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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第27話 出発準備

 山海荘さんかいそうの大時計は、朝の9時を指そうとしていた。


 ロビーでは出発準備を終えた玲実、望海、梢の3人組が集合している。


 皆、ゆったり目のパンツにTシャツ、パーカーという軽装。

 そして、小ぶりなリュックは食料でパンパンだ。


 気合の入った様子の玲実を望海が冷やかす。

「珍しくヤル気あるねぇ。今日は早起きだったし」


 玲実は自慢の巻き髪を指先で跳ねながら応える。

「正直、よく寝れなかったのよね。悔しくって」


 プライドの高い玲実にとって昨夜の、ぽっちゃり和佳子の蛮行ばんこうは許せるはずがなかった。


 武器を持つ相手に成す術が無かったという屈辱。

 そのことが玲実を、やる気にさせたのだ。


 望海は顎を引いて力強い視線を送る。

「アタシも同じだよ。絶対、やってやろうね!」


「勿論よ!」と、玲実が胸を張る。


 望海と玲実のやりとりを梢は強張った表情で聞いている。


 一卵性の双子ながら姉の望海と梢の性格は真逆といえる。


 激情型の望海は楽観的で男っぽいところがあるのに対して、妹の梢は悲観的で慎重に行動するタイプだ。


 そんな風になってしまったのは、おそらく2人の成長過程にある。


 無鉄砲な姉の暴走に巻き込まれるたびに梢は冷静にならざるを得ず、そこに精神年齢の成長に差が生じたのかもしれない。


 玲実がふと思い出す。

「ねえ。そういえば地図は? 手に入れたの?」


 それを聞いて望海がニンマリする。

「言ったでしょ。バッチリだって」


 そう言って望海はパーカーのポケットから四つ折りの紙を取り出した。

 そしてそれを広げる。


「ジャーン! この島の地図。手書きだけど」


 チラシの裏に描かれた地図を見て梢が目を丸くする。

「お姉ちゃん、それ。どうしたの? まさか盗んできたとか」


「失礼ね。盗んでなんかないわ。描かせたのよ。あの子に」


 それで梢は理解した。

「なるほど。あの絵を描く子ね。だから昨日の夜、出かけてたんだ」


「そうよ。あの後、南風荘に忍び込んで描かせたんだ」


 玲実が感心する。

「よく書いてくれたわね。どうやったの?」


「脅したんだよ。心理的な揺さぶりをかけたの」


「お姉ちゃん怖いよ」


「何いってんの。駆け引きよ。駆け引き。だって、あの子どうみても『いじめられっこ』でしょ? だから敵を作りたくないって思いが強いのよ。そこを利用したってワケ」


 望海は「描かないと一生、恨むよ」「アンタのせいで私達が酷い目にあったら責任とってくれるの?」といった風に智世にプレッシャーをかけて「自分達に憎まれたくなければ絵を描いてくれればいい」と交渉したのだ。


 望海の説明を聞いて玲実が首を傾げる。

「でも、それならスケッチブックの写メでも良かったんじゃない?」


 玲実の問いに望海が首を振る。

「ダメダメ。スケッチブックは他の連中がいるところにあって、持ち出させるのが無理だったの。だから、あの子がトイレで1人になるのを狙ってチラシの裏に、ささっと描かせたの」


 玲実は地図を、まじまじと見て驚く。

「さっと描いたにしては細かいところまで再現してるわね」


 地図を覗き込みながら梢が納得する。

「そっか。あの子、瞬間記憶があるとか言ってたわ。あれは本当なんだろうね。時間をおいても正確に再現できるなんて。凄いね」


 それを聞いて望海が自分の手柄てがらに胸を張る。

「そうよ。それを知ってて利用したアタシも大したものでしょ」


 確かに望海の作戦はなかなか巧妙なものだった。


 南風荘のメンツを考えた時、昨夜殴り込んできた、ぽっちゃり和佳子は論外として、委員長の利恵やクールなイリアは、まず秘密を漏らしそうに無いと考えられる。


 ボクっ子のツインテール桐子は何を考えているのか分からない。


 姉御肌の愛衣に頭を下げるという手もあったが、最もリスクが少ないとなると、それは必然的に智世になる。


 それにいじめられっ子を従わせるという方法において望海は巧みに智世の心を揺さぶり、最終的には目的を達成した。


 そして狡猾こうかつなのが「新しく描く分には他の子を裏切ることにはならない」という屁理屈を付け加えたことだ。


 智世は南風荘のメンバーに対する仲間意識から独断でスケッチブックを開示することは拒んだ。


 現に望海に見せろといわれた際に彼女は「それは、みんなに相談してから」という反応を示した。


 そこで望海は、新たに描くという選択肢を用意して智世をそこに誘導したのだ。

 逃げ道として用意されたものが罠だったというのは心理学の悪用だ。


「スケッチブックを開示する」か「新たに描く」しか選択肢が無いように追い込んだ時点で望海の方が上手だったのだ。


 玲実が地図を眺めながら呟く。

「さてと。問題はどっから手をつけるか……」


 そこで望海が断言する。

「港方面、一択でしょ」


「え? どうしてそう言い切れるの?」

 そういぶかる玲実に望海がその根拠を説明する。


「ここ。梢の武器があったんだってさ」

 テーブルの上に広げた地図の中で望海が指差したのは矢倉のある湿地帯だった。


「え? わ、わたしの?」と、梢がソワソワする。


「そうだよ。それで確実に1個は武器ゲットだね」

 望海はそういって片目をつぶってみせる。


「はは、そうだね……」と、梢は作り笑いを浮かべる。


 玲実が地図上を指先でなぞりながら尋ねる。

「その後は? どういうルートで進むの?」


 望海は大事なことを教える教師みたいに人差し指を立てて答える。

「岬の方には行かずに森を抜けて、上の方にある×印を目指す感じかな」


「岬って……ああ。これね。この×印はスルーでいいの?」


 玲実の質問に望海がコクリと頷く。


「いいの。今のところ判明してる情報を整理すると、持ち主が判明してる×印は……こうなるわ」


 そう言って望海は左上から順に×印の横に名前を記入していく。


 山の中腹の×印には『ヘレン』、神社は『オトハ』、そして海岸の×印には『ブタ』と書き込んだ。

 それは、ぽっちゃり和佳子に対する悪意が現れた表現だった。


 それを見て玲実がクスッと笑う。

「そこだけ『ブタ』って! 超ウケる」


 望海は次に森の部分の×印に『モエ』と書き加えた。

「ここまでが分かってた情報。これに智世って子の情報を加えると……」


 そう言いながら望海は病院の記号に重なる×印に『イリア』、雪原の×には『リエ』、そして岬の部分に『ノノカ』『トモヨ』と書き足す。


 それを見て梢が首を傾げる。

「なんでそこは2人分なの? ×印はひとつなのに」


「さあ? 全員分の武器の場所は描かれてないってことみたいよ」


「どういう意味?」と、玲実が眉をひそめる。


 望海は「受け売りだけど」と前置きして説明する。

「×印の数が11個しかないの。ホントなら15人分あってもいいはずなのに」


 それで玲実が理解した。


「なるほどね。つまり地図に描かれてない場所にも武器はあるってことね。でも、それは困るわ。もし残りの×印に私達の武器が無かったら自力で探さなきゃならないってことでしょ?」


「そうなるね……まあ、行ってみないと分からないよ」


 望海は楽観的にそう言うが、本当にうまく武器が回収できるかは未知数だ。


 とはいえ、地図という有力なツールを得て玲実達は、ようやく動き出した。


     *    *    *


 同じ頃、南風荘では雪の町へ向かう為の準備が着々と進められていた。


 イリアのアドバイスで防寒対策も行った。


 自分達がこの島に持ち込んだ荷物は夏向けの衣服ばかりだった。

 夏の海辺でのグラビア撮影旅行と聞いていたからだ。


 そこで、旅館にあった毛布と雨合羽を持って行くことにしたのだ。


 イリアと智世は前日に調達したジャケットとコートがある。

 だが、足が寒かったことを教訓にズボンを履くことにした。


 委員長役の利恵が皆に声を掛ける。

「みんな、忘れ物は無い? たぶん、泊まりになるからね」


 それは皆も覚悟の上だった。


 イリアと智世が発見した町は、ここよりも建物の数がずっと多い。

 そこを探索するとなると半日では時間が足りない。


 イリア、智世、愛衣、和佳子、利恵、桐子の6人で手分けしたとしても何日かは要すると思われた。


 探検隊を結成したような気分で盛り上がる利恵のテンションを見ながら桐子が尋ねる。

「なあ、本当に留守番はいらないのかい?」


 すると利恵が「留守番?」と、聞き返す。


「ああ。もし、救助の人が現れた時、ボク等のことに気付かなかったらどうすんのさ。やっぱり、連絡係は居るんじゃないかな」


 そこでイリアが利恵の代わりに答える。

「救助の可能性はゼロじゃない。でも、限りなく低いと思う。それなら皆で行動した方がリスクは低いはずよ」


「リスクって、そんな……」と、桐子が言いかけてハッとする。

 その目は、ぽっちゃり和佳子に向けられている。


 嬉々としながらスナック菓子をリュックに詰める和佳子に桐子が尋ねる。

「和佳子。それ、どうしたのさ?」


「ン? これ?」


「お菓子だよ。取られたって言ってなかったっけ?」


「そうだよ。だから返してもらったの」


「なっ!? いつの間に?」


 驚く桐子に向かって和佳子がニッコリほほ笑む。

「昨日の夜。あの子達に返して貰ったの」


 それを聞いて桐子は、まずいなあといった風に首を竦めた。

「まさか、あの子等ともめ事は起こしてないだろうね?」


「もめ事? ううん。すんなり言うことを聞いてくれたよ?」


 和佳子は本気でそう思っているのかもしれないが、桐子は彼女のトライデントを眺めながら考え込んだ。


 そして苦言を呈する。

「あのさ。君は大したことないと思ってるかもしれないけど、相手はそうじゃないかもしれないんだぜ?」


 その言い方に和佳子が少しむくれる。

「どういうこと? 私が武器で脅したから?」


 その答えに桐子は頭を抱えた。

「おいおい。マジかよ……武器を持って行ったのか」


 そこでどのようなやりとりが成されたのかは大体、想像がついた。


 それは利恵やイリア達も同様で、何とも言えない気まずい空気になってしまった。


 しかし、和佳子は自分の非を認めない。

「だって仕方ないじゃん! 大事なお菓子を盗ったんだよ? それを返して貰って何が悪いの?」


 あのお嬢様で気の強そうな玲実が素直にお菓子の返却に応じたとは思えない。


 それにその前フリとして、玲実が朝から言いがかりをつけてきた件もある。


 あの時は、山海荘の窓ガラスを利恵が割ったという根拠の無い言いがかりだったが、そこに至るまでは積もる感情があったのかもしれない。


 桐子は溜息をついた。

「やれやれ。厄介な事になったなぁ……」


 利恵も思うところがあるのか小さく溜息をつく。

 愛衣は軽く首を竦める。


 それらとは対照的に、ぽっちゃり和佳子は楽しそうに詰め込み作業を続けている。


 そのシュールな光景を眺めながらイリアが智世に耳打ちする。

「困った子ね。身勝手な行動はトラブルのもとなのに。その自覚が無い」


 その言葉に智世がビクッとする。


 イリアは和佳子の単独行動に関してそう言ったのだろうが、智世には望海に地図の情報を漏らしてしまったという秘密がある。


 それが智世の良心を委縮させたのだ。


 そんな智世の内心など知る由も無いイリアは、智世の頭にポンポンと触れて言う。

「いざという時は私達だけで行動しよう」


「う、うん」


 イリアは一見すると取っ付き難いクールそうな少女だが智世には頼もしく見えた。


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