第37話 ヘルプ虫、がんばる。
「オウリャア!」「ギグ!?」
上から振り下ろしたヴァーティガが、ゴブリンの粗末な兜と首をクシャっとする。
頼れる相棒は今日も頼れる!
「おーし! コイツの後ろの1匹、通すぜェ!」「ギッ!?!?」
横にいるヴィクセンさんが、斧の側面でゴブリンの頬をぶん殴った。
ひい! 首が捥げたァ!?
「通せェ!」「ハイッ!」
「ゲギャギャギャギ!」
左右に分かれたボクらの間を、半ばパニックになったゴブリンが走り抜ける――くしゃい!
移動式動物園みたいな臭いがする! それが何かはわかんないけど!!
「さあ、来るよポチ! 男見せなさーい!」
「はいっ!」
ポチくんが盾を構えてゴブリンを待つ。
「ガギャギャギャギャ!!」
走り込んだ勢いでゴブリンが棍棒を振り下ろす。
それを、慌てずに盾受けするポチくん。
棍棒が接触した瞬間に、下方向へ捻って逸らした! すごい!
「でい――やっ!!」「――ハバ!?」
そして、次の瞬間には下から翻ったロングソードがゴブリンの首を斬り上げた。
8割くらい切れた首から、盛大に血が噴き出る。
おー! すっごいワザマエだ!
「やるじゃねえかよ……新手だ!」
「オット!」
そつのない……というか技術的にはボクよりも上手の剣技に見惚れていたら、森の奥からまた影!
あの犬笛みたいなのって結構遠くまで聞こえるのね!
「おやびん! アカもてつだう、てつだう~!」
上空にいたアカが肩に着地してくる。
あ、それなら……
『アカ、進化して使えるようになった肩のやつ使える?』
『あいっ! みてて、みててぇ!』
こっちに走ってくる新たなゴブリン。
それを見ていると、アカの肩にあるでっぱりがジャキン! って伸びた!
伸びた部分は途中から折れて、正面に向く!
「おお!? なんだそりゃすげえな!」
ヴィクセンさんが思わず目を丸くする横で――アカの魔力が筒状になったでっぱりの先端に集中していく!
「みゅんみゅんみゅ――えぇ~いっ!!」
音にすると、たぶん『きゅおん』
そんな感じの音が響いた瞬間には――ボクに向かって走っていたゴブリンの胸に、野球のボールみたいな穴が2つ等間隔で空いた。
「ッバ!? ァ……!?」
目を見開いたゴブリンは、血を吐いて前のめりに倒れる。
あれがアカの新技、『魔素凝縮光砲』!
おー! すっごい! まるでレーザーキャノン!
「えいっ! えいっ! え~いッ!!」
連射。
音がするたびに、こちらへ向かってくるゴブリンの胸やお腹に穴が空く。
充填から発射までが早い! トモさんが言ってたみたいに、まるで速射砲だ!
「……たまげたな、全部殺しちまった」
ヴィクセンさんが呟く……今、新手の最後の1匹が額を撃ち抜かれて倒れた。
「みゅ~……ちかれた」
へちょ、と首に体重を預けるアカ。
あら、結構疲れてるのね?
『ミサイルと同じくらいの威力ですが、こちらの方が魔力消費が多いようですね。むっくん、魔石を』
あ、はいはい。
マントから魔石を取り出してっと……
「ア~ン」
「あんぐ、めめむ……ぼきぼき、おいし、おいし~!」
無味無臭なんだけどなあ、魔石。
アカの味覚は謎に満ちてるねえ。
本当に美味しそうに齧ってるし。
『すごいわすごいわ! 早撃ちだわ~!』
避難していたピーちゃんが嬉しそうに寄って来た。
いかんいかーん! ボクも褒めねば!
「スゴーイ! 世界一! 世界一カワイイシ強イ! エエ子エエ子!」
撫でる撫で~る! ついでにピーちゃんも撫で~る!
「んにゃあ、んへへ、えへぇ~!」
元気になったアカが頬にゴンゴン頭をぶつけてきてカワイイ!
進化を経て硬くなった装甲が地味に痛いけども!
「妖精ってのはすげえんだな……今の魔法? 目で追うのがやっとだったぜ」
ごきり、と首を鳴らすヴィクセンさん。
へへへ、ウチの子分は凄いでやんしょ~?
「だがな……ちょっと殺し過ぎだな? もう『在庫』がねえや」
「アッ……」
死屍累々のゴブリンたち。
そ、そうだった……ポチくんの訓練だった、これ……
「ごめなしゃい!」
「お? あーあー、気にすんなよお嬢ちゃん! 河岸を変えればいいこった、がはは! ゴブリンなんざいっくら殺してもいい! うん、がははは!」
申し訳なさそうに謝るアカに気付き、ヴィクセンさんは慌てて頭を撫でた。
いい人~! やっぱりいい人~!
・・☆・・
「一撃で倒そうとし過ぎることがたまにあるな。その心意気はいいんだがよ、実戦じゃ敵は1匹ずつお行儀よく来やしねえんだ。わかるか?」
「はいっ!」
「目の前の敵を殺すのに気を取られ過ぎてると、後続にやられるぞ。その場その場で無理なく斬れる場所を選べ、いけそうなら殺して、無理そうなら深手止まりでもいいから次に行け。大事なのは動きを止めねえこった」
「はいっ!」
ぐつぐつと煮える鍋からいい匂いがしている。
ヴィクセンさんがポチくんに駄目出しというか批評? をしている傍ら、ボクは木像を彫っている。
そしてロロンはボクたちのお昼ご飯を作ってくれてる。
今日はトマト仕立てのごった煮ですか~……これ好き!
っていうかロロンの料理は全部好き!
あれから場所を変えて、ポチくんはゴブリン、森狼、そして地竜と戦った。
ボクからしたらそつなくこなしてたように見えたけど、色々アドバイスすることってあるんだねえ。
「干しポモッドでもいい香りになるのね~? なにか秘訣でもあるの?」
「水からじっくり煮るこどでやんす。それと、色の濃い干しポモッドがうめえのす!」
カリーナさんはロロンとお料理談議。
そんな2人の近くではご飯が待ちきれないピーちゃんがぐるんぐるん体を回している。
「おやびん、これめいべ……めい~?」
今彫ってるのはSDヴェルママ。
アカも知ってるけど、口が上手く回らないみたい。
……あ、そうだ。
ヴェルママってばむしんちゅ全てのママだから……
『ねえアカ、ママって言ってみ、この人はママ!』
「まま? まぁま! まま~!」
言いやすかったのか、アカはニコニコしながら木像にご挨拶。
あ~かわええんじゃ~! 空前絶後のかわいさなんじゃ~!
『メイヴェル様が昏倒なされたぞ!?』『おのれどこの邪神の呪いか!!』『いや待て満面の笑みだ! またどこぞの子供の成長に感動なさっておられる!!』
『あ~だいじょぶだいじょぶ、起きなきゃ水ぶっかけりゃいいっしょ~』
……どうしよう。
思った以上のおおごとになっちゃったんですけど……
『これよくあるからだいじょぶよ、むっくん。この前母親の病気が治ったからってギャン泣きしながらむしんちゅキッズがありがとうありがとうしてた時は倒れ込んで柱ぶち抜いたからね』
お、おう……
むしんちゅ愛が強すぎるんじゃ……
『なんと……いとおしい……ちいさな……むし……』
寝言みたいな神託が!?
『メイヴェル様~、全長100メートルのエホーマキ、完成しましたよ~』
トモさん何してんの!?
なんでそんなギネスに挑戦するみたいなことを……! ちなみに具は!?
『サーモン、イカ、卵にマグロと紫蘇ですね』
おいしそう! おいしそう~!!
『前に冗談で3メートルのエホーマキを作った所一瞬で完食されましたので。これならば虫人の神々で分けて美味しく食べられるというわーけです』
トモさんが出張料理人みたいになってる……
『女神トモだ!』『並べ並べ! 切り分けるぞ~!』『いつも申し訳ございません!』
『いえいえ、私のような一般女神にそのように頭を下げなくとも……あ、ちらし寿司も特大桶に10個ほど作成しましたので』
『んほ~! トモちん愛してる~!!』
……なんというか、トモさんも人気者になってよかった。
零細OLじゃなくなったねえ、ボクも嬉しい!
『なんですか! そんなに褒めてもポイント5倍期間は過ぎましたからね! 今日は3倍ですよ!』
そ、そうなんですか……
「あの、見てもいいですか?」
「ア、ドウゾドウゾ~」
脳内に気を取られている間にアドバイスは終わったみたい!
目の前にポチくんがいて、並べた木像を面白そうに見てる。
その後ろにはヴィクセンさんも。
「器用だねえムークさんよ……おお! コイツはなんとも大美人な女神様じゃねえか! 寡聞にして存じ上げねえが、どちら様だい?」
「月ノ女神、シャンドラーパ様デス」
今までに見た女神様は全員ストック済なのですよ、ふふふ。
「へえ、月のねえ……北の方で信仰されてるってお方か。ほお……こんなに別嬪さんとはなァ……!」
「こちらは女神ティエラ様ですね! 凄いです、今にも動き出しそうで!」
ポチくんにも好評みたい。
ボクの腕も捨てたもんじゃないですなあ。
「このちっせえのは……メイヴェル様か? こりゃまたなんとも可愛らしいな」
「まま、まーま!」
アカがSDヴェルママをハグしている。
「ママ? ああ、虫人全ての母って言うもんなあ、なるほどそいつはいい! 俺もこんな美人の母ちゃんが欲しいねえ……ウチのおふくろときたらオークを素手で殴り殺せるんだから……」
すごいお母様ですねえ。
ヴェルママもデコピンで山とか消し飛ばしそうだけど。
「気ニイッタ? アカ」
「きれえ、うで、いっぱい! おやびんといっしょ! ママ、ママしゅき!」
ボクがいつも感謝してるって言ったからか、アカの反応もいいねえ……
『 な ん と 愛 お し い 虫 か ! ! 』
『ウワーッ!? 柱が砕けた!?』『馬鹿な!? お声だけで!?』『メイヴェル様お気を確かに! コメが飛び散りまする~!!』
あ、あああ……ごめんなさい神々! 許しておくんなませ!!




