第85話 空の旅虫、震える。
「ヨーシ、出発シヨッカ!」
「あーい!」
『いよいよ首都ね! 首都だわ~!』
両肩の妖精のテンションも高い!
「ふむにゅ……」
内ポッケの妖精は爆睡中です。
よく寝るねえ、ヴァルは。
アルデアを元気づけようとしたら、強制飲酒で記憶が飛んでから次の日。
二日酔いを寿命半日で消し飛ばして、今日は元気です。
『見ものだったし、妖精2人とのデュエット虫! おひねりいっぱい貰ってたよ~』
や っ ぱ り 。
ボクは結局酔うと歌って踊る宿命なんか……
『むっくんは楽しいお酒ですよね、覚えていないのがかわいそうですが』
ムムム……これは年齢的なのが原因かもしれんね。
だってボク肉体的にはぶっちぎりの未成年だもの。
「黙ってどうしたのナ? 酒が残っているのナ~?」
「ダイジョブ」
アルデアが背中をトントンしてくる。
この子も結構飲んでたけど元気だ。
今日が出発だからセーブしてたのかもしれん。
かしこそらんちゅ!
「楽シカッタヨ、イイオ酒ダッタ。タブン」
「そりゃあ、あれだけ歌って踊ればナ。店先に飛び出して踊り始めた時にはどうしようかと思ったのナ」
そんなことまでしてたんか……
「ワダスも何も覚えておりやせんが、楽しかったような気がするのす~! だどもお酒はやっぱり苦手でやんす!」
ロロンはスヤスヤするだけだったからね。
この先もお酒には気を付けないと……苦手な人に飲ませるのはダメです、ダメ!
「ふふふ、そうですね」
イセコさんは楽しそうだ。
この人はお酒も飲んでたけど全然酔ってなかったねえ。
『途中むっくんとむっさ踊ってたけどね~? 異世界社交ダンス的な?』
『楽しそうでしたね、映像を見せられないのが残念です。最終的にはアルデアさんも踊ってましたよ』
そうなん!? 怒ってないみたいだけど……それは心苦しい。
確認はしない方がよさそうだ。
今は嬉しそうだし。
「おやびん、いこ、いこ~!」
「ア、ゴメン。デハデハ出発~!」
さあ、これから……下山か。
ちょっと盛り下がるけどまあいいか、頑張ろう!
・・☆・・
「調子ガイイ! アカ、大丈夫?」
「だいじょぶ! だいじょぶ~!」
風を切る感触がとってもいい! 流れていく景色も、これだけ早いと最高だ!
「ロロン、ダイジョブ?」
胸に縋り付いているロロンに聞く。
「だ、大丈夫でやんす!」
「ソッカ、シッカリ掴マッテテネ!」
でも心配なので、刃を収納した隠形刃腕でがっちりホールド!
「はひゃあ!? はわわ……!」
おお、もっとガッシリ抱き着いてくれた!
ふふん、これなら安定性もよくなるねえ!
『アルデアさんから伝言! このまま真っ直ぐよ! 魔物もいなくて素敵な空だわ~!』
『はいはーい、了解~!』
先の方に黒い粒が見える……アレがアルデアだね!
――天気もいいし、今日は絶好の飛行日和だ!
歩き出してすぐにアルデアが言ったんだよね。
『この面子なら飛んでいけるんじゃないのナ?』ってさ。
なるほど、確かにそうだ。
ロロンはボクが抱えて飛べるし、妖精たちは全員飛べる。
問題はイセコさんだけど、彼女くらいならアルデアが掴んで飛べるとのこと。
イセコさん本人も、前に仕事の関係でそらんちゅに運ばれた経験があるってさ。
それで興味が出て来たので、実行してみたってわーけ。
ずうっと飛ぶのは無理虫だけど、山頂から降下するならボクにでもできそうだからね。
なので、恐縮するロロンにマントを巻き付けてテイクオフしたってわけですよ。
アルデアは普通に飛んで、ボクはアカの念動力で浮きながら滑空虫となっている。
アカにとっての念動力はこのくらいなら消費は微々たるものらしくって、進化して会得した『魔力再生(小)』で十分カバーはできているようだ。
でも油断はしないよ! リアルタイムでトモさんにモニタリングしてもらってるからね!
「ムーク様こそ、ご無理はなさらねえでくなんせ!」
風の勢いに負けないように言ってくるロロン。
「大丈夫! モシ墜落シテモロロンハ無傷ニスルカラネ!」
「しょっ!? しょげなこどではねえのす~!!」
アレ違うの?
墜落が怖いんじゃなくて?
『(ギリノットギルティ……優しさは大事だし……)』
『(ニブニブ虫ではなく、今度からニブニブニブニブ虫くらいにしておきましょうかね……)』
なんか寒気が! 寒気が!!
「おやびんといっしょ! とぶのしゅき! しゅき~!」
「ボクモボクモ~!」
アカみたいに自由には飛べないけど、進化してちょっとは飛べるようになってきた。
さらにこうして手伝ってもらえたら余計にね!
『むう……風の音が五月蠅くて寝ていられん』
ロロンを包んでいるマントの中から寝ぼけたような念話。
ヴァル……むしろこの状況でよく眠れるものだよ。
『今まさに飛んでるからしょうがないでしょ……どうする? 外に出とく?』
『うむむ……いや、いい。暖かいし、慣れて来た……むむう……』
嘘でしょもう慣れたん?
無敵だなこのフェアリー……
「魔物ばちらほら見えやんすが、空は平和でがんす~……」
地面を見下ろす余裕が出たらしいロロン。
彼女が言うように、大分下の方にゴブリンとかコボルトっぽい影が見える。
「ヤッパリ空ヲ飛ブノッテチートダヨナア……」
「ちーと?」
「アア……トッテモ便利ッテコト!」
「んだなっす~!」
ロロンはキュッと抱き着いてきた。
ロロンは安心できる、ボクは空の上でもあったかい……これって一石二鳥なのでは?
だってお空の上って寒いんよね……どうりで『風詠み』さんはモコモコ着込んでるわけですよ。
今までは短時間の飛行しかしてなかったから気付かなかった。
山越えの時に使った防寒着を着込めばよかっ……あ! あれから進化したから着れない!
補助翼がデカくなったから最悪破いちゃう……! むごごご。
『まあ、むっくんやアカちゃんは魔石で補給できるので凍死の心配はありませんから……我慢ですね、ええ』
そうするしかないのか……
『あーしらはむっくんの雄姿を見ながらトンジルを啜って応援するし! がんばえ~ズゾゾゾ』
あーいいな! いいな~!!
・・☆・・
「アッタケェ……オオオ……」
「あったか、あったか~」『ぬくぬくよ~……ぬくぬくだわ~……』
「ぬくいぬくい……」
マントを羽織って、焚火に当たっている。
こうすると全部あったかいんよね~……
「お待ちなっせ! すぐにスープば出来上がりまっす!」
ロロンは元気いっぱいで鍋を準備している。
ありがてえ……
「こちら、暖かいお茶ですよ」
イセコさんがポットを持ってきた。
この人も元気だね……
「アリガトゴザマウ……ズズズズ」
ほぉお……体の芯からあったまる……
「ムーク、大丈夫ナ? そういえばお前は羽も毛もないんだったナ……」
アルデアはいつもの調子で焚火の横に寝転んでいる。
羽毛と服がある人はいいなあ……
お空を飛ぶこと、半日と少し。
なんとボクらは、麓にある休憩所までたどり着いていた。
いやあ……空を飛ぶって速いなあ。
行きは4日以上かかった道が半日ですよ……
「イセコさんとロロンは大丈夫なのナ?」
「前に経験して慣れていましたので」
「ワダスはその……ムーク様のマントのお陰でやんす!」
女性陣は元気だ。
……あ! 防寒着は無理だけどボク温熱の魔法具持ってたじゃん! 山越えの時の!!
これはウッカリ粗忽虫……!
つ、次からはしっかり使おう!
『あら、オチがつきましたね』
ウグー!
「街の風呂もいいが、この風呂も野趣あふれていてよい……」
「あったか、あったか~……」
「生キ返ル……」
ドラム缶風呂なう。
ヴァルとアカも、そしてボクも全身で堪能している。
ロロンのスープも飲んだし、これでさらに倍率ドンだ!
ちなみにピーちゃんはアルデアと一緒に入りました。
なんかそんな気分だったらしい。
「お主がもっと自由に飛べるようになれば、どんどん遠くまで行けるな」
「ソダネエ、頑張ルヨ」
移動距離が段違いだもんねえ。
飛行機が発展した理由がわかるよ……
「でも、ゆっくりあるくのも、しゅき!」
「むう、確かに旅情はそちらの方があるな……ううむ、痛し痒し」
今は首都っていう目的地もあるし、黒い魔物の件もある。
それが終わったらゆっくり歩くのもいいかな~……
「ブクブク……」
そんなことを考えながら、ボクはお湯に顔をつけるのであった。




