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特別編 のじゃロリ、温泉で龍と出会う。(三人称)

「んぐわぁ~……温泉とは、なんとも最高であるなあ~……」


「本国にはありませんからね、疲れが溶けていくようです……」


 ラーガリ最西端の街、ラガランからトルゴーンへ続くローラン登山道。

その八合目にある休憩所に存在する、露天風呂。

便宜上女湯とされているそこに、エルフ2人の姿があった。

リオノールと、レクテスである。

反対側の露天風呂では、ラザトゥルが同じように和らいだ顔をしていることだろう。


 彼女ら一行はラーガリを西へ西へと歩き、トルゴーンとの国境付近までたどり着いていた。

風の魔法を駆使すれば、文字通り『飛ぶように』移動することができるが……リオノールはそれをしていない。

何百年ぶりかの国の外を満喫するべく、それなりの速度での旅を楽しんでいるのだ。

ドラウドと共にラバンシまで行った以外は、徒歩での旅を続けている。


 彼の実家に宿泊した時は、彼女ら全員が子供たちにとても懐かれていた。

出立の際には、ムーク達のように別れを惜しまれたほどである。


「本国にも湧かぬかの、温泉……おお、そう言えば西の平原に地底湖があったわな! 岩盤をぶち抜けば水は手に入るのう!」


「その下は死んだ火山ですよ。何かあって再活性させでもしたら……今度は幽閉では済みませんよ、おひいさま」


 レクテスの言葉に、リオノールは体の力を抜いて水面に浮かんだ。


「つまらんのう……まあ、折角国の外へ出たのじゃ。2、300年は堪能するか」


「せめて100年にしてください」


 長命種であるエルフにとって、100年という時間はそれほど長いものではない。


「いやあ、こうなってみると末娘でよかったわ。まかり間違って長女にでもなってしもうたら……一生国から出れぬ故なあ。姉さま方はよく耐えられておると思うわい」


「それでも王家としての仕事はおありでしょう? おひいさま」


「知らぬ知らぬ~。今は知らぬのじゃ~? 折角もぎとった休暇じゃもの~」


「ヴィラール様に『久しぶりに顔を見たい』と言われては、我が王も何も言えませんからね」


 今回の旅の原因はそういうわけだ。


 そんな話をしながら、器用にも浮いたり沈んだりしているリオノール。

それを見つつ、レクテスは溜息をついた。


「はぁあ~……それにつけても最高じゃ。予定を変えてもう何日かここに逗留しようかの……他に旅人もおらぬしな~……」


「あら、ムークに会うのが遅れますがよろしいので?」


「モガフ!?」


 バランスを崩し、沈むリオノール。


「っば、馬鹿を申すなレクテス! 何故あやつに会うために急がねばならんのじゃ! わらわは旅を楽しんでおるだけなのじゃ!」


 湯から立ち上がり、水滴を滴らせながら抗議するリオノール。

その体は平坦であった。


「はいはい、そういうことにしておきましょうか」


「にゃにぃ!? そういうこととはどういうことじゃ! そういうこととは――」


 優雅にしなやかな肢体を伸ばすレクテスに、バシャバシャと近付いて行くリオノール。

温泉のせいだけではなく顔を赤くしていた彼女は――不意に真顔になって、後ろを振り向く。

それに一瞬遅れて、からかい表情だったレクテスも目を鋭く光らせた。


「……来る。隠蔽しておるが、強大な魔力じゃ」


「深淵竜……いいえ、これは……」


 2人は湯の中で腰を浮かし、ほぼ同時に手元に武器を出現させた。

リオノールは短杖、レクテスは刀身が蒼いナイフだった。


「はん……そう言えば『お膝元』じゃものなあ」


 リオノールがそう言って力を抜いた、その時。



「――あら、ごめんあそばせ?」



 露天風呂の入口に、人影が現われた。

白く輝く鱗で全身を覆われた、長身の影。

鱗人にはない、背中に大きな翼を持った……美しい竜。

いや、龍人。


「なるべく気配を消したつもりではありましたが、警戒させてしまいましたわね?」


 彼女は『頂の白銀龍』として知られる……ムークの『お友達』

テオファールだった。


「いいや、十二分に隠蔽されておったとも」


「ええ、その通りです」


 その言葉を聞いて、テオファールは微笑む。


「矢張り、『おひいさま』ですわね? ムークが話してくれた通りですわ?」


 そう言って、豊満な肢体を湯に沈める。


「ほう……流石は頂の白銀龍よ。わらわに残る、あやつの残留魔素に気付かれたか」


 湯に浮かぶ2つの果実めいたテオファールの乳房に何故かぐぬぬ……としつつ、リオノールは返す。


「いえ、ムークが食事の度に熱心に祈っていた木像にそっくりでしたので」


「ぶべばァ!? ムークの大馬鹿者!!」


 若干のドヤ顔が崩れ、足を滑らせて湯に沈むリオノールであった。



「改めまして、わたくしはメシェールとローランが娘、テオファールと申しますわ?」


「ふむ……これはご丁寧に。わらわはリオラ……否、リオノールと申す」


「レクテスと申します、よろしくお願いします。隣の湯船にいるのはラザトゥルです」


 龍が名を名乗ったため、偽名をやめるリオノール。

それに続くレクテスは、緊張を解いている。

これはテオファールを完全に信頼した……といことではなく、どうあがいても勝てぬ相手だからだ。

仮にテオファールが牙を剥けば、彼女にできることは何もない。


「お国におられると聞いていましたが……何か変事でもありましたの?」


「いや……うむ……むしろその通りであろうな? 少し色々あってな? それで……今は国を離れておる。と言ってもこれは本国故の事情、現在この世界で起こっている『淀み』とは関係ないことじゃ」


 妖精がらみで問題が起こり、紆余曲折の末に教皇が失脚……紛れもないエルフの国の不祥事である。

いかに相手が龍とはいえ、軽々しく話せるようなことでもなかった。


「『淀み』ですか、我々龍はそれを『ヘイヴァル』と呼んでおりますの。それで方々へ飛び回っておりまして、少し疲れましたのでこうして湯浴みに来ましたら、あなた方を見つけまして」


「おお、その記録は本国にもある。我々にその言葉を教えてくれたのは『青海の蒼龍』殿と聞き及んでおるわな」


 今更ながら、リオノールは基本的に王以外へは敬語を使わない。

これは決して相手を見下しているわけではなく、エルフ、いや王族の生き方である。

どのような相手に対しても、王族が下につくわけにはいかないからだ。


 対してテオファールが貴族の淑女めいた話し方をするのも、理由がある。

彼女は他の種族と隔絶した実力を持っているが、敵対しなければ誰に対しても同等に優しく接するからだ。


「ああ、懐かしい名をお聞きしましたわ。今はお眠りになっていらっしゃいますが」


「なんと、身罷られたのではなかったのかえ?」


 『青海の蒼龍』とは、マデラインの西方にある島を根城とする龍である。

長い時を生きるエルフにとっても、伝説と言って差し支えない程の歳経た個体である。


「おや、ご存じではなかったのですね? あのお方は少々強い魔物の群れを討滅した傷が深く、回復に努めていらっしゃいますわよ」


「……龍を眠らせる程の魔物か。恐ろしいのう……」


「見当もつきません、大海の魔物は深い森のそれよりも強力だとは聞き及んでおりますが……」


 リオノールとレクテスは、揃って表情を曇らせた。


「そうですわね、クラーケンの『王種』の群れですわ」


 クラーケン。

遠くから見れば、地球のダイオウイカに見える魔物である。

だが、その全長は小さいものでも20メートルを超え、触腕の数は少なくとも30。

その触腕の中でも半分以上が竜に似た顔を有しており、それぞれがブレスを吐く。

歩く大規模災害のような魔物である。

しかも、『王種』……つまりは上位種だ。

1体だけでも脅威となる存在の、群れ。

控えめに言って地獄のような相手だ。


「……蒼龍殿には感謝せねばのう。いかに海の魔物とはいえ……そんなのが闊歩しておってはおちおち釣りにも行けぬ」


「それどころの騒ぎではありませんよ、おひいさま……」


 どこかピントのズレたリオノールの感想に、顔をしかめるレクテスであった。



・・☆・・



「まあ、美味しい。あなた、男の方なのにとても料理上手ですのね」


「これは身に余るお言葉。なに、300年もやっておればそこそこ作れるようにはなりますので」


 露天風呂に面した避難小屋の中で、テオファールは目を輝かせた。

目の前には、湯気を上げるスープがある。

ゴロゴロと根菜や干し肉や加えられたそれは、そこらの洒落た店で出されていてもおかしくない味である。


 調理したのは、ラザトゥル。

このエルフ3人組において、調理や野営の細々とした設営などは彼の仕事である。

元々、そういう方面にもそつのない男だった上に……残る2人の手際が絶望的に悪いからだ。

リオノールは王族故不慣れであるが、レクテスは生来そういう方面の技能が……壊滅的に低い。


「むむむ、マルモがいい味を出しておるのう……ズズズズ」


「温まりますね、このスープは」


 当の2人は揃ってスープを楽しんでいる。


「そうそう、ムークの『子分』さん。ロロンさんというアルマードの方がいらしゃるんですけど……あの方もとっても料理上手ですわね」


「おお! 手紙に書いておったアルマードの従者か! それは会うのが楽しみじゃ!」


 リオノールは目を輝かせている。

あの小さい虫が子分を従えるとは立派になったものだ……と、ある意味親のような気持ちもある。


「そうだ、テオファール殿はこれからどうするのじゃ? わらわ達はこのままトルゴーンへ向かうが」


「そうですわね……此度の『ヘイヴァル』はトルゴーンで特に多いようですの。もう少しラーガリで用事を済ませる必要がありますが、その後でなら」


 その答えに、リオノールは頷く。


「うむ、わらわもそう……旅のついでに掃除でもして歩くかの。最も、よほど大物でなければそれぞれの国の者たちで対処できるであろうがな」


「ええ、わたくしもそう思いますわ。ただ……此度は少し、魔力大河の動きに少し気になることがありますの」


 ラザトゥルが、スープをよそう手を止めた。


「ほう……今までの時と、何か違いが? 私にはわかりませぬが」


「気のせいかもしれませんわ? ほんの少し……ほんの少しだけの違和感とでも言いましょうか。わたくしでもハッキリとは言えませんの」


 悠久の時を生きる龍の、違和感。

それは、一笑に付すには重すぎる情報だった。


「ふむん……一応、本国と【ジェマ】にはそれとなく知らせておくかの。レクテス、頼むぞ」


「ハッ!」


 レクテスが頷く。


「それにしても……なんとも不思議な縁ですわね? このことは後でムークに伝えておきましょうか」


「ぬ? テオファール殿はムークと連絡手段がおありなのか?」


 この世界において、遠く離れた個人との連絡手段は限られる。

レクテスがこれからやろうとしている、魔法具を用いた情報伝達や、飼いならした魔物を使った伝令。

伝令魔法などもこれに該当するが、それについては送り手と受け手に高い魔法の素養が必要なのである。


「ええ、少し特別な念話でしてよ」


 ムークの出自故の、特異な念話である。

だが、それを説明するには女神との関係なども話さねばならない。

リオノールとの会話で、彼女がそこに気付いていないと知っていたテオファールは黙秘することにした。

友人の知らぬ所で開示する情報ではない。


「ほう! 流石は龍よな……! だが、それには及ばん! この先ムークと話すようなことがあっても、わらわのことは言わんでたも!」


「まあ……それはいいですが、何故?」


 そう聞かれたリオノールは、悪戯を考えついた子供のように笑った。


「ふふん――その方が面白いであろ?」



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― 新着の感想 ―
おひいさまとレクテスさんとテオ子さんの残り湯…そのままエリクサーになるのでは?
おひいさま割と健脚… しかしテオファールとは知り合いじゃなくて親友レベルと聞いたらおひいさま嫉妬するかな?
更新お姫様ありがとうございます!お姫様(おひいさま)祭りダァー!ノジャロリ最高(*´Д`*)やっぱりお姫様でもテオファールタンには歯が立たないか。テオファール>闇渡り>お姫様≧ソイチロ先生>二つ名>ム…
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