第33話 お風呂での出会い。
素敵なお宿に腰を落ち着けたと思ったら、さっきまでクッキーをモリモリしてたアカが光って眠り始めた。
なんで!? あのクッキーって隠し味に魔石入ってんの!?
『アカちゃんも順調に食事や魔石で定期的に栄養を取っていましたからね……丁度そのタイミングだったと言うことでしょう』
あ、そういえば食事でも寿命増えるんだったボクも。
にゃるほろ、思えばかなり久しぶりの進化だ。
アカはレアキャラだけあって必要経験値的なやーつが多いんだよね、たしか。
『はい、今回は経験を積みつつの順当な進化ですので……どこかの謎虫のように体に振り回されることはないでしょうね』
言い方よ、言い方。
その例えに合致するのボクしかいなくないですか?
不可抗力進化なのにぃ、ボク……
「む、ムーク様、これは!?」
あ、そういえばイセコさんは初見でいらしたね。
普段の冷静沈着さに似合わず、ちょっとワタワタしている。
「大丈夫デス、進化ナノデ」
「し、進化……なるほど、これがそうなのですか。話には聞いたことがありますが、見るのは初めてです」
興味津々って感じだねえ、可愛らしい。
おおっと、その前に毛布でくるんであげなきゃ。
「ヨッコイショイ」
アカがいつも使っている毛布をクルクル~っと。
よし、これでこの部屋がゲーミング仕様になる未来は避けられたぞ!
「放ッテオケバ終ワリマスカラ。タブン明日クライニハ」
……で、いいんだよねトモさん?
『ええ、ニセムシから妖精に変わったほどの劇的な進化ではないのでそれくらいでしょう。ただ、アカちゃんは何分データのない新種ですので』
ですよねえ。
まあ、宿に入った段階でよかった。
光に気付かれることもないだろうし……
『アカちゃん、大丈夫かしら? かしら?』
ピーちゃんは心配そうに、アカを包んだ毛布の周りを跳ねている。
『そういえばピーちゃんって妖精だけど進化とかせんの?』
『私はインコだから!』
『ピーちゃんの場合は転移した人間のようなものですよ。『セキセイインコ』という確立した種族ですので、形が変わるようなことはありません』
あ、言われてみればそっか。
インコが進化して鷹とかにはならんもんね。
『大丈夫だよピーちゃん、アカの進化はこれが初めてじゃないからさ』
『そうね、そうね……でもかわいそう、お風呂がお預けだわ!』
心配のピントがちょっとズレて……いやでも、お風呂キャンセルは可哀そうだな……
・・☆・・
「最高ダ……」
お湯の中で、ボクはつい呟いてしまう。
『なんて素敵なお風呂かしら! むっくん、アカちゃんが起きたらまた絶対に来ましょう!』
潜水インコと化しているピーちゃんから、テンションの高い念話が返って来た。
そりゃあ、もちろん!
仲間外れはかわいそうだからね!
ここは、宿から本当にすぐそこにあるお風呂屋さん。
ボクとピーちゃん、そしてロロンは宿を出てここに来たんだ。
宿にはイセコさんとアルデア、それにアカがいる。
なんでかって言うと……アカは勿論起きないし、アルデアも起きなかったのよ。なんでさ。
いくら宿屋でも不用心だからって、イセコさんが残ってくれたんだよね。
デルフィネさん達にも声をかけたけど、爆睡してるようで全然返事がなかった。
なので、3人で来たってわーけ。
『お花をこんな贅沢に使うなんて……素敵なお風呂だねえ!』
『お花の香りがとっても素敵! 素敵だわ~!』
広めの浴槽には、所狭しと花弁が浮かんでいる。
すっごいいい匂い……素敵すぎるお風呂だ!
「兄ちゃん、旅人かい?」
「アッハイ」
虎っぽいおじさんが話しかけてきた!
ふわー……ムッキムキの上に傷だらけ! 冒険者の人かしら?
「いいだろうこの風呂は? リーチミ名物の『華の湯』ってやつだよ」
『素敵! とっても素敵だわ!』
潜水から急浮上するピーちゃん。
そのままボクの肩に飛び乗るというアクロバティックさ!
「そうだろそうだろ、ここに来るときにでっかい花畑見たろ? コイツはそこから取って来た花弁だよ……しかし人に慣れた妖精だな、お嬢ちゃん」
へえ、あの花畑由来なんだ。
おじさんはピーちゃんを微笑ましそうに見ている……当然ながらこの人もいい人みたい。
『この人と首都まで行くのよ、とっても仲良しよ!』
「ははは、そりゃあいい! 妖精連れの旅なんざ、まるで物語だな兄さん!」
たしかにファンタジーっぽいですね、言われてみれば。
あと1人いるって言ったらびっくりするだろうなあ。
「ソレニシテモ……ポカポカシテイイデスネ、コノオ風呂」
「おお、なんでもこの花弁の効力らしいぞ。煎じれば薬にもなるし、まったく花畑様様だぜ」
思った以上の効能がおありだった!?
「ソンナニ便利ナラ、他ノ街デモヤレバイイノニ……」
植えておくだけで魔物避けになるし、色々役に立つし……これチートなのでは?
「ところがそうもいかねえのよ。あの花はここいらでしか根付かねえんだとさ、【ジェマ】の偉いエルフさんが調べたんだとよ……不思議だねえ」
はえー、それはまた不思議だ。
なんでも思い通りってわけにはいかないんだねえ。
「ナルホドデスネ……」
お湯をすくって顔をパチャパチャ。
うーん、爽やかなお花の香り!
「そんなことより兄ちゃん、随分と強そうなガタイしてんじゃねえか。冒険者かい?」
「一応ソウデス」
今は護衛の仕事中だけどね。
非公式だけどさ。
「やっぱりな! 俺の目に狂いはなかったぜ……妖精に懐かれてるんなら中身も問題ねえだろ」
一人合点した様子のおじさんは、ウンウン頷いている。
妖精補正がすごい……とりあえずピーちゃん撫でとこ。
「兄ちゃん、この街にどれくらい滞在すんだ?」
「ア~……半月クライハ、タブン」
デルフィネさんたちの体力の問題もあるし、急ぐわけでもないしね。
駆け落ちの手助けって言っても、強行軍をしたら2人がバテて死んじゃうかもしんないし。
それに……デルフィネさんとトーラスさんだけなら問題だけど、ボクらがいるから……正直、追っ手に見つかっても何とかなるんじゃないかって思うんだよね。
リーバンさんは前の鳩そらんちゅと違って真面目でいい人みたいだし、話せばわかるんじゃないのかなぁ?
まあ、見つからないことに越したことはないんだけど。
「そいつはいいや! あのよ……いや、のぼせちまうな。上がってからつめてえモンでも飲もうや、奢るからよ」
「ハ、ハア……」
なんじゃろ、仕事の斡旋だろうか?
ま、とにかく上がってからお話を聞こうかね。
「おお、このアルマードのお嬢ちゃんもお仲間かい?」
お風呂から上がると、もうロロンは外のくつろぎスペースで待っていた。
ちょっと長風呂だったな……ゴメンねロロン。
「じゃじゃじゃ、このお方ばお知り合いでやんすか?」
「ウンソウ、オ風呂デ会ッタンンダ……エエト」
ロロンの待っていたテーブルに歩き、椅子に腰かける。
虎のおじさんも一緒に。
「そういや名乗ってなかったな、俺はヴィクセンってんだ」
「ア、ムークデス」
「【跳ね橋】のロロンと申しやんす」
お互いに自己紹介。
ちなみにピーちゃんは体を拭いたあたりでおねむになったので、ボクの肩で寝ている。
凄まじいバランス感覚だ……でも危ないからテーブルに安置しとこ。
「おーいねえちゃん! こっちに飲み物3つ……いや4つだ! あんたら酒は?」
首を振るボクとロロン。
内容に違いはあるけどお酒飲めない親分子分です。
「あいよ、俺にはエール! 残り3つは花蜜だ! あと、なんかつまめるモンもよろしくな!」
「ハーイ!」
むしんちゅの店員さんが元気よく返事した。
花蜜ってなんだろ?
「で、だ。アンタらにちょっと仕事の話があるんだが……ま、飲みモンが来てからだな」
仕事ねえ。
フルットのドワーフさんたちみたいに護衛のお仕事だろうか?
しばらく待っていると、店員さんが大きなジョッキを4つとお皿を持ってきた。
花蜜っていうのは、やっぱり外の花畑のお花の蜜を使ってるみたい。
蜜を炭酸水で割ってる飲み物だった。
爽やかな甘みが素敵!
「俺ァ今仲間と3人で稼いでる冒険者なんだよ」
エールをゴクゴク飲み、おつまみのでっかいソラマメを食べながらヴィクセンさんは言った。
あ、やっぱり冒険者なんだ。
「だがよ、この前の仕事で仲間の1人が怪我しちまったんだ。さらに悪いことに、ギルドへの奉仕依頼で新人の面倒見ることになっててよ……困ってんだよ」
「奉仕依頼ッテ何デスカ?」
フムン、初めて聞く言葉だ。
「旅人の冒険者にゃ耳馴染みがねえだろうな。一つの地域で長く活動してるとな、半分ギルド職員みてえな感じになるのよ。馴染みになったらそういう指名依頼がギルドからおりてくるのさ、ま、実入りはそれほどでもねえが……やっとくと評判が上がるしな」
へえ、そんなものがあるのねえ。
一つの街を拠点にするって、ボクはやったことないからわかんないけど……いつかはそうなるのかな?
だけど、今までに行った所全部いい街だったからなあ……選べない!
「ボクタチニ、ソノ奉仕依頼ッテノヲ手伝ッテ欲シイトイウコトデス?」
「話が早いな、その通りだ。いつもなら俺たちで片付けられるんだがな、どうしたもんかと思ってたら……よさそうな兄ちゃんがいたからよ、誘ってみたってワケだ」
ふーむ、どうしたもんか……
ロロンを見ると、目をキラキラさせて何度も小刻みに頷いている。
凄くわかりやすい子分!
「エエト、明後日カラナラ大丈夫デスヨ。アマリ長期間ダト困リマスケド」
じゃ、ボクとしてもノーはないね!
アカの進化が終わったら、参加させてもらおう!
「ありがてえ! 長くても精々2,3日って所だ。そいじゃ、明後日だな! 朝方にギルドまで来てくれよ、仲間に紹介すっからな」
「ハイ、ヨロシクオネガイシマス!」
ボクは、ヴィクセンさんとガッシリ握手を交わすのだった。
ピーちゃんが怖がってないから、この人は大丈夫だろうしね~?
『ロロンちゃん! これ美味しいわ、美味しいわよ!』
「はもも、んぐ……んめめなっす~」
ロロンと仲良くソラマメを食べるピーちゃんを見ながらそう思う虫でした。
……いつの間に起きたのかな?
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