第82話 出発虫、ゆるゆる行く。
「ムーク殿、道中の護衛ができずに申し訳ない!」
「イエイエ、オカマイナク」
見積でガクブルしてから数日後。
ボクらは、野営地の前で騎士団さんに見送られている。
あれだけ大きかったディナ・ロータスは……今やちょっとした残骸だけになっている。
あっという間に解体されて、竜車でどんどん運ばれて行ったんだ。
マジックバッグとかある世界なので、ホント早い。
ハンゾさんは、イーダちゃんと一緒にもうここを離れた。
昨日さよならの挨拶に来てたからね。
またどこかで会えるといいねえ。
……なんか、殺伐としたところでしか会ってないから今度は平和な場所で会いたい虫です。
「まあ、其方らなら大丈夫だろう! 用事が済んだら首都に向かうのだったな? 従妹も喜ぶ故、是非とも我が家に寄ってくれ! 歓待しよう!」
また訪問先が増え……てないな、ジーグンシのお家には元々誘われてたし。
「アリガトウゴザイマス!」
「おねーちゃ、またね、またねぇ!」『お世話になったわ! お世話になったわ~!』
アカとピーちゃんがルツコさんの周辺をグルグル回っている。
「はっはっは! また会おう! はっはっは!」
うーん、カラッとしているなあ。
「ジャ、ボクラハ行キマスネ」
騎士団さんも仕事があるだろうし、いつまでもここに釘付けにしておくわけにはいかんもんね。
「うむ――それでは! 英雄殿の前途に!!」
あっこの流れはまさか!?
「「「フーッ!! ラーッ!!!!」」」
ピエーッ!?
またお見送りだ! まーたお見送りだ!!
落ち着かないからやめてくださぁい!!
『今更ですがフーラー! という掛け声はむしんちゅの古語でして、戦いに赴く英雄への激励という意味があります』
赴かない! 赴きたくなぁい!!
「ほぉおお……はわわ」
ボクをキラキラした目で見るロロンの頭を撫で、出発することにした。
勿論! 騎士団さんに手を振ってからね!
・・☆・・
「ムークのお陰で懐があったかいのナ! 持つべきものは気前のいい親分なのナ~?」
珍しく飛んでいないアルデアが上機嫌だ。
「全部独リ占メナンカスルワケナイデショ。皆デ頑張ッテ戦ッタンダカラ」
結局のところ、ボクがどれだけ断っても無駄だってことは雰囲気で理解してた。
なので……今回の儲けは、ボクの仲間たちの共有財産とすることにしたのだ。
「オラもいただいてしもうて……おもさげながんす」
「追加報酬! 追加報酬デスヨ!」
ダルトンさんは別途振り分けてもらうようにジューザさんにお願いしておいた。
臨時パーティメンバーだけど、無茶苦茶活躍してるし!
「それを言うなら私達がいただくのは……」
「ゴ祝儀! ゴ祝儀デスヨ!!」
そして、有無を言わさずトーラスさん達にも押し付けたのだ。
だってこれから新婚生活なんだからね! お金なんていくらあってもいいでしょ! でしょ!
「まあ、ありがたく受けとっておくのナ。この護衛仕事がなければディナ・ロータスの儲けは発生しなかったのだからナ~?」
トーラスさんを見る目がちょっと厳しいアルデアだけど、デルフィネさんの新生活のためならお金を分けることに問題はないみたい。
やっぱりいいそらんちゅ~。
当然ながら『働いてないのにもらうわけにはいかない!』と固辞されたけど……ボクには必殺技がある。
そう……伝家の宝刀、『エルフさんに聞いた』だ!
『エルフさんに聞いたんですけど、こういうお金はその場にいた皆さんで分けないと災いがあるってぇ~……』と呟いたボクは、きっと悪い顔をしていたんじゃないかな。
表情筋ないけど。
「イセコサンモ、欲シイモノガアレバ何デモ言ッテクダサイネ! ネ!」
「ふふ……はい、承知いたしました」
なおイセコさんには『既に大角閣下から給金をいただいておりますので』というもっともな理由でお断りされました。
そりゃそうか……旅の間にごはんとか奢りまくろう。
なんたって……450万ガルもあるし!
ちなみに減った50万ガルはダルトンさんの取り分とトーラスさんへのご祝儀です! もっと多く取ってくれてもいいのにねえ……どんどん貯蓄が溜まっていくねえ……
ディナ・ロータスさんが高すぎたからいけないんや! ううう……小市民な我が身が憎い。
あと、例の高純度美味しくない魔石も結構いただいてしまった。
全体的な大きさはクソデカビーチボールくらいだった。
それを砕くと、あのボクも知ってる形になったんだよね。
超不味いけど有難くはある……超不味いけど。
「干し肉ばどっさりいただいたのす! しばらくお肉は十分でがんす~!」
それはボクも嬉しい! 嬉しい!
そこだけは手放しで喜べるねえ……!
「おやびん、りんご、どのくらいかえゆ? どのくらーい?」
「好キナダケ!!」
「ほわぁ、しゅごーい!」
アカは頭の上で喜びの謎ダンス。
触角に刺さらんといてくれよ~?
「カネか、ヒトとは難儀なものよな……だが、美味い物のためなら仕方があるまい」
ヴェルは達観したようなことを……内ポッケでぬくぬくしながら言っている。
謎の迫力……
『ソースカツ丼が食べたいわ……食べたいわ……』
反対側にはピーちゃんがスヤスヤ! ボクも食べたいけどまずはノーマルカツ丼を見つけないとねえ……
・・☆・・
「見えているのに遠いのナ~?」
「後顧の憂いは消えやんした。ゆるゆる行ぎやんしょ」
ぱちぱちと音を立てる焚火の横で、アルデアが寝転んでいる。
ロロンは鍋をかき混ぜながらニコニコしている。
野営地を出発して歩き続けること1日。
ボクらは、何の問題もなく街道脇の休憩所に到着していた。
魔物と接触することはなかったけど……これはダルトンさん曰く、ディナ・ロータスがマジギレしながら大暴れしたから弱い魔物はみんな逃げたんじゃないかって。
あんなバケモンが暴れてたらみんな逃げるか……
てなわけで、休憩所。
ここは例のうんちヒューマンがいた所なんでちょっと嫌だけど……なんの呪いも罠もないのはイセコさん(と、トモさん)がしっかり確認してくれた。
安心安全!
「お主は本当に手先が器用だな。見ていて飽きない」
ヴァルが肩に座って、手元を覗き込んでいる。
ボクはといえば、木像をサリサリ。
今日は新しいのに挑戦するのですよ……そう! SDヴェルママに続く新レーベル! SDシャフさんをネ!
ママと違って手が少ないから動きで差を付けなければ……!
『もっとこう……床に座ってさ、股をもっと開いて布でギリ隠す感じで~?』
ご本人から飛んできたあんまりな念話は無視します。
SDスケールに無茶言わないで! そしてあまりにもセクシーすぎますよ!
そんな女神像彫ったらボク死刑にならんか!?
『たまにはこういうのもアリっしょアリ。味変よ味変』
そういうのはもっと敬虔な信者に頼ん……だらショック死されそうだから未来永劫黙っておいて。
「お主さえよければワレを彫ってもよいのだぞ? うん?」
めっちゃ覗き込んでくるじゃんヴァル。
目がキラキラしてるってことは超期待してる感じか。
木像に興味があるのかしらね?
「ウン、ヤッテミタイ。今度作ルネ」
「そうか! ふふ、楽しみだ!」
あらま、上機嫌。
肩の上でゆらゆら揺れちゃってかわいいねえ。
この子、無茶苦茶年上なんだろうけど……洞窟以外のしっかりした記憶がないからちょっと幼く感じちゃうな。
これからはお外で楽しいものをたくさん見て欲しいねえ。折角仲間になったんだからさ。
『ロロンちゃん! 今日の晩御飯は何かしら? かしら?』
「ディナ・ロータスの煮込みでやんす! マルモも芋もごろごろ入れてポモッドで煮込みやんす~!」
『まーっ! 素敵よ! 素敵だわ~!』
テンションの上がったピーちゃんがロロンの方でデュルンデュルンしている。
基本的に嬉しいと毎日アレやってるよね、目が回らないのかな?
「風呂がないのだけが残念だな、ムークよ」
「ホンソレ」
残念ながらこの近くに川はない。
っていうかこの先、ミレドン山脈の砦までロクな水場はないそうな。
絶望的ですよ……お風呂に入れないなんて!
あ、飲む水は大量に確保しているのでカラカラ死する恐れはない。
お風呂に入らなくても死ぬわけじゃないのでね……我慢虫。
「まあ、砦? とやらまでの辛抱か。旅は大変いいものだが、好きな時に風呂に入れないのが難点だ」
「ホンソレ」
「ほんそれ! あはは、ほんそれ~!」
アカはいつでも元気でいいねえ、カワイイねえ。
『アカは何かやりたいことない? お風呂入れないけど大丈夫?』
「おやびん、いっしょ! だいじょぶ! おやびんいると、たのし、ずうっとたのし!」
「ハァアアアアアア! ナンジャコノイイ子! ハァァァアアアアァアアア!!」
このカワイイ生命体めが! めーが!
音速すら突破しそうな高速ナデナデを喰らえーっ!
「あははぁ! んんう、あはっ! きゃーははは!」
「ふふふ、騒がしいことだな」
木像そっちのけでキャッキャするボクら。
呆れたような口調だけど、こっちに向けられたヴァルの目はとっても優しかった。
「チュチュピヨ……チチチ……」「すひゃあ……すひゃあ……」
今日も美味しいご飯を食べ、早めに眠りにつく。
この世界はテレビとかないから、みんな早寝早起きで健康的ですなあ。
満天の星空が見える……あ、今更だけど天幕は女性陣に使ってもらってます。
ボクは異世界寝袋に包まっている。
胸の上ではアカとピーちゃんが寝ていて、じんわりあったか~い。
『今回も大活躍でしたね、むっくん』
活躍したくはなかったけど、急にクソヒューマンと魔物が出たので。
しゃーなし、しゃーなしですわよ。
『げに恨めしきは人族共よ……虫をよくもあのような目に……どうしてくれようか……』
地の底から響くようなヴェルママの念話がコワイ!
落ち着いて! 美味しいものでも食べて落ち着いて!!
『はいメイヴェル様、夜ですが鴨出汁蕎麦をどうぞ』
『ゾゾゾ……やはりカモの出汁とはなんと甘露か……!』
ナイストモさん!
『あー! なんそれうまそう! あーしも、あーしも! お隣ちゃんも夜食っちゃおうぜ~!』
脳内が騒がしくなったところで眠気が勝利し、ボクは眠るのだった。
寝るぞい……ぞぞぞい……
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