20.いつも通りの1日
家の外に出た俺達はとりあえず選んだ依頼をこなす事にした。
内容は○△山に熊が住み着いている、とのこと。警察に連絡しないのか? とも思ったが俺達はこういう駆除も仕事のうちに含まれているのだろうか。俺も前に戦士だからを理由に動物駆除を任された記憶が鮮明にある。
「その山俺聞いたことないんだけど、知ってる? 異世界人さんよ」
「知るわけないでしょその呼び方ヤメロ」
俺はサーモンの問いに早口で答えた。句読点? んなもの今は必要ない。
「フワワは知ってんの?」
「うん、ここから歩きで行くとなると何時間掛かるのやらってくらいの距離」
「単位がクソだな」
「じゃあどうすんのー?」とサーモンがフワワに問うと、電車かバスのどちらかで行こうという案に。
サーモンはバスの中臭いからと電車をすすめる。フワワと俺はぶっちゃけどちらでもいいので、電車を前提に時刻を調べることにした。……電車時刻があるかわからないが。
フワワは自分の携帯……スマホを取り出してネット検索を始める。
調べてる間、俺はサーモンに別世界の話題をまた振られる。
「どうやって来たのかわからない時点でアウトだろ」
「本当にわからないんだから仕方ないでしょうが」
「もうちょい上手い嘘付けよマジで……」
信用できないならできないで、もうその話題を出すのを止めてほしいくらいなのだが。
「あ、お前夢でも見てるんじゃないか?」
そう言ってサーモンは俺の頬をかなり強く引っ張ってきた。
「痛いから!」
あまりの痛さに耐えきれなかった。
「俺夢でも痛み感じると思うんだよね」
「んなわけないだろ」
俺の勝手な思い込みなのだろうか。
「今からダッシュで行けば間に合うかも」
「マジ? 早く行くぞ」
駅がどこにあるのか俺にはわからないが、そう遠くはないみたいだ。
俺は2人の一番後ろをついていく。
__にしてもかなり走るのでは? かれこれ5分以上は走ってる気がするのだが。俺の体力に限界が……。
「もう少ーし!」
「カイザ遅れんなよ?」
名前が異世界人からカイザに戻っていた。
駅の入り口らしき建物が見えてきた。小さい駅のようだ。
「切符買ってくるー!」
フワワは今までより倍速く走った。一体何時に電車が到着するというのか。
俺とサーモンは中へ入り、とりあえずフワワの近くまで来た。
「疲れた……」
「お前マジで体力ねぇな……」
「仕方ないだろ、疲れるもんは疲れるんだから」
そういうサーモンだって疲れてるだろと言いたかったが、もはやその言葉すら出すのが困難。
それからフワワは切符を人数分買ってきて、無事電車へ乗ることができた。
電車に揺られながら1時間と少しが経過。結構遠いい場所だ。
「フワワここ来たことあんの?」
「私ここに住んでたんだよ、ここで産まれたから」
「なるほどね」
雑談しながら歩いていると、フワワは「あれだよ」と指したのはたいして大きくもない山。
大きくないけど草木がたくさん生い茂っているので中に誰かいるのかは、パッと見たところではわからない。もちろん標的である熊がいるかどうかもわからない。
「とりあえず入ってみるかぁ……」
「ここじゃあ狙いづらいよね、弾も矢も」
「そうだよな、俺は撃たないけど」
「え?」
「じゃあ誰うつんだよ」
「宇宙人ことカイザくん」
異世界人の次は宇宙人か。俺はもう突っ込まないと決めたのでなぜ撃たないかだけを聞いた。
「俺の射撃の練習するよりお前の練習をさせた方がいいかなと思って。フワワはなおさら関係なくなっちゃうけどね」
「そういうこと……」
納得はできたが、上達するかしないかで言えばしなさそうな気がする。そもそも俺に弓矢なんてものは合わないのではないかと思い始めるくらいだ。
とりあえず目的が決まったので足音をあまり出さずに山へ入っていく。まだ雪が残っていて、ザクザクと歩く度に固まった雪が割れていくので足音立てずになんて無理な話だが。
山の中へ歩いていると懐かしい感じがしてきた。昔、山の中入って冒険だなんて言って遊んでたっけか。
昔の記憶を甦らせながら歩き進めていると、サーモンが「待て」と俺達を止めた。サーモンの視線の先には依頼書通りの熊がいた。しかも大人の熊が2匹も。
「これはヤバそう……と思うじゃん?」
「うん……?」
フワワが相槌を打つと、サーモンは俺を指して言う。
「コイツがきちんと射ってくれれば問題なし」
「おぉー」
「いやいや、余計なプレッシャーはやめてくんないかな」
まさかの俺にかかっているとは思いもしなかった。
「てなわけでカイザ宇宙人、どうぞ。俺がアドバイス差し上げますんで」
「あのさ、うち……何でもなかった。アドバイスよろしくお願いしますわ」
危うく宇宙人に突っ込みを入れてしまうところだった。
俺は弓を構えて早速熊を狙う。
「宇宙人、宇宙人。この左手の人差し指を目印に的を狙いな」
左手の人差し指。弓を支えているであろう働きをしている手。俺はよくわからないが……。
自然と人差し指が立つので、それを利用して命中率を上げようという作戦か。
人差し指を意識して熊を狙う。まずは顔面でも、と上の方を狙ってみるが人差し指が全然目印になってくれなかった。
このことをサーモンに言うと、あたかも自分は弓なんて使ったことないからー? という風に言ってきた。根拠のない指示を出すな。
「いつも通りやれ」
「そのいつも通りだと当たらないからアドバイスくれるんじゃないの?」
「そうか、そうだよな」
ボケが入り始めたのではないかと思ってしまうほどの忘れっぷり。
サーモンは俺に弓を貸してと言ってきたので貸してみた。
するとサーモンは弦を引き始めた。
「サーモン弓射てるの?」
「知らん。今初めてだわ」
そんなんで射てるのかよ? と思いながらサーモンの様子を見てみる。
ぶち切れてしまうのではないかと思うくらいに再び弦を引いて離すと、矢は勢いよく熊へと突き進んでいった。矢は直進したまま相手の後頭部へサクッと刺さった。
「討ち取ったりかな?」
サーモンがそう言うと、熊はその場に前へと倒れ込んだ。隣にいたもう1匹の熊は驚いた。四つん這いになり傷口を庇っている。
「何で使ったことないのに射てるの!?」
「うーん、俺天才だから?」
やけに腹立つ事を言ってきた。それはそれでサーモンらしいって言えばサーモンらしいのかもしれない。
「あっ、2人とも! 今のカイザの声で気付かれたかも」
「え?」と声を上げて熊を見やると、熊がこちらへ歩いてくる。……気付かれた。
「何でお前は大きい声出すかな~」
「だって初で射てるとかびっくりするでしょ」
「本当に馬鹿! 今日はお前の出番はないわ」
そう言ってサーモンは再び弓で攻撃することに。さっきと同じ動きをして徐々に近付いてくる熊の、多分顔を狙っている。
「今だっ」と声を上げて矢を放つ。それは首へ当たってしまい、あまりダメージは喰らっていないよう。サーモンはもう一度顔を狙うと、次こそはそこへ命中した。
熊は後ろへ倒れた。
「ほうら見たかカイザ」
「うん、腹立つけど」
「何でっ?」
俺より上手すぎるのが腹立つ。初見なら初見なりに下手くそでいろよ。
「サーモン、狩猟会に連絡入れといてね」
「あ……うん、うぃーす」
なぜ連絡するのか聞いてみると、解体して食べれたら食べて、食べられなさそうだったら猟犬に食べさせるそうだ。
連絡をし終えて山から出て、受託所へ向かうことにした。また数時間電車へ乗るのか、と思うと面倒臭く感じる。
「確か1時何分か発の電車があったはず」
「んじゃ昼食うか~。ここら辺に飯はあるのか?」
「あるよ」
俺達はフワワについて昼食を取ることにした。
「誰だあれ」
家へ戻ってきた頃にはほんの少し冷えていた。
で、家の前には見覚えのある人が立っていた。
「不審者か」
「不審者がぼーっと立ってるわけないだろ」
徐々に近付くにつれて正体が露になった。どこぞの無名戦士だった。
「こんにちは」
挨拶してきたので返すと、早速無名戦士は俺達に尋ねてきた。
「依頼は全てあなた方が持ってると言われたんで」
「あ、すいません」
そうだ、この人もこの市内で戦士をするんだった。
大変失礼な事をしてしまったかなと少し申し訳なくなった。
「じゃあこの半分をどうぞ……」
「ありがとうございます」
俺は適当に半分だと思う量を相手に渡した。
相手はペコリと礼をしてこの場を去って行った。
「あいつどうして俺達の家知ってるんだ?」
ある程度遠ざかったところでサーモンが言った。確かに謎だが。
「受託所の人が教えた……いや、ないな」
「受託所の人が知ってるわけないもんね」
「不っ思議だなあいつ」
少し不穏になりながらも家へ入った。今日の仕事はとりあえずこれで終わりとしよう。
20話だって、早い……いや、そうでもないか