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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第60話 望海の攻勢

 モエが裸のまま風呂から飛び出して騒ぐ。


「なんや、なんや!? 地震かいな! はよ逃げなアカン!」


 バスタオルすら身にまとっていないモエの裸体を見て、へそ出し乙葉が呆れる。

「服ぐらい着なよ」


「わ、分かっとるわ! こんなデッカい揺れ、初めてやから驚いただけや!」


 姉御の愛衣が深刻そうな顔つきで窓の外を眺めている。

 そして異変を告げる。

「煙が月を隠そうとしているわ。この煙、恐らく火山が爆発したんだと思う」


 それを聞いて委員長の利恵が険しい顔で尋ねる。

「あの山が? まさか……」


 愛衣は口元を押さえながら考えを口にする。

「地鳴りは断続的に続いているわ。前に経験したことがあるの。多分、これは火山活動によるものよ」


 パンツを履きながらモエが驚く。

「ホンマかいな! あの山、火山やったんか?」


 利恵がメガネに触れながら首を振る。

「信じられない。初日に頂上に登ってみたけど火口なんか無かったはずよ?」


 愛衣が唸る。

「うーん。内部にエネルギーを貯め込んでいたのかも」


 モエがTシャツに腕を通しながら焦る。

「に、逃げんとヤバイんやないの? 溶岩とか流れてくるかもしれへんやん」


 愛衣は冷静に分析する。

「溶岩よりも火砕流かさいりゅうの方が危険ね。低い所は避けた方がいいかも」


 そこで利恵が動く。

「移動しましょ! 災害で死ぬことは無いはずだけど熱いのはごめんだわ」


 ようやく服を着終わったモエが乙葉と顔を見合わせる。


 ここは2人の意見に従うのが賢明なようだ。

 というより選択の余地は無い。


「分かった。ほな、行こか!」


 荷物と武器を持って4人は急いで隠れ家を出ることにした。


    *    *    *


 崩落したトンネルを目の前にしてツインテール桐子が頭を抱える。

「参ったね……これは想定外だった」


 民宿街のエリアと雪の町を繋ぐトンネルは、地震のせいで崩落していた。


 もともと岩の斜面に出来た裂け目を強引に拡げただけのトンネルは、人が通るのがやっとのものだった。

 それが完全に押しつぶされている。

 周囲には結構な数の真新しい落石が散乱している。


 イリアが力なく首を振る。

「こっちから避難するのは無理そうね……」


 桐子が頷く。

「だな。となると町中を抜けて砂漠方面へ向かうか、雪原のとこにある石碑でワープするかだな。距離的には石碑かなあ」


 桐子が言うように民宿街に戻るには、遠回りするしかない。

 よって、どのみち雪の町を突っ切らなければならない。


 イリアが諦め顔で呟く。

「仕方ないわね。町中は危険だけど……」


 止む無くUターンして望海達が隠れていた家の方向に戻る。


 その間にも断続的な爆発音と強烈な揺れに、何度も足がすくみそうになった。


 10分ほど歩いたところで、前方に揺れる懐中電灯の明かりが目に入った。


 桐子がそれを見て大きく手を振る。

「おおい! こっちはダメだ! 道が塞がってる!」


「は? マジで!」と、返ってきた声は望海のものだ。


 桐子とイリアは急いで望海達に合流する。

 そして、町中に向かう。


 望海はブツブツ文句を言う。

「結局、町中、歩くじゃん。敵だらけで危ないとか言いながらさ」


 桐子が苦笑いを浮かべながらそれを宥める。


「まあまあ。仕方が無いよ。想定外だったんだから。けど、トンネルが崩れてたってことは、やはりあの山はヤバイ状態なんだよ」


 イリアは梢が手にしている棍棒をチラリと見る。

 特にイリアが何か言った訳ではない。

 だが、梢はイリアの視線に気付いて小さく首を竦めた。


 月明かりが不足しがちな不安定な闇の中を4人は黙々と進んだ。


 時折、強い揺れが足元をふらつかせた。

 もともと積雪のせいで足元は悪い。それに加えてこの揺れだ。

 慎重に進むというよりは、ひたすら目の前に現れたスペースに足を踏み入れることの連続だった。


 突然、望海が「シッ!」と、人差し指を口に当てる。


 彼女の見る方向には何もない。

 というよりも真っ暗で建物の輪郭や物体の境界線すら怪しい。


 険しい表情で前方を見つめる望海に桐子とイリアが戸惑う。


 すると望海は左手で自らの右肘をポンポンとタップした。


 次の瞬間『パヒュン!』という破裂音と共にライフル銃が出現する。


 望海はそれをキャッチすると素早く銃を構えて狙いを定める。

 そして迷うことなく『パンッ!』と発砲した。


 一連のスムーズな流れに桐子とイリアが唖然とする。


 それを尻目に望海は舌打ちする。

「チッ! 外したか」


 そこでライフル銃が『パフン』と消失する。


 ようやく事態を飲み込んだ桐子が顔を強張らせる。

「の、望海、君、まさかそれ……」


 しかし、望海はそれには答えずに「4、5、6……」と数を数え続ける。

「13……よし」と、再び右肘をタップする望海。


 先程と同じようにライフルが出現して望海がそれを構えて撃つ。


 実に手慣れた作業のように見える。

 望海は前方を見ながら今度は「やった!」と、小さくガッポーズをみせる。


 イリアが前方を見て首を捻る。

 随分と先の方で悲鳴のようなものが聞こえたような気がしたのだ。

 だが、火山活動の音で聞き取れない。


 桐子が望海の目を見て驚く。

 なぜならその目は暗闇に光るフクロウ目のように見えたからだ。

「望海! やっぱり君は……」


 桐子はぞっとした。

 望海がライフル銃を当たり前のように使っている。

 それは考えたくも無い事実を意味する。


 前方が騒がしい。今度は、はっきり聞き取れた。

「誰っ?」「クソッ!」「あっちからや!」


 イリアはそれを聞いて「モエ達が居る」と、桐子の顔を見る。


「ああ。3人か? いや4人?」


 桐子は頭の中で情報を整理する。

 それが間違ってなければモエとへそ出し乙葉、委員長の利恵と姉御の愛衣だ。


 そこで梢が反応する。

「お姉ちゃん! 下がって!」


 それと同時に『バシュ!』という発砲音のような音が前方で発生した。


 しかし『ヒュウウン』と空気を裂く音は随分と手前で失速して『バーン!』と爆発を起こしただけだった。


 望海がニヤリと笑う。

「あっちの攻撃は届かないみたいね。だったらもう一発……」


 望海には見えているのだろう。

 それはヘレンが言っていた武器固有の能力だ。


 そして、彼女は今、ヘレンが持っていたのと同様のライフルを器用に使いこなしている。

 つまり、望海はヘレンを殺してそれを奪ったということになる。


 望海は痣をタップしてライフルを出現させると素早く『パンッ!』と、射撃を行う。


「クソ! また外した。やっぱ遠すぎるか。梢! 行くよ!」

 そう言って望海は双剣と荷物を拾うと、勢い良く左方向に飛び出して行った。


 その姿は直ぐに闇に紛れてしまう。

 若干遅れて梢が「待って、お姉ちゃん」と、後を追う。


 イリアと桐子が唖然としていると、今度は前方から空気を裂くような音がして2人の近くで『ザッ!』と、音を発した。


 桐子が恐る恐る近づいて確かめる。

「こ、これは……三つ又の鉾。てことは望海が言ってたのは事実だったのか?」


 雪に突き刺さったトライデントは、数秒後に『ボフン』と間抜けな音だけを残して消え去った。


 イリアが前方に目を凝らすが、やはり声しか聞こえてこない。

「やっぱり3人ぐらい居るようだけど……暗くて見えない」


「マズイな。あっちはボク等を敵だと思ってるみたいだ」


「仕方ないわ。問答無用で撃っちゃったんだから」

 イリアは諦め顔で首を竦める。


 この闇の中だ。相手は敵襲だと受け止めているに違いない。


「参ったな。利恵にボク等の存在を知らせた方がいいかな?」


「こう暗くちゃね。それにあっちはパニックになってると思う」


「だよなあ。さっきの鉾も闇雲に投げてきたみたいだし、その前の何だろ、あの武器。バズーカだか迫撃砲みたいなのも狙って撃ったものじゃなさそうだったもんな」


 桐子達はヘレンの口から飛び道具で見張り小屋を爆破されたということは聞いていたが、それがグレネード・ランチャーであることは知らない。


 望海の話では、利恵は、お嬢様の玲実を殺して、その武器を奪ったことになっている。


 イリアが推測する。

「となるとあっちは利恵、愛衣、モエ、乙葉の4人ね」 


 利恵と愛衣はまだ何とかなる。和佳子を巡るいさかいはあったものの、桐子とイリアに対する敵意は、さほどでもないと予想される。


 だが、モエと乙葉はそうはいかない。あちら側は詩織を、自分達は智世を殺されてしまった。

 そう考えると桐子の説得に素直に応じる可能性は低い。


 桐子はしばし考えて大剣を雪の上に放り出した。

「よし。ボクが1人で行くよ。イリアはここで待機しててくれ」


「大丈夫なの? 向こうは不意打ちされたって怒ってるはずよ」


「分かってる。だから無抵抗で行く」


 桐子はそう言うがイリアは心配する。

「双子が邪魔しなけりゃいいんだけど……あの2人、どうするつもりなのかしら」



 その頃、望海と梢は隠密行動で利恵達に接近しようとしていた。

 2人は、密かに桐子達が居る大通りの一本隣の路地を進む。


 幸い、雪を踏み分ける音は地鳴りに紛れる。

 黙々と雪道に足跡を刻む望海の後ろを梢が必死でついていく。


 しばらく進んだところで望海が立ち止まった。

 梢もつられて足を止める。


 望海は暗闇でも目が効く能力を使って家と家の隙間から、その先にある利恵達の姿を視認する。

「見えた……」


 その距離、約20メートル。


 望海は双剣を地面に置き、タップでライフルを出現させると素早く射撃体勢に入る。


 始めに照準を定めたのは右胸を押さえて苦悶する委員長の利恵の姿だ。

 だが、直ぐに狙いをスライドさせて利恵の隣に居た愛衣を狙う。


『パンッ!』


 望海の一撃が愛衣の首に命中する。

 愛衣が首を押さえて崩れ落ちる。


「不確定要素は、先に排除しておかないとね」


 そう呟いて望海はさらに場所を変える。


 さらに前進する。


 すると右手に繋がる通路があった。

 迷わず突入して右に曲がる。

 今度は数メートル先まで接近する形になった。


「12、13……」

 望海は数え終えたところで荷物を置いてタップ&ショット!


『パンッ!』


 この距離なら外しようがないという自信があった。


 望海の目論見通り2発目は利恵の腹部に命中した。


「うっ!」と、利恵の呻き声が望海の耳に届いた。


 利恵は腹部を押さえて前屈みになりながら両膝を落とす。

 そして背後の壁にもたれ掛る。


 愛衣と利恵が立て続けに銃撃を受けたことで、近くにいたモエがパニックになっている。

「なんや!? どうなっとんや!」


 その隣で乙葉が周囲を警戒しようとしているが、まるで見当違いの方向を凝視している。


 それを見て望海はほくそ笑んだ。

 闇が支配するこの空間で見えているのは望海だけだった。


 望海が双剣を拾い上げて梢に耳打ちする。

「メガネ女に止めを刺すから援護して」


「え、え? 何すればいいの?」

「懐中電灯の光を向けるだけでいい」


「え? これ?」

「そう。大阪弁の女とヘソ出し女がアタシに気付いたら大声出して注意を引いてから、それを照らしてやって。目つぶしになるから」


「わ、わかった……」


「OK。じゃ、行くよ」


 望海は双剣を右手と左手に持ち、舌なめずりした。

 それはまるで勝利を確信したハンターのような顔つきだった。


 望海はダッシュする。

 一直線に利恵に向かう。


 右か、左か、どちらの剣で斬りつけるか吟味しながら走る。


 あと数歩。あと少しで利恵を殺すことが出来る。

 既に狙撃で致命傷は与えている。

 なので、このまま放置しても利恵は死ぬだろう。


 だが、死ぬまでの猶予を与えてしまうと、和佳子の時のように利恵の仲間が武器と能力を奪われないように手を下す可能性がある。


 望海はそれを怖れた。

 そして何より自らの一撃で、とどめを刺すことに意味があるような気がした。


 勝ちを確信した望海は剣を振り下しながら叫んだ。

「死ねぇええ!!」


 と、その時、捨てられた人形のようにクタっとしていた利恵が顔を上げた。


『パシュ!』という破裂音と共に、望海の目の前に鉾先が出現した。


 望海が「うっ!?」と、瞬間的に身体をひねる。


『ザクッ!』


 トライデントの鉾先が望海の左肩を深く抉った。

 超スピードで回避していなければ確実に胸を貫かれていた。


 望海が「なっ!? くそっ!」と、驚きと激痛に顔を歪める。

 その目にはトライデントを右手で突き出す利恵の姿が写った。


 望海がバックステップで距離を取りながら「な、なんで!?」と、歯軋りする。


 狙撃によって腹部に致命傷を与えたはずだった。

 なのに、利恵が反撃してきたことが信じられない。


 利恵はハンマーを拾いながら弾かれたように立ち上がると、右手一本の強烈なスイングで望海に向かって攻撃を仕掛けてきた。


 一方、利恵の左手は、彼女の腹の辺りを押さえている。


 そこから『シュウウウ』と、沸騰したヤカンが水蒸気を吐き出すような音がしている。

 微かに青白く光っているようにも見える。


 利恵が低い声で独り言のように呟く。

「助かったわ……この能力のおかげで」


 望海は混乱した。

 狙撃した時、腹部への命中を確認した。

 それにより虫の息であったはずの利恵は息を吹き返している。


「まさか!?」


 望海の脳裏にお嬢さま玲実の顔が浮かんだ。

「能力! 治ってるっていうの!?」


 利恵がグレネード・ランチャーと共に玲実から奪った能力。


 それは手を当てた箇所を治癒する能力だった!


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