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防波堤の向こう

 Fさんは友人と夜釣りにでかけた。


 釣りに詳しい友人の後を、荷物を担いでついて行く。

 波の打ち寄せるテトラポッドの上に、板を渡しただけの橋を渡り、沖にある防波堤の先端にたどり着いた。


 そこにテントと照明を設置して、友人とともに仕掛けを投げ落とした。


 友人が一匹、二匹と釣り上げるのを横目に、暇を持て余したFさんは、酒を飲んだりツマミをつまんだりしていたが、いよいよやることがなくなり、竿を友人に任せ一眠りすることにした。



――おーい


 まどろんでいたFさんは、どこからか聞こえる声に目を覚ました。


――おーい


 テントから顔を出す。


「お前の仕掛けで一匹釣れたぞ。良かったなボウズにならなくて」


 そういう友人を無視してあたりを見回す。


――おーい


「声がするぞ」

「声?」


 友人が首を傾げる。

 声は防波堤の反対側、高いコンクリートの壁の向こうから聞こえるようだった。


「ほら、向こう側から声がする」


 Fさんがそう言うと、友人はこちらを見もせずに「しっかりしろ」と低い声で言う。


「防波堤に“向こう側”なんかあるわけ無いだろ。海の上だぞ」


――おーい


 Fさんはしこたま酒を飲んで、夜が明けるまで狸寝入りを決め込んだ。

 その間も、声はやまなかった。

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