21.サーモンの考え
無名戦士に自分で持っていた依頼書の半分を渡したが果たしてこれでよかったのか、と議論をしている最中。
家に戻ってきて真っ先に出た話題がこれだった。この依頼書は戻すべきかそうでないか、と。
でも、渡してしまったのだからもうこれでいいと俺は思うのだが、フワワは自分のやりたい任務があるかもしれないなどと言っていた。サーモンは、俺は無関係とほざいてきた。確かに依頼書を全部持ってきたのは俺とフワワだからサーモンは何も手を加えてないが、今ここに依頼書があるっていう事はサーモンも受け入れているから存在してるわけだ。結果、サーモンも関係するのではと考える。
「もうこのままでいこうぜー? 相手もこの事に関しては口出ししてないんだから、文句はないんだろ」
「内気な性格で物事をはっきり言えないのかも。私みたいに」
「え、ごめん。俺フワワをはっきり言えない性格だって思ったこと1度もないわ。内気だと思っても、あんた毒舌よ? マジで」
「えっ……」
フワワはまるで初めて知った時の表情をしている。
「本当に毒舌な人って多分自覚してないよ、うん……」
俺は一言付け加える。
「ま、これは置いといてさ……」
「俺は気にしなくていいと思いますんで清き1票を~」
喋ってる途中でサーモンが割り入ってきた。
「じゃあ私はサーモンに1票入れる。面倒だから気にしない」
「フワワはいい子だなぁ」
「あ、何、2人とも気にしないの。なら俺も気にしないわ」
皆が言うなら俺も。……俺はいつも人に合わせてしまう癖がある。
まぁ、こんくらいなら合わせても害はないだろうがな。
「いや~、俺は無名の名前知りたいわ」
「俺も」
「聞けばいいでしょう」
「フワワ簡単に言ってくれてるけど、聞くタイミングがないんだよ、わかる?アイツいちいち行動が早くて聞きそびれるわ」
確かに。用が済めばすぐいなくなってしまう、クラスの中で孤立してそうな人格……と俺は思うが。
「私が聞いてあげるよ」
「絶対無理だろ。お前は」
「何でそうやって試しもしないうちに決め付けるのさ……」
言い争い始めた2人をスルーして俺はテレビを点けた。ただ単にニュースが見たくて。
チャンネルを変えると丁度ニュースが始まったので見てみると、最初の情報は『北海道の最強戦士1人抜けた』とのこと。
「ん? 最強戦士?」
サーモンが食らい付いてきた。
そしてそのまま黙って見ると……
「戦士協会本部のトップクラスに立っていた1人の戦士が協会の方針に呆れて抜けてしまった模様」
これは……。
無名戦士だと俺達3人は思った。
「本部長は戻ってきてほしいと供述していますが、他の方たちにインタビューをすると協会に対する批判の声が多く上がっていた。その1部をご覧ください」
そう言って画面が切り替わり、いろんな戦士が映し出されていた。スタッフが戦士にインタビューした答えがこれだ。
「ここは頭がイカれてやがる」
「戦争とかやめてほしい。そんなことしてる暇はぶっちゃけないと思う」
「底辺を潰すとか馬鹿なの?」
「俺も抜けたいです」
批判しか流れなかった。その逆はないのか? と思っていたらニュースキャスターは、
「番組スタッフによると、インタビューした50人中50人全員が批判していたそうです」
そう言った。この番組は地方で放送されるものなので道内全てで放送されている。つまり、道内全てにこの評判の悪さが行き渡ってしまった。
「嘘だろ、おい」
「こりゃあやってられないね」
「無名戦士も辛かったんだね。そして北海道最強……」
「未来の俺じゃん」
1部可笑しなものが聞こえたがスルー。
「本当に許せないな、この協会」
「早く乗り込もうぜ、宇宙人」
「……。俺だってそうしたいけど戦力が」
「この先ガチでカイザの強化週間に入ろうぜフワワ」
「だね、カイザが強くならないと先に進めない気がする」
え、マジで? と思ったが俺が足を引っ張っているなら文句は言わない。俺は上に従う、それしかできない。
「うーん、カイザ依頼書見して」
そう言われたので渡すと、サーモンは次々と依頼書を見ていく。
「そうだな……5枚中4枚がちょっとしょうもない依頼だからなぁ……残りの1つはまともなんだけど」
「ならそのまともな依頼でいいじゃん」
「…………あ、そうか。うん、これは気にせずこなしていこうか。これを明日、明後日で終わらせてその後をカイザの強化週間にすっか」
まさかの明日と明後日で全て終わらせるなんて。
内容はわからないができるから今こうしてサーモンは言ったのだろう。
「宇宙人だし、頑張らないと」
「いや、意味がわからないわ」
サーモンは一言余計な気がしてならない。そして、どうして宇宙人と判別してるのかもわからない。
「つーわけだからフワワ手伝えよ」
「私に何を手伝えと?」
「的になってもらうから」
「……え?」
耳を疑う一言が聞こえた。
的に(・)なる? 何ふざけたこと言ってんだかサーモンは。
「よーし俺は楽しみになってきたぁー!」
俺は不安しかなかった。フワワも同様不安があるみたいだ。意味深な事を言うから。
「サーモン詳しく……」
「今日の晩飯はシチューかなー」
「ちょっと……私に死ねって言ってるの!?」
「なわけ。違うし~?」
鼻歌を歌いながらキッチンへ向かった。
「的……」
「強化週間……」
俺とフワワは、ただただ呆然と立ち尽くしたままだった。
「俺もう部屋行くわ、じゃあな」
「お休み」
「お休みなさい」
珍しく夜更かしをせずに自室へ向かうサーモン。どうしたのだろう?
「眠いのかな、サーモン」
「え、まさか。あいつがこんな早くに……」
今の時刻は午後9時40分弱。一般的にも早すぎるのではないかという時間。
「今日特別疲れた事もしてないよね」
「うん、モンスターが相手じゃなかったしね」
早い理由に見当がつかず考えるのを諦めた。
「俺達も寝る?」と言うと、「そうしよっか」とフワワが答えた。
2人ともそれぞれの部屋へ行き、リビングは暗い闇に包まれた。
ぐうたら回ってやつ?
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