291 上生菓子
あたしも天さんも甘党だ。
和・洋問わず甘いものは好き。
もちろん何でもというわけじゃないけど。
例えば、あたしはモンブランとかバタークリームとか嫌い。
和でも洋でもないところで、月餅も嫌い。
餡子ものは好きだし、粒あん・こしあんどっちもいけるけど、練り切りはあんまり好きじゃない。
練り切りっていうのは、上生菓子の一種。
白あんに繋ぎを入れて練り、色を付けて形を整えたもの。
つなぎに小麦粉使って蒸して作ると、「こなし」という別物になる。
上生菓子には、ほかにも「ういろう」や、ゼラチンとか使った「ながし」とかがあって、あたしの行きつけのお店では、大抵練りきり3~4種類とこなし、ういろうで6種類並んでる。
夏場になると、そのうち一種がながしになる。
あたしは、以前は上生菓子はあんまり好きじゃなかったんだけど、このお店のを食べてから、割と食べるようになった。
とはいっても、練り切りはあんまり買う気にならない。
なにせ見た目は違っても、味は同じだからね。
や、桜餅なら毎日食べても飽きない自信があるよ?
でも、練り切りは飽きるのよねぇ。
味が単調だからかなぁ。
天さんはういろう系が好きなので、年中それなんだけど。
あたしは、主に夏にながしを買いに行く感じ。
このお店は、ながしで毎年金魚を出すので、それを楽しみにしてるのだ。
毎年デザインが変わるから、写真も撮ったりしてる。
今年は、新規で水しぶきをイメージしたゼリー状の外観にソーダ風味の白あんを入れたものも出てた。
もちろん買っちゃったわよ。
ソーダ風味がよく合ってた。
で、去年の当たりはそれだけじゃなかった!
練り切りで、朝顔の花のデザインで名前が「もらい水」。
花びらの上に、蔓もちょっと作ってある。
もちろん「朝顔につるべとられてもらい水」という俳句をタネにしてる。
もうね、名前だけで買っちゃったわ。
そーか、味は変わり映えしなくても、デザインと名前のセンスだけで買っちゃうものなのね!
そんなわけで気を付けて見てたら、11月には柿の形のういろうがあって、名前は「木守り」。
お店の若旦那に「これ、収穫しないで木に残しとくってやつですか?」と訊いたら、「そうです」とのこと。
「すごいセンス良くて、気にしてるんですよぉ」って言ったら、「妻に伝えておきます」だって。
なんでも、奥さんがデザインも名前も考えてるんだって。
奥さんの方もよくお店に出てるから知ってるけど、売り子さんだと思ってたよ。
なんでも、奥さんが製菓専門学校の先輩で、婿入りだそう。
「センスも腕も妻の方が上で、私は包むだけで」なんて、謙遜かと思ってたんだけど。
「ネタ考えるのも?」
「それも妻が」
「名前考えるのも?」
「それも妻が」
「え、でも、これ包んでるんでしょ?」
「いえ、それも妻が。
私はこうやって包むだけで」
とか言いながら、買ったものを袋に入れてくれる。
「包む」って、「包装する」って意味かい!?
朝顔につるべとられてもらい水
今の世代には、全く共感できないであろう俳句。
井戸端の朝顔の蔓がつるべを提げる紐に巻き付いてしまったため井戸が使えなくなり、隣家の井戸に水をもらいに行く、という意味。
「つるべ」は、井戸から水をくみ上げるための桶で、滑車を使うことで紐を引き下ろすとつるべが上がってくるという仕組み。
この紐に朝顔の蔓が巻き付いたために、蔓を外すのが忍びなく、つるべを上げられなくなったという優しいお話。
今時「つるべ」という言葉は、この俳句と「秋の日はつるべ落とし」という格言か「家族に乾杯」くらいでしか聞かない。
ちなみに、「つるべ落とし」は、つるべを上げた後、紐を放すとつるべが井戸の底に落ちていく様から、あっと言う間に落ちるという意味になる。




