第149話 時と場所を選びたい進化と、謎悪夢。
「グヘェ……」
校庭の隅に寝転ぶボク。
今日もお空は綺麗だなあ……
「あいっ! おやびん、どぞ~!」
顔の前に立ったアカが、魔石を差し出してきている。
ありがたい! ……よし、子供たちはいないな!
今日のボクは、魔力循環をしつつ弱い衝撃波をひたすらぶっぱするお稽古をしていました。
これをやるとやらんとでは発動速度が違うのでね……!
ソイチロ先生には足を向けて眠れませんな~……
とりあえず、アカが渡してくれた魔石をボリリ……うーむ、無味無臭。
ムムム……これは小さいから、まだ完全回復とはいかんね~?
たぶん森狼の変異種の魔石だな、コレ。
食べまくってるからなんとなくわかるようになってきた。
「アカ、モイッコ頂戴」
「あい~」
アカが嬉しそうに新しいのを口に放り込んでくれた。
ふふふ、頼もしき我がカワイイ子分よ……ボキボキ……
バリバリ……バギギ……不味い!!
こ、これはひょっとしなくてもディナ・ロータスの高純度魔石……!!
オゲ~ッ!? 腐った乳製品みたいな味がするゥ!!
ちくしょう! せめて無味無臭であってくれ~!!
吐くなんて勿体ないから一生懸命食べるけどさあ!!
――どくんと、きた!?
「マ、ママママズイ……!」
これは味の感想ではない!
トモさん、トモさんこれって……!!
『久方ぶりの進化ですね、おめでとうございます。エンシュ以来ですか……あれからむっくんも成長しましたしね』
感慨深そうに言ってるところ悪いけど!
い、移動せんと……移動ォ!!
自室に引き籠る虫にならんと! ならんと~!!
すぐさま立ち上がってダッシュだ! フラフラになる前に~!!
『ってわけでボク進化しちゃうの! ごめんけど皆にイイ感じに説明してくれると助かる!』
「ああ、任せておけ。お主が『思考種』だとバレなければいいんだろう?」
お部屋までダッシュで戻り、念話でヴァルを呼んだ。
すぐに来てくれた彼女に、状況を説明しておく。
「お主はエンシュという街で半死半生になって、龍のポーションで姿かたちが変わった……ということになっているのだろう? 此度もその理由を使わせてもらう」
『え? 最近あの子と会ってないけど大丈夫かな?』
ベッドに寝転び、体中を毛布でグルグル巻きにしているから念話が便利! 今物理的に声出せないし!
「ふん、ほぼ確認されていない龍のポーションなのだぞ? 遅れてさらに効能が発現した……と言えばいい。進化が終われば、念話で口裏を合わせておけ。そもそも龍はヒトとは比べ物にならぬほど強靭で聡明な種族、半分神のようなものだ……皆、それを信じる」
『なるほど……了解だよ。ありがと……うあ、やば、もう駄目……あとは……たのん……だ……』
それだけ言って、ボクの意識は強制的にシャットダウンされるのだった……すやり。
・・☆・・
ふむ……これは、夢ですな?
だって明らかに見えてる景色が違うし。
「校長! マスコミにはどう対応するんですか!?」
なーんか、校長室的な空間だ。
ボクは天井付近から見下ろしている。
部屋の中には、椅子に腰かけたお年寄りの方と……机に手を置いて、その人に詰め寄っている40代くらいのおじさんがいる。
着ている物はスーツで、両方とも人間だ。
ってことは……いつもの悪夢じゃないですかやだー!!
今回の進化は別に大怪我とかからじゃないのに! なんでさ!!
「……老朽化した柵の落下、ならびに熱によるガラスの破損……それでいいでしょう?」
呼ばれてたし、この人が校長先生なんだろね?
っていうか柵とガラス……これって前見たあのイジメの後の話?
やっぱりこれホラー映画なんじゃないかな、視点が違うし、ボディくんもいないし。
「そんなことを……! 柵は去年新調したばかりで、当日の気温はガラスが変形するほどの高温ではありませんよ!」
「では、ガラスの件だけは原因不明としておきましょう」
校長先生は、見るからに適当にそう言った。
「それで保護者が納得しますか!? 6人ですよ、敷地内で6人の生徒が大怪我をしたんですよ!?」
あ、例のイジメっ子連中ね。
全然まったくかわいそうだとは思わないけども~?
「タマキは柵に加えて喉を掠めたガラス片で一番の重傷です、今でも意識が戻らないんですよ、校長!」
ひえ~、あのバットでぶん殴ってたクソガキか。
最後の方見えなかったけど、そんな大怪我になってたんか……
「ああ、あなたは担任でしたね。彼の容体はどうですか? 先程報告を受けましたが、そちらからも聞いておきたいですね」
「声帯がグズグズになっているから前のように発声できるかどうか……腕の方も、神経が損傷していて……恐らく麻痺と障害が残るそうです……!」
うひゃあ……とんでもない大怪我。
でも、あの光景見ちゃったらねえ……ボクとしてはノーコメント!
「他の5人は?」
「……まるで狙ったように、全員足の腱が損傷しています。医者が言うには、切れ方が不味く、雑菌が入り込んだようで……全員、切断か……そうでなくても、歩行に障害が出るとのことです」
ふう、と校長が息を吐く。
「……命に別状は?」
「処置が早かったお陰で、全員それは大丈夫だそうです……」
あー、生きてはいるのか。
病院が近かったんかな?
「そうですか、それは何よりです。警察からの情報が出次第、職員会議で打ち合わせ後に……教育委員会と合同で記者会見を行います。その後、緊急保護者会を開いて全保護者に周知します」
校長が、ノートパソコンに何かをカタカタと打ち込んでいる。
なんか……自分とこの生徒が大怪我してるのに、凄く落ち着いてるなあ。
「ですから! この事件について先程のように説明するのは――」
バン! と机を叩く先生。
「――それ以外に、どのように説明しろと言うのだね? ハザマ先生」
校長が、ギラリと睨み返す。
それを受けて、先生……ハザマが息を飲んだ。
「まさか……あの惨劇を、『一生徒』がすべてやりました……などと、妄言を吐く気ではないだろうね? 馬鹿馬鹿しい」
「……ッ!」
どん、と今度は校長が机を叩く。
「キミが何故『あの子』の名前を出したのか知らないが、随分とご執心じゃないか? ……ふざけた言いがかりはやめたまえよ」
「で、ですが……! アイツは……!!」
校長が立ち上がって……机越しに、ハザマの胸倉を掴んだ!?
うわ、お年寄りなのにすっごい力だ!?
「じゃあ何か? 10歳の子供が屋上の鉄柵を引き千切って投げ落とし、同時に強化ガラスを13枚も叩き割って吹き飛ばした、とでも?」
「ぐ、うぅう……」
ハザマの顔色がどんどん赤くなっていく。
あの子って……ボディくん?
10歳だったんだ……それにしてもやけに敵視してるみたいだ、ハザマ。
あんなに小さい子に……なんでだろう。
「……馬鹿も休み休み言いたまえよ、ハザマ先生」
校長が手を放すと、ハザマは床に尻もちをついた。
「そんなことよりも、キミにはもっと心配した方がいいことがあるんじゃないかね?」
「げっほ、がは、な、なん……」
床に座り込んだハザマを、校長がとっても冷たい目で睨んでいる。
「複数の保護者、生徒並びに教員から情報が上がってきている……キミの、クラス内でのイジメ問題についてだ」
「っそ、それは、それは違い……!」
ハザマが今度は真っ青になった。
「クラスを受け持つ担任ともあろうものが……まさか、イジメを黙認どころか積極的に加担しているとはねえ……? これは由々しき事態だよ、先生」
「なっ!? わた、私はそんなこと――」
慌てて立ち上がったハザマに、校長がノートパソコンの画面を見せつける。
影になってて見えにくいけど、そこに映っているのは……小柄な人影に黒板消しを投げる少年と、その後ろでニヤついているハザマの姿。
えぇ~!? 先生なのに!? 嘘でしょ!?
クソ教師! どこに出しても恥ずかしいクソ教師だ!?!?
「こ、これ……は……!」
「おっと、合成なんていう言い訳は通用しない。これは動画のキャプチャ画像だ……最近のスマートフォンは便利だねえ?」
脂汗まみれになったハザマが、よろっと後ずさる。
「キミが自分をどう評価していたかは知らないが……よほど嫌われているんだね? これだけではなく複数の音声データ、写真、動画が送られて来ているよ」
校長が冷たく笑って、ノートパソコンを閉じる。
ごくり、とハザマの喉が鳴った。
「――馬鹿なことを考えるのはやめた方がいい。このパソコンに入っているのはコピーで、元データは既に教育委員会に提出済みだ。これどころか、サーバーを破壊しても消えないよ」
「な、なな……」
さらに後ずさるハザマ。
「ああ……今更だがね、今回の事故についてキミは何も心配しなくていい……何故なら、キミは明日から県教委に直接出勤してもらうからだ。この問題……キミの、『服務規程違反』についての聞き取り調査を行う」
「ち、違います校長先生、私は、私はそんな……」
うわ~……この数分で20歳くらい年取ってない? ハザマ。
でも、イジメ放置どころかノリノリで加担するような人には同情できないなあ。
「私にではなく、言い訳は教育長にしたまえよ。あの方は私の先輩で、元々校長を務めた経験もある……とてもご立腹だよ、『教育者の風上に置けない』とね」
校長が椅子から立ち上がって、入り口を指差す。
「出て行きなさい。今だから言うが……私はキミのことが大嫌いだ、同じ空気を吸うのも御免なんだよ」
ハザマは、金縛りになったように動かない。
目だけがせわしなく動いている。
それを見て、校長が息を吸い込んだ。
「――出ていけと言った!!」
その大声に、ハザマはビクリと跳ねて……逃げるように、校長室を飛び出した。
バタバタとうるさい足音が遠ざかって……消える。
校長は、深いため息をついて椅子に座り直した。
「……馬鹿者、『歓迎』しろとまでは言わんが……せめて『容認』すればいいものを……それすらできんか。アレで採用試験を合格しているのが信じられん……まるで子供だ」
え? 校長先生、それってどういう――
「クソ! クソォ! クソ!!」
うわびっくりした!? え!? ここどこ!?
なんでボクの視点が車の後部座席になってんのォ!?
やっぱり映画じゃないかな!? これボクの前世じゃなくってホラー映画じゃないかな!?
えっと……これ、ハザマの車か。
ここは……コンビニの、駐車場?
アイドリングしている車内にはラジオが流れていて、ハザマがハンドルとかその周辺をボッコボコぶん殴ってる……時間軸は校長室の後か。
「なんでだ! なんでこうなる! なんで――の! ○○の! △△ごときが! なんで!!」
伏字ノイズまみれ! こういうとこはしっかり聞かせてくださいよ!!
「お、俺はただ、ただ――の、為に! なのに、なのになんで――!!!!」
ハザマは所かまわずぶん殴ってて、よく見れば両手から出血してる。
ひぇえ……こわ。
なんでって……教師がイジメに加担するとかやーばいでしょ。
そりゃ怒られるよ……子供でも、否虫でもわかる理屈ですよ……
「本家が生ぬるいからこんな――」
ざり、ざざ、じじ……と、音。
さっきまで歌が流れてたカーステレオからだ。
あーあー、そんなにぶん殴るから壊れちゃったんじゃ――
『――きさまのしることを、すべてはくじょうして、さばきをうけよ』
「っひ!? ひぃいいあ!? あああ!? おゆ、おゆるし、おゆるしを!?!?」
ウワー!? やっぱりホラー映画じゃないか!?
この綺麗な声は、あの白い人!
ハザマは涙を流しながら、狂ったようにカーステレオに頭を下げている。
もうヘドバンくらいの勢いだ!!
『 け し て ゆ る さ ぬ 』
だけど、カーステレオから聞こえてきたのは絶対零度の声だった。
「ああああ! うわ、うわああああ!? いや、いやだ! いやだああああああああああッ!!」
ハザマの絶叫を聞きながら、ボクの意識はブラックアウトしていく……
だからさあ! はじめっから見せてって言ってるじゃ――




