第21話 ちっちゃくてかわいいのに、強い! ズルでは?
「の、ノキ家の分際で、我ら主家に、歯向かうか……!」
カザコが呻き、口から血を吐いた。
どういう理屈かは知らないけど、カザコの体は刃でハリネズミみたいになってる。
……いやいやいや! カルコさんさっき吹き飛ばされてたよね!?
雷が貫通してあっちの方に飛んでいったハズ……ぬ、布をかぶせた丸太がある!
まさか……あれはニンジャの必殺技、変わり身!?
やっぱり影無しってニンジャなんだ!
「これは異なことを仰る」
カザコの巨体に隠れて姿は見えないけど……カルコさんのとっても冷たい声だけは聞こえてくる。
ピーちゃんと話していた時のような温かさはなくって……凍り付いたような声だ!
「わたくしはサジョンジを裏切ったことなどありませぬよ」
「ゲバッ!?!?」
カザコの体が、横に吹き飛ぶ。
その先にあった護送車に激突し、それをバラバラにしながら……大木にめり込んで止まった。
蹴ったんだろうけど、見た目と威力が釣り合っていない!
「先代、先々代の志を忘れ……遺言に背きデツーグ様を後継にし……あろうことかルカオコ様に毒を盛り、危うく命を奪う所でありました」
カルコさんのローブがはためいている。
風じゃなくって、彼女は発する魔力がそうさせてるんだ。
「自らの栄達にしか目を向けず、私利私欲のために先祖代々の名を汚した……」
ちり、ちり……と音がする。
カルコさんの体からあふれ出る魔力が、空気と反応して火花を放っている。
「――裏切り、と言うのであれば……それは貴様らの方だ――」
ぞっとするほどの冷たい声に合わせ、彼女の外套の裏から……小刀がいくつも現れて宙に浮かぶ。
刃が赤黒く染まった、見るからに毒々しい短刀。
「ぎ、ぎ……こむす、めぇえ……!!」
護送車の破片の中から、カザコが立ち上がる。
全身を貫かれたっていうのに、何で動けるの!?
ボクみたいに寿命ぶっぱ回復!?
「サジョンジ・カザコ……! 貴様、その体はどうしたことか! 何をした!」
ハンゾさんが、ナギナタを油断なく構えている。
この人もこう言ってるってことは……この状態は異常なんだ。
てっきり凄い回復魔法の使い手かと思ってたけど……
「何の邪法に手を染めたかは――」
カルコさんが消える。
消えて、カザコの背後に出現。
気配が読めない! エンシュのクソ人間とは大違いだ!
「――貴様の死体に聞くとしよう」
その瞬間には、四方八方からさっきの短刀が突き刺さった。
「ガ!? ア、アア!? ギイイイイイイイイ!?!?!?」
短刀は突き刺さり、突き抜け――また反転して突き刺さって……突き抜ける。
それを、延々と繰り返す。
なんて攻撃なんだ……!
だけど、悲鳴を上げながらも――傷が塞がっていく。
傷ができて、塞がっての無限ループだ! なんだあの回復力!?
立ったままのたうち回るカザコに向け、カルコさんが動く。
「龍脈からの魔力供給――ならば!」「ゲウッ!?」
カルコさんのかわいい足から出たとは思えないほどの、風切り音。
彼女は、カザコの巨体を――空に向かって蹴り上げた!
「『踊れや虚空の子ら・舞えよ蒼天の子ら・吾が敵を骨まで喰らいつくせ』」
空中に打ち上がったカザコの体。
その周辺に短刀が舞っている。
光を反射する刃の輝きが、いつの間にか6つの魔法陣を形成した。
「おのれ! おのれ小娘! このサジョンジ・カザコになんという――!」
叫ぶカザコにかぶせるように、カルコさんの詠唱が完成する。
「『炎獄縛・六天劫火乃陣』!!」
「き、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?」
空中で、カザコの体が爆炎に包まれた。
空中に縛り付けられたまま、体中を焼かれていく。
「何度再生しようが、その不可思議な魔力が尽きるまで――焼き続ければよいだけのこと。貴様の悲鳴なぞ聞きたくはない故、このまま炭になるまで焼いてくれる……!!」
いつものクールな表情をかなぐり捨て、カルコさんの表情は……憎しみに満ちていた。
そっか、そうだよね……この人たちがやらかしたから、サジョンジは滅茶苦茶になったし、お爺さんは死んじゃったんだもんね……怨んでたんだろうなあ……
「好きなだけ再生するがいい。できるものならば」
……あれ? なんかさっきよりも再生が遅くない?
ね、トモさん。
『解析が終了しました。何故かはわかりかねますが……彼女は地中、いいえ龍脈から魔力を吸い上げているようです』
マジで!?
無限に再生できちゃうじゃん……!
何がどうなってるんだよもう……
『まあ、あの状態でしたらいつかは死にますよ。闇渡りほどの脅威ではありません』
そりゃあそうだけど……ん?
カルコさんの後ろに広がる林の中で、今何か動いたような……あっ!?
――魔力全開! 魔導アフターバーナー点火ッ!!
一瞬でカルコさんの横を通り過ぎつつ――ヴァーティガフルスイング!!
飛んできた魔力の塊、ジャストミート!!
「グヌ、ウウウウ……ドリャアアアアアアアアアッ!!」
塊を、『撃ってきたヤツ』に叩き返すッ!!
ライナーを喰らえッ!!
「ムーク殿!」
「カルコサンハ、ソノオバサンヲ! コイツハ、ボクガ!!」
林の奥で、魔力が炸裂する! 木が吹き飛び、地面の破片がこっちまで飛んでくる!
その中に見える、細身の影ッ!
「グウッ!」
衝撃波横スライド! 発射された氷の塊を、避ける!
魔法か! ってことは――!
『虫人です! あのカザコと同じような魔導反応!』
地上では魔力無限むしんちゅ!
とにかく視界が悪いから――衝撃波、拡散連射!!
木々をなぎ倒して視界を確保する!!
衝撃波の一斉射で木々が倒れ、乾いた土が空中に舞い上がる――奥から、また氷の塊!
「義母上を放しなさい、下賤の者」
煙が晴れて、その奥から1人の虫人が出てきた。
カザコと違って、スラリと背の高い女性。
顔形は整っていて、普通なら美人なおばさんって感じ……真っ黒な肌色と、紫の目が無ければね!
「ット――ハンゾサン! コイツ、殺シテモイイデスカ!!」
再び飛来した氷を避けつつ、叫ぶ。
「一向に構わん! 護送車を許可なく出て、なおかつ捕縛に反抗した! その時点でそやつの命はないものとされる!」
後方から、ハンゾさんの声。
「やはり貴様もその状態か……! サジョンジ・オウコ!」
やっぱり! ってことはこのおばさんは……サジョンジの馬鹿殿の、奥さん!
魔力充填! 左パイル全弾射出!!
「っがあ!? おのれ、貴様ァ!!」
飛んでいった棘は、そのすべてがオウコに激突。
結界を貫通して、左腕を抉り飛ばす!
「どこの者とも知れぬ貴様が……ようもサジョンジに弓を引きよったな!」
抉り飛んだ左腕が、空中で逆再生みたいにくっ付いた!
「フザケンナ! アンタラガ馬鹿デ間抜ケダカラミンナ――ミンナ大変ナンダヨ!!」
ボクはトルゴーンの情勢についてよく知らないし、政治とかは難しくってわかんない!
でも、こいつらが無茶苦茶やったからゲニーチロさんは……義理のおにいさんを、殺さなきゃいけなかったんだ!
それは、それはとっても理不尽だって思うな! ボクは!!
「知った風な口を、叩くな!!」
「叩キマース! 一生懸命叩キマース!!」
ばらまかれる魔法を衝撃波で避けつつ、魔石を噛み砕く。
っていうか……さっきのカザコといい、こいつといい……
――トモさんトモさん、こいつら……戦い方、ドヘタクソじゃない!?
『よく気付きましたね、その通りです。何故彼女らが無尽蔵に近い魔力を行使できるかはわかりませんが……『それだけ』です。ただの素人が、魔力だけ膨大になったような状態です!』
やっぱり! 魔力と実力が全然合致してないって思ったんだよね!
何かの拍子で『こう』なっただけの――素人ってことか!
よく考えたら、こんなお貴族様的な人たちが戦闘訓練とかするわけないもんね!
「ええい! 鬱陶しい! ちょこまかとォ!」
思った通り、オウコはボクの動きに対応できてない!
フェイントにも面白いように引っかかる――これなら、いける!
残る問題は無限に近い再生力だけど……なんとか、してみる!
行くよ、ヴァーティガ!
「『我ガ剣ハ、牙ナキモノノタメ』!!」
きいん、と澄んだ音。
頼れる相棒は、励起呪法に合わせて蒼く輝いた。
さあ、まずはコイツだ!
飛んできた氷マシンガンを躱し、突き出す! ヴァーティガを!!
「『汝ガ怨敵ハ、眼前ニ在リ』――『吠エヨ! ソノ名ノ如ク』!!」
魔力がゴリっと消え、ヴァーティガの先端から蒼い光が噴き出す!
竜巻みたいに渦を巻いた魔力は――オウコが咄嗟に展開した結界を貫通!
「ぎぃいっ――!?!?」
オウコの胴体に着弾、胸から下を抉って突き抜けた!
どうだ、これなら――っちい!
「ゆ、許さぬぞ、許さぬぞォおおおおおおおおおおお!!!!」
地面に倒れた上半身が起き上がり、両手から冗談みたいに大きい氷塊がボクに飛んできた!
だけ、どォッ!!
「ハッハー! ドコ狙ッテンダ、ヘタクソォ!!」
そこにボクはいませーん!
偏差射撃は基本中の基本でしてよ!!
「虚仮にしおって……忌々しい、その体……大角を見るようだ……!!」
だけど、再生力は凄い。
吹き飛んだ下半身も、問題なく再生している……下半身すっぽんぽんになってる!
だけど、肌が真っ黒だからまあ、特にコメントはないよ!
これ……このままじゃジリ貧だね。
ボクの魔力は有限だけど……向こうは無限に近いじゃん。
カルコさんみたいにできればいいんだけど、ボクは結界的な魔法とか使えないしな……
「ムーク殿! 俺に任せてもらおうか!」
ザザっと音を立て、後方に気配。
「カルコサンノ方ハ――ット!」
飛んできた氷塊をヴァーティガで叩き落とす。
ナントカの一つ覚えってやーつ!
「問題あるまい……『奴を空中へ縛り付ける、その後を頼めるか?』」
念話もできるんか、ハンゾさん!
よーし……それなら、やりようはあるぞ!




