第48話
途中からサファイアが静かになった理由、のぼせた上におっぱい枕で鼻血が止まらず危うく出血多量でこの世を去りかけたのだ。
「まだクラクラするよ~」
ベッドの上で不満を漏らすサファイア。
「本当に危なかったんだから仕方ないわよ」
体力を回復するポーションや回復魔法でも失った血液だけは元通りにはならない。軽い衰弱状態なので休むしか無いのだ。
「明日は長距離移動だから早めに寝とけよ」
「いくら休んでもどうせ戦闘不能になってヒーリングするハメになるですヨ」
「アメちゃん、言い過ぎよ」
「そうですよいくらサファイアさんでも2、3回程度ですよ」
「ペリドットも大概」
ルビーも言った通り翌日は長距離移動なのだが、修学旅行の前日の様に特別な空気の中、彼女らの話は深夜まで続いた。
◇◆◇◆◇
明けて3の刻半、一行は眠い目を擦りながら仕立て屋に入る。ペリドットを目ざとく見つけた女性店員がやってきた。
「他の防具も仕立て直しして欲しいのですが…」
「はい承知しました、何着ですか?」
「全部で6着です」
「それだったら…う~ん」
女性店員は頬に手を当て頭を悩ませる。
「そうですね、大体1刻ほど頂ければお直し出来ますよ」
「はいっ、是非ともお願いいたします」
ペリドットは大きく頭を下げる、それに追従して豊満なバストもお辞儀する。
「ゆっくり朝食を摂っても時間が余っちゃうわね」
「ん…ん」
「シトリンさんどうしたの」
一着の胴着の前で腕を組み何やら悩んでるシトリン。
「これ、着てみたい」
「でもレベル30からだよ? シトリンちゃんが着たら潰れちゃうよ」
「う…」
だがシトリンは胴着の前から動こうとしない。彼女がこれ程自分の意思を主張するのは珍しい。
「格闘家なら着れるでしょ。1度レンタルハウスへ戻ってジョブチェンジしてきましょうか」
「全員ですカ?」
「ええ、全員。丁度良い機会じゃない。ここでレベル30からの防具を買って行きましょ」
「やった、昨日可愛いローブ見付けてたんだ~」
「ん、良かった」
サファイアとシトリンはご機嫌でレンタルハウスへ急いだ。残るメンバーも2人を追いかける。
「おい、パール。ケロの方は大丈夫なのか?」
「貯えは充分にあるから問題無いわ」
ペリドットは自分だけ防具が充実するのを気にしていたようで豊満な胸を撫で下ろしていた。
サファイアは白地に朱色の糸で幾何学文様が刺繍されたローブ、ルビーはドラゴンリザードのレザーアーマー、パールはスティールプレート改、アメジストは黒地に銀の糸で双頭の鴉が刺繍されたローブ、シトリンはドラゴンダンスを踊りそうな真っ赤な胴着だ。
それぞれが防具を選び終わる頃にはペリドットの仕立て直しも済み1度レンタルハウスへ戻りジョブを戻してから朝食となった。
フレンチトーストに角ウサギのウインナー、あとは濃い目のコーヒーだ。
「あの女性店員は何者なんだ?」
食事を終えルビーが呟く。触れただけで採寸もせず体格(主に胸)に合わせた修正をやってのけたのだ。但しサファイアは平坦なので修正の必要は無かった。
パールは握り拳をテーブルに押し付け、負けだの、悔しいだの呟いている。一体何の勝負をしているのやら。ともあれ全員分の防具は揃った。
「パールそろそろ出発するですヨ」
「…ええ、そうね。気持ちを切り替えていかなくちゃ」
すくっと立ち上がり全員に退室を促しながら最後に部屋を出る。閉められた扉の中央へ右手の甲をかざして室内の登録を済ませる。そして冒険者ギルドへ寄りルイーダへ退去の報告を済ませるとそのままキューニィの厩舎へ向かった。
「そうかい、リースリビョーナクへ行くのか慣れない人間やキューニィには少し厳しい道だから気を付けて行くんだよ?」
ミオはイザヨイとクレナイの背中をさすりながらそう助言した。「わかった!」と元気に返事をするサファイア。本当に理解しているのだろうか?
「それじゃミオさん、行って来ます」
全員の騎乗を確認しパールが告げる。ミオは笑顔で手を振るだけ。
◇◆◇◆◇
一行は1回の休憩を挟み雷鳴谷を抜けた。虹の高原を四半刻走りキャンプ地を探す。
「充分に広さを確保出来るし、この辺りが良さそうだ」
ルビーはサーチのスキルを使いモンスターの居ない空き地を見つけ出す。キューニィ達は1度野へ放たれる。脚が速いキューニィに追い付けるモンスターが居ない為自由にさせておくのが1番安全なのだ。
「ルビーちゃん、プロテクションするから離れちゃダメだからね?」
「やるならさっさとしてくれ、モンスターが1匹近寄って来てる」
その言葉にサファイアはプロテクション、ペリドットは炎の鎧を唱える。
「ルビーちゃん、OKだよ」
その言葉で狩りは始まった。丸呑みにさえ気を付けていればどうって事は無い相手だ。たとえモンスターが丸呑みをしようとしても、溜めが長い為シールドバッシュや地獄の痛み等のスタンを付与するスキルで簡単に阻害出来る。
そして―
「いっくよーー! 悶絶の鉄槌!」
サファイアの事故死を含めて無事に全員がLv30へ到達した。
「少し休憩してからリースリビョーナクへ向かいましょ」
コーヒーを淹れる準備をしながらパールは言った。
「ここから北へしばらく進むとニューサイトの街に着くわ。そこでお昼にしましょう」
「たしかチャー牛の街だよね」
「チャーは街道を更に北上したプチーツァブラーチとの国境に面した村ですヨ」
「他にもキャビアや猪肉を使ったカレーもあるって聞きます」
「お腹空いた」
食べ物の話をした事で全員が空腹感を覚えたので角ウサギの野焼きをシェアしてからニューサイトへ向かった。
細かいアップタウンを繰り返し猫の額程しかない平地を大きな川が南北に貫いているハイビームの街へ出た。そのま川沿いの街道をひたすら北上すると景色はガラリと代わり真っ白な石灰岩が川の両岸にそそり立つV字渓谷へと変化した。石灰石の採掘が盛んなハウマッチを抜けロッククラブへ差し掛かると谷は一気に開け広大な盆地へと変貌した。
「ここから先は2列縦隊で進みましょう」
パールの指示で隊列を組み直す。
「ねぇパールちゃん、もうすぐニューサイト?」
「ええそうよ。もう少し走ると検問所があるからそこでキューニィから降りないといけないわ」
「え? じゃあイザヨイ達は街に入れないの?」
「手綱を引いてなら入れるから大丈夫よ。古くからの宿場町だからキューニィの宿もあるわ」
「ホント!? 私、イザヨイと泊まってみたい!」
「リースリビョーナクまで行かないといけないから今回はダメよ」
「ぷ~、でもいつか泊まりに来たい…」
頬を膨らませるサファイア。やれやれといった感じでパールは宥める様に―
「そうね、チャーにも温泉施設があるからのんびりと小旅行も良いわね」
なんだかんだでサファイアには甘いパール。そうこうしているうちに一行は検問所へ到着した。
見目麗しい門番が睨みを効かせている。パールが通行の許可を取る為に右手の甲を差し出しステータス画面を表示させる。名前と所属国を確認すると門番は「通って良し」と事務的な対応でパールとモンメに通行許可を出す。それに倣いサファイア達も通行許可を得て検問所を越えた。
「見た目は綺麗なのに無愛想だね~」
と、サファイア。
「通行人全員に愛想良くしてたらキリが無いから仕方ないわ」
「あれじゃ男にモテないだろうな」
ルビーが余計な事を漏らす。
「女にはモテてる様ですヨ」
アメジストが来た方向を指差す。門番はサファイア達とそう歳の変わらない女性冒険者達と黄色い声に囲まれていた。
「わ、モテモテですね」
「…ペリドットのが上」
シトリンさん、そこは張り合う所じゃないから。
「もう、シトリンたら…。私なんかよりさっきの門番さんの方が綺麗よ」
手を左右に振り否定のゼスチャーをする。相変わらずペリドットは自己肯定感が低い。
「おっぱいはペリドットちゃんの圧勝だよ!」
「ソコじゃねえだろ!」
スパァン! とルビーのハリセンがサファイアの後頭部へクリーンヒットする。
「いい加減先へ進むですヨ。本格的に腹減ったですヨ」
「そうね、漫才はこれくらいにしてお昼ごはんを食べられるお店を探しましょ」
モンメの手綱を引き歩き出すパール。
「ヒルマウンテンみたいに冒険者ギルドにパブは併設されて無いのか?」
パールに並びルビーは質問する。
「ニューサイトの冒険者ギルドはそんなに大きくないわよ」
「これが物語なら食事出来る店が軒並み営業出来なくなっててイベントが発生するですヨ」
「アメちゃん、フラグを立てに来ないで」
不吉な事を言い出すアメジスト。パールは否定したが1軒目は店主が老衰で亡くなっていた。
「アメちゃん…」
「ミーは悪く無いですヨ」
しかし2軒目、3軒目と相次いで臨床休業しておりしっかりフラグは立てられていた。
「次で食べられなかったら野営しましょうか」
諦め気味のパール。サファイアは「美味しいのが食べたかったのに…」と拗ねてしまった。そして4軒目―
「悪いね、この先に大猪が出て食材の供給が止まってしまってるの」
妙齢の女将が困り顔で事情を説明してくれた。軽い食事は摂れたが空腹は満たされずとてもリースリビョーナクまでもちそうになかった。
「つまりその大猪を倒せば良いんだね!?」
すっかり乗り気のサファイア。こうして大猪討伐のクエストが発生した。
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