84 さぷら~いずプレゼント4
翼の受験も無事終わり、数か月ぶりに家族揃っていつもの文房具屋に行った。
例によって春の大売り出し中なのと、デシモの今年の限定版が入荷してそうな気がしたから。
デシモっていうのは、「キャップレス・デシモ」のこと。ノック式の万年筆の中では一番本体が細いシリーズだ。他のタイプだと、あたしの手には少し太いのだ。
このシリーズは、毎年のように限定色を3色出してる。通常のデシモはクリップやペン先が銀色なんだけど、限定色だと金色になるので、いい感じの組み合わせがあったら欲しいなぁと、あたしは注目している。
実のところ、理想はパールホワイトの本体にピンクゴールドのクリップ・ペン先なんだよね。ことあるごとにメーカーにリクエストも出してるんだけど未だ出る気配がない。
お店に行ってみると、予想どおりデシモの限定色が出ていた。アクアマリンブルー・トルマリンピンク・ペリドットグリーンの3色。戦隊かと。そして、どうしてグリーンだけ「マリン」が付かないのか、小一時間問い詰めたい。
とりあえず、どれも微妙に色が濃くて、金色のクリップに合っていない気がするので、食指は動かなかった。(個人の感想です)
天さんはマスキングテープ、翼はシャーペンの限定色を見ている。
そして、デシモを買わないことにしたあたしが売り場を離れようとした時、それが目に入った。
サクラクレパスのボールペン(第5回参照)の限定版だ。
通常版は、グリップ部分が真鍮の削り出しで、クリップ側はアクリル製なんだけど、限定版はボディ全体が金属の削り出しで、金一色と銀一色の2種類。
金色の方は、真鍮(5円玉と同じ銅と亜鉛の合金)、銀色の方は、洋白(500円玉と同じニッケルと銅と亜鉛の合金)だそう。
無垢の金属から削り出しという無骨さが天さんの漢心にヒットしそう。通常版でもかなり欲しがってたもんね。
というわけで、天さんを呼んでみた。
「なんてもんを見せてくれてんだ。
すっげえいい。でも高い」
そうなのよね。
1本税込み1万1000円。更に、ペン立て付きの方は1万6500円だ。ペン立てだけで5500円。
そりゃ、ペン立ても削り出しで、しかもサクラクレパスのマークが彫り込まれてる豪華仕様だけどさぁ。
「今なら、あたし2割引きチケット持ってるよ?」
「またそういう悪魔の囁きを…」
3000円はでかいぞぉ~~~と誘惑してみる。本当に買うかどうかはともかく、欲しがっていると背中をつつくのは、あたし達の間ではいつものことだ。
「何見てんの?」
翼も、あたし達の様子に何か感じたみたいで、声を掛けてきた。
「こういうペンがあるよって、お父さんにね」
「ああ、前見てたのに似てるね」
翼も覚えていたらしい。
「あれの限定版。銀の方はペン立て付きだよ」
「うわ、たっか。
お母さんが欲しがってたのってどれ?」
あ~、それはセーラーの限定版インク付きだね。5000円くらいの鉄ペン(ペン先が鉄製の万年筆)に、パープルの限定版インクがセットになっているやつ。インクは超欲しいけど、ペンの方はいらないので買わないでいる。
「それはここじゃないよ」
置いてあるところに連れていって見せる。
「このパープルのインクが限定なんだけどさ、鉄ペンとセットで5500円なんだよ。インクだけなら1000円くらいなのに」
「上の棚の青いのの方がよくない?」
翼が指したのは、同じセーラーのプロフェッショナルギアの限定版「SKY」だった。
青い半透明のボディに、限定色の空色インクがセットになっている。
インクの量も、パープルが30ccなのに対して150cc入ってる。
「たしかによさげだけど、値段見てごらん。3万3000円だよ」
そう、これはセーラーでも高級な21金ペン先のシリーズなのだ。
「お母さんが持ってるピンクゴールドのペンの色違いだよ」
「ああ、あれ。そっか、パープル、鉄ペンなんだ」
「そうなの。ちょっとコスパがね」
その後、翼は、店員さんとカウンターで話していた。お気に入りのシャーペンの限定色が4色出ていて、どの色を買おうかと悩んでるらしい。
黒・銀・赤・水色があって、あたしと天さんは赤が一推しだったけど、翼は赤は好きじゃないんだよね。
天さんが相変わらずサクラクレパスのペンを見てたけど、結局買わなかった。まぁ、高いからね、
結局、翼が水色のシャーペンを、天さんがちょっとオシャレな付箋を買って帰った。
翌朝。
起きてリビングに降りてくると、食卓のあたしの場所に、25×10cmくらいの箱があった。リボン付きで。
まず思いついたのが、翼からの誕生日プレゼント。
例によって、あたしの誕生日は3月じゃないんだけど、翼にとって、受験が終わって家を離れる前にってことなんだろう。
この前、天さんと2人で出かけてたから、その時に買ったのかな、天さん起きてきたら訊いてみよう。
しばらくして、天さんが起きてきた。
「なんだ、これ!?」
プレゼントの箱を見て、天さんが声を上げた。
あれぇ? 天さんも知らないの?
「翼からのプレゼントだと思うんだけどさ。この前、天さんと買ってきたんじゃないの?」
「いや、知らない。
昨日、文房具屋で買ったんじゃないのか?」
「いやいや、だって帰ってくる時、翼、こんな大きな箱持ってなかったじゃない」
「けど、この包み紙はあそこのだと思うぞ」
「そうだっけ?」
とにかく開けてみようか。
リボンは、再利用できるように綺麗にほどいて、と。
「うそ…」
入っていたのは、セーラーの限定のプロフィットジュニアだった。
ちょっと! 翼の1か月のお小遣いより高いじゃない!
そりゃ、1割引きのクーポンあったし、1000円分の商品券持ってたはずだから、現金としては3000円ちょいだとは思うけど、あの子ったら、このために商品券使わないでいたのね…。
あのお店に、このペンは1本しかなかったんだから、昨日、シャーペン見てる間にこっそり包んでもらってたわけよね。
翼は、来月から、家を出て一人暮らしになる。
来年以降、何かやるとしても、元々一緒に住んでないならサプライズにはなり得ない。
…ほんとにあの子ったら。




