第113話 わかっていたけど、やっぱりいい人!
「おばあちゃんだ!」「サラコおばーちゃん!」「あそぼ、あそぼ~!」
「あらまあ、今日も元気ですね。みんな手を洗っていらっしゃい、おやつを持ってきましたから」
「「「はーいッ!!」」」
子供たちは、サラコさんの声に元気よく返事をして走っていく。
授業が終わるなり校庭に出てきて、あっという間に群がってきたんよね……大人気だ。
サラコさん、ちょっと雰囲気は冷たいというか……キリッ! とした人なんだけど、どうやら中身はとっても子供好きらしい。
よく見たらニコニコしてたし。
「おいちゃんも~!」
「ハイハ~イ」
ヘレナちゃんに手を引かれるボク。
そだね、手洗いはしっかりしないとね~!
「……成程、報告にあった通りの御仁ですね」
「はい、それはもう」
なんかイセコさんと話し込んでるな?
おおっと、とりあえず手洗い! 手洗いだ~!
・・☆・・
「私がここへ来たのは、子供たちと……貴方の顔を見に来たのです」
オヤツの時間が終わり、子供たちが再び授業に戻ってから。
広い食堂の席で、サラコさんはそう言ってボクを見た。
せ、拙者の顔を……?
「アノ……行ク先々デ否定シテハイルンデスケド……隠シ子云々デゴ迷惑ヲオカケシテオリマス……!」
とにかく頭を下げておこう。
この人にとったら旦那さんが浮気しまくってるって噂が広がってるのと同じだし!
「ほほほ!」
そう言うと、サラコさんは笑い出した。
「お気になさらず……ふふ、聞いていた通りの純朴なお方ですね」
全然怒ってなさそう……
「そもそも、私にとってはゲニーチロに子がいることよりも……それが真実ならば、できた子を放っておいたことの方が大問題なのですよ。此度もそれが心配だったのです」
「ハ、ハア……」
え、そっち?
「まあ、あの人はそのような無体をするような愚物ではないだろうとは思っていましたが……ご安心なさい、ムーク殿。貴方に対して私は何ら思う所はありませんよ」
そう言って、サラコさんはにっこり笑った。
「むしろ、魔導紋を持っているのに身分の証明にしか使っていませんでしたね? それを使えば乗り合い竜車や宿の払いなどでかなり便宜を図られましたのに……」
「メメメ滅相モナイデス! ソンナ悪用ナンカ……!」
水戸黄門の印籠みたいなもんでしょ? そんなバカスカ出せませんよこんなの……むしろ身分証として超便利なのでそれだけでいいのです!
「ほほほ! 悪用ですか……ふふ、我が夫の目は確かだったようです。成程、魔導紋を渡すにふさわしい御仁ですね……」
なんか、謙遜すればするほどサラコさんの機嫌がよくなるんですが?
「ムークは欲がないのナ。やはり中身は木か石やもしれんのナ」
それは褒めてるのかな、アルデア。
たぶん褒めてないと思うのだ。
「ほほほ! やはりゲニーチロの子ではありませんね! ほほほ!」
喜んでいいのか悪いのか……
「おやびん、ちゅらい? ちゅらい~?」
アカがよじ登ってきた。
心配させちゃいかんねえ……
「全然デスヨ~? アカミタイナ素敵ナ子分ガイルノデ毎日最高ヨ~?」
撫でる撫でる、撫で撫でる~♪
「きゃーはは! あははぁ!」
あー、癒されるぅ……
「……まあ、これだけ妖精に懐かれている方が悪辣なわけがありませんね」
サラコさんはにっこりと笑ってお茶を啜った。
ボクはともかく、妖精の信頼度は異常ですわ。
ありがたい子分よ……
「妖精さん、あなた……お名前は?」
「アカ、でしゅ!」
「まあ、元気なお返事ね……こちら、よかったらお食べなさい」
元気よく挨拶するアカに、サラコさんが冗談みたいなでっかいクッキーを差し出す。
今どこから出したん……?
「ありあと! ありあと~! おやびん、もらった~!」
「ヨカッタネエ、アリガトウゴザイマス」
「ほほほ、よいのです、よいのです」
……サラコさん、なんかちょっとヴェルママに似てるな。
ということは……いい人! いい人!!
「あら、そちらの妖精さんもどうぞ」
「む、これはご丁寧に……ヴァルナディーナである。よろしく、奥方」
ヴァルも同じようなクソデカクッキーを貰ってご満悦。
やっぱりいい人だ……まあ、子供にあれだけ懐かれてるからねえ。
「時に、ムーク殿」
「アノ……殿ハチョット……」
「あら、そうですか。それではムークさんと呼ばせていただきます、よろしい?」
よろしすぎるので頷いておく。
殿、とか様、とか呼ばれるの、背中が痒くなるんだよねえ……
「あなた、これからどうなさるの? どこか行かれるご予定はおあり?」
……ウムムム?
そういえば……ボクってば旅の目的……ないね!?
転生して、二足歩行になって……トルゴーンの首都に行くことが大目標だったからねえ……
今到着してみると……ないな! 目標!
ゲニーチロさんのお手伝いくらいしかない!
「アー……エエト、森ヲ出テ、ソレカラズウット旅続キデシタノデ……今ハ、特ニ。タダ、シバラクユックリシタラ【マデライン】ニ行ッテミルツモリデスケド」
でも海は見たい! アカを連れて行ってあげたいしね!
「ちなみにムーク、将来の夢とかある?」
マーヤが聞いてきた。
将来……将来か……
「ドッカニ家建テテ、毎日釣リトカシテ暮ラシタイ!」
「おじいちゃんかな?」
「爺の夢なのナ」
マーヤは苦笑いで、アルデアはジト目だ。
いいじゃん別に! ……なんか、前にカマラさんにも似たようなこと言われたね。
「ほほほ! いいですわね……それは」
サラコさん的には高評価みたい。
でしょ~? いいでしょ~?
「アカ、おやびんといっしょ! いろんなとこいく、いく~!」
「ウン、行コウネ~。色ンナトコ行コウネ~?」
アカの情操教育に良いし、異世界を楽しみたいからね!
寿命を増やしつつ、冒険はしたい!
「ふふ、そうですか……それでは、差し迫ったご用事はないのですね?」
「エエ……ア! 皆ハドウナン? 何カアル?」
ボクだけの都合で動くのはNGよね。
他の皆の意見も聞かないと!
「じゃじゃじゃ……ワダスはムーク様に従うのみでやんす!」
いやロロン……それはキミの意見じゃないでしょ……あっ! これは何を言っても聞いてくれないタイプの綺麗なお目目!
今までの付き合いでよくわかっております……!
「ん? 私もムークについてくよ? 特にやることもないし、ムーク面白いし」
マーヤも……? え、首都まで一緒に行くだけじゃなかったんだ?
『お前それ口に出したら亜空間シャフさんスマッシュだかんな……?』
ヒィイ!? わか、わかりましたァ!!
「私もそうナ~? 里に戻る気はないし、ムークと一緒なら風よけになっていいのナ。マデラインにも行ってみたかったからナ~?」
アルデアもか……
風よけ……ボクはやはり木か石の化身なのかもしれない。
『ワレとお主は一蓮托生故な、言わずともわかっておろう?』
『うん、これからもよろしくね、相棒』
念話に念話で返すと、何故かいい笑顔の頭突きが返ってきた。
ヴァーティガにそっぽ向かれる=ボクは無慈悲虫だからね……そんな存在になるわけにはいかんのよ!
「……トイウワケデ、シバラクハユックリシマス。ソレニ、ゲニーチロサンノオ手伝イモアリマスシ……」
妖精たちとの悪い人あぶり出しミッションがあるしね!
それはさすがにやらないとね……放っておいたらえらいことになっちゃうし!
「ああ、それは私も聞いています。そうですか……ならば、都合がいいですね」
サラコさんはそう言って頷いた。
何がですか?
「ムークさん、貴方を当家にご招待したいの。来てくださる? 色々、お話もお聞きしたいですし」
あー……ゲニーチロさんにもそう言われてたなあ。
「勿論、お仲間たちも一緒にです。ご自分の家と思ってお寛ぎくださいませ」
……わかるぞ、これは……ボクが! 何を言っても! 無駄なパターンなのだ!!
「……オ招キニアズカリ、恐悦至極デゴザイマス」
「まあ、そのようにかしこまらなくてもいいのですよ? ねえイセコ」
「はい! ムーク様御一行をお迎えできるとなれば、影衆一同喜んでおもてなしする所存です!」
イセコさんの圧が強い! 強いよう……!!
ここに至ってボクができることは……そう! 諦める! 諸々を諦めるのだ!!
『なんという後ろ向き虫……』
甘んじて受けましょうとも!!
・・☆・・
「ヨッコイショ……フンッ!」
隠形刃腕が唸り、薪を両断する。
「フンフンフンフン!」
左右の腕を使い、あっという間に薪が細かくなる。
「おいちゃん、しゅごーい!」「おやびん、しゅごい!」
ヘレナちゃんがアカと一緒に喜んでいる。
ふふん……ボクも上達したね! 薪割りが!!
サラコさんはあの後『明日迎えに来る』と言って帰っていった。
ボクは近くにいた職員さんを捕まえて『何かお仕事をさせておくれ~!』と頼み込んだ結果、この仕事をさせてもらうことになった。
お金を受け取ってもらえんのでね……! こうして働いて返すのです!
「この孤児院はあの大商家、ミカーモ家が経営しているのナ。そんなに困ってるはずがないのにムークときたら……まあ、それもお前のいい所か」
近くで見ているアルデアが苦笑い。
いいのです! ボクがやりたいからやるんですよ~!




