第130話 ドラゴン&ソイソース。
『ムーク、ムーク』
むにゃあ……あと24時間ん……
『ムーク、起きていませんの?』
……あれ、トモさんかと思ったけどこの声は……
『テオファールじゃん、オハイオ~』
『おはいお? 変わった挨拶ですのね?』
やっぱりテオファールだった。
まあ、女神様以外で脳内ホットラインあるのは彼女だけだけど。
「んみゅう……」
おっと、胸の上にいるアカを移動させなきゃ。
枕に……突き刺さってるピーちゃんの横に。
ピーちゃん、たしか子供たちと一緒に寝たはずじゃ……いいけど。
「ピチチ……」
ピーちゃんを引き抜いて、アカと一緒に寝かせて……小さな毛布をかけてっと。
ヴァルは近くにいないね……あの子も自由だな。
部屋には……ロロンもいない。
あの子って早起きだねえ。
今は……朝だね、うん。
アルデアとマーヤはまだ寝てるね。
『ごめんお待たせ、お久しぶりだねテオファール』
『あら、そうですの? まあ……ムークにしたらそうですわね』
寿命が長い人は時間感覚も長いんだろうか。
ボクもせめて100年は寿命が欲しい虫です。
『ファイト、むっくん! 現在の寿命はあと5年2ヶ月ですよ!』
ちょっと増えてる! やった!
『今は首都でのんびりしてるとこ。テオファールは?』
『わたくしは今家にいますわ。ラーガリの南側というか【戻らずの森】で例の魔物が増えていましたので』
うへあ……大変だそれは。
『そっか……お疲れ様、テオファール。今はもう大丈夫なの?』
『ええ、数が多いだけで少々面倒だっただけですわ。一応、わたくしの縄張りですので綺麗にしておきませんと』
大きい縄張りも大変だねえ……
『いつも間引いてるの?』
『いいえ、『ヘイヴァル』の時だけですわ。普通の魔物は特にどうこうしておりませんの、黒い連中は本能を無視して徒党を組みますので……』
ああ、そういうことか。
『でも、テオファールのおかげでラーガリは平和になったわけだ。さっすが龍さん、素敵だね!』
『まあ、ムークったらお上手ですこと、うふふ……』
なんか嬉しそう!
『ねえテオファール、トルゴーンは大丈夫かな? なんか南が大変だって聞くんだけど』
『ああ、そうですわね……でも、大丈夫でしょう。わたくしが出張らずとも、集まった方々で対応できそうですわ? そもそも、虫人さんたちはそんなに弱くありませんことよ?』
むう……そういえばそうか。
ゲニーチロさんとかも行ってるみたいだし、ボクが心配することじゃないねえ。
『ムークは優しいですわね。ふふふ』
『この国もラーガリも、優しい人が多かったからね……そりゃあ心配ですよ』
いい人がいるところなら心配じゃん?
『逆に人族の国なんかはどうなっても……ううう、よくない! いい人もいるかもしんないし!』
『うふふ、本当に優しいですわ。ああ、そんなムークに良いことを教えて差し上げますわ』
お、なんじゃろ?
『人族の国にも此度の『ヘイヴァル』が発生していますの』
『いいことじゃなくない???』
別に助けに行く気もないけどさあ……
『特にアーゼリオンには異種族の奴隷が多いのですが……現在、どさくさに紛れて大規模な脱走と反乱が頻発していますわ』
『お~、それはいいことだね! でも……そんなに遠い国のことよく知ってるねえ、テオファール』
テレビもネットもないのに凄いなあ。
『うふふ、種明かし。実はその手助けをしているのは同族ですのよ?』
龍さんがバックアップしてるのか! それはとっても心強いね!
『あの子は同族でも一番若くて血気盛んですの。ロストラッドの北が縄張りでして……ええと、なんと言ったかしら……『スキア』の方たちと組んで暴れていますわ』
すきあ? なんだろ……秘密結社かなにか?
『――横から失礼、ムークくんにわかりやすく言うとダークエルフです。スキアとは古代語で黒いといった意味ですので』
『おー! ダークエルフ!』
ボンキュッボンのエルフの人たちだよね!
……概念ではそうらしいって知ってる!
『そっかそっか。それならよかった……! ボクは龍さんがもっともっと好きになったよ!』
『まあ、ふふふ……今度紹介しますわ。あの子もあなたを気に入るでしょう』
また凄い知り合いが増えそうねえ! 特に困らないけどさ!
『ええっと、それじゃあテオファールはしばらくお休み? いっぱいゆっくりしてね!』
『ふふ、そうしますわ? それじゃあ……ムークの所に遊びに行くのもいいですわね?』
ほう、ここに……ここに!?
大パニックになるじゃん!?
『勿論、小さくなってですわ?』
『ああ、そうだよね』
ですよね~?
『いけませんか?』
ええ? そんなもん……
『いいに決まってるじゃん! みんなとっても喜ぶよ! こっちに来たら色々案内してあげるよ!』
ミライ飯店とか、ヤマダさんのお蕎麦屋さんとかね!
……食べ物屋ばっかだね? これはもっと開拓しておこう……!
『ふふふ、それは楽しみですわ。それでは、少し眠ったら出発しましょうか』
どれくらい眠るんだろ? 1年とかだったらちょっと困るな?
いや、ここを離れる気はまだないけど……そうなったら別にお宿とかを取らないといけないかも。
そんなに長いことここに世話になるのもねえ?
『ででん! ……問題です。それを許されるとお思いですか? ピーちゃんを助けたという大恩があるミカーモ家が、あなたを逃がすとでも……?』
……思わない! 遺憾ながら思わない!!
『……そろそろ眠くなってきましたわ。ムーク、朝方にごめんなさいね?』
『なに言ってるのさ! 大事な友達とのホットラインなんか、いつだって大歓迎だよ!』
そう言うと、不意に沈黙。
むーん? おねむなんかな?
『……ふふふ、おやすみなさい、ムーク。それでは、また』
あ、やっぱりなんか眠そう!
『うん、おやすみテオファール。いい夢を』
『はい、おやすみなさい……』
……あ、念話が切れた感じがする。
まさか異世界で寝落ち通話を経験するとは……!
『驚くポイントがそこですか……ムロシャフト様、判定を!』
『100点満点中の3000点!』
なんか知らんけど高得点だ! やったあ!
『……1500点にしとくか!』
なんでぇ!?
「ふわぁあう……あ、ムークだ」
ぬ、マーヤが起きた。
「オハイオ」
「おはよ……ベッドの上に座ってどうしたの? なにかあった?」
マーヤがもう一度伸びをして、毛布が……ワーッ!? 紐ォ!?!?
薄着通り越してもう下着! 否! 紐!!
可及的速やかに顔を! そむける! グギって鳴った!
「ナンデモニャイ……!」
「あはは! 変なムーク……見た?」
答えは沈黙……!
「もう、ムークのえっち。あはは!」
ボクは無罪です……! 無罪なんです……!!
・・☆・・
「おいちゃん、きょうはなにするの~?」
朝食中、隣に座ったヘレナちゃんが聞いてくる。
本日の朝食はパンとスープに卵焼き、そしてサラダ。
三の街にでっかいでっかい畑とか牧場があるおかげで、新鮮なものが毎日食べられて素敵ですわあ。
「ナニシヨッカネ~?」
「ぼーけんしゃなんでしょ? おしごとは~?」
……そうだった、ボクは一応冒険者の端くれだったのだ。
「ム……ソウイエバ、三ノ街ハシッカリ見テナカッタ」
ロロンが体調不良で一気に通過したからねえ。
冒険者の本拠地? は三の街だっていうし……ここらで一回見ておこうか。
「オ仕事シマスカネ~? アムアム」
目玉焼きが美味しいなあ……醤油とマヨが欲し……あるじゃん醤油ゥ!?
バッグゴソゴソ……出でよソイソース!
あらかじめ小瓶に移しておいてよかった!
「なにそれ?」
「ロストラッドノ調味料……試シテミル?」
ヘレナちゃんが頷いたので、ちょっぴりかけてあげる。
気に入らなかったら大変ですからね!
そんでボークも!
「アカも! アカも~!」
「ホイホイ」
『私も! 私も!』
「ハイハイ」
アカとピーちゃんのお皿にも……っと。
それでは、ぱくり、もくもぐ……
「ンマイ! 醤油ンマー!」
なんとも懐かしい……魂に刻まれたお味!
このしょっぱさ、懐かしい……ような気がする!
「わうぅ、しょっぱおいしい!」
「おいし、おいし!」
『お醤油! お醤油だわ~! 美味しいわ~!』
どうやら皆にも好評みたい!
おっと……他の子供たちも興味ありそう!
よござんす……ここでお醤油を広めようかね! 大盤振る舞い虫ですよ~!




