第98話 凱旋虫、震える。
「本当に助かったぜ、ムークさんだったな!」
「アッハイ」
「おいらもう駄目かと思ったよ~! ありがとう!」
「アッハイ」
「貴方みたいな強い人が助けに来てくれるなんて、本当に運がよかったわ! ありがとうございます!」
「アッハイ」
クロヒョウさんたちが、入れ代わり立ち代わりお礼を言ってくれている。
ボクは、その感謝の言葉になんとか返答している。
「ムーク、どうしたの? 体が痛む?」
ひょこっと出てきたマーヤが、心配そうにのぞき込んできた。
「アアイヤ……ソノ」
「その?」
ゆら、と視界がリズミカルに揺れている。
「コノ格好ガ落チ着カナクッテ……」
ボクは、暖かい布団にくるまれて――運ばれている。
そう、運ばれているのだ……輿の上で。
それは、クトウからやってきた衛兵の皆さんが担いでくれている。
心苦しいすぎる……神輿虫!
「ムーク様、ご遠慮なさらず!」
「そうです! 通常の大地竜でもかなりの強敵であるのに……その上位種を少人数で討ち果たしたのです!」
「これは偉業ですよ、偉業!」
「むしろこのような粗末な輿で申し訳ございません! お許しを!!」
担いでいる衛兵さんたちが、口々に言ってくれる。
心苦しさが加速していく……っていうかなんで全員女性兵士さんなんですか?
男性むしんちゅよりもマッスルなんですかこの人たちは!?
『ムーク、甘んじて受けよ。それ以上の謙遜は失礼だぞ、彼女らは街を代表して感謝を伝えているのだからな』
寝ているボクの顔を覗き込んでいるヴァルから念話。
当の本人はジト目でいらっしゃる。
『わかりましたぁ……』
『うむ、それでよい。偉業を成した戦士は称えられるべきである』
ドヤ顔フェアリー……
「ヨロシクオネガイシマス、皆サン。助カリマス」
「「「「はいっ! お任せを!!」」」」
ひいっ! やる気満々だァ!?
「むにゃあ……あさ、あさぁ?」
胸の上で寝ていたアカが目を覚まして、ボクを見た。
「あはぁ、おやびん~……」
「コショバイ」
そして、ほっぺに顔をスリスリしてから再び眠りにつく……あーかわい! かわい!
『よく頑張りましたね、虫よ。此度の働きにヴェルママポイントを進呈いたします……これからも励むのですよ』
ありがとうママ!
ボク頑張ります!
『ほほほ! なんといじらしく可愛らしい……なんですか、私は今とても忙しいのですよ? なに、緊急会議? はぁ~……つまらぬ議題なら発案者を捻り潰しますよ……』
……お仕事を頑張るママってとっても素敵だなって。
推定むしんちゅとして誇りに思うなって。
『まあ! まあ! そうですか! 何をしているのです早く始めなさい! つまらぬ議題でもビンタで許してあげましょう!!』
ビンタもしないでほしいなって……あ、もういない。
『むっくん、最近メイヴェル様の操縦めっさ上手いじゃん。これからもこの調子で頼むし~……あ! トモちんなにそれうんまそ!』
『おやムロシャフト様。こちらは本場台湾ラーメンです、どうぞ』
『ゾルゾルゾル……むえっほ!? んぎゃごぼ!? 美味い辛い! 超美味い辛い! んっひぃ~!!』
……神界は今日も楽しそうだな。
『むっくん、頑張ったんだからしっかり眠らないと駄目よ……駄目なのよ……』
ピーちゃんの寝言はいつも明瞭だなあ……
・・☆・・
「改めて、オーガスだ」
「おいらはメドン」
「エラーンよ」
「ハイ」
神輿虫と化して運ばれる中、クロヒョウさんたちが自己紹介してきた。
オーガスさんが鎧をやられてた人、メドンさんが腕と胸、そしてエラーンさんが魔力切れの人だった。
皆さんケモ度高めですな。
艶々の毛皮が綺麗!
「黒いゴブリンと戦ってたらあの大地竜が出てきやがってよ……それで、もう壊滅だぜ」
「煙幕と結界で誤魔化してあそこに避難してたけど、正直もう限界だったんだ~」
「奴らの耳と鼻が悪くて助かったわ……魔力以外にはてんで鈍感なんだから」
口々に説明してくれる皆さん……なるほどなあ。
妙な場所に派遣されるだけあって、力量のある人たちだったんだね。
あの連中+大地竜から逃げられたんだもん。
「途中から見てたが、すげえなあムークさんは。エンシュじゃ白銀龍と一緒に深淵竜を倒したんだろ?」
オーガスさん!? また噂に変な尾ひれが!!
「深淵竜ジャナイデス。リンドヴルムト大地竜ト水晶竜トオオムシクイドリデスヨ」
訂正しとかなきゃ!
「あはは! それあんま変わんないじゃん、そっちも地獄みたいなもんだよ? エンシュは強兵揃いって聞いてるけど、よく生き残ったねえ……」
メドンさんは苦笑いしている。
そうかな……そうかも……
「とにかく、あなたたちのお陰で助かったわ。困ったことがあったら何でも言ってね」
エラーンさんはニッコリ微笑んだ。
そういう顔するとネコ科っぽいなあ、かわいい。
「ではクトウで美味い酒が飲める店を教えて欲しいのナ。到着してすぐにこの騒ぎだからまだ飲めていないのナ~」
「あら、そうなの? 任せておいて! アタシらはここで長いからとっておきの所を紹介するわ!」
「エシュン婆さんとこがいいよ! あっこはガリルと直接取引してるからさ、強くていい酒が多いんだ!」
「おー、そうだな。婆さんとこはツマミも飯もうめえから、妖精ちゃんたちも連れていけるぜ」
みんなお酒好きなんだね……
でもやったね! 早く元気になって飲み食いしたい! したーい!
「むいむいむい……なに、なぁに~?」
胸で寝ていたアカが起きた。
「美味シイゴ飯ノオ話ダッテ~?」
「ごはん! どこ、どこぉ?」
「フンギギギ……!」
バッグにロクに動かない手をイン! 出でよ柔らかくてほのかに甘いパン!!
食料の備蓄は十分だ!
「ドウゾ~」
「あむむい! むいむい……おいし! おいし!」
顔より大きいパンをもぐもぐする子分のかわいさよ。
体もぐんぐん元気になりそう! なりそう!!
『まーっ! 無理しちゃ駄目よ! 駄目なのよ~! 私が出すわ!』
ピーちゃんがチュンチュク怒りながら自前のクッキーを放出!
そう言えば前からちょこちょこ渡してたもんね。
『はいむっくん! あーん! あーん!』
「メッメメメモ」
ピーちゃんがクッキーを超食べさせてくる。
固くて美味しい! 美味しい!!
「ムーク様~! こちら! お茶! お茶でやんす~!」
視界の端に小刻みにポットが見える。
ロロンが渡してくれようとしてるんだけど、輿の位置が高いみたいでちょっと背が足りないみたい! カワイイ! かわいアルマジロ!
「どーじょ、どーじょ~!」
アカが受け取って、ニコニコしながらボクに流し込んできた。
ハーブの香りがして美味しい!
「ガボボボボ」
でも絵面が拷問!
これ前にも体験した!
・・☆・・
「ウワァ……(小声)」
輿で運ばれ続け、夜になってクトウに帰還した。
途中で飲み食いしたおかげで体は動くようになったけど、絶対に下ろしてもらえなかった。
衛兵さんたちが涙目で止めるから……女性むしんちゅは表情が読みやすくって困る。
んでんで、帰還した……わけなんだけどさ。
寝てても見えるんだ……見えるんだよ。
かがり火がね、むっちゃあるの。
そして人がいっぱいいるの、いっぱい。
ニッコニコのロウガさんが先頭にいるの……
「――皆の者! 大地竜を討ち果たした、勇者たちの凱旋だ!!」
「「「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」
ヒギャーッ!?
見えてる範囲よりももっと人がいた! いた!!
「ほぉおお……!」
見えないけど、近くでロロンが震えて目をキラキラさせてる気配がする!
「これはしばらく酒代がタダになるナ」
「ご飯代もかも、楽しみ」
「なんだと!? それは素晴らしいな!」
アルデアとマーヤ、それにヴァルは大物だなあ……ボクはここで身を縮ませることしかできぬ。
『みんな大喜びよ! 大喜びだわ! 嬉しくって踊っちゃうわ~!』
「アカも! アカも~!!」
妖精たちが飛び立ち、暗い夜空でキラキラ踊っている。
うわ~……魔力が散ってお星さまみたいだあ……
「オソラキレイ……」
ボクは一生懸命現実逃避をすることにした。




