第86話 お久しぶり! ……って、アレぇ?
「ドッセイオラー!」「ギャンッ!?!?」
ボクに噛みつこうとジャンプしてきた狼くんの顔面に――むっくん・右ストレート!
顎の間にクリーンヒットしたパンチは、そのまま狼の喉をぶち抜いて貫通した。
ムワーッ! 返り血と肉片が顔に! ペッペッペ! 美味しくない!!
げんなりしながら周囲を見る……ヨシ! 全滅してる!
お空を飛んで寒さでガクブルした翌日。
ディナ・ロータスの脅威もここまでは及ばないようで、今朝出発して先程狼の群れに襲われた。
んまあ、ボクらパーティには煩わしい以外の結果ではなかった。
ボクも強くなったけど、皆も強いからねえ。
「皮を剥ぎやんす~!」
「私もお手伝いを」
ロロンとイセコさんは揃ってテキパキと作業に入る。
ボクは……穴を掘って埋める準備しよっと。
「アカ、ドウゾ~?」
「あむ、もぐぐ……おいし!」
その前に、狼の成れの果てを食べたそうにしていたアカにドライフルーツを捻じ込んでおく。
どうせなら美味しいものを食べないとネ!
「狼どもでは手応えがないナ。もう一度ディナ・ロータスでも出ないものかナ~?」
「モウヤダ絶対ヤダ」
あんな経験は一度で十分でしてよ!
「覇気のない男なのナ~?」
「全くだ。もう少しは戦士らしくして欲しいぞ」
アルデアが肩に乗ったヴァルと顔を突き合わせている。
キミたち仲良くなったねえ?
覇気なんかでお腹は膨れません! 向こうから攻めてくるなら戦うのもやぶさかではないけど、避けれる戦いは避けたい虫です!
「平々凡々ガ一番デスノヨ……」
『平和は素敵ね! 素敵だわ! 戦争なんてお腹が減るだけでなにもいいことないわ! ないわ!』
ピーちゃんはいいこと言うねえ……撫でちゃろ。
一瞬でその隣に来たアカも撫でちゃろ~!
指紋なくなるくらい!
『元々ありませんよ?』
ナンダッテ!? ……あ、ほんとだ。
「ア、イセコサン、チョットイイデスカ?」
ちょっと気になったのでそう言ったんだけど、言い終わった瞬間くらいにはもうイセコさんが目の前にいた。
機敏……ニンジャ!
「はい、なんでしょうか」
「エ、エエト……コレカラ首都マデ、ドウイウルートデ行クンデショウ?」
超今更なんだけどね!
今まで駆け落ちとかクソヒューマンとか大亀とかで完っ全に忘れてたのよ。
これからリーチミに戻るのかな?
「ああ……そういえば説明をし忘れておりました。これから我々は、リーチミとの分岐を反対方向へ行き……【クトウ】という街へ向かいます」
「ホムホム」
戻らないのね、了解。
「そこから南へ向けて『首都街道』が出ていますので……後は真っ直ぐ行くだけですね」
「ナルホド、アリガトウゴザイマス」
トルゴーンに入ってルアンキに行くときに通らなかった、北方周りのルートになるのね。
分かりやすい立地でよかった。
首都はこの国の中心……の、やや北東寄りの所にあるんだね。
んでんで、今ボクらがいるのは北の端っこ、と。
そっか、ボクらはトルゴーンの上半分をグルっと回って歩いてきたんだね。
うーん……大移動! 何キロくらいなんじゃろか。
日本縦断くらいじゃないだろうけど、四国一周くらいはしてるんじゃなかろうか。
「クトウまで行けば、歩きやすくしっかりした街道になっています。そこまで行けばあっという間ですよ」
おお、それはいい。
「ダッテサ、頑張ロウネ~?」
「がんばゆ、がんばゆ~!」
いつでも元気なアカが、ほっぺに頭をガンガンぶつけてくる。
うひひ、くすぐったい。
・・☆・・
狼の群れをコロコロして休憩し、それから歩き続けること、多分半日くらい。
そろそろ夕暮れが近付いて来たので、本日のキャンプ地を探しながらまだ歩いている。
あれから1回だけゴブリンの小規模な襲撃があったくらいで、平和ですなあ。
その襲撃も、先んじて気付いたアカのミサイル一斉射でみんな逃げてったし。
マルチロックって便利便利。
「モハヤ懐カシイ」
そんなわけで、リーチミとの分岐まで帰ってきた!
1週間ちょい前に通ったとは思えない。
ここ最近が濃すぎたんよ……
あの分岐を左に曲がって、クトウって街に行けばいいんだよね。
楽に行けるといいな~?
『苦闘とも読めますね』
やめてぇ! やだ! もうやーだ!
「人が多いでやんす~」
ロロンが言うように、結構人がいる。
方向からして、国境に行く人たちだ。
「ディナ・ロータスの件で移動を控えていた方々でしょう。今更ですがあの魔物は一般の方々にとっては上位竜種に並ぶ脅威ですので」
イセコさんの補足助かる。
まあねえ、そうだろうね。
『アカとピーちゃんはマントにおーいで。人通り多くなってきたからね』
『あい~』『おねむよ! おねむだわ~!』
シュポポン、とマントに飛び込む妖精たち。
あ、ヴァルはもう入っている上に寝ています。
トルゴーンでは変な人が少ないとは思うけど、用心はしとかないと。
バグでうんちヒューマンが湧くし、たまに。
「私の美しさも隠しておくのナ」
と、フード付きマントを羽織るアルデア。
まあね、美人さんだもんね。
『おっぱいもでっかいしね~?』
そうよねえ、そらんちゅってみんなああなんだろうか?
『はーつまらん! なんコイツつまらーん! トモちんジントニックおかわり~!』
『飲み過ぎですよもう……はいどうぞ』
やっぱり酔っていた! まだ明るいのに!
「このペースであれば、今日中には次の休憩場所に到着できそうです」
「間に合いそうにないならまた飛ぶのナ。ムークもそのくらいならいけるのナ?」
「ウン、大丈夫」
平地だとずっと飛べないだろうけど、それくらいはいけそう。
戦闘機動とかはキツイけど、巡行飛行? なら大丈夫だと思う。
「マア、トリアエズハ歩コウカ」
見たところ通行人は国境へ行く人ばっかりだし。
今日の晩御飯のことでも考えながら歩こう、そうしよう。
人が多いから間引きも行き届いているのか。
それとも魔物が元々少ない街道なのか。
ともあれ、ボクらは暗くなる前に休憩所に到着することができた。
コッチ方面はヒトが少なかったから想定してたけど……誰もいない! 貸し切り状態!
東屋みたいなのもあるし、急な雨にも対応できそうだね!
「ついた、つーいた~!」
アカが嬉しそうにベンチへ飛んでいく。
「ふわぁ……うむ、晩飯が楽しみだ」
首元からもそもそ出てくるマイペースなヴァル。
『今日は干したお魚が食べたいわ! 食べたいわ!』
「ミソも入れてスープにしやんしょ。ワダスもすっかり好きになったのす」
『素敵よ! 素敵だわ~! ロロンちゃん大好き!』
リクエストが通ったピーちゃんは、ロロンを回る衛星みたいになってる。
ボクも楽しみ!
「問題ないとは思いますが、周辺の索敵をしてまいります」
「ア、ジャアボクモ――モウイナイ!?」
イセコさんが素早すぎてお手伝いもできない!
大人しく夕食の材料をバッグから出す虫になろうか……
ええと、干し魚と味噌と~……
「ぬ、誰か来るぞムーク」
おん? そりゃ来るでしょ街道筋なんだから。
まだ明るいし……でも一応確認。
『悪い人?』
『……いや、そのような気配はない。獣人の、女だな……恐らくは』
ヴァルが見る方向。
街道の方から、外套を羽織って背嚢を背負った人影が歩いてくる。
え、女性なのに単独?
これは絶対強者側の人だ! 体つきとかは全然わかんないけど……ボクよりちょっと背が低いくらいかな?
……ム?
その人は焚火を前にしているこっちを……具体的にはボクを見ている。
なんじゃろ? ……あ! 泊まろうと思ってた場所に人相……じゃない虫相の悪いボクがいるから遠慮してるんかな?
大丈夫だから! 人畜無害インセクトだから!
でも、周囲のロロンとかを見てたら安全だってわかりそうだけど――!?
――その人は、外套を翻して急に走り出した!
えっえっ!?
ヴァルは変な人じゃないって言ったじゃんか!?
と、ととととにかく立ち上がって――!
「――みゃあッ! 見つけた! ムーク!!」
……ほえ?
その人が叫んだ拍子に、外套が後ろにめくれて――ああーッ!?
外套の下から出てきたのは、獣人……黒猫さん!
目がキラキラしていて、ちょっとだけ冷たい感じがする――よく知っている人!
ラーガリで知り合った猫獣人3人組の1人――!
「マーヤ! マーヤ久シブリ!! エッチョッ……ウワーッ!?!?」
ボクは、突撃する勢いで抱き着いてきたマーヤに吹き飛ばされるのだった。
ラグビーチームで大活躍できそうな! タックル!!
グエ~!? あ、ヴァルがちゃんと逃げてる! 機敏!!
「マーヤさん! お久しぶりでござりやんす~!」
「ロロンも元気そう。っていうか妖精が増えててビックリ、それにイセコさんと……空の民さんもいるなんて」
そうだよね、あの時から比べると人が増えたねえ。
焚火を前に、ロロンと楽しそうに話すラーヤ。
成長率が異様なボクと違って、ガラハリで別れた時となんら変わりはない。
で、ボクはお腹の痛みも落ち着いたので……気になっていたことを聞く。
「アノ……トコロデ、ターロトミーヤハ?」
そうなのだ。
何故あの2人がいないんだろ? 彼らもトルゴーンに行くって言ってたのに……?
そう聞くと、マーヤはこっちを見た。
「ああ、あの2人は帝国にいるよ」
「エ? 別行動ナノ? ……ヒョットシテ、喧嘩シタトカ?」
あんなに仲良かったのに……
すると、マーヤは首を振った。
「――違う。あの2人は結婚したから、今忙しい」
ああ、なんだそんなことか。
それなら忙しくてもおかしくな――
「ウエェエエエ~!?!?!?」
「ふふ、声おっきい。久しぶりに聞いた」
マーヤは叫ぶボクを見てクスクス笑うのだった。
それどころじゃないけど!? ないけど~!?




