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剣の楽土  作者: かが介六郎
第一部 楽土の華
1/6

プロローグ

――私が初めて奥白石(おくのしらいし)つるさんに会った時、彼女は私の目の前で、剣士の首を斬り飛ばした。



水の打ち付ける音が、ずっと間近で鳴っている。目の前で、大きな滝が流れを止めずに在り続けていた。

セーラー服もスカートも、乾くのにまだしばらくかかるだろう。

ついさっき滝壺に放り込まれて、髪は濡れたまま。けれど、寒さは感じない。

まだ震えが残る私を支えるように、背後から優しく温かな気配が包んでくれていたから。


「なにを、考えているのですか?」


「…初めて会った時のこと。」


背中側から回された、彼女の傷だらけの両手。白くてきめ細やかな肌に、獣の爪痕(つめあと)のような生傷が、無数に刻まれている。


「辛い記憶でしょう。」


「ううん。そりゃ、あの時はさ、怖かったし、泣いちゃったりもした。

けど、スーパーヒーローが助けにきてくれたみたいで、目が離せなかったの。」


「すう、ぱあ?」


「あはは、ごめんごめん。

英傑(えいけつ)っていうか、英雄とか正義の味方とか訳すのがいいのかな。」


私の言い方では、上手く伝わらなかったらしい。


「つるさんはあの時、私のヒーローだったの。すっごく怖いヒーロー。」


「私が…さやの英傑、ですか。」


目を閉じると、鮮明に思い出される。

長い黒髪を一本にまとめて、悠然(ゆうぜん)と歩くつるさんの姿。その背にあるのは、二メートルを超す大太刀。

白い腕でそれを振り抜き、相手の剣士の首を斬り飛ばしたあの瞬間のことを。


「う…やっぱり、死体は思い出したくない…」


「我らのそばにおれば、見飽きてしまうというもの。」


そんな、慣れればどうということはない、みたいに言われても…

この人とは、生きている世界が違う。それをまた実感した気がする。


「英傑とは、窮地(きゅうち)に現れ、脅威を排除する者なのでしょうか。」


「そんな感じ。つるさんが来てくれなかったら、私はここにはいないと思う。」


すぐ後ろから、(かす)かな笑い声がした。滝の音が打ち消してしまうほどの、きっとこの距離でないと聞こえない声だった。


「幼き(おり)、私の前にも英傑が現れ、その暴力によって私は生き永らえた。

私は、あの御方のように、なれたのやもしれぬ。」


「つるさんの命の恩人?すごい人だったの?」


「ええ。まことに。」


「そっか…

じゃあ、その人がいなかったら、つるさんもここにはいないし、私もきっと…」


きっと、なすすべなく死んでいただろう。

この世界に来て、皆と出会って、運良くここまで命を繋いでいる。

まだ始まったばかりの旅。いつ終わりがくるのか、見当もつかない。

それでも、昇っていこう。その背中を追って。果てを目指して。

この、(けん)楽土(らくど)を。


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