第94話 大変な上に、大変!
「ゲギャギャ!!」
「フンッ!」
フルスイング、飛んでいったゴブリンは内野の頭を超え……じゃなくて、狼3体を巻き込んで星になる。
「ウルオォッ!!」
「フンフンッ!!」
逆スイング、飛び掛かってきた狼は空中で真っ二つになって、飛び出す骨は疑似的な散弾になった。
「ゲギャギャ――!」
「フンフンフンッ!!!」
もいっちょフルスイング、クリーンヒット!
ゴブリンの頭が捥げ、グロすぎるボールとなって後続に激突。
衝撃力がダンチだったのか、将棋倒しみたいになって勢いが止まる!
「――アカ、雷!」
「みゅんみゅんみゅ――えぇえ~いッ!!」
ばじゃん、とボクの頭上を走る稲妻。
足を止めた集団に一瞬で到達し、感電!
「――スヴァーハッ!!」
その集団に殺到する、ロロンの土魔法!
岩のガトリングが炸裂した所を、抉りながら突き抜けていく!
「――みゃあっ!」
そして撃ち漏らしにはマーヤの投げナイフ!
あれよあれよという間に魔物は成仏していき――
「――ハッ!!」
イセコさんの放ったクナイで、全員成仏した。
おお、死屍累々。
向こうの方にボクの関与してない死体がゴロゴロ……あっちはアルデアがやってくれたんかな。
ともかくこれでゴブリンと狼は全滅だ。
「ムーク様! お見事でござりやんす~!」
「フワワ」
興奮したロロンがマントに飛びついてきた。
ビックリした!
「あの『ふぁーすと』とか『せかん』って掛け声はなに? 呪文?」
「アアウン……ナンダロ、発作的ニ?」
マーヤが聞いてくるけど、ボクそんなこと言ってた?
ノックの方に魂を引かれていたのかもしれない……
「戻ったのナ。上から見ていると魔物がどんどん吹き飛ばされてて面白かったのナ」
『ノックの鬼よ! ノックの鬼だわ~! スポ根だわ~!』
ピーちゃんのテンションがお高い!
そういうドラマ好きだったんかしら?
『ヴァル、ボクのほうは感じないけど……変な気配ある?』
『いや、ない。少なくとも近くにはいないようだな』
お墨付きが出た。
それじゃあ、これで捜索活動ができるね~……
この谷、結構枝分かれ多いから大変だけど依頼されたからね。
大地竜は今の所いないみたいだけど、用心しながら探そう。
・・☆・・
「イセコさん! これ!」
広場を中心に捜索すること、小一時間。
ボクとは反対側を捜索していたマーヤが声を上げた。
なんだなんだ~?
「これは……!」
そこにはもうイセコさんが来ていて、マーヤと一緒に地面を見ていた。
そこには小さい岩があって……地面には、黒いシミ。
それと、何かの金属っぽい破片があった。
「乾いた血痕と……これは、剣の破片ですね」
あーやっぱり……
「ドレクライ前カワカル?」
「うーん……少なくとも今日のものじゃない、かな?」
マーヤが血痕をくんくん嗅ぎながら答えた。
魔力も感じないから、たしかに新鮮じゃなさそう。
「イセコさん! こっちにも……これは、鎧の破片でやんす!」
ロロンが走ってきた。
その手には……明らかに胴鎧の破片っぽい物体が!
「かなり強い力で割られてる……ゴブリンじゃなさそう」
うへえ、この上何がいるんだろうね。
「血痕はこちらに続いていますね……」
イセコさんが指差すのは……広場から続く脇道の一つだった。
あっちはまだ見てないな……
『ヴァル、痕跡を見つけたよ。何があってもいいように上空警戒をお願いね』
『ぬ、わかった。アルデアに伝えておこう』
これでよし、と。
さて……どうなるかな。
警戒しながら脇道に入る。
魔物は相変わらず出てこなかったけど、中ほどまで進んだところでまずロロンが反応した。
「……血の匂いば、しやんす」
「うん、さっきよりも濃いね。まだ新しい」
マーヤも頷き、ナイフを構えた。
この先……かな? でも見えてる道の先は行き止まりだけど。
「あの先! 壁が変に見えます」
イセコさんがそう言って走り出す。
変に見える……? ううん、ボクには普通の壁に見えるけどなあ。
行き止まりまで走って行ったイセコさんは、壁をペタペタ。
「これは……やはり! 『顕現せよ』!」
わっ!?
壁が溶けた!? っていうか崩れた!?
壁の中に空間がある!
そこには――
「大丈夫ですか!? 気を確かに!」
傷だらけの獣人が、3人。
身を寄せ合って座り込んでいた!
土魔法みたいなので壁を作って隠れてたのか!
「ムーク様!」
こちらを振り向くロロンに頷いて、バッグに手をイン! 出でよポーション!!
「イセコサン!」
とりあえず3本取り出して、イセコさんの所へ走る。
うわ……近くで見ると皆さん大怪我!
生きてはいるけど、ボクらにろくに反応していない。
「ありがとうございます! まずは……」
ポーションの栓を抜くと、イセコさんはまず一番手前にいるクロヒョウっぽい男の人を寝かせる。
あ! ロロンが見つけた鎧の破片は多分この人だ! だってお腹がむき出しで、真っ赤!
包帯みたいなものは巻いてるけど……それは染み出した血液で赤黒く染まっている。
「ポーションを使いますよ!」
ボクは見ているだけ……じゃなくて!
イセコさんが治療している人の後ろ! そこにいる男の人に走る!
「大丈夫デスカ!?」
「……あ、う……」
意識が混濁してる!
この人の怪我は……手足と胸!
なんか、刺されたのを治療した痕跡がある!
呻くそのクロヒョウみたいな人を、脇の下に手を入れて少し浮かせて……穴から引き出す。
なるべく平たい所に寝かせて……っと。
うむ……この人は辛そうだけど、さっきの男の人よりはまだ大丈夫そう。
血は止まっているように見えるし……出血のせいで疲弊してる感じかな?
『概ねその見立てで正しいかと。毒による発熱も見られませんし……アカちゃん! ヒーリングをしてあげてください』
『あいあーい!』
アカが飛んできて、その人の額に手を当てて……ヒーリング開始!
あ、毛皮で分かりにくいけどちょっと楽そうな表情になった!
「この人は魔力の枯渇みたい。一番軽傷」
「んだなっす! ムーク様! 大風呂敷から花蜜のボトルをば!」
了解っと……ハイハイ!
これはリーチミで買った花蜜に、なんかロロンが色々ハーブ的なものを入れたやーつ!
異世界エナジードリンクって感じかな?
マーヤがそのクロヒョウっぽい女性を支えて、ロロンが水差しで飲ませてあげている。
この3人、全員クロヒョウっぽいね……同族か、マーヤ達みたいに親戚かな?
「はぁ……た、助けが、来てくれたの?」
女の人は意識を取り戻して、弱弱しく口を開いた。
「そう。クトウからの依頼。ゴブリンと狼は片付けたから安心して!」
マーヤが励ますように言ったけど、その人は首を横に振った。
「ち、がう……それ、だけじゃ、ない。まだ……大地、竜……が」
やっぱりいるんかアイツ!
「大丈夫、この近くには――」
マーヤが元気づけようとした、その時。
ボクに襲い掛かる――悪寒!
こ、この感覚は……!!
「ッチィイ!!」「――ムーク様!?」
ロロンの声に答えず、ヴァーティガを握って走り出す!
広場の、中心に向かって走りながら――魔力を、流す!
――ぞく、っとした!
「コッチダ! コッチニ来イッ!」
なんとなくげっそりする感覚は、ボクの方へ近付いてくる!
思った通りだ! 魔力に反応してる――!
『ピーちゃん! 皆に伝令! ボクが引き付けるから、治療を優先してって!』
『わかったわ! むっくんも無理しないのよ! しないのよ~!』
了解、インコさん!
念話を飛ばしつつ中心に向かって走り続けて――悪寒! むっくん・ジャンプぅ!!
その瞬間に、さっきまで立っていた地面が……ひび割れた!
そうか! コイツの生態はこうだった!
衝撃波でさらに飛び上がる――! 地面が大きく割れた! そして――!
「――グロウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
地面を突き破って出てきたのは、『黒い』大地竜だった。




