新人
「ふふふふっふ~ん♪今日から私も剪定者の仲間入りです~~!」
鼻歌を混じりに笑みを浮かべ、少女はアッシュの廊下を進んでいく。左右に編んだ三つ編みは喜びのスキップで軽快なリズムで跳ねていた。
夏休みに入ってから数日。今日は一週間後に控えた剪定者の夏期合宿の打ち合わせで本部に呼ばれていた。一緒に参加する人たちとの顔合わせも兼ねているので、少し緊張もしていたが、それよりも楽しみの方が勝っていた。
「…………?」
ふと少女は足を止める。
目の前のT字になった廊下の中央に見知らぬ少年が立っていた。
自分よりも少し背の高く、肩に手さげバッグをかけていた。歳は少し上が同じぐらいかなと思った。
シードで空間ディスプレイを開きながら、少年は首を傾げている。迷った…………のかな?
「あの………」
「…?」
少し見上げながら、少女は近づいていく。
少年もこちらに気づき少女を見る。
「どうかされました?」
「あぁ、えっと……………第九会議室に行きたいんだけど場所がわからなくなっちゃって」
「あ、第九でしたらこれから私も行くところなんです!よければ一緒に行きませんか?」
それを聞き、少年は表情を明るくした。
「ホントっ!じゃあ、お願いしてもいい?」
「はい、もちろんです!」
そう言って二人は一緒に歩き始めた。
花が開花してから約二週間後。
あの騒動の後、正式に春樹は剪定者としてアッシュで働くことになった。それと同時にお世話になっていた柚利乃の家からも出ることになり、元のアパートで紅花と二人で暮らすこととなった。
いろいろと大変ではあるが、まぁどうにかやっている。
今日の打ち合わせ、柚利乃から「一緒に行く?」と聞かれたが、施設内の地図データももらったし、別に大丈夫だろうと思って断ったら、結局迷ってしまった。
全く広すぎるんだよアッシュ本部は。でも、まさかちょうど同じところに行く子と会うなんて運がいいこともあるもんだ。
「えーと……はじめましてですよね……?」
様子を窺うように少女が口火を切る。
「うん………そうだね」
一応、思い返してみたが、多分初めて見る子だと思う。
「私、戸田ひなきっていいます。ひなきで大丈夫ですよ!」
少女、ひなきは元気良く挨拶をする。
「よろしくな、ひなき。俺は須藤春樹。______俺のことも春樹でいいよ」
「はい、よろしくお願いします、春樹さん!」
一瞬、下の名前で呼ぶのをまた断られるのではと思ったが、今回はそのまま了承してくれた。前の傷もあってか少しだけ喜びが心に滲む。ってか普通断らないだろ。
「春樹さんも高校生ですか?」
「おぅそうだな。俺、高二」
「あっじゃあ、一個上ですね。私、高校一年生なので」
アッシュの職員の中には柚利乃の他にも春樹たちと同じ歳くらいの人が何人かいるらしい。だが、いつも決まったところにしか行かなかったため今まで会ったことがなかった。たまに、それっぽい人を見かけても、用もないのに話しかけるのもな〜と思ってしまい、勇気が出ずそのままスルーしていた。
「ひなきはアッシュに来てから長いのか?」
「もうすぐ一年ぐらいですね~。春樹さんは?」
「俺はまだ入ったばっかだよ。今年の五月の終わりだから…………二ヶ月も経ってないかな。……………となるとひなきは俺よりもかなり先輩だな。もしかして、敬語の方がよかったですか?」
「や、やめてくださいよ~!そんな尊敬されるようなすごい人でもないですし、春樹さんの方が年上なんですからそのままタメ口でいいですっ!」
胸の前で両手を振り、ひなきは慌てて否定する。
その慌てぶりに思わず微笑ましくなった。
「何をダラダラしゃべっておる。時間ギリギリだったのではないのか?」
背中から紅花が上半身を出し、組んだ腕を春樹の頭に乗せる。
「おわぁぁっっっ!」
突然現れた少女に驚き、ひなきは後ろに飛び上がる。
「おい紅花、急に出てきたら驚いちゃうだろう。あと、頭に手を乗っけるな」
「別によかろう。置く場所としてちょうど良いのだ。主というのは仕える者に優しくするものだぞ」
前から思っていたが、一応俺のことは主と思っているものの、主より偉そうにしているのはどうなのだろう。
「ごめんな驚かせて。大丈夫か?」
「だ、大丈夫です…………。ちょっとびっくりしただけなので。あはは……………」
飛び出した心臓を押さえながら、ひなきは苦笑いを浮かべていた。少し息を整えて、改めて春樹に聞く。
「春樹さん、その子は?」
「あぁ紹介するよ。こいつは紅花。俺の………相棒?みたいなもんだ」
紅花の上半身を掴み、自分の体から引っ張り出すとひなきの前にその小さな体を降ろす。
「はじめまして紅花ちゃん。ひなきって言います。よろしくね!」
中腰になり、笑顔でひなきは紅花に挨拶する。
「………………………ふんっ…それより、急いでいるのじゃろ早く行くぞ」
「あっそうだったっ!ヤベッ!遅れたら杏奈さんに怒られちまう…………!」
「それならちょうど着きましたよ。ほら」
再び歩き出そうとした時、ひなきの声で春樹の足が止まる。
ひなきが指をさしその方向を二人は見ると、表示された空間ディスプレイには第九会議室と書かれていた。




