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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第26話 和佳子の蛮行

 山海荘《さんかいそう》のロビーでは、わがまま3人組が作戦会議中だった。


 就寝前の遅い入浴を済ませた玲実達は明日からの行動について相談する。


 湯上りの火照《ほて》った身体を冷ましながら双子の姉である望海《のぞみ》が宣言する。

「よし。明日から本気出す」


 それを聞いてタオルを頭に巻いた妹の梢《こずえ》が苦笑する。

「お姉ちゃん、いつもそればっかり」


「だって今日は準備だけで終わっちゃったから仕方ないじゃん」


 あっけらかんとそう答える姉を見て梢が呆れる。

「そりゃ、そうだけど……」


 武器探しに出ると決めたものの結局、今日は準備日に充《あ》てられた。


 お嬢さまの玲実が、冷えたサイダーの瓶《びん》を頬に当てて目を細める。

「そうね。明日から頑張りましょ。でも、なんとか地図を手に入れたいところね」


 望海がスパイで入手した情報では武器の位置を示した地図が存在するという。


 出遅れた玲実達が、効率よく武器を手にする為にはそれが必要だ。

 闇雲《やみくも》に島内を歩き回っても効率が悪い。


 玲実の考えを察して望海が含み笑いを浮かべる。

「地図は大丈夫。ちゃんと考えてあるわ」


 それを聞いて梢が心配そうに何か言いかける。

 だが、望海の「任せてよ」と、自信たっぷりな様子に言葉を飲む。


 玲実は「じゃあ、ホントに任せたわよ」と、わざとらしい笑みをみせる。


 そんな具合で楽観的な作戦をたてているところに突然、訪問者が乱入してきた。


 望海が「誰か来た?」と、怪訝《けげん》そうに振り返る。


「鍵はかけてないの?」と、玲実が双子に確認する。


 それに対して双子が同時に首を振る。


 山海荘の玄関を乱暴に開けてロビーに入ってきたのは、ぽっちゃり和佳子だった。


 トライデントを手にした和佳子は無言で3人の前にツカツカと近付く。

 そして、テーブルの上に散乱するスナック菓子の空き袋を見て顔を歪めた。


「やっぱり……」と、和佳子の口元が引きつる。


 3人が唖然としながら和佳子の行動を見守る。


 和佳子は何かを探すようにキョロキョロしながら呟く。

「どこ? 返して……」


 その怒りを押し殺したような言葉に玲実が応える。

「は? 何か言った?」


 和佳子はチラリと玲実に一瞥《いちべつ》をくれると真顔でいう。

「返して。お菓子、返して……」


 和佳子の言葉を遮《さえぎ》るように望海が煽《あお》る。

「嫌だって言ったら? どうすんの?」


 すると、おっとりした和佳子のイメージとは、かけ離れた挑戦的な言葉が彼女の口から放たれた。

「許さない。てか、力づくで持って帰るから!」


 それを聞いて望海がまるで真に受けていない様子で「へぇ」と、大げさに首を竦《すく》める。


 それに対して和佳子はゴミを見るような目で望海を見る。

 そして手にしていたトライデントの柄の下部で『ゴッ!』と、床を打った。


 その音に梢がビクッと身を引く。


 だが、玲実は虚勢《きょせい》を張る。

「だから? 返すつもりなんて無いわよ」


 玲実の態度に和佳子が「ふざけんなっ!」と、突然、切れた。


 と同時にトライデントの鉾先《ほこさき》が玲実の喉元に『シュッ!』と、突き付けられた。


「ひっ!」と、さすがの玲実もソファの上で仰け反る。


 和佳子は冷たい笑みを浮かべて鉾先で玲実の頬を撫でる。

「ホントに返すつもりはないの?」


 玲実は鉾先から顔を背けて必死に口を動かす。

「ちょ、ちょっと……なにを……まさか本気で」


 玲実は本気度を確かめようと和佳子の顔を見上げる。


 しかし、和佳子の目は据《す》わっている。

「本気だよ。返さないならヤルよ?」


 緊迫した空気の中、望海が堪《たま》らず立ち上がって和佳子の行為を咎《とが》める。

「いい加減にしなさいよ! お菓子ぐらいで何てことするの!」


 だが、和佳子はそれを無視してトライデントで玲実にプレッシャーをかけ続けている。


 ついに望海がジュースの空瓶を手にして「このっ!」と、和佳子の後ろから襲いかかった。


 だが、和佳子は振り向きざまにトライデントの柄で望海の脇腹をカウンター気味に突く。


「うっ!」と、望海の顔が痛みで歪む。


 さらに弾かれた勢いでバランスを崩し、腰をテーブルの角で強打する。


「痛っ!」と、いう望海の悲鳴と『ガッシャーン!』と、テーブルが引っくり返る音が重なる。


「お姉ちゃん!」と、梢が倒れそうになった望海を支える。


 和佳子は冷めた目でその様子を眺めながら宣言する。

「じゃ、残りは返して貰うね」


 そう言って和佳子は目についた下げ袋を手に取り、未開封のスナック菓子を次々と詰め込む。


 そして、満足気な顔で玲実達を一瞥した。

 まったく悪気はない。むしろ清々《すがすが》しいといったような表情だ。


 対照的に玲実と望海は悔しさと怒りを持て余している。

 梢はハラハラしながら事の成り行きを見守っている。


 和佳子は何事も無かったかのようにロビーを出て行く。


 悠々《ゆうゆう》と立ち去る和佳子の後姿《うしろすがた》を睨《にら》みつけながら玲実が呟く。

「許さない……」


 その頬に血が滲《にじ》んでいるのに望海が気付く。

「ちょっと、それ。血が出てるよ」


「え? 嘘!」と、玲実が自分の頬を触って出血を確かめる。


 手の平に付着した血に驚きながら玲実の顔つきが険しくなる。


 傷は浅いものではあったが、顔を傷つけられたという事実が玲実の怒りに火を注いだ。


 玲実はすっくと立ち上がる。

「武器さえあれば……」


 そう言う玲実の目は血走っていた。

 彼女は涙を堪えて唇を噛む。


 望海が怒りを露わにしながら吐き捨てる。

「武器が無いから舐められるんだ」


 玲実は腕組みして頷く。

「そうよ。やっぱり明日は武器を集めに行こう」


「うん。絶対に行こう!」と、望海も力強く頷く。


 玲実は親指の爪を噛みながら目を吊り上げる。

「必ず武器を手に入れる。それであのブタ女を……」


 梢が不穏《ふおん》な空気に気圧《けお》されたように尋ねる。

「それでどうするの? まさか、やり返すとか……」


 すると望海が顎をしゃくるようにして答える。

「やり返す? 冗談じゃない」


 望海の強い口調に梢が引きつった顔でさらに尋ねる。

「お姉ちゃん……どうするつもり?」


「ただじゃ済ませない」

 そう言った望海は本気のようだ。


 望海といい、玲実といい、2人は武器を手にするべきという考えにすっかり感化されている。


 そんな2人の様子に怖気《おじけ》づきながら梢は、どうしても嫌な予感を振り払うことができなかった……。


    *    *    *


 突然の高熱と息苦しさでヘレンは気を失いそうになっていた。


「熱い……熱い……」と、うわ言のように体の不調を呪った。


 何の予兆も無くそれはやってきた。

 モエ達との交戦を終えて、しばらくしてからのことだ。


 モエの姿を見失ったところで一休みしていると立ちくらみの症状が出て、ヘレンは見張り小屋の壁に、もたれ掛かるように座り込んだ。


 激しい銃撃戦ではあったが身体はどこも傷ついていない。


 怪我《けが》をした覚えも高熱の原因となる病気にも心当たりは無かった。


 それなのに全身がだるく、身体の芯から発熱するのを自覚した。


「熱い……ああっ……アウッ……アゥッ……シット!」


 息が上がる。目が回る。

 見張り小屋の中は真っ暗なのに、時折、視覚に白のフラッシュが混じった。


 どれぐらい苦しんだだろうか。

 それほど長い時間ではない。数秒程度だ。

 気が付くと発熱はあっさりと収まっていた。


「何なの……」


 あの高熱は何だったのか? 


 発熱に伴う関節の痛み。身体の節々にその余韻が残っている。

 目眩《めまい》は、もう無い。


 尋常ではない汗で濡らされたTシャツが身体に張り付いている。

 着替えるかどうか迷った。そしてふと目にした左腕の痣《あざ》に気付いた。


「え?」


 手首から肘の中間地点に見覚えの無い痣がついている。

 場所が腕の外側なので肘を曲げてよく観察する。


 擦《こす》っても取れないことから汚れではない。


「火傷《やけど》? なんで?」


 形は『V』の字に見える。右側が若干長い。

 アルファベットの小文字のようでもあり『レ点』のようでもある。


「痛くはないけど。なんだろ? これ……」

 そう呟きながら何気なくポンポンと2回、その部分をタップしてみた。


 と、次の瞬間、目の前に光が広がった。

 併せて『スパァン!』という破裂音も。


「ウッ」と、ヘレンは思わず顔を背ける。

 と、そこで『ガコッ』という鈍い衝突音が間近で生じた。


「ホワット?」

 見ると光は消え失せていた。


 室内は元の暗闇に戻っている。


 ヘレンが目を凝らすと彼女の青い瞳が白く変化する。

 そうすることでヘレンは暗視できるようになるのだ。


 そんなヘレンの目に映ったのは見慣れない物質だった。


「これは……武器?」


 そこにあったのは槍のようなものだった。


 突然、現れた武器にヘレンは戸惑った。


 そして恐る恐る手を伸ばす。

 が、次の瞬間、それはフッと残像を残して音も無く消え失せた。


「なっ!?」と、思わずそれがあった場所を撫でまわした。


 だが、何の痕跡《こんせき》も無い。

 見間違いかとも思った。


 そこで試しにもう一度、左腕にできた痣に触れてみた。


 だが、何も起こらない。ポンポンと2回叩いてみても結果は同じだ。

 さっきのは何だったのだろう?


 しばらく思いを巡らせてみる。だが、疲れが眠気を誘う。


 やがてヘレンは考えることを諦めた。

 そして壁にもたれ掛り、天を仰いだ。


「アイム、ベリー、タイアド……」


    *    *    *


 遠回りを重ねてモエは、ようやく湿地帯を抜けることができた。


 見張り台からの狙撃を警戒して湿地帯を囲む木々の隙間を縫《ぬ》うように進み、時に、ほふく前進を強いられながら、乙葉達の居る反対側の森に到達した。


 もはや泥だらけなのも切り傷だらけなのも気にならない。


 夜が明けるのは2、3時間後だろう。

 だが、とにかく野乃花の容態《ようだい》が心配だった。


 暗闇に目が慣れているので小走りで茂みに沿って、野乃花達が居るはずの場所に急ぐ。


 湿地帯との境目である少し開けた場所に人影が認められた。


「野乃花!」


 返事は無いがモエは走る速度をあげてその場所に到着した。


 だが、直ぐに足が止まった。

 というよりも只ならぬ雰囲気に勝手に足が止まってしまった。


「あ……」

 モエが言葉を失う。


 野乃花は仰向けで横たわっている。


 その傍《そば》で乙葉は女の子特有の内股座りで、まるで捨てられた人形のように呆然としている。


 少し離れた所で体育座りの詩織が膝に顔を押し付けて嗚咽《おえつ》を漏らしている。


「嘘やろ……」と、モエの口元が引きつる。


 モエの目に野乃花は眠っているようにしか見えない。

 だが、他の2人の様子が最悪の状況を物語っていた。


「野乃花……野乃花?」


 モエは、もつれる足に苛立ちながら野乃花に近付いた。

 そして倒れ込むように膝を着き、野乃花の顔を覗き込む。


「おい! 野乃花! しっかり……」


 伸ばした手。その指先に触れた最初の冷たい感触がモエを絶望させた。


「あ……ああ……なんでや……」


 モエの目から溢《あふ》れ出た涙が泥だらけの頬をなぞった。

「嘘や……こんなん嘘や……」


 モエは野乃花の亡骸《なきがら》に縋《すが》りついて泣いた。

 そして生まれて初めて触れた死体の冷たさに震えた。


 夜の森はどこまでも寡黙《かもく》で、理不尽《りふじん》に空気を縛り付けた。


 そこに言葉にならない乙葉の呟きがポツリと現れた。

「……ろそ」


 モエが「え?」と、顔を上げる。


 無表情な乙葉の口からは呪いの言葉が吐き出される。

「殺そ……火……つけて……殺そ」


 乙葉の目は死んだ魚のように見えた。

 まともな精神状態ではない。


 マズイと思ってモエが乙葉の両肩に手を置いて揺さぶる。

「乙葉! しっかりしい!」


 その言葉は自らを鼓舞《こぶ》する目的もあった。

 このような状況で自分がしっかりしなければという責任感がモエを駆り立てた。


 それに対して乙葉は何か悪だくみを思いついたようにニヤリと笑った。

「火を点ければいいんだよ。あの見張り台。燃やしちゃえばいい」


 乙葉の言葉にモエが驚愕する。

「な、なんやて?」


 乙葉はモエの顔を眺めながら淡々とした口調で説明する。


「ガソリンがいい。あの小屋にあったっけ? 無ければ民宿に戻ってみればいい。とにかく燃やしちゃえばいいんだよ。全部燃えなくても煙が出るからアイツを焙《いぶ》り出せるよ」


 そんな恐ろしい計画を無表情に語る乙葉は完全に壊れていると思われた。


 モエは下手に刺激しないように乙葉の言動《げんどう》に合わせる。

「分かった。それは後で考えよ。とにかく冷静になろうや。な?」


 モエの説得に乙葉は不思議そうな顔をする。

「冷静……何が? 誰が冷静?」


 堪《たま》らずモエは乙葉を抱きしめた。


 活気が失われた乙葉の身体は壊れそうなほど弱々しく感じられた。


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