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蒼と紅  作者: 久村悠輝
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第49話

 大猪はここから東、ベアバレー地域を中心に出没しているとの事。囮のエサには引っ掛からず農家が栽培している農作物を根こそぎ食べていき、時には商隊(キャラバン)を襲う事も。知性や警戒心も高い様で冒険者が護衛がついている商隊には全く手を出さない。何度も討伐隊が結成されたが1度も見つけ出す事が出来てないらしい。


「思ったよりも厄介な相手ね、しっかり作戦を練らないと無駄足になるかも」

「けどよ冒険者が居たら襲われ無いんだろ? だったら商隊全部に護衛を付けりゃ良いじゃないか」

「そんな事したら護衛料で食材が高騰してニューサイトの住民が破産か餓死するですヨ」

「それに全ての商隊を護衛するには冒険者の数が足りません」


 アメジストとペリドットの意見にルビーは答えに窮する。


「それじゃやっぱり地味に探すしか無いの?」

「あまりのんびりしていたらニューサイトが干上がるぞ」


 ガタッと椅子から腰を浮かせ今すぐにでも飛び出しそうなルビーをパールは押し留める。


「落ち着いて、闇雲に探しても見つかる相手じゃ無いのよ? しっかり作戦を立てましょ」

「けど時間が無いんだろ!?」


 努めて冷静に振る舞うパール。しかしルビーは爆発寸前だ。


「た、大変だー! 大猪がー!」


 大通りから大声が響く。脊髄反射でルビーは表通りに飛び出す。


「大猪はどこに現れたんだい!」


 男の胸ぐらを掴み問い詰める。


「お、大猪が…」

「大猪がどうしたんだい、ええ!?」


 ルビーの剣幕に狼狽えガタガタと震える男。語気を荒げて詰め寄るルビー。男はルビーの後方を指差しながら―


「捕まったんだ」

「何ぃ!?」


 男が指す方向から小山の様な猪が台車に乗せられ運ばれて来る。大猪を倒した冒険者らしきパーティが周りを固める。


「あれって…」

「ユニークスターズのみんなだよ!」


 いつの間にかルビーの隣へ来ていたサファイアが興奮気味に言う。


「おや、嬢ちゃん達も来てたのか」

「最近よく会うわね」


 リーダーのジュピターとその隣に寄り添うのはアイリスだ。


     ◇◆◇◆◇


「つまりクエスト中にバッタリ出くわしたって事?」

「ああ、ハイビームの街で魔法カタクリ草の採取クエストを受けて自生地へ行ったは良いが、どうやらあの大猪のエサ場にもなってたらしくてな」


 ジュピター達が大猪と遭遇したのは偶然で、魔法カタクリ草をめぐり戦闘になったという。大猪を倒し、その巨体ゆえどう解体するか相談していた所へ討伐隊がやって来たらしい。


「ハイビームの街でも討伐隊が派遣されてる話を聞いていたから出会った時はホント驚いたわ」

「それよりも良いのか、アタシ達までご馳走になって」


 大猪が討伐され宴が催される事になったがなぜかジュエルボックスのメンバーまで招かれたのである。街の人の話によると1人でも多い方が賑やかで良いかららしい。なんともおおらかだ。


「パールさん、どうします? ここでおもてなしを受けると今日中にリースリビョーナクへ行くのが難しくなります」

「かと言ってせっかくの申し出を断るのも気が引けるわ。今日は諦めてニューサイトでレンタルハウスを借りましょうか」


 仕方なくスケジュール変更を強いられたサファイア達。


 強いられているんだ!


 夕方になると街全体に大猪討伐の報せが届き多くの人で宴の会場はごった返していた。大猪は解体され素材は冒険者ギルドや商人ギルドが買い取り、肉はその場で調理されふるまわれた。


「このトライレイって地酒、旨いな」

「いくらでも呑める」


 ルビーとシトリンは出された地酒を水の如くどんどん飲んでいく。


「ねぇねぇ、君って奇襲戦(レイドバトル)の時には居なかったよね?」


 テーブルの隅っこでチビチビとエールを飲むヒト族の少年にサファイアが気付き声を掛ける。


「ウチの新メンバーだ、よろしく頼む」

「あ、ユリウスです…」

「ふ~んユリウス君か、どこかで見た事あるような?」

「あらサファイアさんその口説き文句は古いわよ」


 パールがからかう様にサファイアへ言う。そのパールは自身の豊満なバストをペリドットの腕に押し付けながら絡み付き妖艶な雰囲気を醸し出している。耐性の無いユリウスはそれを見て真っ赤になってしまった。


「ちょいと姐さん、新人にあまり刺激的なモン見せんといてんか?」

「ガリウム、余計な事言うんじゃないわよ。せっかく尊いのに台無しじゃないの」

「なんやて? ワイはユリウスを心配して言っとんねんで?!」

「五月蝿い、この耽美がわからないボンクラが!」


 …ガリウムとアルミナがいつもの様にイチャ付き始めたので放置するとして、今回も話題の中心はユニークスターズ、そのリーダー・ジュピターだ。地元民からグラスに酒を次々に注がれその対応に手一杯だ。隣でアイリスがこまめにジュピターへキュアを掛けている。酔い対策だろうか?

 ユニークスターズもジュエルボックスも翌日に長距離移動しなければならないので夜も更ける前に宴は終了となった。


「パールさん、身勝手な話なんだがもし良かったらウチのアイリスとアルミナをそちらの部屋へ泊めて貰えないだろうか?」

「アイリスさんとアルミナさんを? 構いませんけどどうしてですか?」


 ジュピターの申し出にパールは疑問を呈する。


「知っての通りギルドハウスは4人、6人、10人用の部屋しかないよね? ウチはユリウスが増えて今7人で行動してる訳だが、今回宿泊する予定が全く無かったんだ」

「ええ、それは私達も同じですが」

「さすがに10人部屋を借りて男女全員で寝る訳にもいかないからさ」

「ああ、それで私達6人が4人部屋を2部屋借りてアイリスさんとアルミナさんと一緒に泊まれば少ない部屋数で済みますね」

「そういう事。理解が早くて助かるよ」


 そうなれば女子達の部屋割りをどうするかの問題が浮上する。話し合いの結果、親睦を深める為に、付き合いの長いペアを別々にする事で決まった。

 サファイア、アメジスト、シトリン、アルミナ組。ルビー、パール、ペリドット、アイリス組。なお、お胸のサイズで決まった訳では無い事をここに記しておく。


     ◇◆◇◆◇


「なあユリウス、ジュエルボックスで1番誰が好みや?」


 レンタルハウスへ入室したとたんにニヤニヤしながらガリウムがユリウスに絡む。


「誰って…別にそんな目で見てた訳じゃ無いです」

「でも好みな女性は居たんじゃないかい?」


 シャチョウも乗っかってきた。


「えっと………パールさんとかペリドットさんとか?」


 真っ赤になりながら答えるユリウス。ウブだね。


「へぇ、ユリウス君は胸の大きい女性が好きなんだ?」


 ジト目でユリウスを見るジュズマル。


「っ、ち、違います。俺は落ち着いた感じの女性が好みで、決して胸の大きさで選んでません!」


 慌てて反論するが他の4人に爆笑されてしまった。


「いやいや、スマンかった。ホンマに答えるとは思わンかったわ」

「か、からかったんですね!」

「許してくれ、君の好みが知りたかったのは事実なんだ」


 止めようとしなかったジュピターにも思う所があったようだ。「血は争えんな」などと言いながら独りでうんうんと頷いている。


「ガリウムさんこそアルミナさんとずいぶん仲良しじゃないですか!」


 ユリウスの反撃!


「うっ、アイツがいつもしょ~も無い事ばっかし言うからしゃ~無く相手したっとるだけや!」


 効果はバツグンだ!


「そうだよね、なんだかんだでガリウムはアルミナと仲良しだよね」

「ジュズマルまでっ。ええか、ワイはホンマにアルミナ何てどうとも思ってへんからな?」


 ムキになって反論してしまってる時点で説得力は皆無だ。インガオホーと言うやつだ。

 男子部屋ばかり見ていても誰得なので女子部屋に移動してみよう。


     ◇◆◇◆◇


「ねぇ、サファイアちゃんってユリウス君の事気になるの?」

「ほへ? なんで??」

「宴の時に口説いてたじゃん?」

「あれはちがうよ」


 ユリウスと違いアルミナの問い掛けにサファイアはあっさり否定した。


「どこか忘れたけど本当に見た覚えがあるんだよ」

「そうなんだ、運命を感じちゃったとかじゃ無いんだね」

「ミーもどこかで見た覚えがあるですヨ。ただ、それがどこかまでは思い出せなくて……」


 アメジストも必死に記憶を辿るがどこで出会ったかは思い出せずに居る。


「も、ダメ…」


 しばらく静かだったシトリンが真っ青になり今にもリバースしそうな顔色になっていた。


「ダメですヨ、シトリン、ステイ!」


 3人が慌ててバケツを用意する。飲みやすいとは言えトライレイを1升も飲んでいれば当たり前だ。


     ◇◆◇◆◇


「この部屋割りは誰の差し金だろうね…」

「ルビーさん、何か不都合でもあるのですか?」

「いや、不都合って言うより何かの介入があった様なんだ」

「皆さんで決めた部屋割りなのでおかしな所は無かったと思いますが?」


 ペリドットは何も疑問に思わず、パールとアイリスも首を傾げている。


「いや、アタシの思い過ごしなら良いんだ。ペアを分けようってのも理解してる。ただこっちの部屋には胸の大きい方が全員集まってるんだよ」

「確かにそうですが偶然では?」

「そうね、サファイアさんが最近仲の良いシトリンさんを引き込んで、ユニークスターズでも気の合うアルミナさんを入れて、あとはオートマタ族が固まらない様にアメちゃんが向こうへ行ったのよ?」

「分かってるから尚更怪しく感じてしまうんだ」


 1度怪しいと思ってしまうとずっと気になってしまうのは仕方無い事だ。


「ま、気にしてもどうしようも無い事は考えない様にするよ」


 気持ちを切り替えようと大きく伸びをするルビー。そして強調される豊満なバスト。


「そうね、気分を変えてリラックスしましよ」


 いつの間にか背後に回っていたパールがルビーの胸を両手で持ち上げる。


「んにゃぁ!」


 驚きのあまり可愛い声で叫ぶルビー。一方のパールは全く動じずルビーのお胸を掴んだまま離さない。


「やっぱりハリが良いわね、これは種族的なものかしら?」


 などと言って揉み続けている。


「パールさんってLのヒトなんですか?」


 アイリスが小声でペリドットに訊ねる。


「アメジストさん曰くガチだそうです」

「そうですか、アルミナさんがこっちに居なくて良かったです」


 アイリスはホッと(この中では慎ましい)胸を撫で下ろす。ルビーは相変わらずパールのオモチャだ。


「パール、やめ…あ♡ んく…こんのっ!」


 ルビーが遂に伝家の宝刀ハリセンを抜いた! しかし真後ろに居るパールに当てられる訳も無く、ハリセンは空しく空を切り、まるで独りで踊っている様にしか見えない。


「アルミナさんもLのヒトなんですか?」

「いいえ、大の百合好きで2次元もナマモノも見境が無いんですよ」

「なるほど、もし居たら気を失ってたかもですね」

「ええ、多分収集がつかなくなっていたと思います」


 ルビーとパールを遠巻きに見ながらペリドットとアイリスは冷めかけた紅茶を口に含んだ。

 今回も読んで下さってありがとうございます。コメントや評価を貰えるとモチベーションが向上する…かもしれないので気が向いたらお願いします。

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