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十五少女異世界漂流記【改】  作者: GAYA
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第25話 闇夜の銃撃戦

 すっかり日が落ちた湿地帯は、夜の海のように見えた。


 周囲は湿気が酷く、月明かりを浴びた草が波のように揺れている。


 普通なら足を踏み入れるのに躊躇ちゅうちょするような暗さだ。


 暗闇に目を慣らすことで、かろうじて数メートル先の形状が識別できる。


 モエは、向かって左方向から時計回りに、乙葉は右から反時計回りに矢倉へ接近する。


 音を立てないように、また草に足を取られて転倒しないように、早く静かに小走りで進む。


 そして、矢倉の真下で合流する。


 矢倉の最上部に設置された見張り小屋にあかりはいていない。

 かといって音も無い。


 だが、ここから狙撃してきたのは間違いない。


 乙葉がショットガンを真上に向けて構える。

 そしてモエの顔を見る。


 黙って頷くモエ。


 それを合図に乙葉が『バンッ!』と発砲する。


 一呼吸おいて『バンッ!』と2発目。


 2発とも確かに小屋の底には当たった。


 だが、床をブチ抜くほどの手応えは無い。


 ここからでは暗くて判別できないが、底部の真ん中辺りには出入りする為の穴がある。


 2人は、その出入口付近を注視する。


 しかし、動きは無い。不気味なまでに……。


 乙葉が小声でいう。

「ダメか……」


 小屋の高さは十数メートル。

 ログハウス風の小屋は床に厚みがある。

 それなので、ショットガンの散弾さんだんでは貫通するにいたらないのだろう。


「アカンか……」


 怒りに震えていた2人が若干じゃっかん、冷静さを取り戻す。


 と、その時、床の出入り口付近で小さな発光があった。


 と同時に『パン!』という発砲音で「うわっ!」と、モエと乙葉が飛び退いた。


 目の前の地面に着弾するのが分かる。


 負けじと乙葉が『バンッ!』『バンッ!』と撃ち返す。


 が、それに対する反撃は無い。


 取りあえず真下は危ないと判断して2人は、それぞれ柱の部分に向かって走る。


「やっぱりな……連続では撃てへんのや」


 モエはヘレンのライフルにもインターバルがあると推測した。


 乙葉のショットガンと同じように、弾は必要ないが、エネルギーを充填じゅうてんするためのタイムラグが存在する。


 モエは柱の陰に身を隠しながら上を見上げる。


 乙葉も出入口からは死角になるように身を隠す。


 ちょうど対角線上に対峙する形で2人は柱の陰から互いの顔を出す。


 乙葉は声に出さずに口を動かして数を数えている。

 そして13秒、経ったことを確認してOKのサインをモエに送る。


 それを見てモエが飛び出す。

 そして矢倉の真下を対角線に横切り、乙葉の居る位置まで走った。


 そこに上から『パン!』と発砲音がして、モエが走り抜けた場所に着弾した。


 すかさず乙葉がモエと入れ替わるように飛び出して、上に向かって『バンッ!』『バンッ!』と2連続で発砲する。


 直後に上の方で『ガタッ』という音がした。


 それを確認してモエが頷く。


「よし! 慌てとる!」


 モエが囮になって飛び出し、相手が撃ってきたところで乙葉がカウンターで攻撃する。


 それを5回繰り返した。


 敵の攻撃を食らってはいない。だが、ダメージも与えていない。

 そんな攻防をさらに繰り返す。


 敵を引き付ける為にモエは途中で走るスピードを緩めたり立ち止まったりした。


 乙葉も撃つタイミングを早めたり、モエが立ち止まった瞬間に発砲したりすることで何とか膠着状態こうちゃくじょうたいを打開しようと試みる。


 だが、まるで手応えが無い。


 矢倉の上と下に分かれての銃撃戦は互いに決め手がないまま時間だけが浪費されていった。


 このままでは分が悪いと判断したモエは、乙葉の立つ位置まで駆け込むと肩で息をしながら乙葉に耳打ちする。


「このままじゃアカンで。キリが無いわ」


「どうする?」と、乙葉も焦りを感じている。


「お互いに弾切れは無い。たぶん向こうも同じや」


「でも、キリがないよ?」


「こんだけ撃ってもダメージ無しなんか……」

 モエはそういって額の汗を拭う。


「この銃にもっと威力があれば……」と、乙葉が悔しがる。

「思ったより床が頑丈なんやな」


「こうなれば床がボロボロになるまで撃ち続けてやる」

「無理や。一晩中これを繰り返すつもりか?」


「でも……」

「あっちも反撃してくるんやで」


 モエがそういった次の瞬間、銃声に続き、弾丸が空を切る音が間近で聞こえた。


「うっ!」と、乙葉が身を固くする。


 被弾はしていないが不意打ちを食らった形になる。


「ここは死角やないんか!?」と、モエが驚愕する。


 モエは上を睨みつけてから乙葉の腕を引っ張り、顔を近づけてささやく。


「床の隙間から撃ってきたんかもしれへん。となると、やっぱりウチらが不利や」


 それを聞いて乙葉が唇を噛む。


 モエはしばし考えて「出直そ」と、言った。


 乙葉は首を振る

「いやだよ! まだ……」


「シッ。声でかいて」


 乙葉の気持ちは分かる。

 だが、このまま膠着状態こうちゃくじょうたいが続くようだと、いずれ敵の攻撃が当たってしまう。


「な、いったん戻ろ。作戦の練り直しや」

「ねえ。その斧で柱を切れないの?」


「なんやて?」

「この柱を倒して、あいつを引きずり下してやろうよ」


 乙葉はこの支柱を切り倒して矢倉を倒壊させようというのだ。


 しかし、見張り小屋を支える支柱はどれも大人が一抱えするほどの太さだ。

 切るといってもモエの戦斧では相当の時間を要すると思われた。


「いや、さすがにソレは時間がかかりすぎるで」


 すると今度は銃声とほぼ同時に弾がモエをかすめるように通過した。


「くっ!」と、モエが身を引く。


 乙葉が口を真一文字にして撃ち返す。

 だが、やはり手応えは無い。


「アカン。やっぱ、床に隙間があるんや。それに……」

 そういってモエは悲観的な想像を口にする。

「たぶん。見えとる」


 乙葉が驚く。

「え? 何が?」


「ウチらの姿が見えとるんや。アイツには」


「まさか……どういうこと? こんな暗がりで?」


「段々、狙いが正確になってきとる」


「そんな……じゃあ、どうすればいい?」


「出直しや。いったん退くで」

 モエは、そう決断した。


 乙葉は納得がいかないといった風に首を振るが「分かった」と、頷く。


 とはいえ、ここから離脱するには狙い撃ちされるリスクがある。


 それを考慮してモエが乙葉に提案する。

「ウチが先に出る。それでアイツが撃ってきたところで一直線に走るんや」


「ちょっと待って。それって囮になるってこと?」

「せや。わざと反対方向に行って注意を引き付ける」


「ダメだよ。危険だって」

「なに言うてんねん。さっきまで散々、囮になっとったやん」


「そうだけど……」

「ジグザグに走ればそう簡単には当たらへん。それにこの暗さや」


 そう言いながらモエはヘレンが暗闇でも見えていることを確かめようと考えていた。


 もし、その予想が的中していたならジャングルに戻ろうとするところを狙い撃ちされてしまう。


 モエは乙葉の目を見て頷く。

「1発撃ったら13秒は撃てへんはずや。その間に出来るだけここを離れるんやで」


「でも、それじゃ……」

「心配せんでええ。ウチにはこれがある」


 そういってモエは戦斧を見る。


 乙葉が何か言いたそうな表情で口を開こうとするがモエがそれを制する。

「大丈夫や。これを持っとると凄いダッシュが出来るんやで」


「え? そうなの?」

「うん。よう分からんけど力が引き出されるんやろ。走る速さとかジャンプとか」


 薄々ながらモエは気付いていた。


 この戦斧を持っていると自分の脚力きゃくりょく飛躍的ひやくてきに向上するのだ。


 大蛇と戦った時、ヘレンの顔に傷をつけた時、そしてこの矢倉に突入する時のダッシュする感覚が思い出された。


「よっしゃ。そしたら行くで!」


 そしてモエは矢倉の下から飛び出した。


 向かうは野乃花達のいるジャングルとは逆方向だ。


 ゆるい地面に足を取られないよう注意しながら走る。

 そして少し離れたところでわざと「うぁああ!」と叫んだ。


 モエはさらに走った。

 数歩ごとに方向を変え、スピードにも強弱を加える。


 ジグザクかつ、緩急をつけた走りでヘレンが撃ってくるのを誘う。


「来いや。早よう撃ってこい!」

 そう願いながら走る。


 その時、『パーン!』と、銃声が追いかけてきた。

 左手で何かが弾ける。


 そこまでは予定通り。

 乙葉がスタートしていることを信じて走り続ける。


 前方には湿地帯の終わりがある。

 茂みがあってその先には岬があるはずだ。

 地図上では×印があった箇所だ。


 狙いを絞らせないように不規則なダッシュに絡めてジャンプも織り交ぜた。


『パァーン』と、2度目の銃声が背後から聞こえる。


 今度は真後ろで地面が弾ける音がした。


 作戦通り、ヘレンの狙いは自分に向いている。


 それにヘレンが暗闇でも目が効くことを確かめることが出来た。

 が、その気の緩みが災いをもたらした。


 ジャンプした際に勢い余って転んでしまったのだ。


「しもた!」


 戦斧がもたらすダッシュ力で制御が効かない。


 モエは身体が投げ出されるみたいに地面にヘッドスライディングしてしまった。


「くっそ……」

 転倒してしまった痛みもさることながら肩の傷が響く。


 野乃花と一緒に居るところを撃たれた箇所が今頃になって痛んだ。


 そこに『パァーン』という音に続いて、左のふくらはぎ近辺に着弾の音を受けた。


 幸い弾は足を掠めただけだ。


「ヤバい」


 モエは両腕で上体を起こそうとした。

 だが、右肩の激痛で「うっ」と、動きが止まる。


 焦れば焦るほどうまく身体を起こせない。

 歯を食いしばって片腕で上体を起こし、立ち上がる。


 そこに容赦なく『パァーン』の銃声。

 それが右手に持っていた戦斧に当たって『ギィン!』と、甲高い金属音をたてる。


「くそっ!」


 前に進もうとするが足が思うように前に出ない。

 先ほどの転倒で足首を捻ったらしい。


「ウッ……ウッ……ウンッ」


 モエは片足を引きずりながら前進する。走ることは出来そうにない。

 焦れば焦るほど時間だけが過ぎていく。


 あと何秒で次が来るのか? 

 このスピードでは的にされてしまう。


「急がなアカンのに……くそっ!」


 13秒経ったと思った時点でモエは思い切って横に身体を振った。

 というよりも痛めていない方の足に重心をかけて受け身を取るように前転した。


 その回転中に銃声を聞いた。


 近くに着弾したのも認識した。


 これでまた時間が稼げる。


 モエは前転の勢いを利して素早く立ち上がり、また前へ進む。


 あと少し。


 湿地帯を囲む森までは十メートルほどだ。


 大丈夫な方の足で小刻みに跳ね、ケンケンの要領で距離を稼ぐ。


 最後の数メートルは四つん這いになって犬のように進んだ。

 また銃声が追いかけてきた。だが、もう前に突っ込むしかない。


「やった!」

 何とか茂みに到達した。

 まるでマラソンのゴール後のように地面に倒れ込む。


 押しのけた小枝がバリバリと身体の周りで音をたてる。


 小さな痛みに包まれ、自分の荒い吐息に混じって銃声が聞こえた。


 まだ撃ってくる。


 モエは舌打ちして「しつこいな」と、吐き捨てると『ほふく前進』の要領で真っ暗な茂みの中を這いずった。


 目の前にある障害物を避け、木々の隙間を探して必死に湿地帯から距離を取る。


 その間も一定の間隔を置いて銃声が聞こえた。


 どれぐらい進んだだろうか。

 気が付くと風の音に包まれていた。


 そして潮の臭いにハッとする。

 茂みを抜けたところで立ち上がる。


「海……」


 スマホの画像を出して地図を確かめる。

 それは目指していた場所だった。


「この辺りにもあるはずや」


 しばらく周囲を歩いてみた。


 足首の痛みも引いて動悸どうきも収まってきた。

 全身に出来たひっかき傷がヒリヒリする。


 強い海風に毛先を弾かれ何度も顔を顰める。


 そしてようやく墓を見つけた。

「あったで!」


 十字架がポツンと立っている。それは他のものと同様だ。

 だが、その近くに肝心かんじんの武器が見当たらない。


「なんでや……誰か持って行ったんかな?」


 そして暗がりの中、十字架に刻まれた名を読み取ろうとして気が付いた。

「な!? なんでや……」


 その十字架は、なぜか・・かった。


 これまでの物はすべて真っ白だった。

 それなのに、これは真っ赤だ!


 さらにモエを驚かせたのは、そこに刻まれた名前だった。


「嘘やろ……」

 モエはそう呟いて両膝を地面に着いた。


 モエを脱力させた墓標の名前。


 そこにはしっかりと『NONOKA』と刻まれていた。


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