第59話 不穏はノーサンキュー!!
「ディナ・ロータス、デスカ」
必死で土に手を押し付けつつ、ボクは言う。
いや! 臭くもなんとないけど! やっぱりうんちはうんちなので!!
ンモ~! なんだようんちならうんちらしくしといてよォ!
「んだなっす。トルゴーンの北部にはよぐおるとは聞いておりやんしたが……」
「森の方に続いておりますね。この感じだと……半月は前のものでしょうか」
トモさんトモさん、例のカメさんって強いんよね?
『ええ、前にも言いましたがまず体が10メートルほどと大きく、そして体表面は魔法に対して驚異的な防御力を誇ります。ブレスは土石流に酷似していて、魔法防御だけでは防ぎきれません』
ひぇえ……
『また大きいので純粋な防御力も高いです、肉弾戦で攻める場合も苦戦しますよ? もし倒すことができれば、素材として高く売れますがね』
うひょお……この世界、強い魔物多すぎ問題じゃよ。
……大地竜とどっちが強いのん?
『ケースバイケース、と言っておきましょう。どちらも強力な魔物には変わりありませんが』
にゃ、にゃるほろ……
「まあ、これがディナ・ロータスでまずは良かったと言いましょうか……」
「んだなっす」
「エ、ナシテ?」
超強い魔物じゃないの!?
「ああ、ムーク様はご存じないのですね……かの魔物はたしかに狂暴ですが、進路にぶつからなければさほど脅威ではないのです。基本的に街道筋で人を襲うよりも、森の中で魔物を喰らうことの方が多いのですよ」
「不意に出会っても、先に手ば出さねえと戦いに発展するのは稀でやんす……相手が空腹や若い個体だった場合は別だども」
あー、それなら安心……じゃない!
最後にとんでもない爆弾をお出しされた!
ど、どうか満腹でヨボヨボのお爺ちゃん個体でありますように~!
「おやびん、お~やび~ん!」
思わず祈っていると、アカが飛んできた。
「ごはん、ごはんできた、できたぁ~!」
「ハーイ、アリガト」
肩に着地したアカを撫でる。
「食事中に皆様に話しましょう。明日からは偵察を密にせねば……」
「オラも一層気を張っておくのす。んだども、まずは腹ごしらえばせねば」
それには全力で同意する。
腹が減っては戦ができぬ……って言うし。
まあね! まず戦をしたくないんだけどね!!
・・☆・・
「じゃじゃじゃ、なんとはあ……大事だなっす。あ、ムーク様、どんぞ」
「アリガト」
湯気を立てるお椀が渡された。
今日の煮込みも美味しい! なんたって……味噌を使ったからネ!
前世の概念とはちょっと違うけど……味噌の匂いだ!
具は豚っぽいお肉に異世界タマネギ、それにサトイモみたいなのとダイコン!
「ズゾゾ……ンマイ! 美味シイ! 超オイシイ!!」
豚汁だ! 豚汁っぽいアトモスフィア!
美味しい~! コンニャクや油揚げはないけど、十分美味しい!!
「えへへ……が、頑張りやんした!」
ロロンは顔を真っ赤にして喜んでる。
命拾いしたね……今が食事中じゃなかったら発火するくらい撫でるところだよ!
「ほう、これがミソとやらか……ズズズ……ふむ、ふむふむ」
何やら頷きながら啜るヴァル。
気に入ったみたいだ。
『お味噌! お味噌だわ! 懐かしいわ~! お鍋一杯飲めちゃうわ~!!』
ピーちゃんは……うん、半分突き刺さって飲んでる。
もはや具の一種みたいになってるよ……熱々なのにさ、凄いや。
「んくんく……おいし! おやびん、アカ、これしゅき!」
そして基本的になんでも美味しくいただけるアカ。
当然気に入ったみたいで、スプーンを握って目を輝かせている。
「ううむ……懐かしい味がしやんす。ロストラッドを思い出しやんすな……」
ダルトンさんも気に入ったみたい。
まあね! 味噌は美味しいからね!
食べなれてるっぽいし!
「本当に美味しい……ロロン様、こちらはどのように下処理を?」
「じゃじゃじゃ、ムーク様が倒された藻の魔物で出汁ばとったのす。ぐうんと味がよくなったのす!」
ああ、あのワカメのオバケか……ビックリしたけど、この味のためなら後悔はないネ。
「肉の脂が溶け出しているのナ。体も温まっていいのナ! 酒が欲しくなるのナ~!」
お外では飲酒を我慢するアルデアが偉い!
「温まるのナ……」
「疲れが解けていくみたいだね、美味しい……」
トーラスさん達も大丈夫そう。
これで明日も頑張って歩いてほしいねえ。
魔物はボクらがコロコロするからさ!
それにしても……むっちゃ美味しいけど欲しいものが増えるなあ。
首都に行ったら七味とかコンニャクも探さないと!
さっちゃんさんが伝えててくれないかなあ……
・・☆・・
「明日からの行程も同じようにしましょう。街道をゆけばディナが接近しても気付けるハズです」
「ん、私も飛びながら森の方を重点的に見張るのナ」
「オラが前に出やんす。ロロンさはムーク殿たちと最後尾の方がえがんすな」
「んだなっす、殿はお任せくなんせ。何ぞあればその時はワダスがお2人を守りつつ下がるのす」
本当は食事をしつつ話をする予定だったけど、豚汁が美味しすぎたので食事に集中することにしたんだ。
それで、トーラスさん達には先に休んでもらって……焚火を囲んで、作戦会議なう。
「んにゃあ……すひゃあ……」
『味噌おでんが食べたいわ……食べたいわ……』
アカとピーちゃんは、ボクが脱いだマントに包まってスヤスヤ。
味噌おでんか……いいね!
「魔物の接近はワレにもよくわかる。大きな反応があれば即座に伝えよう」
ボクの肩に乗ったヴァルが、干し肉を齧りながら言う。
この子むっちゃ豚汁飲んでたのにまだ食べる……なるほど、ヴァーティガが魔力をチューッ! するのはこの子が原因だったのかもしれんね。
「おいこら粗忽者、何を呆けておる。アレか? ワレの煽情的な体に目を奪われておったのか? それならまあ、許してやらんこともないが……」
「イヤ全然痛ァイ!?!?」
おごごご……ほっぺたにヴァルビンタが……!
「女の扱いを知らぬ小僧め……ふん」
何かが気に障ったのか、ぷんぷんしているヴァル。
干し肉を齧る速度が上がった! 在庫出しとこ。
「ハイドウゾ……」
「ぬ、苦しゅうない」
お殿様か何かだろうか?
「ヴァル、ムークはひょっとしたら動く木か石かもしれんのナ」
「むぐむぐ……ふは、ありえなくはないな」
ありえないでしょ!
ンモーッ! アルデアったら! ヴァルったら!
「ははは、この様子なら大丈夫なっす。しぇば、今晩は早ぐ寝て明日に備えるのす」
ダルトンさんが笑って立ち上がる。
おっと、ボクも見張りせんとな。
「ヴァルハドウスル? 寝トク?」
「ふん……仕方がないから付き合ってやろう」
これがツンデレという概念ってやーつなのかもしれない。
ぶん殴られるのが嫌だから口には出さないけどもね~。
「……周囲に小物の気配がない。散ったか」
そして、今日も夜警虫なう。
ふと、肩のヴァルが呟いた。
『散った?』
「うむ、強力な魔物に追われたのだろう。どこかへ逃げ去ったようだな」
強力な魔物……
『ディナ・ロータスかな?』
「その方が良いがな。そうでなければ、別口の大物がいるということになる」
嫌すぎる……それは。
『まあ……やるしかないけどね、いるならさ。出会わないことを祈るけど』
「覇気がない男だな……まあ、逃げることだけはせんだろうが」
そりゃあね、そりゃあ。
逃げるとしたら一番最後ですよ。
『安全なら逃げるよ。そうじゃないなら……頑張る!』
「んふふ、良い心がけだ……おや?」
ヴァルがニッコリ笑った後、眉をひそめた。
『どしたの?』
「いや、お主の可愛い子分だぞ」
見ると、天幕の方からアカが飛んできた。
あれ? 起きちゃったんかな?
「おやび~ん……ふわぁ」
欠伸混じりのアカは、肩に着地して首に抱き着いてきた。
こしょばい。
『どうしたの? なにかあった?』
「むいむいむい……」
顔をごしごししているアカ。
猫ちゃんかな? マーヤを思い出すねえ。
「んゆう……アカ、おやびんと、いっしょ、ねゆぅ……」
へちょ、と体重を預けてくるアカ。
「なんとも、いじらしい子分じゃないか? ええ、親分?」
それを愛おしそうに見つめているヴァル。
『街を出てから一緒に寝てなかったからなあ……』
夜警の順番とかあったしね。
いやあ……悪いことしちゃった。
「ゴメンネ、アカ大好キ」
「んへへぇ……アカも、アカもぉ……」
アカを撫でると、指に抱き着きながら彼女は眠り始めた。
は~~~~~~~……なんじゃ、このかわいい生き物ォ………




