マルタン王国に栄光あれ
サミュエルから逃げきったフェリックスが、鼻歌交じりでエリスの部屋へ行くと、そこには数人の女性達が集まって楽しそうにお茶会をしていた。
ご婦人方の中に入っていくのは躊躇われ、執務室に戻ろうかと迷ったのだが、中に、久しぶりに見る顔がある事に気づき、フェリックスは手を上げ挨拶した。
「ローラ! 久しぶりだな、来ていたのか」
一年半程前、出産の為にエリスの侍女を辞め、その後はたまに顔を出す程度だったローラが、フェリックスに深くお辞儀をした。
「はい、陛下。ご挨拶に伺わず申し訳ございません」
「いや、いい。今日は息子は……ああ、一緒か」
「はい」
小さな男の子が、チョコチョコと部屋を歩き回っている。
「この間見た時はまだ這っていたのに、もう歩いてるじゃないか!」
「はい。おかげ様で、もうすぐ1歳半です」
「そうか、子供の成長は早いもんだな。おお! 来た来た!」
自分に向かって突進してくる幼児に、フェリックスは顔を綻ばせた。
「かーわいいな。アイク、だったな? アイクー、王様だぞー。大きくなったら俺に仕えるんだぞー」
トマの子供とすぐわかる、父親似の男の子だ。
柔らかい頬をプニプニと押すと、キャッキャと笑い、とても可愛い。
抱き上げようとしたが、アイクはその手を逃れ、母親の方へと戻っていってしまい、残念に思いながらフェリックスはエリスに歩み寄った。
「体調はどうだ?」
「ええ、問題ないわ」
大きなお腹を撫でながら、エリスは答えた。
「それは良かった。予定日まで、あとひと月か……あっという間だな」
「でも、案外ここからが長いんですよね」
サミュエルの妻の言葉に、『わたしもそうだった』『わたしは違う』と、いろいろな意見が交わされる。
「人それぞれってことか……エリスはどうかなぁ……」
パンパンのお腹を触ってみると、今にもはち切れそうで、ちょっと怖いと思いつつフェリックスはそっと撫でた。
「スルッと生まれるといいな……」
「きっと大丈夫よ。お医者様の話だと、あまり大きくないからお産は軽いんじゃないかって」
「それならいいが……」
「ええ、大丈夫よ。それよりフェル、ローラが、この子の乳母になりたいって言ってくれているんだけど」
「えっ?」
突然の話に、フェリックスはローラを見た。
「乳母って……また働くのか?」
「はい。この子もそろそろ乳離れをしますから、丁度良いかと」
「わたしも、ローラなら安心して任せられるからありがたいんだけど、どうかしら」
「エリスがそうしたいならそれが一番だけど……アイクは大丈夫なのか?」
「既に母乳以外の食事もしていますから、大丈夫です。それに乳母は、出産をして母乳が出ている者がなるものですから、皆、こんなものですよ」
「それに、アイクを連れて来てもらえばいいかと思って。いい友達になってくれると思わない?」
「ああ、そういう事なら……って、生まれてくる子が男ならいいけど、女だったら駄目だ!」
「あら、なぜ?」
「だって……物心ついた頃から一緒にいたら、アイクの事、好きになってしまうかもしれないし……」
「まー! 陛下、そんな心配を?」
婦人たちはクスクス笑っているが、笑い事じゃない! とフェリックスは息まいた。
「だって、無い話ではないだろう?」
「そうですが……恐らく、王子様が誕生されると思いますよ。王妃様の、お腹の形がそうです」
「そうですね、わたくしもそう思いますわ」
そんな話を笑いながら聞いていたエリスが、フェリックスに尋ねる。
「姫だったら、貴方が結婚相手を決めるの?」
「いや、好きな男を選んでいいが……でも……いや……でもやっぱり……」
「今からそんなで、大丈夫かしら」
クスクス笑うエリスにつられ、婦人達も笑い出し、フェリックスは気まずそうに頭をかき、そして笑った。
ひと月後、エリスは王子を出産し、ローラは乳母となった。
その数年後には姫が生まれ、その子は兄といつも一緒にいるアイクの事を好きになり、結婚をした。
フェリックスとエリスは仲睦まじく、マルタン王国を発展させ続けた。
でも今は、まだ先の話。
マルタン王国の繁栄は、まだまだ始まったばかりだった。
本編終了です。ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。あと一話、おまけ的な、でもこの話のタイトルを現わす話を加えて完結となります。よろしくお願い致します。




