11.新しい仲間
ベテラン戦士が世界最強モンスターと交戦している中、俺達はこうして休憩してていいのだろうか。いくら役立たずだとしても、何もしないのも申し訳ない。
ましてや、俺の弓じゃあのモンスターなんて倒せない。相手にとっては痒いと思われるくらいなのだろう。血が出ていてもだ。
「カイザの弓矢新調しないとダメだな」
「新調できるの?」
「そりゃあもちろん。弱い武器じゃ歯も立たないからな。金さえあれば強い武器なんざいくらでも手に入る」
「なら明日買いに行こうよ」
「いいぞい、今後の為だも…」
ズドンッ!
サーモンの会話をわざと邪魔するように、相手は地面を踏み潰した。
地面は凹み、地割れまで起きた。
「びっくりした…」
サーモンはそう発した。
空を飛べるわけではないので、忍者でない限りモンスターの天辺を狙うのは無理なのだろうか。
ほら、忍者ってピョンピョン跳ねて素早く移動するじゃん。
下半身しか攻撃できないので、ダメージが少しずつしか減らない。
いくらベテラン戦士でも、体力の消耗は激しい。
「両足切断できればいいよなぁ」
「…あんな太い足じゃ無理だろ」
「うーん。あれの攻略法誰も知らないから、戦い方もわからないんだよ」
「何なのマジで」
竜ならどれも戦い方同じじゃないのか?
例え行動パターンが違えど、急所などは同じ所にありそうなものだが。
ここで会話が途切れて、モンスターに目が行った。
人間じゃないような技を見せてる人が多くいる。さっき女の子が出した竜巻も、あれも人間離れしている。
あれは俺にも出せるのだろうか。
女の子に出せて俺には出せない、というのもおかしな話か。出せるものなら出したい。
…モンスターが、今まで閉じていた羽根を広げ始めた。
周りにいた戦士達は一斉に離れた。
羽根を大きく上下に扇ぎ、地面から浮いた。ものすごい強風が吹く。
そしてそのまま空高く飛び、速いスピードで去っていった。
戦士達は、疲れた者は座り込み、他の戦士達は辺りの状況確認などをしている。
さっき話し掛けてきた男の戦士がまたやってきた。
「お三方、ご無事でしたか?破片など何か飛んできませんでしたか?」
「はい、大丈夫でしたっス」
「それは何よりで。あなた方がいなければ住民に被害が加わっていたことでしょう。あなた方に感謝しております。その勇姿ある行動、称えます」
そう言って男は戻った。
「誉められたな俺ら!」
「うん、かっここいわあの人」
サーモンがすごく喜んでいる最中、俺の隣に座っていた女の子が立ち上がった。
お尻に付いた汚れを手で払い、武器を手に持って歩き出そうとしている。
「あ、......待って!」
「へ?」
俺は女の子を止めた。そして、
「あーっと…その......気を付けて帰って…ください」
女の子は驚いたような顔を見せた後、
「ありがとうございます!」
ニッコリと笑顔を浮かべて帰って行った。
「あの子結構強そう」
「…何で」
「あの竜巻、手慣れた人じゃないと出せない…えーと、技?…ゲームで言うスキルみたいなもんよ」
「…ここゲームじゃないの?」
「は?」
「いや、ごめん。何でもないわ」
さりげなく聞いてみたが、ガチでここゲームじゃないみたい。
どこかに俺と同じこと思ってる人いないものか。
「…さーてと、俺達も帰りますか!」
「うぃー」
「よいしょっと」
家に着いた俺らは、武器を玄関に置き、リビングへ。
サーモンは入り口入って直ぐ倒れ込んだ。
「ちょっと、邪魔!」
「うぐっ」
入り口の前に倒れられては邪魔でしかないので、サーモンを踏みつけてリビングへ入る。
「カイザ、俺は背中を痛くした」
「知らんわ」
お前が悪いだろ。
そう思いながら、冷めてしまった夜飯を食べようと箸を手に取る。
「冷たそうだな~」
「仕方ない、仕方ない。それともレンジで暖めるか?」
「いや、無駄に熱くするのもやだからいいや」
「ふーん」
サーモンもよくやくテーブルに着き、一緒に食べ始める。
「今日の竜凄かったね」
「うん、少し興奮したわ。世界の神様が出てきたんだぜ?興奮するだろ」
「え、世界最強じゃなくて?」
「世界最強でもあるし、神様でもある。悪い意味の」
「悪い意味…」
悪い神様って神様なのか?…神様に種類があるのか。
「前にさ、赤の国の竜出てきたじゃん。他にも青の国、緑の国、黄の国…ってまだ他にもたくさんあって、その国を支配しようとしてるのが紫の国。紫は絶対的戦力を持ってて、他国と同盟やら何やらを組まずに単独で行動できるほど、馬鹿みたいに強くてさ。そこから世界最強とか言われたらしいけど。そして、悪い事もするからって」
その話は真実なのか。でも、真実じゃなければあんな恐ろしいモンスターなど出てくるわけないだろう。
「紫ツエー…」
「強いけど、それなりの何か卑怯な手も使ってるんだろうなぁ」
「紫スゲー…」
「........カイザ、お前この話興味ないだろ」
「いいや、別にそんなことないけど。ただ眠いだけ」
「ならさっさと食ってさっさと寝ろ!」
いかにも適当な返事をしていたら、勘違いをされてしまった。
俺は昔話とか神話とかそういう、言い伝えとか好きだ。
眠くて箸も進まないが、せっかく作ってくれたので食べきらなければ。
うとうとしながらも何とか食べ終え、皿をさげに行き、サーモンに一言言って寝室に向かう。
「さてと、俺はカイザの使えそうな武器でもあらかじめ決めておくかな!」
サーモンは口に残り少ないおかずを放り込み、もぐもぐしながら紙を取り出してメモを取る。
カイザの特徴とかを最低限見付だし、少しでも使いやすく強い弓を使わせてあげようという心遣いだ。
考え終わって、皿を片付けに行き、戻ってきてまたメモした紙の所へ座る。
間違えがないか確認してるうちに、サーモンは寝落ちしてしまった。
「おはよ…って、何で電気点いてるの!?」
こんな明るい朝に電気点ける必要全くないだろ!
俺は電気を消して、サーモンの存在に気付く。
「何でここで寝てるの…」
少し覗いてみると、俺は紙切れを見付けたので見てみる。
「命中率なし…力ないから柔らかいの…動き鈍いから軽いの......」
何これ、しかも弓のイラストまで描いて。これ完全に俺に向けてるよな。これ、悪口でしょ。
呆れた俺は、紙切れをもとに戻す。
とりあえず朝なので、サーモンを起こす。
「サーモンおはよう」
「......カイザじゃん…」
酷い顔だな。
寝起きの顔って皆不細工だと思う。
「いででっ、痺れてるぅ~」
「そんな所で寝るからだべや」
痛い痛い言いながらも立ち上がった。腰に手を当ててるので、腰痺れたのか。…そんなわけ。
俺はいつもとは違い、軽装で弓を買いに行く。軽装といってもポンチョを脱いだだけ。あれは無駄に重いのだ。
玄関で待っているので、なんとなく寒い気がする。何月か未だにわからない。4月か5月のどっちかだと俺は思う。絶対......。
「ごーめん、財布ねぇと思って必死に探してたら手に持ってた」
「馬鹿じゃねぇの!?ってかアンタは正真正銘の馬鹿だわ!」
「そこまで言わなくても…」
俺はとっとと靴を履いて外へ出る。
そして、「サーモン早くしろ」と急かす。
遅れたのはお前のせいだからな、と言わんばかりに急かす。
だいたいコイツから言い出した、「今日は早く出よう」って。なのに当の本人が遅れてどうする。12時までセールをやってるみたいなので、早めに出て売り切れる前に行こうだとか。
サーモンの着替える遅さと、無駄に財布を探していたせいで軽く20分以上はかかった。
今は10時50分。まだ時間はあるが、高価な物などは残っているだろうか。
「レッツゴー、早く行くぞカイザ!」
「お前が言うなし」
サーモン曰く近いらしいので、疲れる心配もいらないかなと思う。疲れるのはごめんだ。
歩く途中、サーモンが「トイレ行きたい、漏れそう」と言い出したので、近くにあった公衆便所へ駈け足で向かった。
「何で家でしてこねぇのよ!」
本当にイライラする。
日が眩しいので、木陰に隠れる。
木がたくさん植え付けられてていいなと感心。
ここは初めて見た。公園?なのだろうか。遊具もある…な。あるけど、サーモンが入って行ったトイレの近くに、クレープ屋さんが来ている。専用のトラックで来てる。
しかし、トイレの近くってどうなんだ。トイレであろう建物は汚くないが、場所を考えた方がいいかと。
まだかなと待っている。遅いな、女子じゃないんだからさっさと済ませろよ、と思う。
下を向いて待ってると、少しだけ走ってくるような人が見える気がする。
横目で見てみると、確かに誰かこっちに来る。しかも俺の方に。
ガン見するのもなんなので、気付いてないフリして下を向き続ける。
「昨日の戦士さんっ」
息を切らしながら俺に声を掛けてきた。
「どうしたの…」
呼吸が整うまで待ってあげると、女の子は口にした。
「あの、お話があって…。今大丈夫ですか?.....というか、あの赤い髪の毛の人は?」
ゼェ、ゼェ言いながら言う。
「アイツはまだトイレに…あ」
「う?」
噂をすればサーモンがやって来た。
よく見ると、両手にはクレープが。
「あれ、誰だその子。俺お前と自分の分しか買ってないぞ」
「いや、私は大丈夫ですよ」
「そうか?」と言いながらクレープを俺に渡してきた。
「ただお二人にお話があって来ただけなので…」
「ほうほう」
サーモンはそう言って、苺クレープを口に含んだ。
「あの、私フワワと言います。それで、お話と言うのは…」
もじもじしながら、数秒経つと、
「えと…その......ち」
「ち?」
俺とサーモンは同時に発した。
「チームを…組んでいただけないでしょうか!?」
俺とサーモンは驚いた。しかも女の子から言ってくるなんて。
「俺はいいけど…サーモンは?」
「…武器って扇子でしょ?」
「はいっ」
いきなり所持武器について質問した。
「あの竜巻、どのくらいで覚えた?」
「えーっと…始めてから~…1週間も経ってないはずです」
「おぉ、そりゃすごい。きっと君に才能があるんだろうねぇ。しかも接近だし、俺達にはあるけど今はない存在だしね」
「…え、あるの?接近」
俺弓使いだし、サーモン銃使い。もしかして銃で殴るとか?
「カイザ接近戦もできるんだよ。ただ、その弓は切れないけど」
「は?」
「ともかく、できるのさ。…話戻すけど、フワワをこのチームに任命しよう!」
「本当ですか!?」
「おう!」
予想外。なんと待望の3人目が仲間になった。しかも接近だから、サーモンが思うチームができあがるのかもしれない。
サーモンは、フワワにもクレープを奢ってやるってことで買いに行った。
「ほれフワワよ!」
「あ、ありがとうございます!」
可愛い笑顔でクレープを受け取り、ぱくっと頬張る。
「俺はサーモンの刺身ってんだ、よろしくな」
「ふぇ?」
驚くのも無理ない。名前があからさまに可笑しいのだから。
「サーモンって呼べ。んで、こちらがカイザ!こいつもよろしく頼むぜ。タメで話そうぜ」
「あ、はい…..じゃなくて、うん!」
俺が自己紹介するわけではなかった。まぁ、ありがたい。こういうの何か恥ずかしいもんだから。
「サーモン、こうして団欒してるのはいいけど、武器買いに行かないと」
「あっ、ヤベェ。…そうだ、フワワも行くか?」
「行く!」
俺達は急いで武器屋へ走った。
女の子登場ですよ!