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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第61話 散りゆく花びら

 委員長の利恵がお嬢様の玲実から奪った能力は、手の平を患部に翳《かざ》すことで治癒する自己回復能力だった。


 利恵が瀕死と思って油断した望海は、トライデントのカウンターを受けてしまった。


 望海の動きが止まった隙を突いて、利恵はタップでグレネード・ランチャーを取り出す!


 そして、すかさず発射した。


 だが、狙いが正確ではなく距離も近すぎた。


 利恵が放ったグレネード弾は、望海の横を抜けて、向かいのガレージに飛び込んでいった。


『バーン!』という破裂音が望海の背中に熱風を運んでくる。


「うっ!」と、望海は爆風に怯んだ。

 さらに振り返って目を見開いた。


「しまった!」


 ガレージ内に飛び込んだグレネード弾は停めてあった車を一瞬で炎に包んだ。

 炎は周囲を明るく照らした。


 これでは、闇夜で目が効くというヘレンから奪った能力の優位性が失われる。

 また、望海の姿も視認されてしまう。


 モエの怒号が響く。

「なんや! アンタやったんか!」

 

 へそ出し乙葉も、望海の姿を認めて怒りを露わにする。

「なんなのよ! あんたは!」


 モエと乙葉は、見えないところから狙撃してきたのはヘレンだと思っていたのだ。


 乙葉がショットガンを構える。

「ヘレンの仲間なら許さない! 死ね!」


『バンッ!』


 望海は、超加速による俊敏な動きで辛うじて散弾の範囲から逃れる。


 だが、そこに利恵とモエが同時に襲い掛かる!


 利恵は「うりゃああ!」と、ハンマーを振り、モエは「とぉありゃっ!」と、戦斧を振りかぶって飛び掛かる。


 望海が「クッ!」と、双剣を翳《かざ》して防御態勢を取る。


 超速の動きは1.3秒しか有効ではなく、インターバルには13秒を要する。


 望海は、利恵の大振りのハンマーは一歩下がって寸前で回避。

 上から降ってきたモエの戦斧は『ガキン!』と、左の剣で受ける。


 モエは戦斧を小刻みに振る。

「まだまだやで!」


 モエは手首の返しを加えて『クッ、クッ』とショートレンジでキレのある攻撃を浴びせる。


 望海はそれを左右の剣で『ガキン、ガッ!』と交互に受けるが、防戦一方だ。


 おまけに一発の重みでは分が悪い。

 戦斧を剣で受ける度に手首ごと持って行かれそうになる。


 攻めるモエ、受ける望海。

 2人が接近戦で激しくやり合っているせいで利恵は手出しできない。


 乙葉もショットガンを撃つタイミングを見計らっている。


 押し気味のモエが戦斧を上から叩きつけるアクションで望海の剣を強く押し込む。

「痛っ!」と、望海の腕が大きく下がる。


 モエはチャンスとみて戦斧を突きの要領で前に突き出す。

 反射的に仰け反る望海。


 その瞬間、モエが「今やっ!」とバックステップの要領で大きくジャンプして望海から離れる。

 超人的な大ジャンプはモエの能力だ。


 そこで乙葉が反応する。


 乙葉は、モエが望海から離れるのと同時にショットガンを発射した。

『バンッ!』


 今度こそ捉えた! 


 そう思った。


 モエの意図を理解した乙葉による銃撃は最高のタイミングだった。

 体勢を崩された望海にそれを避ける術は無い。


 だが、次の瞬間、乙葉は望海の姿を見失った。

「なっ!? 消えた!?」

 信じられない思いで乙葉は、その一点を凝視する。


 ジャンプで滞空中のモエも「嘘やろ!?」と、目の前のことが信じられない。


 同じく唖然と立ち尽くしていた委員長の利恵が叫ぶ。

「後ろっ!」


 利恵の視線が自分に向いていることに気付いた乙葉が、立ち位置をずらしながら振り返る。

「あっ!」


 乙葉の腰の辺りの高さで真っ直ぐに向かって来る物体が目に入った。


 乙葉はそれに触れようと左手を伸ばす。

 そして物体の威力を能力で押し流した。


 それは闘牛士が赤マントで牛の角を撫でるような動きであり、合気道で相手の力をいなすような動きでもあった。


「そんな!?」という声が耳に入った。

 それは背後から槍で乙葉を襲撃した望海の声だった。


 乙葉も「いつの間に後ろに!?」と、驚愕の声を漏らす。


 ショットガンの一撃で捉えたはずの望海が消えて、突然、背後から現われた。


 これで2度目だ。

 乙葉には望海が瞬間移動したとしか考えられなかった。


 一方の望海も乙葉が槍の攻撃を交わした時の手応えが信じられなかった。


 それは、ヘレンが言っていた「衝撃を逃がす」という乙葉の能力だった。

 だが、はじめて体験した望海には、キツネにつままれたようなものだった。


 互いに固まる望海と乙葉。


 それを見て利恵が、眼鏡を触わった手で痣をタップし、トライデントを取り出す。

 そしてそれを投げる体勢に入った。

 望海は利恵の動きに気付いていない。


 その距離3メートル。

 和佳子譲りの投てき力なら致命的なダメージを与えられる距離だ。


 利恵が恐ろしい表情でトライデントを振りかぶる。

「これで死……」


 その言葉を『バリバリバリ!』という音が遮った。


「ぐぎゃああ!」と、利恵が絶叫して身体を硬直させる。


 皆が異変に気付く。

 そして焦げ臭さに驚いた。


「なな、なんや?」と、モエが鼻を鳴らす。


 皆が注視する中、苦悶の表情を浮かべ、トライデントを持ったままの利恵は、前のめりに倒れた。


 何が起こったのか分からなかった面々だが、利恵が倒れた後にその理由を理解した。


 なぜなら利恵の背後に立っていた梢が電撃棒を持っていたからだ。


 恐らく利恵の感電したようなリアクションは、梢が電撃を食らわせたことによるものだ。


 自らの行為で他人を傷つけてしまった。

 その事実に固まる梢。

「あ、あ……」


 梢は自分のしたことを後悔しているのか泣きそうな顔でオロオロしている。


 利恵が絶命していることは明白だった。

 彼女の身体は真っ黒焦げといっていい。


 どれぐらいの電流が流れたのかは不明だが、雷に打たれたようなダメージを受けたと思われる。

 そして何ともいえない嫌な臭いは致命的な火傷を連想させた。


 モエが「ざけんなっ!」と、飛んだ。


 モエは短い助走から大ジャンプを繰り出し、梢の前まで接近すると空中でクルッと一回転して着地と同時に戦斧を斜めに切りつけた。


 遠心力を利用したその回転斬りは、無防備に立つ梢の顔面を『ズパッ!』と、深く切り裂いた。


「え?」と、梢の目が見開かれる。


 梢の顔は右目の下から唇の左にかけてのラインを境に大きく切り裂かれてしまった。

 まるで野菜を乱暴に切り分けた時のように。


 望海が「梢ぇぇ!!」と、絶叫する。


 だが、姉の願いも虚しく、妹の梢は大量の血を顔から吹き出しながら膝から崩れ落ちた。


 そして、まるで糸が切れた操り人形のように、こと切れた。


 望海は言葉にならない叫びをあげながら走り寄ると妹の亡骸に縋りついた。


 そのすぐ傍では返り血を浴びたモエが呆然と立ち尽くしている。


 モエは身体をビクッと震わせると「熱っ!」と、しゃがみ込んだ。

「あ、あ、熱っ! なんやこれ!?」


 望海は梢の斬り裂かれた顔面を両手で包みながら号泣する。


 そしてフラフラと立ち上がると双剣を持ってモエを睨みつけた。

「よくも……よくも妹を……」


 モエは急な発熱と全身の痛みで動けない。


 望海は、そんなモエの様子を冷たい目で見下ろしながらゆっくりと近づき、右手の剣を振り上げた。


「させるかっ!」と、乙葉が叫ぶ。

 そして『バンッ!』と、ショットガンを放った。


「くっ!!」と、望海が右腕の盾を乙葉の居る方向に向けるが、散弾を幾つか喰らってしまう。


「ぐぎっ!」と、痛みに顔を歪める望海。


 乙葉は2発目を狙うがモエに当たってしまうことを警戒して引き金が引けない。


 反対に望海はタップでライフル銃を取り出すと、照準を覗くことなく手を伸ばした状態で発射した。


『バンッ!』


「え?」

 乙葉が唖然とする。

 まさか、その体勢で撃ってくるとは思わなかったのだ。


「あたっ……た? 今のが?」

 乙葉は自らの左胸に生じた痛みと望海の発砲の因果関係を理解できなかった。


「がはっ!」

 刺すような痛みと激しい吐血によって乙葉の呼吸が止まった。


 乙葉が倒れる様をチラリと見て望海は再び双剣を手にするとモエに向き直った。

 そして首の辺りを狙って「死ねよっ!」と、目一杯、斬りつける。


 だが、振り下した刃先が『ガキッ!』と、音を立てて反発を受ける。


「な!?」と、望海が動きを止める。

 なぜか刃先がモエの首筋で寸止めされている。


 望海はむきになって今度は左手の剣でモエの顔面に斬りかかる。

 しかしそれも『ガキッ!』と阻まれてしまう。


 まるで見えない壁でもあるかのように、どうしても刃先が届かない。

 しかもモエの身体は青白く発光している。


「くそっ! くそっ! 何でよう!」


 望海は左右の剣を何度も打ちつけた。

 それでもモエに傷ひとつ、つけることが出来ない。


 そこにツインテール桐子の怒号が響いた。

「なにやってんだ! 君達!」


 望海が手を止めて桐子の方に向いた。


 目の前の異様な光景に桐子が脱力した。

「なんて愚かな……バカだよ。君達は……」


 それは絶望的な光景だった。


 未だ衰えぬガレージの炎に照らされた通りには少女達の無残な姿が転がっている。


 桐子から見て手前に乙葉、その向こうに梢、右方向には利恵、その奥には愛衣が倒れている。

 その真ん中にうずくまるモエとそれを攻撃している望海の姿がある。


 桐子は悲しげに首を振った。

「何なんだよ……これは?」

 そして天を仰ぐ。


 そこにイリアが追いついてきた。


 イリアは桐子の背後から惨状を目の当たりにして「ひっ!」と、手で口を覆う。


「これは……」


 イリアの大きな瞳が潤んだ。

 流石にこの惨劇は直視できない。


 その時、望海が脱兎のごとく逃げ出した。


 彼女はモエを攻撃するのを諦めて奥の方向に向かって走っていく。


 その途中、望海はいったん立ち止まってタップでライフル銃を取り出すと、振り返って構える。


 そして『パンッ!』と、躊躇することなく発砲した。


 次の瞬間、ツインテール桐子が「うぐっ!」と呻き声を発して、お腹を押さえた。


 それを確かめると望海は、ニヤリと笑って、再び駆け出した。

 そしてそのまま闇の中に消えていった。


 残されたのは高熱の後遺症に苦しむモエ、唖然とするイリア、そして腹を撃たれた桐子の3人だ。

 そして、ライフルで撃たれた虫の息の乙葉。


 イリアがハッとして桐子の状態を心配する。

「だ、大丈夫!?」


 桐子は倒れそうになるのを堪えているが脂汗が出ている。

「うん……て言いたいところだけど……無理っぽいな」


 イリアは、どこか横になれる場所は無いかと周囲を見回す。

「家の中に入りましょ! 歩ける?」


 イリアは桐子に肩を貸しながら尋ねる。

 しかし、桐子の顔色は良くない。


「イリア……モエを連れて逃げるんだ」

「な!? そんなの無理よ」


「いいんだ。ボクは遠くまで行けそうにない。ここは危険だ。早く避難しないと火砕流が来るかもしれない」


「いいから、もう喋らないで……」


 桐子は足がガクガクしている。

 その痙攣はやがて上半身にも伝わり、彼女の顔から生気が急速に失われていった。


 イリアは焦った。

 どうすることも出来ない苛立たしさと望海への怒りが渦巻いた。


 桐子が口元から血を流しながら弱々しく言う。

「イリア……ボクはもう……早く、行ってく……れ」


「そんなこと!」


 その後に続くイリアの言葉を桐子は手のひらで制した。

 その手にはべっとりと大量の血が着いている。


「いいんだ……ボクはもう……」


 彼女の足元には次から次へと血が滴り落ちている。

 その血の量が深刻さを物語っている。


 イリアは「ああっ!」と、絶望的な声を出した。


 桐子は自らの身体から引き離すようにイリアを押すと、どさっと雪の上に仰向けに倒れた。

「不思議だ……寒くないよ」


 最後に桐子はそう言った。


 不思議とその表情に苦痛や怒りは見られない。

 穏やかな顔だ。

 まるで良い夢を見ている時のような表情で桐子は息を引き取った。


 また大きな地鳴りが発生した。

 今度は震度7はありそうな強い揺れだ。


 イリアは両手で顔を覆って涙した。


 しかし、彼女の慟哭は、地鳴りで揺さぶられる建物の悲鳴と屋根から落ちる雪の音にかき消されてしまった。

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