第36話 冒険ヘルプ虫。
さりさり、しゃっしゃ。
ベンチに腰掛け、彫刻刀を動かす。
「じょーず、じょーずぅ!」
「ンヘヘ、アリガト」
肩から手元を覗き込んでいるアカが褒めてくれる。
いっぱい嬉しい。
『器用ね! とっても器用だわ!』
「エヘヘ」
アカの横にはピーちゃんがいて、同じように褒めてくれる。
ボクのあるかないか微妙な承認欲求が大満足している……!
「ムーク様の腕前、日ごとに進歩しておりやんす!」
「ムヘヘヘ~モシャシャ」
ロロンまで褒めてくれるから、もう我慢できぬ。
全員を片手で撫でまわす虫と化す、ボク!
「はわわ」「んへへぇ」「チュンピ!」
はー……いい子ばっかりな仲間たちよ。
っていうかそろそろいらっしゃるくらいかな?
なーんて思いつつ彫刻刀をさっさ、しゃりり。
「おう、早えな」
あ、来た。
顔を上げると、道を歩いてくる3人の姿。
「ドウモ~」
手を上げてきたのは……この前知り合ったヴィクセンさんだ。
ムッキムキの虎さんで、皮の鎧を着込んで背中には冗談みたいなでっかい両手斧を持ってる。
大木でも切り倒せそう……
「ヴィクセンが誘った人たち? あら〜、カワイイ子が3人も!」
ヴィクセンさんの後ろには……虎っぽいおねえさん。
ケモ度は60%くらいかな? 皮鎧から覗くというか丸見えの腹筋がバキバキです。
強そう……バレリアさんを思い出すねえ。
武器は、背中に背負った……ボウガン! 2丁もある!
エンシュの衛兵さんが使ってたのより一回り以上大きいや……
腰回りにはそれ用の、矢っていうかもう剣みたいなのが入った筒がぐるっと装備されてる。
前衛に見えるけど後衛さんなんだ……
「あ、助っ人さんですか? こんにちは、よろしくお願いします!」
そして最後の1人……この人も獣人さんだね。
ちょっと柴犬っぽいお顔の男の人だ。
武器は剣と盾で、新品っぽい革鎧を着ている。
クルクルの尻尾がかわいい!
「コンニチハ、ムークデス」「アカ、でしゅ!」『私はピーちゃん!』
「【跳ね橋】のロロンと申しまっす!」
ボクらは全員立ち上がって頭を下げた。
今日は、ヴィクセンさんに誘われた奉仕依頼? の助っ人としてやってきた。
宿から歩いてすぐのギルド前で待ち合わせってわーけ。
近所に何でもあるなあの宿……便利!
イセコさんとアルデアはお留守番です。
護衛対象のお2人がね、全身の筋肉痛でダウンしているのでね……
旅の最中は無理やり歩いてたみたいで、街に到着するなりベッドから下りられなくなっちゃったんだって。
アルデアは『惰弱……』なんて言いながらもお友達は心配なようで、お世話をしている。
なんたって2人とも全然動けないみたいだからねえ。
デルフィネさんなんか担いでお風呂に入れてあげたんだってさ。
トーラスさんはなんとかゆっくり動けるみたいだから、プルプルしながらご飯を食べてた。
絶望的に体力がない……この先大丈夫なんかなあ?
ま、そういうわけでこういう布陣になった。
イセコさんがいれば安心できるしね……悪いなあ。
「キャーかわいい! アタシはカリーナよ、よろしくね~!」
早速飛んでいった妖精2人とキャッキャしているのは、クロスボウのおねえさん。
これはどう見ても善人……
「僕はポチといいます! 改めてよろしくお願いしますね!」
柴犬くんはロロンよりも少し年上って感じかな……って、ポチ!?
いきなり、なんというか地球的な名前が……
「じゃじゃじゃ、ポチさんでやすか! もしやそのお名前……?」
「あはは、やっぱりわかります? 名付け親が英雄に目がなくって……でも、名前負けしないように頑張りますよ!」
ぐ、と気合を入れるポチさん。
え、英雄?
『【忠義の騎士】ポチ将軍から取ったのでしょうね。むっくんにわかりやすく言いますと、巫女と共に邪龍を討ち果たした英雄の1人ですよ』
クソヤバドラゴンを倒した人たち!?
『ええ、現在の【ロストラッド】にある首を討った方ですね。名刀【そらをたつもの】を携えた大英雄ですよ、トモさん調べでは獣人、特に犬っぽい獣人さんならかなりポピュラーなお名前ですね』
ビックリせんでよかった……そんなに由緒正しい名前だったのね。
『故郷から加勢に来た軍勢を率いて雄々しく戦い、常に最前線で剣を振るったと伝わっています。『将軍は誰よりも前で戦い、誰よりも血を流した』という有名な一節がありますね。ちなみに、彼の愛刀は現在グロスバルド帝国で至宝として厳重に保管されています。彼はそこの王族の出だったのですよ』
ほえ~……すごいや。
将軍なのに一番前で戦ったんだねえ。
『もう一つちなみにですが、むっくんお持ちのヴァーティガさんと同じ5節励起の武器さんですね。種族的に魔力が少なめな獣人だというのに、いったいどうやったのか……ロマンですか?』
浪漫だ! 浪漫だ!
ボクなんか3節目唱える前に死にそうなのに!
『ロロンさんならもっと詳しいでしょう。今度聞いてみては?』
そうするー!
「そいじゃあ、その名前が恥ずかしくならんような冒険者にならねえとな!」
「わわわ……はいっ!」
ポチくんの頭をガシガシ撫でるヴィクセンさん。
面倒見がいいんだね……頼れるアニキってかんじ?
まあ、だからこそ奉仕依頼ってのが回ってくるんだろうけど。
「それじゃ、出発しよっか~!」「しゅっぱつ! しゅっぱ~つ!」『モフモフよ! モフモフだわ~!』
カリーナさんがそう言って歩き出す。
もう妖精たちが懐いてる!? やっぱりすごくいい人だな……!
アカは肩に乗って……ピーちゃんは胸元のモフモフに埋まってるけど、ちゃんと許可取ったの!?
・・☆・・
「ヴィクセンさん、これでいいですか?」
「……ん、よし! 根までしっかり掘り出してんな。湿らせた布で包むのも忘れるなよ」
「はいっ!」
街を出て、歩くこと2時間くらい。
森に近い草原で、ポチくんは一生懸命地面を掘っている。
そして、引き抜いたヨモギの親戚みたいな薬草を丁寧に梱包。
何個かにまとめて、しっかりと鞄に入れた。
ほうほう、アレが奉仕依頼……新人のコーチってことかな?
「つまるところこの奉仕依頼ってのはね、駆け出し冒険者の手助けなのよ」
それをちょっと離れた所から眺めていると、カリーナさんが教えてくれた。
胸元のモフモフでピーちゃんが爆睡してる……ごめんなさい!
「なるほど……帝国のギルドでも似たような制度がありやんすね」
「あら、ロロンちゃん随分遠くから来たのね? でもそう、新人ってのは二番目に死にやすいからね……どこでも一緒か?」
ふーん……二番目?
「ナンデ二番目ナンデスカ?」
マントのポッケで眠るアカを撫でつつ、聞く。
「一番目に死にやすいのはね、新人期間を生き延びて何年か後で『中堅になったなあ』って時なの。なまじ色々身についてるから、新人の時よりも過信しちゃってさ? 分不相応な魔物に挑んだり、ダンジョンに挑戦したりしてね~……そっちに関しちゃ、手助けはできないけどさ」
あ、なるほど……車の運転も初心者マーク取れたくらいが一番危ないって言うしね。
概念は知ってる。
「ちなみに今回は採取と簡単な討伐の護衛ね。順当に評価を上げていけば、同じような新人同士でパーティー組ませたりなんかするわよ」
「じゃじゃじゃ、随分至れり尽くせりだなっす」
『優しいなあ』的なニュアンスのロロン。
この子は砂漠の部族で頑張って強くなったんだろうね……
「ああ、勿論誰にでもってわけじゃないのよ? ポチは素直だし、あの年で身体強化魔法もちょっと使える……言ってみれば将来有望な子なの。腕のいい冒険者が増えると仕事もやりやすくなるから、言ってみれば【先の備え】ってやつね」
先行投資的なやーつですかね。
ふむふむ、ギルドも色々考えてるんだなあ……
「ムークさんは経験ないの? ヴィクセンが声かけるんだもの、それなりの使い手なんでしょう?」
ど、どうかな……?
「イヤーハッハ、ボク、森ノ捨テ子デシテ。大キクナルマデズット戦ッテマシタ」
「ムーク様は【帰らずの森】でずっと修行ばされておりやんした! ワダスもそごで助けられて子分になったんでやす!」
槍を持ってぴょんぴょんするロロン。
かわいいけど興奮しすぎではないでしょうか?
「うっそ、あんな地獄で……? はあ~……そりゃ、強いわね絶対」
弱かったら死んでたもんね……まあ死にかけたけど。
「おーい、森まで移動すんぞ~」
「ハーイ」
ヴァーティガを持って歩く。
周囲に魔物の気配はないけど、油断は禁物だ。
「ね、ね、ロロンちゃん。親分さんって格好いいねえ」
「んだなっす! ムーク様は西国一の……お、おおお男前でやんす!」
「あら~! なんなのこの子か~わい~!」
「むわわわ」
なんか後ろでロロンがむっちゃハグされとる!
ガールズトークかな……聞き耳立てたら失礼だから聞かんとこ~。
・・☆・・
「いい? 森は昼間でも暗くて先が見通せないの。目だけに頼っちゃダメよ、鼻と耳を使って周囲を探るの……音は極力立てずに、常に退路を意識しながらね」
「はい!」
「お馬鹿、声が大きい。それに剣の握りが硬すぎて、それじゃ咄嗟に振れないわよ……緩く持ちなさい。緩く」
「はい」
草原から森に入り、周囲を索敵しながら歩く。
今度の指南役はカリーナさん。
「じゃ、『呼ぶ』わよ。みんな、手筈通りにね」
ヴィクセンさんが頷いて2人の前に。
ボクも同じように並ぶ。
ロロンは最後尾で、アカとピーちゃんは上空。
ポチくんとカリーナさんを守る体勢だ。
カリーナさんが笛みたいなものを吹くけど、音は聞こえない。
だけど、すぐに変化は訪れた。
「来るぜ、ムークさん。言うまでもねえが全部倒すんじゃねえぞ、ポチの坊主に1匹回すんだからな」
「ハイ!」
ヴァーティガを構えるボクの前には、森の奥から走ってこっちに来る魔物の姿があった。




