第93話 谷、突入虫。
「谷ダ」
キャッキャして休憩した後、しばらく進むと森が切れた。
ちょっと木が少なくなってきたな~……って思ってたら、一気に深く落ち込んだ谷が現われた。
「真っ直ぐ行って少し左、緩やかな下りがあるのナ。そこから入るといいのナ」
偵察に出ていたアルデアが戻ってきた。
「件の冒険者も、そごから下りたのやもしれえねえのす」
ロロンが言ったのでボクは思い出した。
そうだ……行方不明の冒険者も探さないといけないんだった!
「忘れてたでしょ? ふふ、うっかりさんだね」
「ソソソソンナコトナイヨ???」
何故後ろ姿しか見えないハズのマーヤにバレたのか。
彼女は探偵でもできるくらい洞察力があるんでしょうね!
『笑えますね、ノイジーボディ虫』
落ち着きのない我が身が憎い……
「ここからも、変わらず私が先頭に立ちます。皆様、黒化対策にこれをお持ちください」
そう言ってイセコさんが渡してきたのは……なんじゃろ、ちっこいランプ?
「これは魔石由来の微弱な魔力を前方に放射する魔法具です。本来は灯りを投射する者でしたが、影衆で改良しました。下げておくだけで効果があります」
おー、凄い便利! 魔力を放つと姿が見えるようになるっての、しっかりカルコさん経由で話がいってるのね~……
って、いつの間に受け取ってたの……?
街々にニンジャいるの? 全然わからんな……
「引き続き上空にいるのナ。ムーク、泣き叫んだら助けに行ってやるのナ」
「普通ニ呼ンダラ来テヨ‥‥‥」
ボクの抗議を聞き流し、飛んでいくアルデア。
ピーちゃんも一緒だ。
ヴァルはこっちに残るみたい。
「どうにもお主は粗忽だからな、これからはワレが地上で補佐してやる」
「アリガトゴジャマウ……」
……基本的に信用がない暫定パーティリーダー、むっくんです。
そんなわけで、ボクらは森を抜けて……谷へと、侵入する。
今のところ変な気配はないけど、油断は禁物だ!
「かなり古くなってるけど、足跡がある」
谷への進入路に入ってすぐ、マーヤが地面に伏せて顔を寄せた。
そんなこともわかるんだ、すっごい!
『こら、真後ろに立つな粗忽者。女の下着に興味があるのか?』
ないので! ススっと斜め前に移動!
あっぶな……前みたいにセクハラ虫になる所だった。
「この2つの足跡は重いし金属っぽいから、前衛。こっちはたぶん革のブーツ……後衛だね」
「雨が降らずに残っていましたか……では、件の冒険者たちはやはりこの先に向かったのですね」
「少なくとも今日のものではねがんす」
女性陣が凄い。
やっぱりボクは暫定パーティリーダーでいいんじゃなーい?
「……頑張ロウネ、アカ」
手持無沙汰なので、肩のアカを撫でる。
手持無沙汰じゃなくても撫でるけど。
「んにゅふぅ……がんばゆ、がんばゆ~!」
何かあってもアカがいればボクのメンタルは即時に回復する。
これが噂の永久機関か……もう無敵虫!
『寿命4年8カ月がなんか言ってますね』
嘘でしょちょっと前は5年って言って……あ。
そっか……亀さんにボコボコにされたから……ガッデムタートル!!
「ボキボキ……!」
魔石齧っとこ!
「ぼりぼり、おいし、おいし~」
アカにもあげとこ!!
「フシュルルル……!」
増やさなきゃ、寿命を!
「ムークから湯気出そう、あはは、すっごいやる気」
「なんど猛々しい姿……!」
戦いじゃなくて寿命のために頑張るぞ! ぞ~!
谷に突入した。
さっきまでは森で鬱蒼としてたけど、こちらはとにかく何もない。
かつては川か湖だったのかな? まあ、見晴らしはいいし先まで見えるからこっちの方がいい。
細かい脇道があるから油断はできないけどね。
「足跡は奥に続いてる……ここでは戦闘、起きなかったみたい」
マーヤはそう言うけど、ボクには足跡……? くぼみでは? としか見えない。
なのでおとなしく後ろをついていく。
『むっくん! アルデアさんから伝言よ! この先に大きな広場があるわ! 気を付けて!』
『了解ピーちゃん! アルデアにも気を付けるように言っといてね』
『ガッテンショーチよ! 気を付けるわ~!』
ほんと、偵察機って便利なんだなあ。
上から丸見えだもん。
『なに? 丸見え? やらしい話?』
シャフさん絶対出先でしょ。
ンモ~……仕事しといて!
「ミンナ、コノ先ニ広場ガアルカラ気ヲ付ケテッテ」
「ん、わかった」
「んだなっす、気ば張るのす!」
みんな当たり前だけど油断してない。
ボクもずっとヴァーティガを担いで、臨戦態勢。
……ム、ムム?
なんか、さっきのゾワゾワする感覚が……これは!
「……コノ先ニイル! 黒イノガ!」
絶対広場に布陣しとるでしょ、これ!
よし、これなら先制攻撃ビームを……できん!
あっぶな! 行方不明者いたら当たるじゃん!
どうしよ……あっ!
『ピーちゃん! アルデアに言って! あの広場の上に、合図したら弱めの魔法撃ってって!』
『了解よ~!』
要は魔力があればいいんだからネ!
「上空ニ、合図シタラ弱イ魔法撃ッテモラウヨウニ頼ミマシタ」
「ありがとうございました。助かります……合図は私にお任せください」
任せますとも、任せますとも。
ボクには作戦立案の才能とかはないのでね!
「手前まで行き、接敵しなければ魔法を待って戦闘に入ります。まずは魔物を排除することをお考え下さい……冷たいようですが冒険者は自己責任、向こうを気にしすぎてこちらが死んでは元も子もありませんので」
だよね~。
ボクだって行方不明さんたちは気になるけど、仲間の方が大事です。
これが戦えない子供とか、攫われた人だったら話は別だけどね。
「行きますよ」
周囲を警戒しながら谷を進み、広場の付近まで来た。
例のイヤーな感覚はどんどん強くなるので、確実に何かはこの先にいる。
「撃ちます……!」
イセコさんがそう言い、上空へ花火っぽい魔法を打ち上げる。
すると、上空のアルデアがなんかこう……丸い光の魔法をポイって感じで投げた。
あれなに? 灯りの魔法?
ウワッ!?
広場の上空に魔法が到達したら――じわっと空間が歪んで、やっぱり出てきた!
「大地竜ジャナーイ!?」
でも、そこにいたのはゴツいオーク……じゃなくて真っ黒いゴブリンの、群れ!
あれ、前にも見た上位種だ! だってホラ、一緒に黒い狼もいるもん、いっぱい!
「「「ゲギャギャギャギャ!!」」」
そして急に見つかった!
群れを成して一斉にこっちに来よる!
――その時むっくんに電流走る。
あ、この地形なら……アレが使える!!
「ヌンッ!」
ジャンプでイセコさんを跳び越え、広場の入口に着地。
「――ボクガ数ヲ減ラス! 皆ハ後ロカラ援護シテ!」
『アカ! ボクの上に! もうどんどん撃ちまくっちゃって~!!』
『あい~!』
アカが頭の上に来た気配!
そして、こっちに走ってくるゴブリンと狼の群れ!
「『我ガ剣ハ、牙ナキモノノタメ――』!!」
ヴァーティガ起動ォ!
「ゲギャッ――!」
まずは先頭に向けて――拡散衝撃波、乱れ打ち!
「ギャバ!?」「ギィイ!?」「ゴババ!?」
黒化してるからこれだけじゃ倒しきれないけど、それが目的じゃない!
前列を片っ端から転ばせたのは――後ろから来る連中の邪魔だ! あわよくば踏み潰されておくんなまし!
広場と違って、ここは狭い! 迂回はできんでしょ!
「オラオラオラオラオラオラァ!!」
衝撃波、衝撃波、衝撃波ァ!
不可視のショットガンがゴブリンをどんどん転ばせ、後ろから来る連中にグッシャグッシャ踏まれてる!
黒化したら共食いはしないって言うけど、知能は低いままなのね君たち!
けど、ゴブリンや狼はそのまま殺到してくる。
転んだ連中の連中の山を乗り越えて、どんどん!
アカのキャノンや、マーヤのナイフにイセコさんの電撃、それにロロンの土魔法を受けてなお!
「ガギャギャギ!」
そして、物量で迫る最前列のゴブリンが牙を剥きだして、ボクにきったないナイフを――
「――ジャストミィイイイイトッ!!!!」
突き刺そうとして、メジャーリーガーがドン引きしそうなボクのヴァーティガフルスイングがお腹に!
「――ゲポッ?!?!?」
流石に黒化したとはいえ、元はゴブリン。
ソイツは、胴体から真っ二つになってライナー気味に吹き飛んでいった。
そして、後続に激突して肉塊を増やす!
「ガギャッ――!」
「ンモウ一丁ォ!!」
「ベギャ!?!?」
ハイおかわり! 第二弾が飛んで行って同じことを繰り返す!
ハッハー! どうだこの作戦は!
名付けて『むっくん・千本ノックの計』!
これは諸葛孔明先生もビックリでしょ!
『名前のダサさにですか?』
ひどいや!!




