特別編 のじゃロリ、南へ。(三人称)
「オーム」
短杖の先に、空間を歪めるほどの魔力が集中する。
「ザンサーカラ・タンタァラ」
それは、瞬く間に小さな光球へと変じた。
そして――
「スヴァーハ」
次の瞬間には、周辺を照らすほどの稲妻の奔流となって空に放たれた。
「ギィイ――」「ガァアッ――」
その先にいた『黒い』オオムシクイドリ2匹は、反撃のブレスを放とうとして――奔流に飲み込まれる。
それが晴れた時には、もうそこには何もなかった。
「ふむん、たしかに少々硬い……か?」
眉根を寄せたリオノールが、首を傾げる。
「おひいさまからすればそうなのでしょうね……」
傍らに立つラザトゥルは苦笑いしている。
「そうであるかのう……レクテス! そちらはどうか!」
「はっ。問題ありません」
後方から歩いてくるレクテス。
その手に持つ二振りのロングソードの刃だけが、真っ黒な血にまみれている。
「黒い地竜……まあ、数だけは多いですが何のことはありません。ただ、通常の個体と違って完全に全滅するまで突っ込んでくるのが面倒ですね。撤退という考えすらないようで……」
こともなげに言い放っているが、レクテス1人で50を超える黒い地竜を屠っている。
「確かに、それは面倒ですなあ」
杖でとんとんと肩を叩くラザトゥル。
彼もまた、それなりの数の地竜を殲滅している。
小物を彼らが担当し、大物であるオオムシクイドリをリオノールが相手にしていたのだ。
「おーい! もうおらぬぞ~、出てきて大丈夫だ!」
リオノールが虚空に声をかけると、風景が歪んで……虫人の一隊が出てきた。
数は、約20人。
ラザトゥルの展開した結界によって、景色に溶け込んでいたのだ。
「あ、ありがとうございますリオラ様!」
その集団を取りまとめている虫人の老人が、頭を下げる。
「よいよい、向かう方向が一緒だからな! 遠慮するでない、持ちつ持たれつよ! はっはっは!」
リオノールは、そう言って笑うのだった。
・・☆・・
テオファールとの邂逅の後、リオノール達はトルゴーンに入った。
山を下りてガドラシャに至り、そこを出て首都街道に……入らずに、『南端街道』に入った。
南域で黒い魔物の被害が多いと聞き、気まぐれで足を向けたのだ。
ちなみに、その際ラザトゥルに『ムークと会うのが遅れますがよろしいので?』と言われた際には赤い顔で黙殺していた。
南端街道は、【戻らずの森】に隣接している。
よって、魔物の出現頻度は高い。
定期的に巡回騎士団による掃除が行われているが、それでも魔物は多い。
その例に漏れずリオノール達も度々魔物の襲撃に遭遇したが……元々【帰らずの森】の中心に住むエルフにとって、大したことのない敵であった。
そのようにして南端街道を歩く中……途中で、虫人の集団に遭遇した。
集落を捨て、近隣にある城塞都市へ避難する途中だと言う彼ら。
リオノール達は、トルゴーンの話も聞きたいからと同道を申し出て……今に至る。
「おねえちゃんたち、すっごくつよいのね~!」
「まほう! すっごい!」
「ちっちゃいのに、ちゅよい!」
「ふわっはっは! 当然じゃ。あの程度の魔物なぞものの数ではないわえ! ……小さいのとは関係なかろう?」
虫人の子供たちが、リオノールに目を輝かせながら話しかけている。
自分たちとそう変わらない背格好のリオノールが、短杖から凄まじい魔法を放って魔物を消し炭に変えていく。
エルフという見慣れない種族というのもあって、特に年齢層の低い子供たちはあっという間に3人に懐いた。
「レクテスさん、すごいねえ! 男のヒトでもあんな剣の使い手見たことないよ!」
「ほう、それなら私が一番乗りですね」
「ラザトゥルさん、凄い結界術ですね……私も少しは齧っていますが、練度が桁違いですね」
「ははは、長く生きているだけですよ……ただ、魔力の発露を均一にすることを考えたらいいですね。それだけでも展開の速度が目に見えて変わりますよ」
レクテス、ラザトゥル共に長く生きているため、こういった対人関係はそつがない。
加えて、虫人達は基本的に純朴で素直なものが多い。
そういうわけで、この道行は極めて順調だった。
既に合流してから3日過ぎ、そろそろ目的地が見えてくるはずだった。
時刻は昼過ぎなので、今日中にたどり着けるだろう……と、虫人の長は言っていた。
「……ぬ」
その時である。
街道の先を見つめ、リオノールが短杖を構えて……下ろした。
「レクテス、見えるか?」
「――は。武装した虫人の一隊です、雄の走竜に跨っています。数は……20名」
魔力で増幅した視力で、街道の先を見て報告するレクテス。
「ふむ……噂に聞く巡回騎士団であろうかな? トチロ殿」
長の名を呼ぶリオノール。
「私にはまだ見えませんが……そうでしょう。ああ、助かった……」
長……トチロは、安心したように溜息をついた。
「ああいえ、決してリオラ様たちが頼りないなどと言うわけでは……」
「はっはっは、気にするでない! わかっておるとも、はっはっは!」
いかに強力無比であるとはいえ、3人のエルフ。
大人数の騎士団……しかも、同族の方がホッとするのだろう。
そう、リオノールは考えた。
自らの容姿が頼もしく見えないのは、彼女とて承知である。
「そこの者たち! いずこより参ったか!」
しばし後、巡回騎士団は街道を移動する彼女たちに気付いて誰何してきた。
先頭に立つ走竜は、雄ながらも他の個体よりも一回りは大きい。
それに乗る男も、重厚な生体甲冑に身を包んだ……ダンゴムシによく似た武人であった。
「騎士さま! 我々は【カーセ】の村人でございます! 私は長のトチロです!」
「おお、伝令にあった村だな! よう生き残られた! もう安心なされよ! ソレガシは第8巡回騎士団団長、イチジョ・ブナガである!」
ブナガは、雄々しく太い声でそう答えた。
その後、リオノール達に目線を移す。
「して……あなた方は?」
いぶかしげな目線を送るブナガ。
それに、リオノールは胸を張って答える。
「うむ! 我が名はリオラ! 【ジェマ】よりこの地を調査しに来た!」
嘘である。
が……
「イチジョ殿、私はラザトゥルと申します。こちらが本国より賜った証にございます」
ラザトゥルが、五角形の金属片を見せる。
五色の宝石が埋め込まれたその金属片には、中心に魔法陣が描いてある。
これは、ジェマのエルフ1人1人が持つ魔導紋。
専門の魔法具を使えば、個々人を特定することができる。
「おお……ふむ、確かに」
ブナガはしばしその魔導紋を確認し、頷く。
トルゴーンとジェマは、西方12国として国交がある。
何度かエルフたちと協力した経験のあるブナガは、その魔導紋に流れる魔力に覚えがあった。
リオノール達は、もちろんジェマのエルフではない。
だが、ラザトゥルはジェマの研究機関にも籍を置いているのだ。
「騎士様、この方々は我々をずっと護衛してくださいました! いずれの方も、凄まじき魔法の使い手でございます!」
「なんと、それはご苦労に御座った。このブナガ、国の者に代わり礼を致す……!」
トチロの補足に、ブナガは深々と礼をした。
「イチジョ殿、我らもこのまま【ミレシュ】へ共に参りたいが、いかがか?」
「おお! それは願ってもなきこと! 腕の立つ方々にいらしていただけるとは……こちらこそ有り難い! ささ、それでは先導いたす!」
ブナガが部下へ手を振り、指示を出す。
「総員、二列縦隊! 村人を中心に!」
「「「ハッ!!」」」
声がかかると同時に、騎士団は素早く陣形を展開する。
『ほう、道すがら聞いておったが……なるほど、大した練度よな。これが巡回騎士団か』
『騎乗技術だけでなく、個々人の力量も高いですな』
『はい、即座に武器を扱えるように片腕で全ての動作を行っています……強いですね、彼ら』
レクテス達は、素早く念話で会話を終えると村人たちの後ろについて歩き出した。
横につけたブナガが破顔した。
「しかしありがたい! またジェマの方々においでいただけるとは! ミレシュは神に愛されておりますな!」
「……ぬ?」
その言葉に、リオノールは小さく片眉を上げた。
・・☆・・
トルゴーン南域において、もっとも堅牢な城塞都市【ミレシュ】
かつて【大角】ザヨイ・ゲニーチロによって守られて以来、さらに頑強になった外壁を有する巨大な都市。
そこで、リオノール達は街の中心にある衛兵隊の詰所へ案内された。
『心置きなくご滞在下され』とブナガに言われた彼女らが部屋の扉を開けると……そこには、1人のエルフがいた。
耳飾りを付けた、30代ほどに見える男だ。
しかし、その目は彼が悠久の時を生きた古老であると物語っている。
彼は、面白いものを見つけた……と言わんばかりに目を軽く見開いて微笑んだ。
「これはこれは……お久しゅうございますな、おひいさま。かれこれ400年ぶりでありましょうか?」
そのエルフに真っ先に反応したのは、レクテスだった。
「爺様!? ここに来ていたのか!?」
そう、彼はエンシュでムークと共にスタンピードを乗り越えたエルフ。
正真正銘、【ジェマ】の研究者……ラオドールである。
ちなみにレクテスは、彼にとって7人いる孫の一人だ。
「ラオドール先生! お久しぶりでございます!」
驚愕するレクテスをよそに、ラザトゥルが深々と頭を下げる。
彼にとって、ラオドールはジェマで教えを請うた大恩人である。
「ほっほ、孫もかつての生徒も元気そうじゃな。ムーク殿に聞いた通りじゃ」
「そうか……お主もムークに会っておったのう」
何かと縁のある虫人の名を出し、リオノールが破顔する。
「ええ、彼が食事の際に祈っておる像を見てすぐに思い至りましたぞ」
「んぐぐあやつめ! 方々でわらわを拝みおってからに~! まったく、日に3度の波動がこそばゆいわ!」
そう言って地団太を踏んだリオノール。
だが、その口元は嬉しそうに歪んでいた。
「元気そうじゃな、レクテス。おおそうじゃ、手紙にも書いたがそろそろ子どもの1人でも――」
「――それ以上言ったら、刺し違えても首を落とすぞ! 爺様!!」
普段は涼やかな雰囲気を漂わせているレクテスは、烈火のように怒った。
「ほっほっほ、怖い怖い……じゃがまあ、変わらずにおってよかったわい」
「……私はいいが、たまには婆様の墓参りもしてやれ。母様が私に愚痴の手紙を送ってくるのだぞ」
「ふむ、200年前に参ったがな?」
「せめて50年に1回は参ってやれ……」
祖父と孫の会話を、リオノール達は微笑ましく聞いていた。
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