第165話 アイキド、強し!
「――さあ、行くぜムークさん、それに妖精ちゃんたち」
背中に気迫をみなぎらせて……ヤマダさんが歩き出す。
「ハイ!」
夕暮れの三の街で、ボクはその後を追って歩き出した。
『あい~!』『ふふふ、胸が騒ぐ』『この街に悪いヒトはいらないわ! いらないわよ~!』
マントの中の皆も、とってもやる気満々!!
視線の先には……3階建ての、それなりの規模の宿屋がある。
さて……鬼が出るか、蛇が出るか。
あの牧場の地下には、立派なお風呂と寝室があった。
そこでリラックスして……ぐっすり眠って、アカと遊んだり木像をシャッシャしていたらもう夕方。
それで……ボクと山田さんは例の宿屋に行くことになった。
「アンタは雇いの冒険者ってことにする。後ろで黙って観察してくれてりゃあいいぜ」
「ハイ、了解デス」
……昨日の様子はどこへやら。
今日のヤマダさんはとっても自然体だ。
大きな袋まで担いで……本当に、三の町まで買い物に来た人間さんって感じ。
「待ってろよォ……マジだったら全員……ぶっ殺してやる……!」
ヒィ! 一瞬の殺気!!
「おおっと、いけねえいけえねえ……ガハハ!」
そう言って笑い、ヤマダさんはズンズン歩き出した。
『よく見ておけムーク。ヤマダはかなりの使い手だぞ、なんとなくわかる』
『いやヴァル、まだあの宿屋が悪の巣窟って決まったわけじゃないからね?』
ヴァルがマントの中でくすくす笑っている。
こちょばい!
『……ふふふ、良いオンナの勘は当たるのだ』
そ、そうですか……
・・☆・・
「いらっしゃいませ~! お泊りですか?」
「おお、ちいっと足を伸ばし過ぎてな! 買い付けに欲張り過ぎちまったんだよ、がはは!」
宿に入ると受付があって、そこに20代くらいの金髪のお姉さんがいた。
受付嬢さんだ……ニコニコしてて、とっても愛嬌がある。
悪いヒトには全然見えないんだけど……
『この距離ではまだわからんな。ヤマダの手並みを拝見しよう、周囲を観察しておけ』
了解です~。
といってもこの場には他に誰もいないですけど……ふむん、特に変わったことはないなあ。
「後ろの虫人さんもご宿泊ですか? それなら1階の角部屋がいいですよ」
「そうだなあ、それにしても嬢ちゃんは別嬪さんだねえ! 北の方の出身かい?」
「あら、お客様もそうなんですか?」
小粋なトークをしているな……
「おお、随分と若い時分に国から出たがね。俺ァ『ヤツカバラ』出身なんだが、嬢ちゃんは?」
「まあ! 私は『トツカ』の北です! 3年ほど前に国から出たんですよ」
ふーむ、土地の話をしても問題ないみたいね……
「おー! そこにゃあ妹が嫁いでんだよ、懐かしいねえ……あんた知ってるかい? あすこにゃあ大層な魔導塔が建ってるらしいじゃねえかよ?」
「はい! 『トツカ砲塔』ですよね! 子供の時は近くでよく遊びました!」
魔導塔ってなんじゃろ? 防御用の兵器かなにか?
ロストラッドも物騒なのね……いや、どこでも物騒か、魔物いるし。
「俺も一度は見に行きてえと思ってたんだがな……おおっと、長話になっちまった。歳食うと話が長くっていけねえやな……ここは前払いかい?」
「いえ、お立ちになる時に精算してくだされば結構です。はい、これがお部屋の鍵ですよ!」
あれ、普通に鍵受け取ってる……空振りだったんかな?
「――ところで、『破断聖女』様は元気にされてるんかね? まだ御存命とはお聞きしてるがよ」
「はい! 国を出る前に一度礼拝に参加しましたよ。とってもお元気でした!」
……なんか物騒な名前の聖女さんですね?
それって絶対強いヒトでしょ――
「――寝てな、女狐」
「は?」
魔力が一気に圧縮されて――放たれた。
ヤマダさんの右手から発射されたそれは、受付嬢さんの胸に炸裂。
間の抜けた声を出した彼女は――吹き飛んで壁にめり込んだァ!? アレ生きてる!?
寝るって永眠の隠語じゃないよね!?
「ムークさん! 当たりだぜ!」
ヤマダさんがこっちを振り向かずに叫ぶ。
「『破断聖女』ってはな、ロストラッド人なら殆ど口にしねえ悪口なんだよ! 特に……礼拝に参加するような熱心な信徒なら、すぐに訂正しろって怒り出すようなな! だから――」
――複数の足音!
次の瞬間には、左右の部屋から普段着の人族がなだれ込んできた!
みんな武器を持ってる! 殺意MAX!
「よお糞共! てめえら――アーゼリオンだなァ! 全員、死ねッ!!」
ヤマダさんの声に答えずに――左右から魔法!
火球が、あっという間にヤマダさんに叩き込まれ――
「――応ッ!!」
――ないッ!?
ヤマダさんに殺到した2つの火球は――素手で! 受け止められてる!?
どうなってんのアレ!?
「――馬鹿がよおッ!!」
ヤマダさんの両腕が翻って円を描き、そのまま発射元に――投げ返されたァ!?
「まさかっ!?」「アイキ――!?」
悲鳴と、爆音。
投げ返された火球が、轟音を上げて炸裂した!
「アイキド使いに何の変哲もねえ魔法を放つ奴があるか? へっへ……長生きできねえなあ?」
あっ! 受付の奥にある階段から新手!
ロングソードを持った兵隊? が飛び出してきた! 速いッ!
「死ねェッ!!」
「――俺に任せなァ!」
跳んだ勢いを乗せて、ヤマダさんの頭にロングソードが叩き込まれ――ないッ!?
「なぁっ!?」「っしぃい――!!」
ロングソードの側面に右手を這わせて、ヤマダさんが鋭く動く!
変な軌道で剣は逸れて、兵隊が空中で姿勢を崩す!
そのお腹に、左手が平手で叩き込まれて――
「破ァッ!!」「――がばぉ!?!?」
次の瞬間には、炸裂した魔力で胴体に大穴が開いて! 内蔵がァ!?
な、ななな……なんなん、つよ、強すぎこのヒト……!!
『むっくん! 左右から敵が来ますよ! ホラホラ動く動く!』
は、はぁいッ!
「ヤマダサン! 敵ガ――」
「応よっ! 左は任せるぜェ!」
凄い察知能力!
ボクも横に走って……左から武装した敵の一団が来た!
魔力循環――『肩部雷撃散弾砲』ッ!!
「――ファイアッ!!」
「「「――!?!?!?」」」
両肩から放たれた電撃が、今まさにボクへ襲い掛かろうとしていた一団に直撃!
うわわ、ヒトに撃ったの初めてだけど……連鎖的に発火して即死しちゃった!?
でも、これは使える!
『ピーちゃん離脱! もうわかってるとは思うけど、ハンゾさん達に伝令お願い!』
『わかったわ! みんな気を付けてね! 気を付けてね~!』
いつものチュンチュク飛行の百倍くらいの速度でマントから飛び出し、あっという間に外へ出るピーちゃん!
『アカ! ボクの上に!』『あい~!』
アカは頭上で迎撃妖精になってもらう――まだまだ来るし!
「妖精だ!」「捕えよ!」「本国へのいい土産に――」
「――ハアアアア!? サセルト思ッテンノカ! 可及的速ヤカニ、クタバレヒューマン!!」
喰らえ! ソイチロ先生のご指導によって凄まじい連射速度を獲得したボクの――速射散弾衝撃波を!!
「ぎゃっ!?」「ぐぅうあ!?」「見えなッ!?」
後から後からなぎ倒されるヒューマンたち……ちょっと数多くなァい!?
結構大きい宿屋だけど、全員関係者なん!? よく見たらヒューマンしかおらんし!?
「にゅぅう――えいえいえいえ~いッ!!」
頭上から鬼連射されるアカキャノン!
おお! ヒューマンどもの体があっという間に穴あきチーズに!
こちらの圧力が減った! ヤマダさんの方は――
「死ねェ!」「やめろ! アレ相手に魔法は――」
右の通路から、雷が飛んできて――
「ふぅッ!!」
ヤマダさんの右手に吸収されとる!?
「こぉおおおぉお――!」
見えた! ヤマダさんの体内を、魔力が! 今吸収した魔力がとんでもない勢いで螺旋回転してるゥ!
それは、右腕から左腕の方に渦を巻きながら移動して――
「『応報拳』! ――『鬼装波』ァッ!!」
左手の先から、明らかに二倍以上の規模になって飛び出したァ!!
「ギャアアッ!?」「グウウウアアアアッ!?」「ばけ、ばけもの! ばけものだァ!!」
今の一瞬で4人が黒焦げになって死んだ! アイキド強すぎ!!
「おのれ! や、やはりアイキドだ! 攻めに魔法を使うな!」
「特務兵様を早く! それまでここで耐えるんだ! 囲え! 囲んで対応しろ!!」
味方が死んでも、連中の戦意は消えてない! 前列が盾を構えて防御の姿勢だ!
なにか、魔力の反応がある……アレは、魔法具の盾か!
「はははァ……舐められたモンだぜ……!!」
ヤマダさんにまた魔力が!
発生した魔力が、折り畳まれ……圧縮されて螺旋回転していく!
「アイキドに攻め技が無ェと思ってんな――めでてぇ頭のまま、くたばりやがれェ!!」
循環した魔力が、今度は背中で分岐して両腕に――!
「――『絶掌』ッ! 『龍吠砲』ォオッ!!」
ヤマダさんの両掌が手首で合わされて、その先からうねる魔力のビームが発射された!!
盾に結界を張っていた前列は――炸裂した魔力で盾も鎧も、ズタズタに千切れて吹き飛んでいく!
「かかってきやがれ! 騙りのクソ共がよォ! このヤマダ・ジロー様がァ……片っ端から叩ッ殺してやらァ!!」
……つっよ!
アイキド強すぎ! ヤマダさん強すぎ~!!
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