六話 死神と透子の目
ハクの部屋で三人は、硬い表情を浮かべていた。
「透子さんは?」
「…部屋で眠っている。」
「そっか。
では、本題に入ろうか。」
いちは姿勢を正した。
ハクはやや言いづらそうに続けた。
「あの子の目。
ただの病ではない。」
「……どういうことだ。」
「うーん。これが何とも言えないんだよねぇ。」
ハクは顎に手をやって唸った。
「死者だけでなく、妖まで見えている。
なのに普通の景色は見えない。
……そんな話、僕も聞いたことがない。」
男は考え込むように、腕を組んだ。
「……これはあくまで仮説だよ。」
「あの目は、誰かに奪われたんじゃないかな……」
「奪われた……?」
いちが小さく呟いた。
「……呪いとも違うのか。」
ハクは主を見据え、神妙な面持ちで続けた。
「呪いなら、もっと気配が淀むはず。
それに印も刻まれるだろ?
だが、あの子にそれはない。」
死神は静かに思案した。
「……ならば、いったい何者がそんなことを。」
ハクは少し間を置いて答えた。
「……分からない。
ただ、あの子の目には死の気配が近すぎる。
見えすぎているんだよ。」
そうして部屋は静まり返った。
誰も、何も言えなかった。
男は目を閉じた。怒りを押し込めるように。
「あの娘は、自分のことを何も知らぬのだな。」
ハクは静かに頷いた。
「……そうだね。
見えないことも、死者が見えることも。
もう当たり前で。
知ることすら、
諦めてしまったのかも、しれないね。」
「……透子様。ずっとおひとりで、
耐えてらしたんですね。」
いちが静かにそう言うと、袖で目元を拭った。
男はふーっと深く息をつくと、
ゆっくりと目を開けた。
「……もうあのような思いはさせん。」
ハクは目を細め、主の変化を静かに喜んだ。
いちも、涙を拭うと真剣な眼差しで、
男を見つめた。
「私も! 透子様の力になります!」
「……ああ。」
ハクも無言で何度も頷いていた。
「俺は、あの村を調べようと思う。」
ハクは少し考えてから
「……なら、僕も行くよ。」
と言った。
薬師として、
この先、透子の治療をするならば、
あの子の過去を知る必要があると考えたからだ。
「ああ。来てくれ。」
「それでは、私はお二人が調べている間、
透子様のそばにおります!」
「頼んだ。」
「はい! お任せ下さい!」
六話 死神と透子の目【完】




