第65話 キショすぎるエネミー!
土煙が晴れつつある……ダルトンさんが三節棍をぶん投げてから、反応はない。
あ、ちなみにぶん投げた三節棍は弧を描きながら戻ってきました、血塗れで。
ブーメラン三節棍ってなにさ……
「ダルトン様、先程の魔法はやはり……」
仮想敵の方を窺いながら、イセコさんが呟く。
「んだなっす、アレは戦場で見た覚えがありやんす」
視線を外さず、短く答えるダルトンさん。
戦場で見た!? そ、それってまさか【ロストラッド】のこと!?
ってことは……アーなんとか!?
『アーゼリオン、ですよ。この物忘れ虫』
そうでした!
「――アレはオルクラディの呪法師が使うという、【肉樹の呪い】!」
……違った! アーゼリオンじゃなった!
でもクソ人間の国には変わりがない!
しかし、肉樹……樹木的な意味?
「ナルホド……ソレデアレハ、根ヲ張ルミタイニ……!」
いやーキショかった。
あのまま放っておいたら胴体丸々乗っ取られてたかもしれん。
直撃したのがボクでよかったよ。
『そうですね、あの程度なら寿命20日分くらいで治せましたし』
んんん軽い! と思ってしまうボクがやーだ!
我ながら寿命ぶっぱ回復に慣れ過ぎてしまった弊害ですなこれは……
「アレは魔法でもあり、物理攻撃でもあります。結界を貫通したのはそれが原因でしょう……ムーク様、誠に申し訳ございません……!」
「イイエイイエ、受ケテワカリマシタ。アレハ、ボクナラナントカナリマスカラ」
寿命くんはお亡くなりになるけどね。
間違ってもアカとかに着弾しないようにしないと……
『アカ、ピーちゃんもアレ見たら全力で避けるんだよ。結界も無駄みたいだし』
『怖いわ! 怖いわ! わかったわ!』
『あいっ! おやびん、だいじょぶ?』
寄ってきたアカを撫でる。
『おやびんは素敵で無敵で最強だから大丈夫。頼れるカワイイ子分もいるしね』
「えへへぇ、えへへ~!」
よし、アカのメンタルは大丈夫だ。
この子が本気で逃げたら、地球の対空機銃だって全部避けられると思うからね。
あんなクソキショ肉塊なんかスイスイ~ってなもんですよ。
「おのれ毛無しの邪法師どもめが……ムーク様になんたるこどを……!!」
「二度と同じ轍は踏みません。この世に生まれ出でたことを後悔させてやりましょう……!!」
ロロンが装着している土の鎧が一回り大きくなり、イセコさんの服の袖部分が破れて輝くブレードが出てきた!
ひええ! 2人から漏れる殺気と魔力が尋常じゃない!
「【螺旋大樹】の槍の冴え……見せてやるのナ……!」
アルデアも!?
なんか槍が帯電してバチバチしちょるよ!?
「――動いた! 備えやんせ!!」
ダルトンさんの鋭い声。
それと同時くらいに――土煙からうっすら見える人影が、動いた!
大部分はそのままで――3人ほどが、土煙から飛び出して凄い勢いで走り出した!
体をすっぽり外套で覆っていて、種族も性別もわからない!
こっちに来ないってことは……リーチミ方面に逃げる気か!?
「――逃げた方は私に任せるのナ!!」「アカもいく!」
アルデアとアカが揃って飛び立つ。
行動が早い!
『気を付けてアカ! 何かあったらすぐに呼ぶんだよ!!』
『あい~!』
さて……残りは、どう出る!?
「ロロンさ、『岩鎧』ば常に展開しておくのす。もしもあの呪いば喰らったら、即座に表層を吹き飛ばせば問題ねがんす」
「わがりやんした! ダルトンさは?」
ダルトンさんは生身状態だけどどうするんだろ、魔法使うのかな?
「オラなら叩き落とせやんす。よしんば体に喰らっても、食い込むより先に引き剥がせまっす」
思った以上の脳筋発想だった!
大人で男性のアルマードさんはそんなに自前の装甲が硬いのか……ぶるる。
ボクには比較的スマートに突き刺さったのに……
「イセコサン、大丈夫デスカ」
「問題ありません、全て躱せばよいこと……!」
すごいこと言ってる……!
でも、いつでもポーションで治療できるようにしておこう。
寿命回復はボクにしかできないので。
『ヴァル、ピーちゃんをお願い』
『うむ、任されよう。上空で退避しておる……それと、あの肉塊はヴァーティガには何もできん。躱し切れなければそれで防げ』
ピーちゃんとヴァルが後方へ離脱していく……あ! 残った連中が動いた!
出てきたのは、全部で4人!
残りはバラバラグチャグチャになって地面に散らばっている……ボクのビームとか諸々の効果だね!
控え目に言って大量破壊兵器! 今まで魔物にばっかり撃ってたからわかんなかった。
「――オオオオオオオッ!!」
飛び出して来た4人のうち、一番体格の大きい奴が先頭で走り出した。
「ぬうあっ!!」
それに向けて、ダルトンさんが岩を放り投げる。
メジャーリーガーが絶望して引退しそうな速度で飛んだそれを――先頭の奴は、弾いた!?
いつの間に抜いた武器で!
アレは……ヴァーティガの半分くらいの、棍棒! それも二刀流!!
「手練れか――オラが!」
ダルトンさんが三節棍を握って飛び出した!
残りは3人――奇しくも同じ人数だ!
「ちぇいッ!」「おぉうらァ!!」
ダルトンさんと二刀流棍棒が突進の勢いで激突。
トラックの正面衝突くらいの轟音だけど、2人ともそのままものすごい勢いで打ち合い始めた!
それに見とれている暇がない! なぜならその後ろから1人が空中に飛び出したから!
――速射衝撃波、ショットガン式斉射!!
「ぬうっ――小癪な!」
空中に飛び上がったそいつの体に、衝撃波が立て続けに着弾。
着ていたマントがボロボロになって――千切れた!
「グゥッ!?」
だけど、ボクの方にも衝撃!
手裏剣みたいなものが、ヴィラ―ルさんの結界を貫通してお腹に2つ突き刺さった!
いでで――あ! 結界を貫通したってことは!
ウワーッ! やっぱり小さい肉塊!?
急いで引き抜く! とっても痛い! けど軽傷!!
「コイツハ、ボクガ!」
マントの千切れたソイツが、地面に着地。
それに向かって走る!
「頑丈な虫め――!」
革鎧の上に妙な金属のパーツを付けて、顔を覆面で覆ったおそらく男は……背中から何かを引き抜く。
なんだあれ、取っ手だけの剣?
「ヌゥウッ!」
走り込んだ勢いで、ヴァーティガを横から振るう!
先手、必勝ォ!!
「『天にあれかし! 至上の鎖よ!』」
「ナッ――!?」
男の胴体に直撃するコースのヴァーティガが、光る……鎖? にグルグル巻きにされた!
あの取っ手から急に生えてきた――これは魔法具か!
鎖と、ヴァーティガが魔力の火花を散らしている。
魔力次第でなんとかなりそう――!
息を吸い込み、歯に挟んだ魔石を噛み砕く。
「――『我ガ剣ハ、牙ナキモノノタメ』!!」
どくん、とヴァーティガが脈動。
鎖に巻かれた隙間から、蒼い光が空間に漏れる!
「なにっ!? この魔力ァ!?!?」
ハイ隙アリ! 左手三連パイル発射ァ!!
同時に放ったパイルが、男の胸に激突! 虚空で回転しながら火花を散らす――結界!
「驚かされたが、この程度なら――」
「――オウッリャアァ!!」
両足で踏み切り、滞空しているパイルに――ドロップキック!!
足裏で棘を押し込んで――両足パイル、追加連続発射ァ!!
――ばぎん、と音。
男が展開していた結界が、明滅して崩壊。
次の瞬間には、合計5本のパイルがその胸に食い込んだ!
「――ごっは、あぐ!?」
男は血を吐いて後方に吹き飛ぶ。
その途中で、取っ手から手を放した。
一瞬光って、鎖は消えた。
よし!
男は地面をゴロゴロと転がり、倒れ込む。
……油断はしないぞ! だってパイルは食い込むだけで貫通してないから!
だから――!
「『汝ガ怨敵ハ、眼前ニ在リ!!』」
魔力を注ぎ込んだヴァーティガが、表面の文字も、紋様も全て輝かせ始める。
蒼くって、優しい光に!
「おの、れ――」
よろり、と立ち上がる男に向けて――
「『吠エヨ! ソノ名ノ如ク!!』」
突きを放つように、真っ直ぐヴァーティガを突き付けた。
その先端から――渦巻く魔力が、真っ直ぐ放たれる。
「『呪われよ』ォオオオオオオオオッ!!!!」
男は身震いして――ウワー!? 鎧の下の皮膚から! 肉塊がドバーって出てきた!?
散々投げてきてたのって、まさかコイツの肉だったのか!? キショい!!
だけど――!
「ソンナ気色悪イモノガ、相棒ニ勝テルワケナイ、ダロ!!」
魔力追加! 追加!! 追加!!!
ヴァーティガがさらに震え、蒼白い魔力の奔流が激流となって放たれる。
「馬鹿、な――!?」
それは、悍ましい肉塊を残らず蒸発させて――肉塊を放った男の上半身を一瞬で飲み込んだ。




