第20話 わからないことが多すぎる不具合。
「おい! おいサンタ! 起きろ、起き――」
「ハンゾ殿、もう……死んでおりまする」
ハンゾさんは、破壊された竜車の横に倒れていた兵隊さんを揺すっている。
カルコさんが言うように……彼の胸には、向こうが見えるほどの大穴が空いている。
どう考えても即死だ……でもあの傷、地竜によってできる感じじゃない。
アレ以外の何かが、これをやったんだ。
この周囲に倒れている人たちは、全員死んでいる。
誰もが、どちらかの手に武器を持ったまま。
「……グゥ」
ヴァーティガを構え、全身に魔力を巡らせる。
ああ、あそこで死んでるのは走竜だ……胴体が大きく切り裂かれている。
線は3つ……たぶん、大きな爪でやられたんだろうな。
周囲に魔物の気配はない。
ないけど……昨日ハンゾさんは『急に出てきた』って言ってた。
だから、油断しない。
『オオオ……なんという、なんという……嗚呼、胸が張り裂けそうです……』
ヴェルママ……うん、悲しいよね。
むしんちゅ全ての神様だもんね……
「ハンゾ殿、護送車はどれでありまするか?」
「……ああ、アレは……アレは……おかしい、ここにない!」
ハンゾさんが、死んでいた兵隊さんの前から立ち上がった。
「まことでありまするか?」
「あなたも知っているだろう、護送車は全周を装甲で囲われている……警護車はここにすべてある……だが、何故あれだけがない……?」
護送ってことは、サジョンジの関係者を運んでいたやつか。
たしかに、なんでだろ?
「少し待ってくれ、足跡が多いが……車輪の跡を探る……任せてもらいたい」
知り合いがみんな死んじゃったっていうのに、ハンゾさんは気丈に振舞っている。
そのまま地面に手を当てて……魔力を流し始めた。
これは……エンシュでラオドールさんが使ったのと同じような魔法だ!
『むっくん!』
ぞく、と背中が泡立った。
『真下!』
トモさんの声とほぼ同時に、衝撃波を放って跳んだ。
さっきまでボクがいた地面が、割れる!
「気ヲツケテ!!」
割れ始めた地面に、空中からパイルッ!!
「ギギギイギギギギイギギギギッギ!!」
うわ、なんだこの声!?
頭に響く――!
ボクの放った棘は、地面から今まさに顔をのぞかせた――バカでかい蛇の頭に突き刺さった!
でっか! まさに大蛇だ! それに――真っ黒!
『見た目はドレッドペントという蛇の魔物に似ていますが、一般的な体色は濃い緑色です! 恐らくアレも――』
地竜よろしく強化個体的なやーつね! 了解!
気を付けることは!?
『土の魔法を行使します! ロロンさんが使っているような!』
わかっ――今まさに射出された土の円錐を横回避!!
ひいい、危ない!
残った2本のパイルを、射出!
くうう、それなりに魔力を込めたけど――貫通しない! この魔物が元から硬いのか、それともこうなったから硬いのか――!
「おのれが……おのれがァ!!」
ボクに口を開けた蛇の足元に、ハンゾさんが一瞬で走り込む。
手に持つナギナタの刃に、ここから見てもわかる程の稲妻が纏わりついている。
「オーム!!」
ずしゅ、と刃が埋まる。
「インドール・スヴァーハッ!!」
次の瞬間には、落雷によく似た音がして――魔物の全身が感電した!
「くたばれェッ!!」「ギ――ッガ!?!?」
さらに、何度も何度もその状態で感電する蛇。
ボクは地面に降りて、左腕に魔力を纏わせる……再生が、完了した!
さっきの魔力じゃダメだった……これなら、どうだァ!!
再生した棘を、射出。
魔力の火花を散らしながら棘は飛び――蛇の体に食い込んで、貫通!
どす黒い体液が、空中に飛び散る。
よし!
「ぬううっ! ああああああああああッ!!」
大きく体勢を崩した蛇を、ハンゾさんが蹴り飛ばす。
焼け焦げたような異臭が鼻を突く中、倒れる蛇を追うように無数の何かが放たれた。
あれは銀色の、針?
「弾けよ『雷火剣』!」
カルコさんが叫ぶと、蛇に突き刺さった針のようなものが続けざまに爆発。
喉元を8割近くえぐり取った!
地響きを立てて倒れた蛇は、少しの間痙攣し……死んだ。
2人とも、凄い……カルコさんは『影無し』だから当然だろうけど……ハンゾさんの動きも素早かった。
『周辺に気配、ナシ! ですが油断は禁物ですよむっくん、先程も、いきなり地中から反応が発生しましたからね』
了解ですトモさん。
ボクの方でも注意してたけど……本当にあの瞬間に出現したってくらいの気配だった。
「カルコサン、気付キマシタカ!?」
横に立っているカルコさんに聞くと、彼女は小さく首を振った。
「まるで、あの瞬間に地中で発生したような感じでありまする……! 今までに感じたことのない、気配でありまする!」
カルコさんもそうなんか。
もう! なんなんですかあの魔物は!!
「あの時と同じだ……! 気を付けろ、いつ何時襲ってくるかわからん! だが、先程の探査で護送車らしき反応はあった……ここから北だ!」
おお、あの短時間によくもそこまで!
「残念ながら、ここに生き残りは……おらん。すぐさま向かおう」
「その方がよろしいかと。ムーク殿、行きましょう」
「ハイ」
ヴァーティガを担ぎ、2人を追った。
わけがわからないのはいつものことだけど、今回は群を抜いてわからんねえ……
「ギャウウ……」
同族の死体を悲しそうに見て、イーダちゃんもボクの後から着いてくる。
ここに残すよりも安全かな?
……怖いだろうに。
この子は絶対に守ってあげないとね。
・・☆・・
「アレだ」
しばらくの間、ボクらは無言で歩き続けた。
そして……木陰で立ち止まる。
ハンゾさんが指差す先には……荷車に半円状の金属カバーを付けたような物体が転がっている。
「壊レテル……」
アレを曳いていた走竜は、横倒しになって死んでいる。
護送車自体も……頑丈そうなカバー部分が見るも無残に破壊されている。
「警護していた守兵を全滅させるような魔物に襲われたのだ……恐らく、両名とももう生きてはおらんだろう」
それを聞いて、カルコさんが少し下を向いた。
「あの方々は幽閉ですら絶望なさっておいででしたが……惨い有様でありまする。生きておれば、浮かぶ瀬もあろうというものなのに……」
自分の家が滅茶苦茶になる原因だろうに、カルコさんの口調には憐れむような響きがあった。
優しい人なんだなあ……この人。
「罪人は罪人だが、このような顛末になろうとは……トリハとしても、前代未聞の屈辱だ……魔物ども、一匹残らず屠ってくれよう……!」
刑務所に入れる前に犯人が死んじゃった感じだもんね。
警察的な立場としては、看過できない問題なんだろうなあ。
「せめて体の一部でも見つかれば、供養できまする……回収いたしましょう」
「ああ、その通りだ。私利私欲に溺れ、贅を尽くしたとはいえ……墓もないのは、あまりにも不憫」
歩き出した2人に続く。
「ココデ待ッテテ、危ナイカラネ」「ギャルルゥ」
イーダちゃんの頭を撫でる……ほんと賢いな、走竜。
じゃあボクも……
『むっくん! 注意してください!』
どしたんトモさん、魔物?
『反応はありませんが、問題なのはあの護送車です! こちらからは見えない角度ですが……反対側の破損部がおかしいのです!』
おかしいって、どうおかしいの?
『『内側から外へ』破損しているのです! 気を付けて!』
は? それってどういう……
「まさか、カザコ殿!? ご無事でありまするか!?」
カルコさんが驚愕している。
見れば……護送車の裏から、縦にも横にも大きい虫人の女性が出てきた。
「生きていたか……拘束の用意をする! そのまま動くな!」
ハンゾさんが、懐から荒縄を取り出す。
ああそうか、犯罪者だもんね……
しかし、2人いるはずだけどもう1人は何処に……?
あの人だけ生き残ったのかな?
ゆら、とその人が動く。
黒子さんみたいに、布で覆われている顔は――真っ黒だった。
背筋に、寒気。
「――どの口がほざく、裏切者の小娘が」
一筋の雷光が、カルコさんの胴体を貫いた。
そのまま、彼女は吹き飛ばされて転がる。
パイル発射、三連ッ!!
ここに来る前から纏わせていた魔力ごと、放つッ!!
空間を疾駆したボクの棘は、その女性……カザコに残らず命中した。
命中、したけど……結界で止められている!
「いきなり不躾な男よの……ほう、お主……似ておるな……」
油の切れたロボットみたいに、そいつがボクの方を見た。
顔の布は完全にまくれ上がり――真っ黒い地肌と、紫色の目が見えた。
「――憎き【大角】……ザヨイ家の、ゲニーチロに!!」
「オオオオオオオッ!!」
虚空から発射された稲妻を、蒼く輝くヴァーティガで受け止め――弾き、飛ばす!!
反動でちょっと吹き飛ばされちゃった!
「ハンゾサン! カルコサンヲ――」
何が何だかわからないけど、コイツは、敵だ!
ヴァーティガが――何もしてないのに発光して、振動している!
向こうから攻撃してきたんだから、反撃してもいいでしょ!
それに、カルコさんの方が気になるしね!
「――御心配には及びませぬよ」
いるし!? あの虫人の後ろにいるし!? 無傷だし!?
「お久しゅうございまする、大奥様」
「カルコ、貴様――ッガ!?!?」
カルコさんが完全に回り込んだ瞬間、カザコの体から無数の切っ先が飛び出した。




