【1投稿目】トキト 写真2枚
写真①:泥だらけのユニホーム。お互いにそっぽを向いて、明らかに仲が悪そうな幼少期の翼とトキト。
ー実家に遊びに行ったら、なんだか懐かしい写真を見つけたの。
この写真はよく覚えている。
監督から、「お前たちは二人で一人のピッチャーになれ」って言われて…(笑)
納得いかなかったな~ トキトもきっと同じだったよね?
だから、私たち、こんな顔しているんでしょ?(笑)ー
トキトとは、小学生の頃、同じ野球チームに所属していた。
ピッチャーの座を巡るライバル。
監督が「今日は翼」「今日はトキト」と告げるたび、
2人は露骨に不機嫌になった。
チームで一番背が高かった翼は、ストレートを武器にしていた。
調子が良ければ、球速は80キロに届くこともあった。
一方、トキトは小柄で、球速はそれほどでもない。
だが、カーブとチェンジアップの精度は高く、打者を翻弄した。
正反対の2人。
だからこそ、監督は「2人で一つ」と考えていた。
けれど当時の2人にとって、それは受け入れ難いものだった。
グラウンドのあちこちで、視線がぶつかる。
言葉はなくても、火花は散っていた。
中学に上がると、女子は野球部に入ることができなかった。
翼はマネージャーになるしかなかった。
納得なんて、できるはずがなかった。
放課後。部員たちが帰ったあとのグラウンド。
誰もいない場所で、翼はひとりボールを投げた。
ひとりでバットを振った。
悔しさを、ぶつけるように。
「まだやってんの?」
背後から声がした。
振り返ると、トキトが立っていた。
「相手するよ。」
そう言って、カバンを置く。
キャッチャーミットをはめ、腰を落とした。
翼は何も言わず、ボールを握った。
選手として投げられない悔しさを、すべてその一球に込める。
何球投げたのか分からない。
トキトは、それを黙って受け続けた。
何球でも、何十球でも。
やがて、指先から力が抜けた。
ボールが、思うように投げられなくなる。
マウンドに立ったまま、翼は動けなくなった。
トキトが近づいてくる。
気づけば、視線の高さが変わっていた。
いつの間にか、トキトの方が背が高くなっていた。
翼はグローブで顔を覆い、その場に立ち尽くしたまま泣いた。
トキトは何も言わず、ただ隣に立っていた。
やがて、涙が少し落ち着いた頃。
トキトが口を開いた。
「お前の経験が、俺たちを勝たせるんだ。」
翼は顔を上げた。
トキトはまっすぐ翼を見ていた。
「お前無しじゃ勝てない。昔も今も。」
その言葉が、翼を繋ぎ止めた。
選手ではなくなっても、
チームの一員でいられる場所をくれた。
翼はスコアをつけ、相手チームの分析を始めた。
特徴を書き出し、部員たちに共有する。
意見がぶつかることもあった。
それでも、誰も翼の言葉を無視しなかった。
それが何より嬉しかった。
中体連。
負ければ引退の大会。
弱小だったチームは、地区大会決勝まで勝ち上がっていた。
勝てば県大会。
それは、学校史上初めてのことだった。
0対2で迎えた最終回。
守備でなんとか失点を防ぎ、攻撃へと繋ぐ。
先頭打者は三振。
ワンアウト。
続く打者がヒットで出塁。
次の打者は打ち上げ、内野フライ。
ツーアウト。
あと一つで試合が終わる。
それでも、次の打者がフォアボールを選んだ。
ツーアウト、一塁二塁。
打席に立つのは、トキト。
1球目、ストライク。
2球目、ボール。
3球目、見逃しストライク。
ツーストライク、ワンボール。
あとがない。
相手ピッチャーが振りかぶり、
投げた。
トキトが、バットを振った。
カキーーーン
乾いた音が、グラウンドに響いた。
ボールは高く、
高く、
空へ舞い上がる。
誰もが、その行方を目で追った。
一瞬、時間が止まったようだった。
そして――
観客席へ。
ベンチから、歓声が弾けた。
サヨナラホームラン。
トキトはダイヤモンドを駆け抜ける。
拳を突き上げながら。
ホームベースを踏んだ瞬間、チームメイトたちが飛びついた。
何度も胴上げされる。
笑顔が弾けていた。
やがて、トキトは輪を抜けて走り出した。
まっすぐ、翼のもとへ。
翼は両手を上げた。
パンッ。
ハイタッチ。
2人は、顔を見合わせて笑った。
その後の県大会は、0対10で完敗。
初戦であっけなく終わった。
それでも。
引退試合の記憶は、あの一瞬にすべて詰まっていた。
ーー野球が、
トキトが、
私の土台。
ーートキト。どうしてるかな。
もうすぐ赤ちゃん、産まれるよね。
トキトもパパになるね。
トキトの赤ちゃん。
………会いたいなぁ。ーー
写真②:地区大会優勝の部員集合写真。翼の隣で、優勝旗を持ったトキト。2人とも満面の笑顔。




