第112話 お客様は重要人物。
なんか、鐘が鳴っている気がする……なにぃ? もうお正月ぅ~?
「おいちゃん! ムークのおいちゃん!」「ムギー!?」
お腹に衝撃が!? 敵襲ですか!?
「おはよぉ!」
慌てて目を開けると……おお、黒いワンちゃん。
「オハヨ……ヘレナチャン」
キミは昨日抱えてお空を飛んだヘレナちゃんではないか?
青いお目目がキラキラしてかわいいねえ~?
「ドシタン?」
「わうぅ! あさ! あさだよぉ!」
うん知ってる。
ああ、起こしてくれたんか~……
「アリガト~。エエ子、エエ子」
「わふぅ!」
頭を撫でると、フワフワでポカポカ!
うーん……なんで清々しい目覚めだろうか!
「ごはんたべよ、ごはん!」
「ヨッコイセ……アイアイ~」
ボクらの案内されたお部屋は、二階の奥にあるスペース。
掃除の行き届いた部屋に、綺麗なベッドとテーブル。
豪華! って感じじゃないけど、とっても落ち着く空間だ。
その部屋には……ありゃ、ボクしかいない。
みんな早起きさんだねえ。
アルデアもいないなんて。
とにかく、ヘレナちゃんを抱っこして部屋を出ることにした。
子供は体温が高いからあったかいなあ。
「さあ、今日も一日が始まります」
ヘレナちゃんと一緒に来たのは、一階にある食堂。
長い机がズラーっと並んでいて……そう! まさに学校の給食室って感じ!
子供たちはみんなお行儀よく椅子に座っていて、その正面にはイリュシムさん。
「日々の糧と、今日の幸せに対して感謝をしましょう」
そして、イリュシムさんは手を合わせた。
「それでは――いただきます」
「「「いただきまーす!!」」」
おー! 日本式だ! さすがさっちゃんさんの作った孤児院!
「ムークたちがよくやってるのと一緒だね。不思議」
「ボクハエルフサンニ聞イタンダケドネ……デモ、不思議ダネエ」
マーヤにはそう返しておく……あれ?
「アルデアハ?」
「ふふ、首都の飲み屋が気になる! って夜に飛び出してから戻ってこないよ」
……早起きではなかったか……帰ってこれるかな、あの子。
まあ、いいか! 幸せでなにより!
朝食のメニューは、大きなパン、野菜のサラダ……そしてお肉の入ったスープに……この白いのはまさか!?
「牛乳!?」
「ああ、これ牛のお乳なんだ……ヤギかと思った」
さすがはさっちゃんさんだ……!
いただきまーす! パンをガブリ! サラダをもしゃもしゃ! スープをゴクゴク!
「オイシイ!」
「あはは、子供よりおっきい声! ムークはいつでも楽しそう」
だって美味しいからね!
「こげなうめえ牛の乳ば、初めて飲みやんした! なんども甘くてうめめなっす!」
ロロンも気に入ったみたい! この首都では酪農もバッチリなんだねえ。
「おやびん、おいし、おいし~!」
『栄養バランスもばっちりよ! おいしいわ! おいしいわ~!』
アカはいつでも元気で良し! その横のピーちゃんも……なんかすっごいテンションだね!?
やっぱり故郷とも言えるここに戻ってきたのがよかったのかも!
「おいちゃん、きらいなものある?」
横に座っているヘレナちゃんが聞いてきた。
「嫌イナモノカ……アルヨ。生スライム、牙ネズミノ生尻尾……ソレカラ、毒走リ茸……!」
「うぇえ、そんなのたべたの~!?」
ヘレナちゃんはドン引きである。
「ムーク、それは食べ物じゃないよ……?」
マーヤもドン引きである。
「ボクトアカハネエ、森デ長イコト生活シテタカラネ……飢エ死ニスルヨリカハ、マシダッタヨ……」
「きのこ! こりこり、おいしかった! おいしかった~!」
アカだけが抗議するように言ってくる。
キミはなんでも美味しく食べられてスゴイネエ……ボクもその味覚が欲しかったよ……
「つよいぼうけんしゃになるには……」「うう、おれもネズミのしっぽ、たべる……」
ヤバい!? 昨日冒険の話した男の子たちが何かとんでもない誤解を!?
「違ウカラネ! 全然関係ナイカラネ! 美味シイオ肉トカ野菜ヲモリモリ食ベテイインダカラネ~!!」
ボクやアカならともかく! 子供がそんなもん食べたら強くなるどころか食中毒で死んじゃうよ~!!
・・☆・・
「う~い~……おお、ムークが2人に増えてるのナ~?」
ちょっとだけ混乱した朝食が終わって、子供たちはお勉強の時間。
読み書きとか計算を午前中勉強するんだって……すごいなあ、この孤児院。
それなら、ここを卒業? してもしっかり働けるねえ。
まあ、そんなわけで……邪魔にならないようにベンチに座ってまったり虫と化していたボクだけど……門の方から、なんでそれで歩けるの? ってレベルのアルデアが歩いてきた。
この時間まで飲んでたのか……
「オカエリ、大丈夫?」
「首都……聞きしに勝るのナ~……美味い酒が手ごろな値段で……うぃい~……」
よろよろ歩いてきたアルデアが、ボクの隣に腰を下ろす。
……超酒臭い!!
「ハイコレ、果実水」
「おおん……気が利くのナ~? お前はいい夫になるやもしれん……のナ~?」
ボクが渡した果実水を、ごくごく飲むアルデア。
夫って言うか介護者って言わない? それ?
「アルデアずるい。私も行きたかった」
さっきまで芝生で柔軟体操をしていたマーヤがこっちに来て、頬をぷっくりさせている。
「すまんのナ~? 今晩は行くのナ~! いい店を見つけたのナ~!」
「むう、それならいい。ムークもいこ、お酒飲まなくていいから」
ボクも~? 興味はある!
「行キタイネエ!」
美味しいおつまみとかにネ!
経済も回せるからねえ! ねえ!
「むう、よもや相棒のワレを置いて行くことはあるまいな?」
おや、内ポッケで寝ていたヴァルが登ってきた。
「当タリ前デショ~? 大事ナ相棒デスノデ!」
「ふむん、ふふふ……お主もよくわかっておるな……むふふ」
にんまりしちゃって可愛いねえ……お?
「竜車ダ」
門前に、シンプルだけど綺麗な竜車がやってきた。
ミカーモ家の人が来たのかな?
……って、アレぇ?
竜車の中から出てきたの……イセコさんじゃん?
朝から見かけないと思ったら外出してたのか。
「あれ、イセコさんの後ろって誰だろ?」
マーヤに言われて気付いた。
先に降りてきたイセコさんは、振り返って誰かの手を取っている。
後ろにいる人をエスコートしてるんだ、なんかドラマみたいだねえ。
イセコさんに手を引かれて降りてきた人は……スラっとしたむしんちゅの女性だった。
シンプルな黒系統の着物を着て……頭は、なんだろ? つばの広い帽子に顔布が付いた感じのを被ってる。
なんでむしんちゅだと気付いたかって? 背中に薄い羽根があるからね。
「ふむん……身分が高そうな方なのナ? 孤児院の出資者か何かなのナ?」
あ、そうか。
資産家とかが寄付するっての、日本でもあったしね。
視察にでもいらしたのかしら? どちらにせよボクとは関係ない……い?
「むっちゃ見てる、ムークを」
マーヤが言うように……その女性はボクの方へ視線を向けている気配がする。
な、なんでしょ……見慣れない推定むしんちゅが気になるのかしら?
「む、来るな……こっちに」
そうしていると、その女性はイセコさんを伴ってこちらへズンズン歩いてきた。
ええ? なんだろう……でもボクに用事なら、このままじゃ失礼だよね?
立ち上がってマントの位置を正して……その人に向かって頭を下げた。
――頭を上げると、もう目の前にいた! ビックリした!?
むっちゃ速足で歩いたんかな? だるまさんが転んだで無双できそう!
「貴方が、ムーク殿ですか」
聞こえてきた声は……ちょっとお年を召した感じだ。
でも、背筋もピーン! って感じで伸びてる。
所作もキビキビした感じだし、しっかりしてるんだなあ。
……じゃない! 答えなきゃ!
「ハイ、ムークデス……オ初ニオ目ニカカリマス」
絶対に初対面だからこう言っておこう。
「よく顔をお見せなさい」
「ハ、ハイ!」
有無を言わせぬ感じだ……!
その人は顔布越しにボクをじっと見て……しばらくして、帽子を脱いだ。
その下から出てきたのは……うん、声の通り少しお年寄りだね。
でも、銀色の髪の毛が綺麗に切り揃えられてて、とっても上品な奥様って感じ!
黒い目が宝石みたい……薄いお化粧でもしてるんかな? なんかいい匂いがする。
「ふむ……良い目をしています。だが、我が夫の種ではありませんね」
「……?」
……この人、今なんか凄いこと言わなかった?
「申し遅れました。私はサラコ……ザヨイ・サラコと申します」
ザヨイ……夫……ま、まさか。
「貴方にお世話になった、ゲニーチロの第一夫人です。よろしく、見知りおきのほどを」
そう言って、サラコさんは深々と頭を下げた。
ゲニーチロさんの奥様!? 第一夫人!? 情報が! 情報が渋滞している!!




