第122話 謎悪夢、再び。
今日はポカポカ陽気。
校庭の木陰にはベンチがあって、ボクはそこに寝転んでいる。
日課の薪割りは終わって、休憩時間なう。
いや、もっと仕事をしたいんですけどね……職員さんたちが絶対に許してくんないの。
ピーちゃんの件で無茶苦茶感謝されてるのはわかるんだけどさ……どうしたものか。
昨日調味料を買い込んだ時のお土産を受け取ってもらうのも超恐縮されたし……
孤児院に還元うんぬんは考えずに、冒険者ギルドでなんか仕事でも請けようかしら。
ザヨイ家の仕事がいつあるかわかんないから、遠出する系の依頼は受けられないけど……清掃とかそこら辺ならあるかなあ?
むうん……我ながらワーカーホリック虫ですわ……
「フワァ……」
暖かいから眠たくなって来たなあ。
このままお昼ご飯までちょっと眠ろうかな……
なんとも、いい気持ち……スヤァ。
・・☆・・
転がる視界だ。
「――! ――!!」
誰かが叫ぶ声も聞こえる。
ははーん……これは夢じゃな?
だってボクの視界、地面を転がってるけど全然痛くないもん。
あ! 視界に手が見えた!
この痛そうな傷跡……いつもの悪夢だね。
ほんと、一体どうしたらこんな傷がつくのよ……痛々しすぎる。
「おもしれー! 虫みてえ!」
げらげら、と耳障りな笑い声。
むーん……ここは、どうやら学校的な場所の……校舎裏なんかな?
ボクが見ている視界の持ち主くん、もしくはちゃんは……うえ、多分小学生に囲まれてる。
人数はいち、にい……6人か。
こう言っちゃなんだけど、全員仲良くなりたくないタイプの男子だ。
「ケンタ! 次おれ、おれ~!」
「うーい、タッチ~!」
どうやらこの子、蹴とばされたみたい。
うわあ……イジメだ、絶対にイジメ。
概念だけ知ってる、とってもいやな現象。
「頭はやめろよ! メンドーだってパパが言ってたから!」
「わかった~!」
ボクを蹴とばした男子とハイタッチした別の男子が、ニヤニヤしながら歩いてきた。
視線が動く……うわ、多分鼻血出てる! 転がった時に打ったんだ!
「シュート!」
視線が空を向く。
お腹を蹴られそうになって、腕でガードしたんだ。
でも、衝撃で仰向けに倒れた感じか……
「おい! ガードはキンシだろ~!」
抗議するような怒声。
そんなルール知らんし! それにしても、なんだこのクソガキたちは!
アカが見たら即ミサイルをぶち込むぞ!
うわ、視界にクソガキが入ってきた。
わっわっ! ランドセルで殴ってきた! それはそういう用途に使うもんじゃないでしょ!
「なんっだよ! だから! ガードすんなって!」
……この体、やけに防御がうまいというか……これ、ひょっとしてこの子、殴られ慣れてんのかな?
うぐ、なんて嫌なことに気付いてしまったのだ。
っていうかさあ! ここ学校でしょ! 先生は何してんですか先生は!
「ナマイキなんだよお前! ミナシゴのくせに!」
教科書が視界一杯に広がる。
そんなに思いっきりランドセル振り回すから……あー知らんぞボクは。
ランドセルを振り回してた男子は、イラついたような顔をして……何かに気付いた。
そして、こっちに手を伸ばしてくる。
あ、体が暴れた!
「なんだよこれ! おい、よこせよ、おい!」
腕が必死に握り込んでいるのは……たぶん、古びたお守りだ。
「コイツなんか持ってるぜ! 手伝えよみんな~!」
足音、こっちに来る。
その瞬間、また視界が動いて地面に。
たぶん。両手を握り込んで亀みたいに丸まったんだ。
そして、暗い視界が何度も何度も揺れる。
「なんだよこいつ!」「よこせ! よ~こ~せ!」「しぶといなーもー!」
これ、無茶苦茶蹴られてるんだ。
こいつら……いくらよくわかんないボクでも腹が立ってきたぞ!
ちっくしょ~! この場にボクがいたら全員殺……すのはさすがにヤバいから!
全員の服を引き裂いて手足の関節を脱臼させてやるのに~!
これ、やっぱりボクの前世なん? ちょっとお辛すぎるっていうか……なんでこんな目にあってんの?
さっき『ミナシゴ』って聞こえたけど……出自で差別されてるとか?
なんて連中だ、こっちの世界でそんなこと言ったらゲニーチロさんやソイチロ先生にぶった切られるぞ!
ああもう、見ているだけなのが辛すぎる!
体くん、もしくはちゃん! ボクに主導権頂戴! 衝撃波で全員気絶させたげるからさ~!
でも、仮に前世なら無駄か……ううう、見たくない!
――視界が、激しく揺れて校舎裏が見えた。
や、奴らの一人がバット持ってる!
この子をそれで殴り飛ばしたんだ! ちょっと! なんてことしてんのさ!
それはさすがにライン超えですよ! 元々ラインなんて超えてるけどね! いじめの時点で!
「おら! それよこさないともう一回ぶん殴るぞ!」
「おい、トウジ……それはだめだろ!」
「病院行かれたらモンダイになるって!」
子供たち……否、ガキ共が騒いでいる。
なんだその倫理観! 大問題になっちゃえばいいでしょそんなもん!
「だいじょぶだって! かあちゃんが言ってた! 『○○のミナシゴ』なんか街からいなくなれってさ!」
親御さん! そういうこと言うから子供が歪むんですよ! 馬鹿親!!
どうすんのこれもう傷害事件だよ! 体くんもしくは……もう体くんでいいや!
とにかく逃げて! 逃げて~!
キミっては防御上手いけど流石に金属バットは無理でしょ!? ホラ立って! 走るんだ!
「うえーい! ホームラン~!」
ウワーッ! クソガキが走ってくる!
この野郎ォ! 突発的な隕石とか落っこちてきてくたばればいいんだ~!
『 く そ が き 』
あっ……なんか聞こえた! 前にも夢で聞いたことある感じの声!
バットを持ったクソガキが、目を見開いて止まる。
視線は……ボクの、後ろ?
「トウジ? どしたん?」
「あ、ああ、あ、あぅ……ああああ……」
何人かのクソガキが走り寄るけど、トウジは震えながらボクの背後をバットで差している。
「あ、あれ、あれ……だれ?」
「だれって? だれもいないじゃん」
「マジでどしたん? フェンスしかないよ?」
他のクソガキは、みんな何も見えてないみたい。
トウジを囲って、心配そうにしている。
貴様ら! ちょっとはこの体くんにもその優しさを分けてあげてくださ――
『――そのようなことにしかつかわぬなら、いらぬなあ……その、て』
めぎ、と変な音がした。
なんだ今の音? なんか、金属が折れたみたいな――あっ。
体くんの視界の、上の方。
校舎の屋上にあるフェンスが――根元から、もげた。
そして、それは明らかに異常な放物線を描いて――
――ぶづん、どさ。
「えぁっ?」
折れた部分が鋭利になった鉄製のフェンスが、トウジの両腕を貫通した。
トウジは、その勢いで地面に縫い留められた。
まるで……時代劇の手かせを嵌められた罪人みたいな恰好で。
「なに、こ――」
彼の両腕は、両手首と肘の部分にフェンスが貫通している。
突然のことで痛みを感じていない様子だったトウジだけど……一気に、鮮血が噴き出した。
「ああぎゃああがぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!?!?!!?」
その途端、トウジは限界まで目を見開いて獣みたいに叫び出した。
うーわー……ぐっろ。
だけどまあ、ボクは同情しませんけどね~?
「うわ! うわあああああ!!」「とう、トウジ! トウジ~!!」「せんせー! せんせええええええええええええ!!」
クソガキ共は思い思いに叫び出し、トウジを置いて走り出す。
ざまあみろ~! ボクは殺伐異世界在住なんでまったくかわいそうとは思わんぞ~!!
『――おお、そうであった』
ひゃ! 今度は耳元で声!
『けりつけた、そのあしも……いらぬなあ』
――ばりんばりん! って一斉に鳴る音。
校舎一階の窓ガラスがいくつも割れて――明らかに重力を無視した角度で、飛んだ。
そして――
「いぎゃああああああああ!?!?」「あづ! うぐ、ぎゃあああああああ!!」「いだい! いだい! いだいいいいいいいいい!!」
あっという間に地獄絵図。
体くんを蹴っていたクソガキ……というか全員は、足のそこら中にガラスが直撃。
走っていた勢いのまま、前のめりに倒れ込んで悲鳴を上げている。
動脈とか大丈夫なんかな? 滅茶苦茶血が出てるけど。
うーん……やり過ぎ感はちょっとあるけど、まあ運が悪かったと思ってあきらめてもろて。
たぶん、あの白い人がやったんだろうなあ……声したし。
……ん? 校舎の三階に誰かいる。
たぶん女の子だね、綺麗な長い黒髪だし。
……ボクの気のせいかもしれんけど、滅茶苦茶こっち睨んでない?
普通は恐怖マックスで先生とか呼びに行くでしょ。
イジメの関係者なんかなあ……
『ああ、うるさいうるさい。あきのむしのほうがよほどしずかじゃ』
ふわ、と体が浮く。
あ、ひんやりした感触……だっこされたんだね。
白くて綺麗な着物の、胸部分が見えるなあ。
なんかとってもいい匂いがする!
『さわがしいゆえ、いぬとしよう。おくってやるぞ……おお、からだはだいじょうぶかや?』
体くん、限界だったみたい。
瞼がジワジワ閉じていく……
「いぎいいいいいい! ぎゅうううがっがああああああああ!!」
『やかましい、くそがき。……そうじゃ、あっこうをはいたそのくちも……いらぬ、なあ?』
あ、体くん眠っちゃう……なんかどんどん音が聞こえなくなって――
――最後に、なにか水気を含んだものが破れたような音がした。
・・☆・・
「おいちゃん、おいちゃあーん?」
「……ムン?」
ぺしぺし、と柔らかく頬を叩かれた。
目を開けると……あら、ヘレナちゃん。
「むんむんいってたよ、いやなゆめみたの~?」
ちょっと心配そう……そっか、あんな夢見たらうなされちゃうよね。
毎度毎度変な夢だったけど……前に見た地下の夢よりも前っぽい気がするな。
だって体くんの手、ちょっと小さい気がしたし。
しかし……アレがほんとにボクの前世だとしたら嫌すぎるなあ……やっぱりホラー映画であってくれ!
「山盛リノ……蕎麦ニ、圧シ潰サレル夢ダッタ気ガスル」
「そば? それなあに?」
ああ、あのクソガキと比べるのも失礼なくらいの綺麗なお目目ですこと!
「美味シイ食ベ物デスヨ~ット!」
そのフワフワな体を抱っこし、ベンチに起き上がる。
「わうぅ! じゃあたべたい! たべたい~!」
「ヨーシ、オイチャンガ今度食ベサセテアゲヨッカネ~!」
「わあい! わーい! おいちゃんだいすき!」
「ハッハッハ、苦シュウナイ」
ま、前世がどうでも関係ないや。
今が幸せですのでそれでOKです~!
「アッタカイネエ……」
「おいちゃんも! おいちゃんもあったか~い!」
モコモコのヘレナちゃんを抱っこし、ボクはそう結論付けるのだった。
……お蕎麦の話したらお腹空いちゃった!




