第38話 帰り道の収穫。
「おーし、今日はここで引き上げだ」
「えっ」
お昼ご飯を食べて、休憩して。
その後少し採取をして……ヴィクセンさんはそう言った。
ポチくんは採取した薬草を大事にバッグに入れつつ、ぽかんとしている。
「まだ早いんじゃないですか? 食事もして元気ですし……」
ごもっともだと思うけど、ボクはヘルプ虫なので黙っておく。
「おいおい、こっから街までの距離と現在の空模様を考えろ。今帰らねえと雨に降られるぞ?」
「あっ!」
ムムム。
……言われてみれば曇り空だ。
全然考えてなかった……
「まず何よりも無事に生きて帰るのが第一だ。依頼達成も大事だが、それは時と場合による……だいたいの依頼ってのは1日で終えろって制限はねえんだよ。だから、自分の体力と周囲の状況から判断して撤退するのも大事だ」
「なるほど……わかりました!」
さすがは先輩冒険者だ、勉強になる。
僕はイレギュラーな感じで冒険者になったから、こういう所はてんで駄目なんよね。
基本的にロロン頼りの虫です、ハイ。
『情けな虫……』
甘んじて受けます~!
頼れるところは頼る! おやびんなので! なので!
「体力温存ッテ大事ナンダネ……」
横に立ってるロロンに呟くと、彼女は小声で答えてきた。
「んだなっす。ムーク様は魔石ば齧って回復しやんすが、それはムーク様のような限られたお方だけでやんす」
……そうでした、レア虫でしたボク。
欠損も魔石バリバリで治るバケモン虫でもありました。
「……アノネ、旅ノ途中デ疲レタライツデモ言ッテネ? オンブスルカラネ」
「じゃじゃじゃ、ええと……その、はい。そうなったらその、お、お願いいたしやんす……」
ロロンはちょっと恥ずかしそうにもじもじしつつ、そう言ってくれた。
なにこのかわいいアルマジロさん。
でも言質取ったよ!
まあ、ロロンはボクよりよっぽどしっかりしてるからそうなる前に休憩しよって言ってくれるだろうけどね。
いつでもおんぶできるように背中を温めておこう。
『次の進化じゃ背中に電熱線追加されるかもだし~! あひゃひゃ』
やだよそんな家電虫。
歩くだけで爆笑されるじゃん。
「ムークさん、帰りはアンタらが後詰だ。カリーナと一緒に後方の警戒を頼みたい」
「了解デス。妖精タチハコノママ上空ニイテモライマス」
アカとピーちゃんはお空で散歩しつつ哨戒中だ。
後で指示を飛ばしておこう。
「カワイイし戦えるし、偵察もできるなんて素敵ねえ。私も妖精の仲間が欲しいわ~」
「欲しいどころか出会えることもねえしな、珍しいぜ。妖精ってのは特に人族のクソ共が目の色変えやがるからな……気を付けなって言いたいが、あのアカちゃんなら大丈夫だろ。魔法でクソ盗賊なんぞ穴だらけだ、がはは」
ヴィクセンさんも人族嫌い派閥だった!
嫌いな人の方が多いだろうけども。
「アノ~、人族ト戦ッタコト、アリマス? ボクハ何度カヒドイ目ニアイマシタケド」
歩き出したヴィクセンさんに声をかける。
「あるある! 何度もな。俺ァ帝国で生まれたんだがよ、北寄りの辺境だったせいでオルクラディのクソ共がよくちょっかいかけてきたんだよ」
へえ、この人も遠くから来たんだなあ。
「アーゼリオンはロストラッドとドンパチしてるが、オルクラディはもっぱら奴隷目的で帝国辺境までやってきやがる。獣人ってのは男も女も力持ちだからな、力仕事させるにゃもってこいみたいだな……クソが」
「私も帝国出身よ。住んでた村も奴隷狩りにやられたわ。身なりは汚かったけど、数は多いし練度も高くて、たぶんあれは訓練を受けた騎士だろうね……撃退はしたけど、爺ちゃんが死んじゃった」
お、おう……2人ともなんという修羅場だ。
やっぱりクソ人間の比率が高いんだな……北と東は。
絶対に近付きたくない。
「ソレハ……辛カッタデスネ」
「そうね……盗賊の群れに突撃して100人殺して相打ちよ。皇帝陛下からお褒めの言葉をいただいたから、それだけはよかったけどね~……一族の誇りだけど、やっぱり悲しいわ」
つっよ。
訓練された騎士を100人!?
それに皇帝陛下だって!?
……あれ、トモさんトモさん。
グロスバルド帝国ってたしか議会制民主主義じゃなかった?
『はい、ですがそれとは別に皇帝という方がいらっしゃいます。これは政治的に権限のない名誉職のようなものです』
お、お~?
日本の天皇陛下みたいな感じ?
『いえ、皇帝は血筋ではなく……『最も強い個人』が選ばれます』
……ほえ?どゆこと?
『『武神祭』という……帝国全土から集まった勇士が一堂に会する格闘トーナメントがありまして。皇帝陛下はその勝者です』
スケールがデカすぎる……
『10年に1度開催されまして、10年間皇帝とされていますね。私の情報ではあまり詳しくはわかりませんが……出場できるだけでも英雄とみなされるほどの栄誉だとか』
ところ変わればってやーつだ。
異世界は広いなあ……
「ムーク様、ムーク様ぁ。どうなさりやんした?」
「ナンデモナイ~」
いけないいけない! こっちにも集中せんと!
無事に帰るまでが遠足……じゃない! 冒険者!!
・・☆・・
『むっくん、上空、2時の方角!』
はあい!
『アカ、ミサイル!』『あいっ!』
視界の隅から光るミサイルが飛び、炸裂。
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
そして悲鳴!
そこに向けて――左手パイル、全弾シュートだ!!
アカのミサイルによって閃光が走った場所に、狙いを外さずに突撃する棘!
肉に刺さる湿った音と悲鳴が聞こえる!
「いっただきぃ!」
横にいるカリーナさんが、両手に持ったクロスボウを同時に放つ!
二丁クロスボウから放たれた矢が、空中の影に殺到!
「ギャオオオオオッ!?!?」
影……オオムシクイドリが悲鳴を上げ、地面に落下してくる!
すっごい! 同時に翼を射抜いた!
「っしゃ任しとけ!!」
地面が爆発するみたいな音がしたと思ったら、残像みたいな速さで駆け抜けていくヴィクセンさん!
はっや! 身体強化魔法だ!
「ガァアアア――!」
だけど、墜落しながらオオムシクイドリが口を開いて――ブレスが、来る!
「させねえッ!!」
あの両手斧が、ブーメランみたいに飛んで――オオムシクイドリの上顎に突き刺さった! 口が閉じる!
「オオオオオオオオオオオオッ!!」
一切減速してないヴィクセンさんが、そのままの速度で地面を蹴る!
そして斜めに跳んで――
「――っぜやぁ!!」「――ッギ!?!?」
踵落とし! オオムシクイドリの眉間に踵落とし~!
すっごい! 格闘ゲームみたい!
オオムシクイドリの頭が地面にめり込んじゃった!
「ヌウウウウ!」
足を乗せたまま、ヴィクセンさんが突き刺さった両手斧を引き抜いて――
「ウオオオオオオオラオラオラオラオラオラオラァ!!」
ええっと……物凄い勢いで、あの大きな両手斧をオオムシクイドリの顔面に延々と振り下ろし続けている。
わ、わわわ……血が、血がもうなんか、噴水!
それどころか挽肉がバンバン飛び散ってるゥ!?
「なんたる武者振り……!」
ロロンがバイオレンスに目を輝かせている間に……オオムシクイドリは成仏した。
「あーあー、牙と目玉も売れるのに勿体ないの~。頭ないじゃん、もう」
カリーナさんは呆れている。
「す、すごい……!」
ポチくんは尻尾をブンブン振り回している。
みんなバイオレンスに耐性あるねえ……
『冒険者ですからね。さて……周辺に気配はありません、どうやらまだ若い個体だったようですね』
帰ってたら急に襲ってくるんだもんね、オオムシクイドリ。
そんなにボクが美味しそうだったのかな……まあいいけど。
種族全体に恨みがあるからねえ! ボクは!!
「捨てて行くにゃもったいねえ! カリーナ、バッグから荷車出せ! 解体すんぞ~!」
「はいはい」
カリーナさん、マジックバッグ持ってたんだ。
虚空からぱっと荷車が出現する。
ボクも持ってるけど、何回見ても不思議な光景だな~。
「お手伝いいたしやんす! ムーク様は警戒をお願いいたしやんす~!」
「ハーイ」
ロロンが解体用ナイフを抜き、ダッシュ。
んじゃ、ボクは周辺警戒せんとね~。
「坊主~! 見学しとけ~!」
「は、はいっ!!」
おお、勉強熱心なポチくん!
「アカ、上ヨロシク~!」「あい~!」
ボクが地上、アカが上空の警戒。
トモさんレーダーもあるけど、油断は禁物だよ!
『焼肉だわ! 焼肉だわ~!』
非戦闘員のピーちゃんは、いつの間にかボクの肩で踊り狂っている。
焼肉は最高だからしかたないねえ!
・・☆・・
「奉仕依頼様様、ムーク様様だぜ、がっはっは!!」
「妖精ちゃんたちもね! ほんと、おとぎ話みたいな幸運の使者よ~!」
解体し、売れるところ以外を埋めて出発。
細かい取り分の計算なんかは冒険者ギルドですることにしたので、雨が降る前に急いで移動することになった。
「おもさげながんすぅ……」
「ナンノナンノ」
解体をそれはもう無茶苦茶頑張り過ぎてヘロヘロになったロロン。
ボクはそんな彼女をおんぶして、警戒を続けながら荷車を追うのだった。
いやー、最後の最後にいいことがあったね!




