第41話
奇襲戦が終わりパーティ毎にアイテムがドロップする。
「えっとお肉に牙に爪でしょ、鱗に肝臓…? 何これ」
「肝臓は中級職へのクエストアイテムよ。それを持って帰ればすぐにクエストをクリア出来るわ」
「本来ならレアポップするワイバーンのドロップ品ですヨ」
「私達は2時間狩り続けてやっとドロップしました」
「疲れた」
パール達は誰も下級職で4時間掛かったと口にしなかった。
「お疲れさま。楽しかったよ」
ジュピターが握手を求めてくる。
「ありがとうございます、こちらも良い勉強になりました」
差し出された手を握り微笑みを返すパール。
「サファイアちゃん、キュアありがとう。あれが無かったらこの奇襲戦は失敗してたかもしれないわ」
「あれくらい朝飯前だよ、何てったってサファイアちゃんは超絶美少女なんだから」
「少しは謙遜するですヨ」
「ちょっと待ってくれ。あのピンチ、サファイアが救ったのか?」
「ホンマにこのちんちくりんがキュアしたんか?」
ルビーとガリウムが口を揃えて驚く。
「そっちも同じリリパット族なんだからちんちくりんじゃん!」
「うっさいわ、ワイをその辺のリリパット族と一緒にすな」
口論を始めたリリパット族の2人。他から見れば完全にどんぐりの背比べである。
「麻痺の対応には驚いたけど1番はやっぱり未だにトゥインクルロッドを使ってる所かな…」
「そうだ、ジュピターさんからも言ってくれないか?」
「可愛いのになんで? 私大事に使ってるよ?」
「いや、まあ…。大事に使ってくれているのは有り難いけど、それは遊びの時にして普段はレベルに応じた武器を使おうね」
自分の売ったネタ武器を真面目(?)に使い続けているサファイアにジュピターは苦笑するしか無い。
「だったらこれをあげるわ、トゥインクルロッドより攻撃力はあるから使えるはずよ。レベル30からの装備だけど、少し早い中級職解禁のお祝い」
そう言ってアイリスが取り出したのは色違いのトゥインクルロッドだ。ジュピターとシャチョウがビクリと反応したが無言を貫く。
「シューティングスターよ、良い名前でしょ。あ、でもサファイアちゃんはまだレベル30になってないから構えちゃダメよ?」
「あ…構えたら重たくなるのか……」
残念そうなサファイアだが、それを見ていたルビーは嫌な予感がしてシューティングスターを引ったくる。
【シューティングスター】
攻撃力:120
STR+12
装備ジョブ:メディック、ビショップ、教皇
攻撃力:120
STR+12
「は?」
攻撃力:120
STR+12
「なんじゃこの攻撃力とブースト!」
ヒーラー専用の武器にも関わらず力がブーストされるまさかの殴り武器である。ちなみにシャチョウが使っているサーペントソード(中国の柳葉刀みたいな外見)はと言うと。
【サーペントソード】
攻撃力:53
INT+9
MND+7
装備ジョブ:戦士、剣士、ソードマスター、エンチャンター、魔法剣士、ルーンナイト、魔技師、魔人
こんな感じである。
「ふっふん、これでサファイアちゃんも立派なアタッカーだね!」
いや、回復しろよ。
「だってこんな立派な武器貰ったのに使わなくてどうするのさ」
毎回毎回反応するなよ。
「なんや、いきなりデカい声で独り言言いよって…気でも触れたか?」
「ガリウム、思っても口にしちゃダメだよ」
アルミナ、思うのもあまり良くないぞ?
「すまん、サファイアは時々宇宙と交信するんだ。気にしないでくれると助かる」
ルビーも何気に酷い事を言う。しかし皆さん、何か忘れてませんかね?
「風が出てきたわね、早く移動した方が良さそうだわ」
そう、ここは雷鳴谷。風が吹き空が薄暗くなると―
「みんな伏せろ!」
ガカッ!
目の眩む閃光、空をつんざく轟音と共にジュピター、ジュズマル、パールの3人へ大きな雷の柱が落ちた。
ジュピター:麻痺(強)
ジュズマル:麻痺(強)
パール:麻痺(強)
「こっちに洞がある。モンスターは居ないみたいだからここで雨宿りしよう」
機転を利かしたシャチョウがコーポレーションを導く。土砂降りになる前に全員が避難する。
「魔法範囲化、キュア」
アイリスがタンクの麻痺を取り除く。タンクだから避雷針になってる訳じゃないが金属鎧を装備している以上、仕方がない。
「嬢ちゃん達はこれからどうするんだい?」
「私達は虹の高原へ行ってレベリングします」
「そうか、それならここでお別れだね」
「あれ? 虹の高原でレベル上げしないの?」
「私達は奇襲戦に参加する為に組んだ即席パーティだからレベリングするにはバランスが悪いのよ」
「僕達のクエストアイテムは手に入ったから今日の目的は達成したんだ」
「そうなんだ~、だったら仕方ないね…」
「みんなー、紅茶が入ったよー」
少ししんみりした空気が流れた所でアルミナが紅茶が入ったカップをトレーに乗せてやって来た。洞の奥でお湯を沸かしていたようだ。
「お茶請け」
シトリンもクッキー+をポーチから取り出し配る。それからは奇襲戦の感想を言い合い賑やかな時間が流れた。
「水も引いたしそろそろ行きましょうか」
外の様子を伺いながらパールが言う。
「紅茶、ごちそうさま。とても美味しかったよ」
満面の笑みでアルミナにお礼を言うサファイア。
「また縁があれば今度はこちらがコーヒーをご馳走させていただきますね」
パールもアルミナと握手をする。
「それじゃコーポレーションを解除するね。またどこかで」
手を振りながらジュピター達は星振る丘へ戻って行った。
「さ、次のゲリラ雷雨が来る前にさっさと移動しちまおうぜ」
「賛成ですヨ、いくら避雷針があるとは言えずぶ濡れは勘弁ですヨ」
「あら、避雷針って誰の事かしら?」
笑顔でアメジストに聞くがパールの心中は穏やかじゃ無いよね。
「急ぐ」
「そ、そうですよ。早く高原へ行きましょう」
不穏な空気を察知しペリドットとシトリンは先を急かした。
無事雷鳴谷を抜け虹の高原へ到着する。この日はプチーツァブラーチ国との国境近くまで深く入り込んでの狩りになった。
「ルビーさん、今日は気を付けてください。この辺りはサーチでも見えない潜伏型のアリジゴクが居ます」
「物騒だな。わかった、気を付けるよ」
親指を立てて了解のサインを送るルビー。奇襲戦を経験し全員の連携が上手く機能し短時間でかなりの経験値を稼ぐ事が出来た。しかし濃霧により中断を余儀なくされてしまい洞へ避難する事となった。
「5メートルも先が見えないんじゃどうにもならないな」
ルビーは愚痴を溢す。
「仕方ないわ、天候ばかりはどうにもならないのだから」
「それにしてもこの霧、嫌な予感がします」
「出そう」
「多分それですヨ。ルビー、外に出る時気を付けるですヨ」
「? 良く分からないが分かったよ」
理解したのかしてないのか曖昧な返事をするルビー。
「それにしてもサファイアさんが静かなのって少し気味が悪いわ」
「ほっとけ、もうすぐアレを装備出来るから嬉しいんだろ」
当人、サファイアは貰ったばかりのシューティングスターを手にうっとりしている。トゥインクルロッドとの色違い。こちらは青色と水色がふんだんに使われた魔女っ子ロッドである。
「霧が晴れてきたわ、そろそろ再開しましょうか」
パールの声に全員が腰を上げる。ルビーが洞から顔を出し安全を確かめるとサーチスキルを使い少し移動して離れた場所に居るモンスターを釣る。それをキャンプまで引っ張って帰る途中、地中からアリジゴクが飛び出して来た!
「うぉあっ、やべぇ」
慌ててパーティと合流し2匹のモンスターと戦う事になった。
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