒロ談:「天才」)
プロテイン摂取量:1日3杯(強制)
ダンベル経験:なし(尚飛は既に経験あり)
王の興奮度 :常時MAX
備考:寝ている時以外は筋肉について、
トレーニングについてひたすら聞かされる
生後三ヶ月目。
尚飛と俺は並べて寝かされるようになった。
朝起きると、尚飛が俺を高い高いしている。
毎朝だ。
(……お前、寝ながら何してんの)
「バブ(起きたか、相棒)」
尚飛の目が語っていた——気がした。
(俺、こいつの言葉わかるようになってきてる?)
転生者特典か、それとも赤ちゃん同士の謎の意思疎通か。
どちらにせよ、尚飛は俺のことを「合トレ仲間」として認識しているらしかった。
問題は——
「バブバブッ(さあ、今日も鍛えるぞ)」
(……鍛えるって、お前も俺も寝返りもまだ打てないんだけど)
「バブ(関係ない)」
(関係あるだろ)
生後六ヶ月目。
俺は寝返りを打てるようになった。
これは普通の赤ちゃんとしては標準的な成長だ。
しかしノーキンバルクでは——
「リツが寝返りを打った!!!!」
国中に速報が流れた。
広場で祭りが始まった。
兵士たちが肩を組んで踊っていた。
(いや、普通だから。これ普通の成長だから)
尚飛はすでに四つん這いで城内を移動していた。
(早くない? 早くない??)
「バブ(遅いぞ、相棒)」
(うるさい)
生後十ヶ月目。
俺はやっとハイハイができるようになった。
尚飛はすでに立っていた。
二足歩行だ。
生後十ヶ月の二足歩行。
(この子、本当に人間か?)
「バブバブ(早く立て、リツ)」
(無茶言うな)
BIGヒロが俺の前に仁王立ちした。
「リツよ。立て」
(立てって言われても——)
「立て」
(だから——)
「立て」
三回目で俺は立った。
なぜか立てた。
幸運:10の仕事だと思った。
「おおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
また祭りが始まった。
(保護対象だからって、毎回祭りにするのやめてほしい)
【成長記録・生後十ヶ月】
歩行 :可能(本日達成)
握力 :同年齢比3倍(BIGヒロ計測)
プロテイン摂取量:1日5杯(増量された)
その他サプリ:クレアチン10g
合トレ仲間との関係:謎の意思疎通が可能になってきた
王の興奮度 :引き続きMAX
備考:トレーニング論、身体構造にめちゃ詳しくなった
一歳の誕生日。
BIGヒロが俺に何かを渡してきた。
小さなダンベルだ。
「リツよ。これがお前への誕生日プレゼントだ」
(……あははっカラカラ言う~たのしい~)
(ってこれダンベルやないかい)
「おもちゃではない。道具だ」
(改めて、すごい世界だなぁ)
受け取った。
思ったより重かった。
でも——持てた。
(……なんか、ちょっと嬉しくなってきた。)
尚飛が隣でバブバブ笑っていた。
「バブ(似合ってるぞ、相棒)」
(うるさい)
でも、悪くなかった。
こうして俺の幼少期(赤ん坊時代)は過ぎていった。
プロテインを飲み、鉄球を握り、BIGヒロに怒鳴られ、尚飛にマウントを取られながら。
異世界転生した実感は、正直まだ薄い。
なんてったって筋肉に囲まれているだけだもの。
ある意味異世界だけど、主食プロテインって…
ただ…一つだけ確かなことがある。
俺の体は——確実に、強くなっていた。
(死なない体。まず、それだけだ)
ダンジョンの最下層は、まだ遠い。まだまだ遠い。
でも、一歩目は踏み出した。
高さ50cmで死んだ男の、異世界成長録(筋トレ)は——まだまだ続く
律の現状(ノーキンバルク所属)
年齢 :1歳
体力 :着実に上昇中
攻撃力 :+3(鉄球・ダンベル経験済み)
防御力 :+2(プロテインの成果)
合トレ仲間:尚飛との意思疎通が可能に
プロテイン:もはや普通に飲める
知識 :身体構造・トレーニング論などプロトレーナー並




