第166話 ブラックヒューマン!
「駄目だ! 勝てるかあんなバケモンに! に、逃げッ――!」
盾を放り出して、生き残ったヒューマンが逃げていく。
が、その背中に影が落ちる。
とんでもない勢いで地面を踏み切って跳んだ、ヤマダさんだ。
床が足の形に陥没してる!!
「『雷迅』ッ!!」「ッヒィ――や、やめ」
その右足に、魔力が渦を巻く。
「――『天狼脚』ゥッ!!」「ぎべっ――!?」
空中で謎加速した蹴りが、人族の背中に炸裂。
着込んだ鎧ごと、上半身を消し飛ばした。
「ふぅうう……! こぉおおおおおお……!!」
反動で宙返りし、床を砕きながら着地したヤマダさん。
その背中に、魔力が宿っている。
凄い……周囲の空気から、呼吸する度に魔力をリアルタイムで補給してる!
宿屋の人族は、武器を構えたままボクらを遠巻きにしている。
ヤマダさんが超強いのもそうだけど、ボクも……ひいふう……7人はコロコロしたからね。
どうやら攻めあぐねてるようだ。
そして現在膠着状態――な、わけないです!
動きを止めたな間抜け共! むっくん・アンカー射出! 周辺の床と壁に固定!
胸ハッチオープン! 魔力循環――から、のォ!
「――左ハ任セテクダサイッ!」「応よッ!!」
左側の人族たちが、慌てて動き始める。
「魔導反応!? 結界だ! 結界を――」
――もう遅い! 喰らえ『魔素凝縮電磁投射砲』ォッ!!
胸から発射されたごんぶとビームが、魔力循環の効果かいきなり竜巻状態に!
人族の結界に竜巻が接触、結界をバリンバリン引き千切りながら貫通!
ちょうどいい! このまま左にスライドじゃ~い!!
部屋と通路、そして壁がバキバキと轟音を上げて崩壊。
あっという間に宿屋は見晴らしのいいテラス席? 完備になった。
アンカーのお陰で吹き飛ばないし、進化してよかった!
「おやびん! しゅごい、しゅごーい!」
キャッキャしているアカを見ながら、余剰魔力を体から放出。
埃と煙が晴れたそこには、さっきまで命だったものがバラバラに散らばっている。
左側の奴らは死んだな! ……ムム!?
「伏兵だと――ぎゃあっ!?」「い、いつの間に――うああ!? 逃げろォ!!」
宿屋の周辺で、もう戦闘が始まってる!?
ナンデ!? どっから湧いて出たヒューマン!?
『2階や3階から脱出して逃亡するつもりだったのでしょう。ですが包囲は完璧、問題なくつよつよむしんちゅアーミーに対応されていますよ』
なるほど! じゃあ今の所はこの宿にまだいるかもしれない敵をなんとかしなきゃ!
ヤマダさんの方は――
「『絶掌』ォオ――『龍吠砲』ッッ!!」
また手からビーム! 残っていたヒューマンが千切れて粉々になった!
すごいなアイキド……ボクの電磁投射砲よりもチャージ時間短いし、それなのに威力は遜色ないし。
あと……ほぼノータイムで回復してるし、魔力。
ラーガリのバレリアさんを思い出す!
「おやびん、あーん」「ボリボリリ」
こっちも魔石チャージ……完了!
見えている範囲に敵はいないというか死んだし……トモさん、サーチよろしくです!
『サーチ中……上に敵はいませんね、全て外に逃げたのでしょう。1階には……む!』
どしたんトモさん?
――ムム!? なんじゃこの気配!?
この、げッソリするような感覚は前にも――!?
『ムーク! この反応は――』
ヴァルの声!
「――ヤマダサン! 下! 下カラ来マスッ!! 外へッ!!」
衝撃波ブースト! 緊急避難ッ!!
さっきブチ開けた人工テラスから、外へ逃げる!!
アカも肩に捕まって一緒!
「なんとも、嫌な気配だぜ――!」
さすがのヤマダさん、ボクと同じくらいの速度で外へ!
その瞬間――宿の1階部分が吹き飛んだ!!
地下からの、攻撃!
『ヴァル、これってまさか――』
懐から出てきたヴァルが、顔をしかめている。
『ああ、間違いない――黒い連中だ! ワレを出しておけ!』
宿屋の残骸が、地面にバラバラと落ちてくる。
その破壊された場所の向こうに――人影が、2つ!
「――勘のいい虫と、裏切者だな」「――ああ、まさに虫唾が走る」
1人は女、1人は男。
高級そうな銀色の鎧を着込み、長い剣を持っている。
「アァァァン!? ふっざけんじゃねえ! 誰が裏切者だってんだカス共が! ロストラッドはてめえらアーゼリオンとはそもそも同郷でもねえェ!」
うわ、ビックリしたけどヤマダさんがマジギレしてるから我に返った。
やっぱり……連中、鎧から覗く肌が黒い! 例のサジョンジの2人みたいな感じになってる!
「ヤマダサン! 例ノ……バッチイ連中デス!」
「なるほどな、聞いてた通り吐きそうな気配だぜ……了解した!」
昨日あらかじめ説明しておいたからね!
吐きそうな気配は納得……前のサジョンジ2人よりも、もっと濃い……!
周囲の援軍は、逃げ出そうとした奴らと戦っている。
ロロンとかアルデア、マーヤもだ。
これは……やるしかないねえ。
『アカとヴァルは皆の所へ行って手伝ってあげて。ここは、ボクたちがやる!』
『ああ、任せたぞ』『がんばて、おやびん!』
2人はすぐに飛び去って行く。
「面倒臭ェから、2人まとめてでもいいぜ? 俺ぁよ……」
ごきりと首を鳴らすヤマダさんに――攻撃が!?
「ッハ! 手癖が悪いな、そんじゃあ……テメエから殺してやらあ!」
男の方から飛んだ光線の魔法を、片手で弾いて……ヤマダさんがニヤリと笑う。
彼の体の中を、魔力がとんでもない速度で循環している。
その魔力は、細かい粒子になって……その体を覆い始めた。
「誇り高い人族の面汚しめ……この国に与するならば貴様もまた、まつろわぬ者共よ!」
「ふっざけんなよ、ごみ野郎がァ……この言葉ァ……そっくりそのまま叩き返してやらァ!!」
男の剣が赤黒く輝いて――その剣と、ヤマダさんは素手で打ち合った!
片方は素手なのに、金属みたいな音がする!!
「……では、私の相手は虫というわけか」
残った女が、剣を構える。
刀身が、男のと同じように赤黒い色に輝き始める……なんか、雰囲気がキショい!
「さて、まつろわぬ民よ。伏して許しを請えば我が神の覚えもよかろう……」
「ハ~? ソンナキッショイキッショイ邪神ニ興味モ用モナイガ~? コッチニハモット素晴ラシイ神々ガ――」
殺気! 突っ込んできた!
人の話は最後まで聞きなさい! 横スライド回避!!
女が通り過ぎた瞬間に体を回し――左手パイル全弾発射ァ!!
発射された棘3本は、女の鎧の肩パーツに激突! 貫通はしないけど歪ませはした!!
「うぬっ――おのれェ!」
「沸点ガ低イオ猿サンハイヤ~ネ~?」
バックステップ!
女が剣を横振りにしたけど――わかってるよ! 魔力の感じから、斬撃が伸びるのはさ!
さらに、追い衝撃波バックステップ回避!
「ぬぅっ!?」
「手品ノ種ガ――割レタナァ!」
衝撃波連打! 連打連打!!
循環からの高レート連射は、鎧に次々着弾して相手の姿勢を崩――さない!
くっそ! 体幹が強い!
「舐めるなァ!」「フンヌ!!」
横薙ぎの斬撃に、ヴァーティガを合わせる!
魔力を込めたいかした相棒は、グロい色に光る剣を問題なく受け止めた!
コイツは、前のサジョンジと違う!
戦闘技術がある人間が『黒く』なったんだ!
トモさん! そしてやっぱりコイツも魔力無尽蔵なん!?
『ええ、そのようです。地下の龍脈からリアルタイムで不浄の魔力が登っています』
ムギー! 畜生!!
『むっくん、そう絶望したものでもありませんよ。あなたは1人ではないのですから』
『そそそ、戦いが長引けば長引くほど有利なんよ。いっくら回復するっつってもつよつよむしんちゅに囲んで殴られたら死ぬし~? だから死なないようにガンバガンバ!』
そうか……うん! 頑張るよボク!
「『我ガ剣ハ、牙ナキモノノタメ』!」
蒼く輝き始めたヴァーティガで伸びる剣を迎撃! 迎撃迎撃!!
――よし、なんか、見える! 剣筋? が見える!
ソイチロ先生やギリコさんにボッコボコのボコにされたからか、それとも進化して動体視力的なやーつが上がったからかわかんないけど、見える!
「ぬぅう……虫め!」
「ナンダ人間メ!」
がぎぃん! と弾いた勢いで後退!
ボクは剣士じゃないので――持てる手段を全部使ってコイツをボコすんだ!
手始めに左足パイル発射! その反動で更に斜め上に跳ぶ!
「ちぃいッ!」
もいっちょ! 右足パイル発射! さらに上空へ!
「逃げるかァ!」
な、わけないでしょ――魔力全開! 『肩部雷撃散弾砲』ファイア!!
「――ぎ、あッ!?!?」
殺到した雷撃が直撃して、女は動きを止める!
黒焦げにはなんないけど、これは流石に効くんだねえ――アフターバーナー点火! 全部ッ!!
あっという間に距離はゼロになって――痺れた女の胴体に、ヴァーティガをフルスイング!!
「ごぉあッ!?!?」
鎧にヒビが入って、蒼い文様が走る!
「デラッシャアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「グブゥ!?!?」
振り切る、ヴァーティガをッ!!
女は血を吐いて、宿屋の残骸に吹き飛んでいく!
そのまま、2階部分を突き破って内部に! ベキベキバキバキって音を響かせながら!
いくら体が回復するって言っても、物理的に圧し潰されれば復帰は遅いだろ!
魔石を口に放り込んで噛み砕き――着地!
「『我ガ鎧ハ、寄ル辺ナキモノノタメ』!!」
同時に詠唱――ヴァーティガが弾ける。
減った魔力を魔石でチャージしつつ……更に!
「――ラグン・ヴァアアアアアルツッ!!」
空中に散ったヴァーティガの外装が、ボクの体に金属音を響かせて装着されていく!
くぅ~! 油断はしてないけど、これほんと格好いい!
そうして外装を着込み、輝く大剣を構えて様子をうかがいつつ――魔力循環!
いつでも衝撃波が撃てるようにね!
「――っじゃ!」
あ、ヤマダさん!
あっちの戦いはどうなって――へぇえ!? ヤマダさんなんでパンツいっちょなん!?
敵の男が服を剥ぎ取る特殊な魔法とか使ってんの!? ドスケベヒューマンだ!
『いえ、モニタリングしていましたが、ヤマダさんは体表面に纏わせた魔力で防御を行っています。現在まで無傷ですが、服は普通の布装備なので攻撃の余波で弾け飛んでいるみたいですね』
そ、そうなんだ……あ! 油断せんようにせんと!
ヤマダさんは大丈夫だから……ボクはボクの戦いに集中しないと!
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