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赤司れこの神津観測日記  作者: tempp
バレンタインと金回り(身売り系ホスト自称内倉遼平・特殊能力系ホスト須賀井公晴)
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2.茉莉花

「マリカちゃんチョコ作るんだ?」

「うっちーもたくさんもらうでしょ?」

「もらうけど、手作りはもらったことなくてねぇ」

「へぇ。ホストって手作り嫌なんだと思ってた」

「どうして?」

「何が入ってるかわからないじゃん?」


 それを言うなら他人が注ぐこのグラスも何が入ってるかわからない。目の前の酒には何も異物は入ってはいないが、入れようと思えばいくらでも入れる隙はある。

 内倉はマリカの手元を見ることもなく眺めていた。表情より少し短めの指の方が忙しなく動くのは心理学的には焦りや落ち着かなさを表す。

 茉莉花はすでにケイヤを諦めたのか、内倉に金を注ぎ込む必要がないと舐めてるのか、酒を追加しなくなった。内倉は体験入店扱いだから固定時給しか支払われない。もとより稼ぎに来たわけではないから無理に酒を飲ませようとは思ってはいなかったが、茉莉花のせせこましい対応からも、この高級店にそぐわないケチ臭さを感じていた。


「心がこもってると嬉しいじゃん? 手作りプレゼントして貰えるならホワイトデーに手作り返すけど」

「それはちょっと気持ち悪いかな」

(ひど)


 内倉は既に茉莉花が取るに足らない小物だと見切りをつけていた。何かの切掛でたまたまカイザーに来てケイヤにハマって夜の道に入ったものの、顔が並よりいい程度なのをいいことに惰性で営業しているタイプだ。顔がいいと言っても多少化粧が上手いくらいで、落とせば目立たない程度だろう。

 夜の街は繋がっているから、こんな態度をしているのであればいずれ客も離れるだろう。


 一方の内倉も自身の接客がおかしいことは認識している。内倉の頭の中は明瞭だ。最も大切なのは金で、価値としてそれを下回る自身の体を張れるのは若い内だけだと認識している。

 手作りのバレンタインチョコをそのまま捨てるのは業界の常だが、即死するほどの劇物混入の可能性は乏しい。そう考えて一口だけは食べることにしている。ヤバければ吐き出せばいいし、幸いこれまで倒れるほど酷いものはなかった。

 それにちゃんと感想を言うと喜ばれる。わざと変な味付けをしてそれを確認する痛太客もそれなりに多い、というよりそもそも内倉のメインターゲットはハイリスクハイリターンなそこなのだ。


「ねぇうっちー、バレンタインに上手くいくコツとかある?」

「ケイヤにあげても食べないと思うよ」

「それはわかってて。ケイヤじゃなくて他の人っていうか」

「本命?」


 相手は高級とりで一人っ子らしい。遅くまで仕事をしていてたまに飲みに行く。この『たまに飲みに行く』というのは茉莉花の店に飲みに来るということだろう。

 ようやくユカの息子らしい話が来た。本題だ。なるべく情報を探りたい。


「みんな俺にバレンタインの相談するんだよねぇ。酷くない?」

「話しやすいってことでいいじゃん」

「だいぶん親しいの?」

「これから告白する感じ?」


 まだプライベートでは繋がっていないとすれば、ユカの写真はただの同伴出勤(客連れで出金)の可能性が高い。写真は隠し撮りだから、少しブレていてよくわからないのだ。

 それにしても金持ちに手作りチョコを送るという発想がズレている。金持ちは人を動かすものだ。パティシエ並みの手技があるならともかく、たいして美味くもないだろう手作りチョコより美味いチョコを探して送る情報収集力にこそ魅力を感じるものだ。

 第一、茉莉花自身もさっき手作り気持ち悪いと言ったばかりだ。

 内倉はワンチャン、ユカからは想像が欠片もつかないが、息子は純朴という可能性を考えた。けれども茉莉花の態度からもユカの息子から家庭的な空気は感じない。

 写真も純朴というよりはドライなイメージだ。とすれば単にこの茉莉花がずれて浮いている可能性が高いと思われた。それは茉莉花の言葉からも裏付けられる。


「お相手はどんな方?」

「えっと、一見真面目そうだけどちょっと怖いタイプ」

「怖い?」

「なんていうかたまにね」

「どんな風に?」

「どんな? お店で2人になるとそっけなくなるというか」

「素に戻ってる感なら脈はあるんじゃないの?」

 

 あるいは取り繕う価値もなくまるで興味がないか。けれどもそれも妙だな。それならわざわざ会わなければいい。

 内倉は茉莉花とユカの息子が会ったきっかけを考える。アンジェル・ホートスもそこそこランクの高い店だから接待に使われることもあるだろう。けれど茉莉花に太客につくとはとても思えない。顔はまぁまぁだけど接客は酷そうだ。というよりそもそも茉莉花がいられるランクの店ではない。

 だから会う理由がある?

 単純にランクの低い又は素人くさい茉莉花が面白くて気に入っている。

 何かに茉莉花を利用しようとしている。

 茉莉花に弱みを握られている。まさか。

 結局のところ、内倉の頭のなかはどうやったら1番金が入るかしかない。

 最も単純なのはさっき写メった茉莉花の写真をユカに見せて情報料として小金をせしめること。

 茉莉花を利用するか脅してユカの息子と良好な関係を築いて金を引っ張ること。

 他は何かあるかと検討したが、情報不足だ。後はケイヤの意見を聞いてから決めようと考えた。

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