第87話 とにかくめでたい! めでたーい!!
「ムーク、とっても有名人。トルゴーンに入ってから、噂を追いかけるだけで会えちゃった」
ボクの衝撃をよそに、マーヤはニコニコしている。
いやそれとは別に結婚って……って、噂ァ!? なにそれ?
「じゃじゃじゃ、噂でやんすか?」
「うん、すごかった。ええっと……ねえ、エンシュでは白銀龍の背中に乗って深淵竜と一騎打ちしたって本当?」
「ゲエーッ!? 全然違ウ!?」
ボクが神話の英雄みたいになってるじゃん!?
「そうなんだ、でもスタンピードで活躍はしたんでしょ? ガラムルさんって人がやってるご飯屋さん、覚えてる?」
「ウン! ミルルチャンッテ子モイタ?」
懐かしい! マーヤはあの店に行ったのか!
「うん、とってもかわいかった。でね、あのお店の人気メニュー……ふふ、『英雄定食』だって。ムークが美味しいって言った料理をまとめてるんだってさ」
「英雄定食ゥ!?」
マーヤはコロコロ笑ってる。
何がそんなに面白いんですか……そして英雄定食ってなに!?
恥ずかしくてもうエンシュに行けない! 行けない~!!
「あはは、やっぱりムークって何考えてるかよくわかる。この国に来てビックリした、虫人の男の人ってだいたいみんな寡黙で物静かなんだね……ムークの方が面白い」
……厳密にはむしんちゅでないので! ボクは!!
面白いって何ですか! ナンデスカ!?
「ホホーウ、それは面白いナ。他の街でもそうなのナ? ああ、私は【螺旋大樹】のアルデアなのナ」
「よろしく、私はランダイのマーヤ。うん、そうだよ……ルアンキのアスノ飯店には『ピーちゃん定食』があったし、何故か漁業ギルドでムークそっくりの木像がお守りになってた」
「ソレハ本当ニナンデ!?」
何故漁業ギルドでそんな……アレかな? 例のクソデカヤツメウナギの件かな?
この世界の噂システムこわい! こわーい!!
「あと、みんなの話もよく聞いたよ。特にエンシュでね……ロロンはえーと、だいたい『息子の嫁に欲しい』とか『孫の嫁に欲しい』とか」
「じゃじゃじゃァ!?」
「アルデアさんは『あのお姉ちゃんが飲んでると客が増えるからずっといて欲しかった』って、これはエンシュだけじゃなくてジェストマとかフルットの飲み屋さんでも聞いた……その時はわからなかったけど、アルデアさんのことだったんだね」
「ンフフ、美しすぎる我が身が憎いのナ~♪」
ロロンは驚愕して丸まり、アルデアは上機嫌に胸を揺らして笑った。
「……ボクラ、ソンナニ目立ツカナ?」
「あはは、とっても」
ボクの呟きに、マーヤはニッコリ笑うのだった。
んもう……いい笑顔!
『まあ、内面はともかくむっくんの外見はこの国だと超絶イケメン虫ですし。しかも基本的にいいことしかしていませんし、大活躍ですからね。あと、妖精複数連れの時点で……』
『さ~ら~に、この国で大人気の大角じーちゃんに似てて、しかも魔導紋貰ってるのもでけーし。基本的に街に入った日には全衛兵に情報伝わるし』
ううう……反論できぬ。
進化して格好よくなったボクが憎……くはない! 格好いいので!
「もふもふ、もふもふ~!」
「あはは、これも久しぶり。アカちゃんもちょっと大人になったね、ふふふ」
マーヤの耳をモフるアカを見つつ、ボクは有名税ってこういうことなんかな……と、考えてた。
・・☆・・
「――デ、ターロトミーヤガ結婚ッテ……ドユコト?」
ご飯を食べてからの休憩中、ボクは話を切り出した。
あ、ミソスープはマーヤにも大好評でした。
耳をパタパタさせてんみゃんみゃ言っててかわいかったね~。
ミーヤと違って、マーヤはあんまりニャンニャン言わないから新鮮。
そして……ようやく、一番気になってたことを聞けた。
別行動している理由はまあ、わからんでもない。
でもその原因がわからなすぎるんですわ!
「すひゃあ……すひゃあ……」「チチチ……」
「ん、理由?」
膝の上で寝ているアカとピーちゃんを撫でていたマーヤがこっちを見た。
そりゃ気になるよ……爆弾発言だもん、いやもう核爆弾発言よ?
「じゃじゃじゃ、ワダスも気になるのす!」
「私もです。ミーヤさんはターロさんを想ってらっしゃるようでしたが……」
えぇえ!? マジで!?
全然気づかんかった……! あ、ロロンもビックリしてる! ナカーマ!!
「うんそう。私達3人は幼馴染だけど……ミーヤはターロのことがずっと好き、昔から」
そうなのォ!?
えっえっ!? ターロ、無茶苦茶娼館行ってたけどォ!?
女心って、女心ってわかんないや……!
『勉強しなさい』『しろし!』
は、はいぃ……
「だけどターロはニブニブのトーヘンボクだから、全然気付いてなかった」
「ハェ~……」
『(他人事とは思えませんね)』『(男ってのはこれだから……)』
……なんか寒気が?
「それでね、ムーク達と別れた後なんだけど……私達が帝国に用事があるって言ってたの覚えてる?」
「アー、ウン」
なんか、族長からのお使い? とか言ってたような。
「用事はウチの族長の親戚に会って、手紙を渡すってことだったんだけどね……その親戚の息子がさ、ミーヤを気に入っちゃって」
お、おお?
「ミーヤは全然その気がなかったのに、族長の親戚だからって勘違いして無理やりその……部屋に押し入って、その、手籠めにしようとしてね」
なんやて!?
そ、そんな……そんなひどいけもんちゅがいたなんて!!
「じゃじゃじゃ! なんとはあ!」
「……屑ですね、ええ」
「目の前にいたら腹をかっ捌いてやるのナ」
女性陣の怒りが凄い。
まあ、気持ちは十二分にわかるけども。
……で、でも大丈夫だったんだろうか?
「でね、ミーヤがその息子の……うん、みゃみゃ……『息子』を斬り落としちゃって、チャクラムで」
「ヒィーッ!?!?」
ぼぼぼボクの無いはずの器官がひゅっとなったァ!!
お、おおお……恐ろし!
アカとピーちゃんが寝ててよかった!
「はわわ……」
あああ、ロロンが真っ赤に!
「ふん、女を力ずくでどうこうしようなどと……当然だな」
「その通りなのナ。殺さないだけ有難いと思って欲しいのナ」
「ええ、全くその通りです」
残る女性陣のコメントが怖すぎる。
まあさ、ボクもそう思うけどさ……
「それでね、当然大問題になったんだけど……ターロがね、治療されてたその息子を更にボコボコにして『これで俺がやったことだ、文句があるなら俺に全部言え!!』って啖呵を切っちゃって」
おお! ターロ! キミってば超格好いいじゃない!!
「親戚さんも無茶苦茶怒って、一時は一触即発だったんだけど……その息子ってのが身内にも嫌われてて、ミーヤを手籠めにしようとしたことがすぐにバレたんだよね」
……人望が無さすぎる。
ほぼ初対面の女の子を無理やりアレしようとするような人に、絶対人望なんてないだろうけど。
「親戚さんがそれを知って、なんとか問題は片付いたの」
あ、話の分かる人だったんだ親戚さん。
「ヨカッタ~……アレ? ジャアナンデ結婚?」
今までの話で特にプロポーズとか発生してないよね?
問題が片付いただけだよね?
「んと……」
マーヤは恥ずかしそうにもじもじしている。
え? まだなんかあったん?
「それでね、その……ミーヤは昔からターロのことが好きだったって言ったでしょ?」
「ウン、ソウダネ」
更にもじもじするマーヤ。
「ターロに助けられて、あの子ったら今まで貯め込んでいた想いに『火が点いた』みたいで……」
……ん?
「……その夜に、ターロの部屋に突撃して……その、えっと、『とっても仲良く』なったの……」
「オ、オオウ……」
ええとぉ……ミーヤさん、超肉食系なんですねえ。
「次の日の朝、ターロは干物みたいになってて……それでその、ミーヤが『アチシ、傷モノになっちゃったニャ~? これもう責任取ってもらうしかないニャ~……』って」
それってマッチポンプって言うんじゃありません?
「でもね、これでターロはミーヤの気持ちに気付いたから……それで、『やっちまったモンはしょうがねえなあ』って……結婚することに、なりました」
……ねえねえシャフさん。
これはシャフさん的には……
『は? 超OKだし?』
やっぱりそうなんだ……
『男の方もまんざらじゃないっぽいし、ニブニブ男だから仕方ないし? それに、ホントに嫌ならどうとでもできたはずだし? カラカラになるくらいハッスルしたんだから責任は取んなきゃね~?』
そ、そうですか……
あ! 気付いたらロロンが丸くなっている! かわいいネ!
「……それで、結婚することになったってワケ」
語り終えたマーヤは、お茶を飲んで一息ついた。
波乱万丈というか、なんというか……
「……デモ幸セナラOKデス」
「おっけ? うん、そうだよね……ふふ、私も嬉しい。2人とも大事な親戚だから」
そうだよねえ、これが雨降って地固まるってやーつ?
「ソッカソッカ、ソレデ結婚式ノ準備トカデコッチニ来レナインダネ?」
「結婚式? ううん……ウチの部族、結婚する時はお互いの両親と族長に許しを貰うだけだから、1日で終わるよ?」
そうなん?
「ジャアナンデ……」
「ああ、ひょっとして……いくつかの部族に伝わるという、『契りの旅』ですか?」
知っているのかイセコさん!?
ナニソレ、ボク知らない!
「そうそれ。ムークは知らないみたいだから簡単に言うけど、結婚した夫婦は2人だけで旅をしないといけないの。1年かけて、帝国の史跡を巡るんだよ」
「ホエ~、新婚旅行ッテワケネ?」
この世界にもあるんだ~。
「その言葉は知らないけど、とにかくターロたちは1年先まで帝国から出れないの、だから私だけ先に来た。会えたらみんなによろしくって、伝言されてる」
なるほどなあ……あのターロとミーヤが結婚かあ……
「ナンニセヨ目出度イネ! イイコトイイコト!」
今度会えたらお祝いにご祝儀包まなきゃ!
知り合いが結婚なんて初体験だネ! 記憶ないけど!
「ふふ、おっきな声。そう、いいこと」
マーヤもボクの反応がお気に召したみたいで、柔らかく微笑むのだった。




