22. 王の裏側
「……はい?」
聞き間違えたかもしれない。
「私は我が国の王は、信用できないと思っております」
はい、間違えてなかったです!
えっと……ここ王城の執事のハインリッヒさんが言っていいことなのかな……?
窺うようにハインリッヒさんを見た。
彼はそっと目を伏せた。
「こちらにお越しになったばかりのお客人であるスイ様にお聞かせするべき事ではないのかもしれません」
悲しそうに言葉を続ける。
「しかし、手遅れにならない内に何とかしないといけません。スイ様には知っておいていただきたいのです」
ハインリッヒさんの言い方から、どうやらこの国の王には問題があるようだ。この国の将来を憂いている様が感じられた。
「先代の王は、彼の反対勢力であった宰相様と貴族議員が結託して、暗殺されたと思われます。しかし、証拠がなくうやむやのまま、公には事故として発表されています」
いきなり重い話来た!
ちょっと、待て!!
ホントに私なんかに話していい話なの!?
いつの間にか部屋にきていたベットが話に加わる。
「先代の王、クロスのお父様がなくなる前までは、クロスはちょっと甘えん坊で我儘だったけど、優しくて可愛い所もあったのよ」
ベットとハインリッヒは顔を合わせ頷いた。
「クロス様は、まだ17歳という若さでした。このまま王位を継いでも宰相にいい様にされるのではと、心配しておりました。……しかし、そんな私たちの心配は、全く杞憂に終わりました」
そう言ったハインリッヒさんの顔はなぜか悲しそうだ。
「そうね……まさかあんな事になるとはね……」
ベットは苦々しくつぶやく。
何があった!?
「宰相様はクロス様を暗殺しようとした疑いで処刑されました。そして先王の暗殺に関わったと思われる貴族たちは、不正が見つかり、家督を失ったり、はたまた不慮の事故で亡くなったり……。結局全員、この王都からいなくなったのでございます」
「そ、それは……クロス王にとって、ラッキーでしたよね」
「ええ……。それが、本当に真実だったなら」
ハインリッヒさんの顔は暗い。
え……まさか!?
「貴族たちの不正は突然降って沸いた疑惑でした。証人も、何故か行方が分からなくなり、当時は怪しんでいた者もおります。事故の方も、誰も目撃者がおらず、現場の状況からそう判断されただけでございます」
「何故か、フィアリーズの目撃者もいないのよね……」
「うっ、それは……」
めっちゃ怪しいっ!
「宰相様に至っては証人はクロス様だけ。裁判も行われず処刑されました」
おうっ、これはちょっと……クロス王……
「先ほどのバシリー様とのお話をお聞きして、昨夜の犯行はバシリー様の独断ではないのでは、と懸念しております」
あれ?
さっき、ハインリッヒさんはいなかったよね?
紳士な見かけによらず盗み聞きしてたようだ。
「そうよね……。残念だけど、十中八九、クロスの指示でしょうね」
ベットは大きなため息を吐いた。
うう……そうなんだ。
優しそうな王様だと思ったのに……ヒドイ!!
ああ、私……ここにいない方がいいのかな……?
俯く私の肩をベットは励ますようにポンと叩く。
「スイさん、大丈夫!! さっき、クロスにはしっかり釘を刺しといたから! これでもまだスイさんに手を出すようなら、私はクロスを見捨てます!」
私の目を見て、優しく微笑んだ。
ベット……
私は思わず涙の滲んだ瞳で見つめた。
「スイ様、私も王の横暴をこれ以上見逃しません。どうぞ頼ってください」
ハインリッヒさんも、そう言ってくれる。
「ふふ、心強いわよ、スイさん! 彼はこう見えて、昔は騎士団隊長だったのよ。 魔力も強いし、その辺の暗殺者には負けないわよ!」
ええっ!
騎士団隊長が執事に!?
どういう経歴だ!?
「ほっほっほ。騎士を引退した後も、城内が気になってしまいましてな」
「執事になって残ってくれたのよ! ねーハインリッヒ!」
二人は同志のようだ。
「うふふ、それに……もう一人、あなたを守ってくれるナイトがいそうよ」
ベットは可愛くウインクした。
えっ、誰だろう?
マークの事かな……?
私が首を傾げても、ベットはクスクス笑うだけだった。
食事が終わってメイドさん達に片づけてもらうと、ハインリッヒさんに不可思議な言葉を告げられた。
「では、スイ様。こちらに着替えて"第七訓練場"へお向かいください。私が案内いたします」
彼は動きやすそうな服を置くと、扉の外へ出て行った。
えっ!?
訓練場!?




