33 メタルダーと結婚式の思い出
鷹野家の朝は、「グッド!モーニング」から始まる。というか、あたしがことば検定やるの好きなのよね。ことば検定が終わってから出勤、てのがいつものパターンになってる。
7月のこと。
もうじきことば検定だな~、とか思ってリビングに向かう途中、リビングにいた天さんに呼ばれた。
「梓! メタルダーだってよ」
言われて行ってみると、画面には妙にキラキラしたメタルダーのフィギュアが映っている。
「なんか模様が変?」
なんだか、体の青い部分に変な白い模様が入ってるみたい。
それもそのはず、そのメタルダーは、お菓子のパッケージで作られた紙細工らしい。白い模様はパッケージに書かれていた文字だった。
しっかし、器用な人もいるもんだねぇ。
「それにしても天さん、よくメタルダーなんてわかったね」
私の記憶が確かならば、天さんはメタルダーを見たことはない。
あたしは、モンスター3部作とか、ラプソディーとか、スカパーでやったのをたまに見返したりすることがあるけど、それは基本的に天さんのいない時を狙ってたはず。
その疑問は、簡単に解けた。
「だって、画面にメタルダーって字が出てるし、アナウンサーもそう言ったからな。これは梓に見せてやらなきゃって声掛けたんだ」
さっすが天さん。素晴らしい。愛を感じるね♪
「ありがとー♪
おかげでいいものが見られたよ」
「しっかし、あの曲聞くと、つい笑っちゃうよな」
“あの曲”っていうのは、さっきフィギュアの紹介してるバックで流れてたメタルダーのOP曲“君の青春は輝いているか”だ。
歌詞の中に“メタルダー”のメの字も出てこない、当時の特撮ものの主題歌としては異例の歌だった。
当然、笑いたくなるような歌詞のわけはないんだけど、あたし達限定で、笑える、というか思い出してつい笑っちゃうネタがあるのだ。
あたし達の結婚式の時、新婦友人の挨拶は、この歌だった。
友人が歌った、じゃない。友人の挨拶、だ。
結婚式の時、友人代表の挨拶を誰に頼むか、あたしは悩んだ。
結婚式には、天さんの親戚や仕事関係者も来る。
あたしの仕事場の人だって、あたしの本性は知らない。一所懸命隠してる。
一方、招待したあたしの友人は、ほとんどそっち系だ。式に呼ぶほど親しい友人は、どうしたってそうなってしまう。
人間的にはいい人達なんだけどね。一世一代の披露宴であたしの正体をご披露されてしまうのは、なんとしても避けたい。
正義の味方の辛いところだ。
それであたしは、Hさんにお願いすることにした。多分あたしの仲間内で一番TPOを考えてくれる人。お堅い会社に勤めてるから、よそ行きの挨拶とか慣れてるはず。あの人なら、当たり障りのないきちんとした挨拶を考えてくれるはずだ。
お願いすると、Hさんは快く引き受けてくれた。“くれぐれも正体バラすようなことしないでね”とお願いもしてある。こう言うと、他の人だと敢えてバラす方向に行きがちだけど、Hさんなら大丈夫。信頼できる。まぁ、歯の浮くような美辞麗句は欲しくないんだけど、そっち方面でまとめてくれるんだろうなぁ、と思ってた。
そして、披露宴。
仲人さんからの紹介の美辞麗句っぷりに冷や汗かいた後、当たり障りのない新郎友人挨拶を聞き流し、遂に新婦友人挨拶となった。
マイクの前に立ったHさんは、応援団よろしく足を肩幅に広げ、手を腰の後ろで組み、声高らかに
「君の青春は、輝いているか!」
とのたまった。
ザザ~~~ッと音を立てて血の気が引いた。まさか、Hさんでも駄目なの!?
けど、Hさんはあたしの期待を裏切らなかった。
Hさんは、
「かつて、私と新婦は、恋や結婚について熱く語り合ったことがありました。
その時、彼女は言いました。“君の青春は輝いているか、本当の自分を隠してはいないか”と」
と続けた。血の気が引いたあたしは、今度は体が熱を帯び、冷や汗が出るのを止められなくなった。メイク大丈夫だろうか。
「彼女はこうも言いました。“君の人生は満たされているか、ちっぽけな幸せに妥協していないか”
“愛が欲しければ、誤解を恐れずに、ありのままの自分を太陽に晒すのだ”と。
彼女は、本当の幸せを求め、妥協することなく、ありのままの自分を受け入れてくれる人を探すのだと言ったのです。
そして、彼女はその言葉どおり、ありのままの自分を曝け出し、このように素晴らしい伴侶に巡り会えたのです。
梓さん、おめでとう!」
多分、あたしの顔は真っ赤だったと思う。
Hさんは、“君の青春は輝いているか”の歌詞をまんま使って挨拶にした。でも、元々“君の青春は輝いているか”は青春賛歌というか、大上段に人生を歌い上げる歌詞になっているから、こういう席では受け入れられやすい。
この時、参列してくれていた人達のほとんどは、ありきたりの美辞麗句ではない挨拶を考えたんだなあという感じで聞いてくれていたので、なかなかいい雰囲気だった。
“ほとんど”に入らない人達=あたしの友人達は、笑いをこらえるのに必死になっていた。当然、みんな元ネタを知っている。あたしが正体を隠して生きていることも知っている。
そのあたしのための挨拶で“ありのままの自分を太陽に晒すのだ”だもんねぇ。
二次会でHさんに、「すっごく恥ずかしかったけど、でもお願いしてよかった。まともな挨拶してくれてありがとう」って言ったら、「すっごく緊張したよ。なぜ、こうも手が震えるのかと」なんて笑ってた。
この挨拶は、特に義母にウケがよかった。
新婚旅行の後でお土産持って訪ねた時、「天平のお友達の挨拶はつまらなかったけど、梓ちゃんのお友達の挨拶はよかったわよねえ」と褒められた。
義父母は、あたしの趣味のことは知っている。ただ、あたしが良識ある行動をしているせいか、趣味についてどうこう言われたことはない。
あの挨拶、義母は、元ネタを知らない分、言葉どおりに受け止めて、あたしが若い頃から自分を曝け出せる男性を探し求めていて、それが天さんだったということを喜んでくれている。
天さんはというと、わからないながらも何かのネタなんだと気付いたようで、後であたしに
「お前の友達、友人挨拶の時に笑ってたろ。なんだったんだ、あれ?」
と聞いてきたから、元ネタを教えたら、絶句してた。
うん。
あたしは、天さんには、ありのままの自分を晒してるよ。だって、ありのままのあたしを受け入れてくれると信じてるもの。
この信頼は、今も揺らがない。こんないい旦那さん、どこ探したっていないよ。
ことば検定
テレ朝系「グッド!モーニング」で、6時50分頃からやっているコーナー。
林修さんが、その日にちなんだ語句について、語源や意味を問う。青赤緑の三択だが、基本的に緑はダジャレであり実質二択。ただし、たまに緑が正解の場合もあるから侮れない。
梓は、緑のボケを見るのも楽しみにしている。
メタルダー
1987年放送の特撮ヒーロー物「超人機メタルダー」の主役。
当時としては珍しいロボットヒーローで、メタルヒーローシリーズではロボットものはこれと「特捜ロボ ジャンパーソン」のみ。
第二次世界大戦中、日本軍が開発していた戦闘用ロボットが現代に蘇る、という設定だったが、名前がカタカナだったり、内部メカがLSI使ってたり、乗っているメカが変形するとマツダのファミリアになったりと、あちこちに無理がある。
人間の心を司る左半身(赤)と、戦闘を司る右半身(青)に分かれていて、左半身が右半身に影響を与えて出力が上下するという特徴を持つ。当初は、この機能のために人間を殺せないという弱点があった(つまり、途中からは殺せるようになった)。
色合いから、ファンからはキカイダーもどきと言われたことも。
敵怪人に相当するキャラが、1話の段階で30体くらい登場しているのが特徴で、怪人同士の内輪揉めや手柄の奪い合いなど、敵方のドラマが充実していた。
1話で、メタルダーが敵幹部と対戦して敗れる、OPにもEDにも「メタルダー」という単語が入らないなど、異色尽くしだった。
当初はハードな路線だったが、視聴率と玩具の売上の低迷から、後半は子供向けにシフトした挙げ句、打ち切りとなったが、前半にはモンスター3部作など傑作が多い。
その辺は、いずれ鷹良箱で書きたい。
私の記憶が確かならば
「料理の鉄人」冒頭で、加賀丈が言う言葉。
梓のお気に入りのネタなので、割と使う。一人称を間違えてるわけではない。
なぜ、こうも手が震えるのかと
1979年放送「機動戦士ガンダム」で、シャアがキシリアから正体を言い当てられた時に言った言葉。
Hさんは、この時のシャアと同じように手を出して震えてみせた。
やーね、オタクって。