なんでもない日常(1)(第8編の後)
俺は傍観者であって観測者だから、買い物をしない。と言ったら嘘である。
漫と律に連行された。
隣のショッピングモールに行くために電車に乗ったら、同目的の奴らが多くてうんざりする。買い物はネットで済ませとけ。
なぜわざわざショッピングモールに行ったかというと、漫のノートパソコンのリプレースと居間のテレビのリプレースである。テレビは、基本的に漫の家庭用ゲーム機専用モニターになっている。
もちろんショッピングモールで実機を見たらネットで買う予定である。でも大型テレビは設置的に無理かもしれないので、漫がどこまで大画面を求めるかがキーとなる。
漫と比べて律の方が小柄なのに、出るところは同じぐらい出てるのはどういうことでしょうか。漫が出てないわけじゃないんだけど。そこそこでてんだけどさ。
電車を降りて暫く歩く。
「大助」
と呼ばれたので振り向くと
パシャッ
漫と律がそれぞれのスマホで写真取ってら。
「一台でシェアしろ、シェア シェア。俺で遊ぶんじゃない」
「面白いモーン」
パシャッ パシャッ
「コラッ 肖像権侵害だ即刻中止せよ!」
………助けて。
ショッピングモールに着いたら着いたで、人が多いな。
「おい、人が多いな。やはり休日だからか」
「迷子になるなよ」
と律が言うので
「ちんちくりんのお前が一番心配だ」
と言った。
「………ちんちくりん」
「先にコーヒーショップに行こう」
と漫が言うので行ったら、案外空いていたので3人で座った。
「そう言えば、大助、副庶務になったんだって? 面白すぎでしょ。アレは階級があって、庶務は庶務長、副庶務は庶務になれるぞ。出世しろ」
「あと、未来の嫁をあまり泣かすな。少し泣かすぐらいならいいけど。人間の魂というか思想の衝突はどうしてもあるからね。100%止める気はないんだ。節度を持って泣かせ」
………あのこと知ってたのか。というか未来の嫁扱いか。正直悪くないと思った。体つきも気立てもいいから。
「あそこの生徒会、1年で乗っ取ったんですよ」
「ふ~ん、どうやって?」
俺は一連のことを話した。
「キッツいことするなあ。お前も鶴屋も」
「でも、生徒会長がそもそも悪くないですか?」
俺は不服で言い返した。
「人はだれでも過ちを犯す。まあ程度物だが、あまり大きくなると援護できない。その生徒会長も援護できないタチなのかもなー」
「当然の報いだと思います」
俺は自信を持って言った。
「まぁ人間関係ってのは難しいわな。高校生にはわからないだろうが」
「大学生だったらわかるのか?」
「過去問回してもらったり、教授に取り入ったり。私は血液内科で出世して将来教授になる運命を持った女なんで」
漫が言うとなりそうでコワイ。基本的にこの人は有言実行だから。
「叶うといいですねー」
「叶うよ」
どこからその自信は来るのだろう。運命論者なのだろうか?
「漫は運命論者?」
「当たり前。生まれた瞬間から決まっている」
律にも聞いてみようかな。
「律は運命論者?」
「漫姉と逆」
「そ~言うアンタはどっち?」
と漫が聞いてきたので
「俺は運命論者かな」
と言った。
「運命論者なんてつまんない」
と律は言う。そうなのだ。それが最大の問題なのだ。努力して失敗すると運命論者はキツイ。
「律、いいこと教えといてやろうか。お前の絵のセンスは100%努力の積み重ねと断言できるのか?お前には、お前の絵の天分があったはずだ。お前もこっち側の人間だよ。もっと大事なことを教えてやる。努力を過信すると失敗することもあるぞ」
「そ~ですかねー」
と返事した。俺には、努力を過信すると失敗する、というセリフに引っかかるものがある。
「では、話をちょっと戻すけど、生徒会を乗っ取って何するわけ?」
「そりゃ体育祭の全廃でしょう」
「大助、それはおめえの運動神経が無いから言ってるだけだろ。個人の欲望丸出し」
「あ、バレた?」
「律は?」
「茶道部を作る」
「だからそれもお前の個人的な欲望だろ。2人とも私利私欲にまっしぐらだな。人間権力を持つと腐るもんだ。もうちょっと奉仕、ボランティアの精神を持てばどうだね」
「漫が奉仕とかボランティアなんて言葉が出てくるなんて驚天動地だな」
と俺は言った。
「人間成長します」
と言ってニカッと笑う漫を見て冗談なのか本気なのかわからない。