13.ちょっとした好奇心
「居心地はどうですか、カイザさん?」
どこか聞いたことある声が耳に入ってきた。どこで聞いたのだろう。
俺はゆっくりそこを見上げる。
「お前......」
「お久しぶりです」
そこには、俺が意味わからない世界に送り込んだヤツが浮いていた。黄色い髪の毛の子だ。
「居心地ってどこの」
「今、サーモンさんやフワワさんと共にしている世界」
「楽しいけど......帰りたい」
「帰るってどこへ」
目を大きく見開く相手。
「は? どこって、俺が元いたところへ」
「? 何のことかさっぱりですが、楽しくやっているのなら結構」
「いや、お前にもわかんないの?」
「はい」
初期の頃に見た笑顔。何かその笑顔が腹立ってくる。
「ここどこ? 用ないなら戻してくんない?」
「え、ここは夢の中なので、戻すのはあなた次第」
夢?
「うわっ」
フワワの声が聞こえた。
「びっくりした......」
「え?」
「急に起き上がるから......」
「あぁ、ごめん」
そういえば俺、何か夢を見た気がする。すっきりしない夢を。
こうやって思い出したい時に限って思い出せない、このもどかしさ。
「今寝たら夜寝れないと思う」
フワワに言われ、壁に掛かってる時計を見てみると、午後4時を回っていた。俺はどのくらい寝てたのだろう。いつから寝たのかすらわからない。
「寝れないかもな......」
少々諦めが入る。毎日毎日疲れるので寝るのも仕方ない。
「............」
暫し沈黙が続く。どうも俺は会話というものが続かない。相手がお喋りなヤツじゃないとすぐ会話が途切れる。
すると、フワワは何かを作り出した。折り紙を折っているようだが、複雑すぎて何作ってるかわからない。鶴とかそういうレベルじゃなさそうだ。折り紙に線まで入れて、線を入れなければいけないほど複雑なものを作ってるのか。
「それ何......」
俺は思わず聞いてしまった。
「これは、えっと、内緒」
「え」
まさかの教えてくれない。余計気になる。
俺は黙って作る行程を見続ける。
「あ、もう少しでできるよ」
「おぉ」
もう少しでできるというところで、突然折り紙を隠し始めた。
「何ができるかわかっちゃうから」
「なるほど......」
意地悪なヤツだなぁ。
けど、フワワだから憎めない。これがサーモンなら八つ当たりしてたかもしれない。
「じゃーん」
振り向いて見せてきたのは薔薇だった。
「え、嘘。そんなもん作れるの!?」
「うん、難しいんだ」
難しいと言っておきながら普通に作る神経がわからない。しかも綺麗に。
俺は「ちょっと見ていい?」と言い、フワワに見せてもらった。
ヤバすぎる。
「これカイザにあげるよ」
「え、ありがとう」
貰ってしまった。これはどこに置くべきなのか迷ったが、部屋の壁にでも飾っておくことにした。
「あ、ねぇねぇカイザ。モンスターの肉って美味しいらしいの」
「......は?」
「あの紫の竜だって美味しいし、山に生息する雑魚モンスターも美味しいの。豚肉や鶏肉とかいつも食べてる肉とかよりも、違った美味しさがあるんだって! 食べてみたいね」
モンスターの肉って言わなければ食べられるかもしれない。
基本食べようと思えないが。
「俺はちょっと......」
「そっか。カイザはあれだね、意気地無しだね」
「なにぃ?」
フワワにそう言われるとは。
さすがにイラッとくる。
「ベテラン戦士は自分で調達して食べてるんだって。食費も大幅ダウンだよ。サーモンにはありがたい事だと思うなぁ」
「なるほど。モンスターだった言わなければ食べれるよ」
「そうなんだ! じゃあ豚肉って嘘ついて出せばいいんだね」
「う......うん」
嘘つかれているという罪悪感。何かもどかしい。
「戦士村ってあってね、野菜も自分で作ったりするんだって。さすがにこれは、私達じゃできないとおもうけど。そもそもの畑がないから」
「だな。ここはお金かかっちゃうけど仕方ないもんな」
そんな話をしている時に、ふと思った。
サーモンはどこだ。
フワワに聞いてみる事にしよう。
「ところで、サーモンは?」
「食べ物買ってくるって」
「あぁ、そういうことか。フワワってサーモンの手料理食べたことないよね?」
「うん」
「すげーお美味しいから。上手だし」
「料理男子!」
「そうそう、すごいよな。フワワって料理男子に憧れる系?」
「まったく」
サーモンざまあ。
中にはときめかない女の子もいるんだと実感。
「ちょっとー?」
ドンドンドンドン、とドアを叩いてくる誰か。
フワワに行かせるのもなんだから、俺が出ることに。
急いでドアの鍵を開け、ドアを開くとおばさんが突如玄関へ入ってきた。
「ちょ…なになになに!?」
何勝手に入ってるの!?と思いながらおばさんに話を聞く。
「モンスター出たんだよ! 早く何とかしなさいよ!」
「う、嘘!?」
俺は急いで外へ出て覗いてみると、空中に浮いている小さいモンスター。何かはわからないけど、小さいから何とかなるかなと思った。
俺は玄関に置いてある弓を手に取り、外にいるモンスターめがけて弓を構える......が、動き回るので狙いにくい。
「動くなよ…!」
一発射ってみた。案の定当たらなかったが。
「カイザ!」
なんとフワワがやってきた。なんたる救世主。
フワワは弓を大きく振り、風を起こした。その衝動でモンスターはふらついたので、高くジャンプしてモンスターを攻撃。見事ヒットして、動きが止まった。すると、
「今!!」
フワワからの合図があった。
今と言われても当たる確証はないのだが。俺は紛らわす為に連射した。
連射した中の一本が見事に当たり、モンスターは地面へと落ちた。
「お見事!」
「やった......」
今ので無駄に疲れた。体力つけないとまずそう。
「大したもんだねぇ、ありがとね」
「いえいえ」
おばさんは礼を言って、家へ戻っていった。
「カイザ」
「何?」
ちょっと来て、と手招きされて行ってみる。
「このお肉調理してみようよ」
「ちょっと待て。嫌なんだけど」
「これ食べないと強くなれないんだよ?」
「その根拠どっから出た!?」
確かに肉は戦士にとって必要な食料かもしれない。けど、モンスターはさすがに。
さっきもこの話出たけど、乗り気になれない。
そこに転がってる死体を食べるなんて。
「お肉は欠かせない食べ物だから」
そう言ってモンスターを片手で鷲掴み。容赦がないフワワ。
「俺食べないぞ......」
「一緒に食べるんだよ」
モンスターがフワワの手にぶら下がったまま台所へ。
まな板の上にモンスターを乗せ、フワワは包丁を取り出す。持ち方が危ない。
「マジで切るの?」
「うん」
フワワは豪快にモンスターの腹を切る。
飛び血が俺らの顔面に付いた。最悪だ。
「もうちょい丁寧に切れないの…?」
「......これでも優しくしてるんだけどなぁ」
どこが!?内心そう思った。
骨が邪魔してるみたいで真っ二つに切れないから、薄くスライスして切っていく。
「見てみて、お肉だよ」
「肉だからね......」
フワワはある程度切ったあと、フライパンに油を入れた。
ガチで焼くみたいよ、この女。
「焼くよカイザ」
「どうぞ後勝手に......!」
俺はどうなってもしらないからな!
フワワの手によってモンスターの肉がフライパンに投入された。
ジュゥ~、といい音はするけど、まな板の上にあるモンスターを見るたびに嫌になってくる。
「味付けってここでするのかな?」
「え、知らない」
俺もフワワも料理経験皆無のようだ。
俺はここで入れてもいいんじゃない?と言い、フワワは醤油を入れた。
香ばしいいい香りが台所に広がる。旨そうな匂いだけど、まだ食べようとは思えない。
「美味しそう! これでいいかな」
フワワは火を止め、箸を取り出す。フライパンに入ってる肉を取り、俺の口元にやってきた。
「食べてみて」
「いやいやいや、フワワが先に食べてよ」
「毒味役は男がやるの」
「知らねーよ!」
俺は押し付けてくる肉を無理矢理フワワに押し付け、強制的にフワワに食べさせた。
「......」
「どう?」
フワワはこっちを向いた。
何だその反応は。
「美味しいよ! ほら、次はカイザだよ」
フワワは肉を取り、口元に肉をやる。
俺は口を開けたくない。せめてこの死体をどっかにやってほしいくらい。
「ほら、早く口を開けよ」
「無理......」
「このー」
フワワは俺の唇に肉を付けてきた。
「あらら、この肉はカイザが食べないと! カイザが口付けたんだから」
「このゲス女......」
可愛い声と顔してとんでもない事を言い出す。本当にゲスい。
俺はフワワに負けて、仕方なく肉を口に含む。噛みたくないが、吐き出すのもアレなんで噛んで飲む。
「美味しいよね?」
「......うん」
悔しながら美味しかった。
「えへへ、美味しいんだよ。カイザは食べず嫌いなんだね」
フワワは俺が食べたあとの箸を使ってもう一度肉を食べた。
......あれ、待てよ。俺もフワワが食べたあとの箸でこの肉を......。これって、間接キスというものでは…?
俺は急に顔が熱くなる。気付かなかった俺も馬鹿だけど、平然と食べてるフワワも何なのだ。気にしない人なのか。すごいなフワワ。尊敬するわフワワ。
「食べないの、カイザ? あっ、そうか。箸1つしか出してないもんね」
この子気付いてないな。
気付かぬまま新しく出した箸を俺に寄越してきた。
「フワワ......」
「何?」
「......いや、何でも......ないわけないな。その箸俺も使ったけど~…気にならないの?」
「この箸…あっ、そういえば! 気にならなかったな、別にいいや」
あれ、気にしてた俺が馬鹿だったのか。人ってこんなもんなのか。
顔を熱くしていた自分が恥ずかしく思える。
「美味しいから気にならないよ」
「そういう問題っすか......」
俺は2~3個食べて終わった。
フワワの度胸尊敬します本当に。
この余ったやつどうしようか、などと話してる間に、不在だったサーモンが帰ってきた。
「お帰りなさい!」
「お帰り」
「ただいまー。この家臭くない?」
「「あ」」
俺とフワワは同時に言った。
絶対このモンスターのせいだろう。
「あっ、てなに。そして何でそこにいるの」
「サーモン、モンスターのお肉美味しいの」
「知ってるけど......」
サーモンがこっちへ来る。
「このモンスターどうしたの!?」
「家の前で飛んでたものをやっつけたの」
「おぉぅ......」
驚いたように返事をするサーモン。驚くのも無理はない。
「これ、冷凍しておくか」
「は?」
「冷凍して、ご飯にでも使うよ」
「嘘......」
まだこの肉使う気か。美味しいけど、もう一回食べたいとは思えなかったけど。
「楽しかったねカイザ」
「いや、全然」
スリルしかなかった。
フワワの意外な一面が見れたのはまぁ、楽しかったけど。
この日の晩、モンスターの肉が夕飯に出てきたのだった。
近々人物の絵出すと言いながら出してないね
描いてあるのにね