【3投稿目】アユム 写真3枚
写真①;ベビーベッドで寝てる双子の赤ちゃん。翼とアユム。
ーーこの頃はそっくりだよね。
自分が母親になって思うの。私とアユムってお腹の中からずっと一緒。運命共同体。
これってすごい事だよね。
私達、一緒に生まれたのに…どうしてなのかな。ーー
アユムと翼は、二卵性の双子で生まれた。
2人は35週と少し。切迫気味だった2人は予定日より少し早く生まれた。
だが、翼は2800と早産とは思えないしっかりとした体格の赤ちゃんだった。
一方、アユムは2300と低出生体重児。呼吸も安定するまでに時間がかかった。
この体重差は、思春期になるまで変わらなかった。
翼は体が大きく、活発な野球少女。
一方、アユムは小柄で内気な男の子。
小学生の間は、身体の小さいアユムは、クラスでよく揶揄われていた。そこに翼は割って入っていた。
対照的な2人だったが、仲は良かった。
「アユム。あんなんやり返したらいいんだよ?」
公園の水道でアユムの膝小僧を洗いながら言った。
「だって。あいつデカいんだもん。」
アユムは口を尖らせた。
「デカいだけだよ。よし!綺麗になった!」
翼は、ペシっとアユムの膝を叩いた。
「いて!!怪我してるんだけど!」
「帰ろうアユム。」
翼は立ち上がって言った。
夕方の田んぼ道。
翼とアユムの影が並んで歩く。
遠くから、17時を告げる「夕焼け小焼け」が鳴る。
「「夕焼け小焼けで日が暮れて…
山のお寺の鐘が鳴る〜」」
2人で口づさんだ。
「「カラスと一緒に帰りましょ〜」」
「…なんでカラスなんだろう。
カラスって嫌じゃない?」
アユムが呟いた。
「考えたことなかった。」
翼は答えた。
「つばさぁーーーー!!
あゆむうーーーー!!」
2人は顔を上げた。
遠くで、母が手を振っていた。
2人は駆け出した。
田んぼ道をまっすぐ、母の元へ。
母は2人を抱きしめ、
右手に翼の手を。左手にアユムの手を握って歩き出した。
「アユム、またやられたの?やり返しなさい〜」
母は笑いながらアユムに言った。
「ほら〜、私の言った通り〜」
「だって、あいつデカいんだよ?!」
3人は影が、重なり歩いていた。
写真②:アユムは甚平。翼は浴衣を着て、かき氷を頬張る。
提灯の明かりが、夜の道をやわらかく照らしていた。
屋台の呼び声。
焼きそばの匂い。
遠くで鳴る太鼓の音。
夏祭りの夜だった。
翼は、しゃくりあげるように泣いていた。
さっきまで大事に持っていたビニール袋は、空っぽだった。
袋の口はゆるく開いていて、水だけがぽたぽたと地面に落ちている。
帰り道。
つまずいた拍子に、金魚を逃がしてしまったのだ。
「やだ……やだ……」
嗚咽混じりに言葉にならない声を漏らす翼の手を、
アユムはぎゅっと掴んだ。
少しだけ小さくて、少しだけ細い手。
それでも、しっかりと力がこもっていた。
「……戻ろう。」
アユムはそう言って、来た道を引き返した。
人混みをかき分けて、屋台の並ぶ通りへ戻る。
金魚すくいの屋台は、さっきと変わらず賑わっていた。アユムはポケットから、小銭を取り出した。
何度も数えて、大事にしていたお金だった。
本当は、カードを買うために取っておいたもの。
「このお金でカード買うんでしょ?」
涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、翼が言った。
アユムは少しだけ目を逸らしてから、答えた。
「……カードは、どこでも買えるから。」
そして、少し照れたように続けた。
「僕も、金魚飼いたいんだ。
翼の方がすくうの上手でしょ?やって。」
そう言って、小銭を屋台のおじさんに渡した。
「はいよ、ポイね。」
紙の張られた小さな網――ポイを受け取ると、
翼は袖で涙を拭いた。
ぐずぐずと鼻を鳴らしながら、水槽の前にしゃがみ込む。
水の中を、赤や黒の金魚がゆらゆらと泳いでいた。
さっき逃がしてしまった金魚が、
この中に戻ってきたみたいに見えた。
翼は、そっとポイを水に入れる。
静かに。
破れないように。
一匹に狙いを定めて、ゆっくりとすくい上げる。
――すくえた。
「……とれた。」
小さく呟くと、
さっきまでの涙が嘘みたいに、顔が明るくなった。
「やっぱり翼、上手いね。」
アユムは、少し誇らしそうに笑った。
そのあとも、翼は慎重にポイを動かして、
もう一匹、金魚をすくった。
ポイはそこで破れた。
「もう一匹いけたのに〜!」
悔しそうに笑う翼。
「十分でしょ。」
アユムも笑った。
新しいビニール袋に入れられた金魚が、
提灯の光を受けて、きらきらと揺れていた。
帰り道。
翼はその袋を、今度は両手で大事に抱えていた。
アユムは、その隣を歩く。
「名前、どうする?」
翼が聞いた。
「んー……なんか大きいから〜デベちゃん。」
「デベちゃん?なにそれ。笑」
2人は笑った。
夜の空気に溶けるように、
祭りのざわめきがはやさしく広がっていた。
カラン、コロン。と、下駄の音が重なった。
少しだけ背の高い影と、少しだけ小さい影。
並んで歩くふたつの影。
写真③:スーツ姿のアユムと振袖姿の翼。
ーーこの時の私の顔パンパンじゃない?笑
アユムの髪色も何色なの?笑
20歳の前撮りだったよね。暑かったなぁ〜笑
こうやって、一緒に成長して、一緒に大人になったね。他の子達とは違う。それが、好きだったよ。ーー
深夜0時。
日付が変わる。
翼とアユムは、20歳になった。
「ひえひえだよ〜」
右手に缶ビール。
左手にグラス。
翼はそう言いながら、当たり前みたいに部屋に入ってきた。
「サイコーかよ」
アユムはベランダに出した折りたたみの机の上で、
ポテトチップスの袋を開ける。
グラスにビールを注ぐと、細かい泡がふわりと立ち上がった。
「ではでは。」
翼がニヤリと笑って、グラスを持ち上げる。
「はいはい。」
アユムも同じように笑った。
「「かんぱい」」
カチャン、と軽い音が鳴る。
2人は同時にグラスに口をつけた。
一口。
「んーーーーー……まっず!」
翼が顔をしかめる。
「んー……コーラまだあったっけ?」
アユムも同じようにしかめた。
「もったいないから、全部飲まなきゃ。」
「これは、俺は無理だ。あげる。」
「いや、いらんいらん!ノルマでしょ?!」
「だから、最初はチューハイにしとこうって言ったのに。」
「お酒といえばビールでしょ?!」
アユムは苦い顔のまま、もう一口だけ飲んだ。
「うげぇ……まじぃ……ポテチがうますぎる。」
ポテトチップスに手を伸ばす回数だけが増えていく。
グラスに口をつける回数は、なかなか増えない。
ベランダには、ぬるい夜風が流れていた。
ポテトチップスの袋は、あっという間に空になった。
それでも、グラスの中のビールは、まだ半分以上残っている。
「あー、ビール……大人の味でした。」
翼はベランダの手すりにもたれながら、空を見上げた。
「まだ子どもでいいです。」
アユムが言う。
「同感です。」
翼も頷いた。
少しの沈黙。
遠くで、車の音が流れていく。
「……コーラ取ってくるわ。」
アユムが立ち上がる。
「ついでに、プリンも!」
「どんな食べ合わせだよ。」
そう言いながら、アユムは部屋の中へ消えていった。
ひとり残った翼は、グラスを見つめた。
泡の消えたビール。
少しぬるくなった液体を、一口だけ飲む。
「う……もういいです。ごめんなさい。」
小さく呟いて、グラスをテーブルに置いた。
やがてアユムが戻ってきて、
コーラとプリンを机の上に置いた。
さっきまでのビールは、そのまま。
結局、2人とも最後まで飲みきることはなかった。
泡の消えたビールが、2つ。
夜風に当たりながら、静かに残っていた。
ーーアユム。
ママがよく言ってた。
「姉弟仲良くしてれば、どんな時でも大丈夫。」
本当にそうだと思ってたよ。
アユム。私が居なくなっても、大丈夫なの?ーー




